芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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百由「使い魔?」

 百合ヶ丘女学院工廠科二年生、真島百由の姿は扶桑の横須賀にある追浜飛行場にあった。ウィッチやその魔法、更に各種技術の調査の為、国が派遣した技術者や学者と共に調査隊の一員として送り込まれたのである。調査隊の各々は専門分野ごとに各方面へと散っていき、ここ追浜にやって来たのは百由を含めた百合ヶ丘の工廠科が数人と航空関係の技術者達のみであった。

 

 海軍航空隊の総本山、人は横須賀航空隊をそう呼んだ。そう称されるだけあって、この地には海軍の新型機を試験する部門や技術開発を行う施設が併設されていた。当然、海軍航空ウィッチの使用するストライカーユニットの研究開発も行われており、そんな背景から百由達一行はここに配置される事となったのだ。

 そこらを見渡せば産業遺産となりそうな機械ばかりが当たり前のように稼働しており、電子制御が当たり前な世の中からやって来た百由達は事ある毎に唖然としたり驚いたりする事態の連続と化していた。そして、肝心のウィッチや魔法力の技術に至っては最早オカルトの領域となっており、まず何をどうやって理解するのかという状況に陥っていた。そんな有り様であり、なかなか調査と研究は進まない。そして、百由は割り当てられた作業部屋の中で他の工廠科の面々と共に頭を抱える。

 

「あー、駄目だ。今のままだとまるで手に負えないわ」

「根本的な問題として互いに単語が通じないものね」

「そもそも使い魔って何よ…」

 

 そうして、一斉にため息が出る。だが、隣のテーブルからもため息が同時に飛び出した。そして、百由達の視線がそちらへと向けられる。すると、技術者達も頭を抱えている様子であった。

 

「そちらも何かありました?」

「ええ、まあ…図面も書類もみんな紙でしてね。その、それで色々と苦労が」

 

 技術屋である工廠科の面々はその一言で全てを察した。

 

「ああ、忘れてた…それもあったか」

「パソコンなんてないものね。という事は3Dもない…うわあ…」

「検索もできないわよ。はあ…全部紙か…」

 

 百由達はただ頭を抱えた。今まで普通にやってきた事がこの環境では出来ないと確信したからである。すると、技術者が諦め気味の表情で更に言う。

 

「パソコンどころか関数電卓もありませんよ。計算尺ですよ、計算尺。棒状のやつ」

「ええ…見た事ない…」

「それでサッと計算するんですよ。もう、ただ呑気に昔の人って凄いなーって思っちゃいましたよ」

 

 コンピューターの有無だけではなく、勝手が違うものは多岐にわたる。そんな事実を突きつけられた工廠科一行の表情は固まる。

 今回調べるのはこの世界の魔法の概念だけではない、ウィッチの使うストライカーユニット等の機械類も調査対象である。そうなれば当然実物を直に調べる事になる。そんな時に、忘れ物をしたからとこちらで道具を借りるなんて事はまず難しいだろう。どのように使うのかも分からないものを渡されても作業する事が出来ないのは目に見えている。

 

「そう考えると、道具は忘れないようにしないといけませんね」

 

 机の上に置かれたレーザー計測器を見ながら百由は呟く。

 

「しかし、迂闊にそういうものを見せても大丈夫なもんですかね」

「というと?」

「例えば…時代を考えると、この世界にレーザーを使う機器はまだ存在しない。基礎になる理論があるだけで、レーザーという単語自体も作られていない」

「この世界の人に対して、私達の持つ道具類を説明するのは難しいという事ですか?」

 

 技術者は首を横に振る。

 

「我々が当たり前のように使っているものは数々の失敗と成功というノウハウの上に成り立っています。こういった未来の技術の存在を教えてしまうという事は問題を解く前に正解を教えてしまうようなものと言えます。よって、結果としてこの世界が将来経験するはずだった、数々のノウハウや成果を得る機会を奪ってしまう事になるのではないか…と」

 

 その考えを聞いた百由は静かに呟く。

 

「それはこっちも同様ですけどね…」

「どういう意味でしょう?」

「魔法についてはこっちの世界の方がずっとノウハウを持っています。よって、この世界の技術を丸ごと飲み込むという事は私達が将来得る筈だったノウハウを得る事が出来ないという事に繋がるかもしれない…」

「え?それってつまり、リリィ…いや、魔法に関する技術だとこの世界の方が上って事ですか?」

 

 この技術者達はその辺りの事情をよく知らないらしい。そのまま話を聞いてみると、彼らはここが1940年代程の技術力を持ち、なおかつ魔法も存在する世界だとしか説明を受けていないようであった。そもそも彼らにとって専門外の分野であるから仕方のない面もあるが。

 

「この世界の魔法使い…ウィッチはやろうと思えば箒でも空を飛べるらしいですよ、実際まだ見た事はありませんけど」

「ほ、箒って…えー、リリィに同じ事は?」

「無茶言わないでください。無理ですよ、無理」

「正真正銘、この世界はファンタジーの世界のようですね」

「ええ」

「ああ、それで防衛軍がやたら熱心に動いているわけだ。ヒュージを倒す画期的な技術を得る為に」

 

 百由は静かに頷く。そして、深刻そうな表情を浮かべた。

 

「しかし、それを得るにも調べるにも問題は山積みです。そうですね、まず…この時代の図面ってどう見たらいいですかね?」

「あー、皆さん学生ですもんね。そりゃそうだ…うーん、自分達も付け焼刃の知識で大雑把にしか分かりませんが…」

 

 こうして、技術者達の情報交換と勉強会が始まった。

 

 

 

 そして、それから二日後の事である。技術者達が運ばれてきた昼飯を受け取り、テーブルへと移動する。さて、食べようと思ったところで隣のテーブルを見ると、百由が頭を抱えながら机に突っ伏していた。

 

「また何かありましたか?」

「ええ…手に負えないぐらいのとんでもない事が…」

 

 そして、げっそりとした表情の百由は何があったのかを語る。

 

 この日、工廠科のリリィ達はウィッチ候補生が訓練を行う様子を視察に出た。彼女達は身分を隠す為、民間人の見学者という体で施設や訓練の様子を見学する。

 接近時の白兵戦や射撃が中心のリリィの訓練とは異なり、ウィッチ達は空を飛んでさながら戦闘機の様に互いの後ろを奪い合うドッグファイトの訓練を行っていた。そんなまるで勝手の異なる訓練風景に驚きつつ視察を終え、この部屋に戻ってきた時にその異変が起きた。

 

「あら?こんな所に猫が…どっから入ってきたんだろう?」

「猫?」

 

 一人の工廠科のリリィが室内に猫がいると言い出したのだ。しかし、百由や他のリリィが部屋の中を見回すが猫の姿は無い。

 

「どこ?」

「え?テーブルの上にいるじゃない」

「テーブルって…えーっと、大丈夫?あなた、疲れすぎて幻覚とか見えてない?」

 

 猫が見えると言うリリィはそのままテーブルへと近づいていく。一方、百由も含めて周囲のリリィ達はそんな彼女の様子を心配そうに見つめている。連日の疲れとストレスでついにどこかおかしくなってしまったのではないかと考えながら。

 

「みんな何言っているのよ?ほら、こんなに大人しい…」

 

 そのリリィがテーブルの上に手を伸ばした途端、彼女の体に異変が起きた。猫の耳と尻尾が突如現れたのである。

 

「え…ええっ!?」

 

 そこからはただただ大騒ぎ。そして、百由は部屋に置かれた黒電話を掴むと大慌てで担当の士官を呼ぶ。すると、呼ばれた側も何事かと慌てた様子で飛んできた。その士官はリリィ達から事情を聞くと、はっきりと言った。

 

「使い魔と契約したのでしょう、彼女はウィッチになったのです。まあ、細かい点はウィッチと軍医を呼んでから調べますが…」

 

 その一言を聞いたリリィ達はただただ絶句する。

 

 

 

「と…まあ、こんな事が起こりまして」

 

 説明を終えた百由は大きな溜息を吐き出す。

 

「えーと…大変でしたね。こっちの魔法使い…いや、ウィッチというのはリリィとは異なるのでしたよね」

「ええ」

「適正自体も異なるのですか?」

「まったく違いますね。リリィはおおよそマギの保有量が基本となります。しかし、ウィッチの場合は精霊と契約し、使い魔を得る事が必要となるそうです」

 

 それを聞いた一人の技術者が首を傾げる。

 

「その使い魔さえいればウィッチになれるって事か…それだけ聞くと簡単そうな話だが」

「そんな簡単な話じゃありませんよ。普通の人には精霊を見る事なんてできないのですから」

「ん?そいつは君達のようなリリィにも見えないって事か?」

「そうですね、私にも見えませんでした。で、その見えないものをどうやって報告するか考えただけで頭痛が…」

 

 納得したように一同が頷く。彼女がこんな状態である理由が仲間に異変が起こったショックだけではなく、事態の報告をどうするかという難題にも突き当たっているからだという事を察したのであった。

 

「ウィッチになる人間に何か法則みたいなものとかあるんですかね」

「いえ、ほぼランダムみたいです。家系で代々というケースは確実性が高いようですが、親はウィッチでも子はそうではない。逆もまたしかり…というケースも珍しくないようで」

「難しいですな。何か共通点でもあれば糸口を見出せたり出来そうですが」

「後はウィッチの近くにいる人間がウィッチになりやすいという話があるぐらいで…」

 

 別の技術者がポツリと呟く。

 

「しかし、ある意味チャンスじゃないですかね?これ」

「んー…どういう意味です?」

「こちらの知識を持った人間、しかもリリィがこの世界の魔法の力を得た…つまり、こっちの魔法について調査しやすくなるとも考えられるのではないかって。知識や常識なんかの壁がなくなりますし」

 

 それを聞いた百由は飛び跳ねるように飛び起きた。

 

「それだ!」

 

 その様子に技術者達はホッとした表情を浮かべた。彼女が前向きな考えに至った様子だからである。

 

「そうなると忙しくなるわ。まず、本格的にマギとこっちの魔法の違いを実験できる。それにウィッチがCHARMを使えるかも試せるし。後は…使い魔がどういうものかあの子に聞いてみないと。うまくいけば私達にも観察できるようになるかも…」

 

 そして、百由は他のリリィを呼ぶ。

 

「みんな、忙しくなるわよ!出来る限りウィッチのデータをかき集めるわ!!」

「今ふと思ったんだけど、レアスキル使って使い魔の姿見えないかしら?」

「その手があったか…試せるものはみんな試そう」

 

 そうして、リリィ達は慌ただしく部屋を飛び出していった。一方、残された技術者達はそそくさと昼食を食べ始める。午後の調査に備える為だ、彼らにも果たさねばならない仕事が待っている。

 

 

 

 

 

「…何ですって?」

 

 突然届いた命令書に第501統合戦闘航空団隊長ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は思わず呆然とした表情を浮かべた。そして、部下であり信頼できる仲間であるゲルトルート・バルクホルン少佐とエーリカ・ハルトマン中尉の二人が彼女のデスクへとやってくる。ミーナのその様子に何があったのかと見に来たのである。

 

「どうした、何かあったか?」

「まさか、またネウロイの巣が出来たとか?」

「それが…第501統合戦闘航空団は扶桑に至急向かえって命令書が届いて」

「え?」

 

 それを聞いた二人も驚いた表情を見せる。それもその筈、ここカールスラントと異なり、今の扶桑はネウロイの脅威もなく平穏そのもの。そんな所へ向かえというのは何かがおかしい。

 

「まさか、扶桑にネウロイが?」

「そんな知らせは聞いていないのだけれど…妙ね」

 

 そして、コーヒーカップを持ったエーリカが首を傾げながら問う。

 

「状況はともかく、どうやって扶桑まで行くのさ?時間かかるでしょ」

「B-17を用意するとの事よ。他の隊員にも同様に」

「船とかじゃなくてわざわざ爆撃機を?これは本当にきな臭いね」

 

 ミーナは頷きながら席を立つ。

 

「ええ。でも、こうして命令が出た以上は動くしかないわ。二人とも、急いで支度を整えて」

 

 こうして、各地で歴戦のウィッチ達が動き出した。事情も知らぬまま彼女達は扶桑を目指す。

 

 

 

「あ。そういや、扶桑って宮藤達が今帰省してなかったっけ」

「何!?のんびりなんてしていられないぞ、ハルトマン!急げ!!」

 




様々な目的の為に多くの人々が扶桑を目指す。そこで待っているのは希望か絶望か
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