「こちら黄の14、もう一度繰り返してくれ」
「繰り返す、その雲を真っ直ぐ突っ切れ。その先に大型ネウロイが飛行中の筈だ。これを捕捉し、撃墜せよ」
「これを?見るからに視界が悪そうだ、迂回は駄目なのか?」
「駄目だ、道はそれしかない。なお、雲の内部は猛烈な電波妨害によって通信不能、そして交戦中だ。よって、支援は無い」
「道?よく分からないが、了解。とりあえず、突入する」
「なお、雲を超えたら以下の周波数と交信せよ…」
そうして、ストームウィッチーズの三人は不気味な雲へと飛び込む。
「くそ、ひどい雑音だ」
マルセイユはそう愚痴りながら無線を止める。驚いた事に、外から見た感じよりも雲の中は広大な空間となっていた。そして、地上では今まで見た事もないような車両が走り回り、空中ではウィッチが小型ネウロイと空戦している状態である。
「これは厄介だ、一気に突っ切るぞ」
「了解!」
口頭で叫ぶマルセイユに対し、後続の二人は返事を返す。そして、そのままただ真っ直ぐ飛ぶ。眼下で人が跳ねたように見えた。気のせいか?それとも、固有魔法持ちのウィッチか?マルセイユがそう考えた途端、再び雲の壁へと飛び込む。そして、雲を抜ける。
「おい、何だこれは!?」
「ティナ、これはいったい…?」
「か、鎌倉が…」
眼前には廃墟の街並みが広がり、三人は驚愕した表情を浮かべて口を開く。すると、復活した無線からこちらを呼び出す声が聞こえてきた。
「上空のウィッチへ、聞こえるか?」
「こちら黄の14。聞こえている」
「黄の14へ、そちらの人数は三人か?」
「その通り、我がストームウィッチーズは三人で飛行中」
「了解、視認した。問題のネウロイは東京に向けて北進中。至急、邀撃されたし。高度は一万(フィート)、速度は非常に低速」
「了解、上昇して目標へと向かう…」
すると、突然ライーサが叫ぶ。
「ティナ!あれを見てください!!」
「何だ、ここはニューヨークか!?」
東京方面へと視線を変えた三人は遠くに見える摩天楼を目撃し、再び驚愕するのであった。
ネウロイ出現。
雲の中で異常事態が起こった事により、日本側でも大騒ぎとなっていた。雲の中からの急報と共に多数のヒュージとネウロイが飛び出してきたのである。それにより、地域一帯に展開していた戦力では不足。百合ヶ丘女学院以外の学園にも出動要請が飛び込んでいた。
「いいの?学園内の怪しい連中の調査任務やらなくてさ」
「国からの要請だ、仕方ない。それに、この騒ぎ方はただ事じゃ無さそうだ」
「校長からもこちらを優先するように連絡があったわ、問題無いでしょう」
エレンスゲ女学園のレギオン、クエレブレの四人は緊急要請を受けて鎌倉郊外へと進出していた。一人別件で欠けた状態ではあるが、それでも構わず急な任務にあたる。そして、一年生でこのレギオンのリーダーである松村優珂は周囲を警戒しつつ、状況確認の為に無線を操作する。
「それにしても…東京のあちこちからも戦力引っ張っているみたいだけど何しているんだか。それにあそこの雲、何?」
一年生の賀川蒔菜が遠くを眺めてそう口にする。
「確かに気味が悪い雲だ。まさかヒュージネストか?」
二年生の牧野美岳もその雲へと視線を向ける。それだけその雲の柱は異様なものだった。
「敵はどうやら飛行型でギガント級らしき大型のヒュージ、地上付近ではなく3000m上空の模様。高度はかなり高い…あれか。大きいわね、全長で200mはあるかしら」
無線から情報を得た優珂が上空へと視線を向ける。真っ黒な巨体がそこにはあった。まるでラグビーボールのような形状、一見すると飛行船にも見える。
「あれ、本当にヒュージですか?なんか違和感が…」
一年生の森本結爾が訝しむような表情でそう呟く。
「いや、あんな変なの間違いなくヒュージでしょ。飛行船っぽくも見えるけどさ」
「何にせよ、あの高さは厳しい。優珂、どうする?」
「そうですね…スピードは遅いので、地上から先回りがベターかと。でも、目標が高度を落とさない事には…」
そう優珂が呟いたところで視界の隅に機影が映る。それは一機のティルトローター機であった。
「あの機体、何を?まさか…戦う気?」
そして、その機は減速しながらヒュージらしき物体の前に飛び出したのである。
「あー…あれは撃つ気満々ですね、後部のハッチが開きましたから」
双眼鏡を覗き込む結爾が呆れたように言う。
「無茶苦茶な…ヒュージの予想進路上に急ぎ前進、あの機が撃墜された場合に備えるわ。急いで」
あの機にリリィが乗っていたとしても普通なら真っ向から撃ち合っても勝ち目はない…そう考えた優珂は慌てて指示を出した。
緊急要請はエレンスゲ女学園以外にも出されていた。それはグラン・エプレの所属する神庭女子藝術高校にも届いていた。しかし、外部へも積極的に出動するグラン・エプレは特別任務で不在、その状況に頭を抱えた生徒会長の本間秋日は自ら出動する事に決めた。それは通常、本拠地である荻窪の防衛が主任務である戦力を外部へと動かすという事である。国からの要請はそれだけ切迫していたからだ。そうして、その名の通りの生徒会メンバーで構成されたレギオンである生徒会防衛隊は出撃する。
そして、そんな彼女達の姿は飛行中のティルトローター機の機内にあった。リリィを運ぶ為のガンシップは出払っており、代わりの移動手段として防衛軍が飛ばしてきたのがこの機であった。
秋日は機長から鎌倉の状況を聞く。
「現地の状況は?」
「各所で既に戦闘中の模様。このまま百合ヶ丘女学院のグラウンドに向かいます」
「了解」
このレギオンの人数は僅か四人。しかし、それぞれ実力と実績は豊富な面々であり、戦力としては強力と言えた。
「鎌倉のネストは先日消失したって聞いたのに、いったい何が…」
一年生の横田悠夏は窓の外を見てそう呟く。すると、同じく窓の外を覗いていた二年生の石塚藤乃が何かに気付く。
「んー?あれは…空飛ぶラグビーボール?」
「…何言ってるの」
「会長、本当にあるんですって。ほら、あそこ」
藤乃が指差す先には確かに何かが飛んでいた。
「あの形…飛行船でしょうか?」
一年生の塩崎鈴夢がそれを見て呟いた。
「飛行船?でも、なんでこんな所に」
「さあ…?」
すると、コクピットから乗員が叫ぶ。
「この付近にギガント級らしき飛行型ヒュージが現れたとの無線が!」
「まさか…あれが?9時方向にそれらしき大型物体!!」
秋日がコクピットへ報告を飛ばす。機長は慌ててそちらへと視線を向ける。
「いた。あれだ…まずいな、まっすぐ都心の方向に向かっている」
「付近に味方は?」
「リリィを乗せた航空機は本機のみ」
その言葉を聞いた秋日が決心したように言う。
「このまま前に回り込めますか?」
「え?」
それを聞いた悠夏と乗員達は絶句する。
「それ自体は簡単ですが…ギガント級に撃たれたらこいつなんて簡単に消し飛びますよ」
「そうです、秋日様。それに私達だけでは無謀ですよ」
「いいえ、手はあります。そして、この機…いえ、あなた方は私達で守り抜きます。それにまず、あのヒュージがこのままの高度で東京の都心部まで飛ぶ事自体は何としても阻止しないと…」
機長は大きな溜息を吐き出すと言った。
「分かりました、その言葉を信じましょう」
「ヒュージの前に出たら、速度を落として後ろを開けてください。その後は徐々に針路を都心方向から逸らす事は可能ですか?」
「相手次第ですが、可能かと。少々荒っぽくなりますが、我慢してくださいよ」
「了解、お願いします」
そして、機は一気に加速する。その間に四人のリリィはCHARMを起動しながら機体後部へと移動。
「秋日様、どうするつもりですか?」
鈴夢が機に揺さぶられながら問う。
「相手の前方上方から攻撃。相手の注意をこちらに逸らすわ」
続いて悠夏からも質問が飛んでくる。
「しかし、この人数ではノインヴェルト戦術も期待できない以上、撃破はまず不可能じゃ…」
「元より撃破までは望んでいないわ。あのヒュージを人口密集地に近づかせなければそれだけで上等よ。さて、こんな無茶無謀は遠慮したいという人はいるかしら?」
今できる事をとにかくやるという秋日の姿勢に一同は静かに頷いた。戦力は僅か、相手は強大。そして、足場は存在しない空中で機動力を活かす事は不可能、勝ち目はまずない…しかし、ここで引けば大勢の生命が危険に晒される。まさに決死の覚悟である。
機は急上昇、そのまま一気に右旋回。そして、機首を落とすと螺旋状に降下する。そんな猛烈な機動にリリィ達は必死にしがみ付いて耐える。そして、急減速したと思った途端に機長から無線が飛ぶ。
「後部ランプ開きます!」
「了解、射撃準備!」
後部ランプが開くと一気に風が吹き込んでくる。そして、眼前に真っ黒で巨大な物体が浮いていた。
「撃て!」
だが、怯む様子もなく秋日の号令と共に発砲音が響く。水平飛行で速度は合わせている為、射撃自体は容易だ。止まっている的を撃つのにも等しい。だが、それは相手にも言える。このままでは相手の反撃も飛び込んでくるのは避けられない、現に真っ赤な光線らしきものが飛んでくる。だが、それはティルトローター機の手前で弾かれた。
「ヘリオスフィア!」
秋日のレアスキルであるヘリオスフィア…マギで出来たバリアが化け物の光線を数発防ぐ。機は増速しながら緩く左旋回、目の前のヒュージもこちらを追ってくる。
「釣れた。これで最低限の仕事は出来たわね」
「でも…秋日様、アイツは撃ってもすぐ回復してしまうみたいで…」
「回復特化の特型ヒュージかしら?厄介ね」
多数の銃弾を叩き込んでも、目の前のヒュージはびくともしない。被弾痕もしばらくすると元に戻っている様子であった。それでもひたすら撃ち続ける。
「キリがない…」
「斬り込みますか?」
藤乃が静かにそう言うが、秋日は首を横に振る。いくら手練れでもリスクが高すぎる。
「いいえ、飛び移るのは流石に危険すぎるわ。こうなったら根競べね…こちらが先にマギが切れるか、相手のマギが切れるか…」
今のところはヘリオスフィアと機体自体の機動で敵の攻撃をなんとかできている。だが、持久戦は不利だ。秋日のマギが尽きたら途端に防御不能になるのは避けられない。だが、こんなに派手な攻撃をするヒュージもマギの消耗が激しい筈だ。それに回復にもマギを垂れ流しているだろう。それなら相手のマギが先に尽きる可能性もある。
「秋日様…このヒュージ、なんか変です。本当にヒュージでしょうか…?」
困惑したような声で鈴夢が言う。
「変というと?」
「うまく言えません…なんとなくそう感じたというか…えっと、その…勘です」
「勘か…変なのは間違いないでしょうね。間違いなく特型の部類…さて、そろそろ厳しいかしら?」
マギが切れてきた…搭乗員と他のリリィに脱出の指示を出すか?殿である自分はともかく、他の全員が脱出するだけの時間は最低限稼がねば…そう考え、脱出の指示を秋日が出そうとした瞬間である。無線に英語の音声が響いた。
「聞きたい事は山ほどあるが…後は我々ウィッチの仕事だ。そこの輸送機らしき機体、退避しろ」
ウィッチという聞きなれない単語に機内の一同は怪訝な表情を浮かべる。
「増援か、どこだ?」
「貴機から見て3時上方。マミ、ヤツの横っ腹に一発ぶち込め。挨拶代わりだ」
その刹那、ヒュージの側面で大きな爆発が起こる。唖然とした表情で秋日がその光景を見ていると、目の前に人が現れた…いや、上から降ってきたのだ。そして、フワリと一回転すると目の前で浮いている。
「え?ここ、空の上よね…どうやって立って…いや、浮いてる!?」
「嘘…」
「あらあら」
「えっ…いや、ちょっと何これ!?」
その姿に生徒会防衛隊の面々はただ茫然、攻撃の手すら止まる。目の前には確かに人が浮いている。長く白に近い髪色の髪が風に靡き、腕には大きな機関銃らしき銃を抱えている。そして、脚にはよく分からない機械のようなものを付けていた。そんな謎の人物は驚いた声に気が付いたのか背後へと振り返り、青い瞳がこちらへと向けられた。
「…陸戦ウィッチか?大型の飛行型ネウロイ相手によく頑張った」
謎の人物は首を傾げつつ英語でそう言うと、飛んできた赤い光線を青白い光で弾く。そして、そのまま増速してヒュージ目掛けて突っ込んでいった。
「い、今のは…?あの人、英語話していたけど…」
「アメリカでもああいうのは見た事ありません…それにウィッチって?魔女?」
秋日はつい最近までアメリカに住んでいた悠夏に聞くが、その彼女も首を横に振る。そして、生徒会防衛隊の面々はただ茫然と目の前の戦闘を眺めていた。
「輸送機には陸戦ウィッチが乗っているらしい。変わった形の銃を持っていたが…まあいい、今からそっちに行く」
「了解、ティナ。コアの位置はまだ不明」
「よし。ライーサ、下に行け。こっちは上から探る」
「了解!」
そして、マルセイユの指示を受けてライーサは一気に急降下。下方の廃墟群が近づいてくる。
「人?」
廃墟群の中には人がいた。人数は四人、その内の一人と目が合った気がした…二つ結びにした髪型の女性はこちらを見て驚いたような顔をしている。
「ティナ、地上に人がいる模様。ただ…ストライカーユニットは見えませんでした」
「まさか、民間人か?まずいな…こっちは三人だ、守りに行く余裕はないぞ」
そうこうしていると、真上のネウロイが動きを見せた。胴体下部の出っ張り…飛行船のゴンドラのような形状の部分から少し後ろの部位が扉の様に開いたのだ。
「このタイミングで子機!?」
そして、そこから複葉機のような形状の小型ネウロイが次々と飛び出した。数は五機…一気に下方へと飛び込んでくる。ライーサは地に背を向けて迎え撃つ。全てを迎撃するのはかなり難しい、下にいる人が逃げ切る事をただ祈る。まず一機、銃弾が次々突き刺さって砕け散る。二機目、命中弾を与えるも地面に落ちていく…地表に当たって崩壊。だが、それに気を取られて三機目は命中弾無し…突破された。
「しまった!!」
真美も上から急いで降りては来ているが、今からでは間に合わない。眼前には二機の小型ネウロイがおり、抜けていった一機を追う事も困難だ。ライーサは同時に突っ込んできた二機のネウロイを左旋回で躱す。そして、地上へと目を向けると、先程人が見えた辺りに小型ネウロイが飛び込んでいく。
「間に合わなかった…ティナ、大変です。民間人に向かってネウロイが…えっ!?」
「どうした、何があった!?」
先の二つ結びの髪型の女性がそのネウロイを文字通り、真っ二つに斬り捨てた。
「その…撃墜しました。地上にいた人が」
「なんだ、ウィッチだったのか。それなら安心だ」
「それとティナ、小型が二機ともそちらに向かいました」
「そうか。やれやれ、人気者はこういう時に困る」
小型ネウロイは重力を無視した勢いで螺旋を描きながら昇ってくる。しかし、マルセイユは特に慌てる様子もなく、機関銃を短く二連射。刹那、小型ネウロイは二機とも叩き落される。
彼女の固有魔法は偏差射撃、目標の未来位置を正確に予測して的確に銃弾を叩き込む事が出来る。それは相手がどれだけ回避の為に複雑な機動をしてきても命中弾を与え、特に防御力の弱い小型ネウロイに対しては圧倒的に優位なものであった。そして、その命中精度の高さによって銃弾の消耗も少なく、継戦能力の面でも大きな強みを与えていた。
「さて、このデカブツはどう攻略する?」
「あの…子機の出てきた所とかどうでしょう?」
「ふむ。ライーサ、どうだ?」
「ええ、ハッチみたいな構造になっています。その中はおそらく何もない空間かと」
「それは面白い事を聞いた」
マルセイユはにやりと笑う。
「ではライーサ、私と二人でそのハッチを叩き割るぞ。マミ、私達が壊した所にその40mmをぶち込んでやれ。後は中からぶち壊す」
部下二人から了解と返事が飛び込むとマルセイユは反転して急降下。大型ネウロイの下部に潜り込む。光線は飛んでくるが、その密度は低い。回避とシールドで事足りる。
「で、どの辺りだ」
「機首側の出っ張りの少し後ろ…溝があるあそこです」
「よし、分かった。行くぞ、ライーサ!」
「はい!!」
そうして、二人はシールドを出して一気に上昇。一点に集中して機銃弾を叩き込む。すると、他の場所を撃った時と様子が異なり、その部分はあっという間に崩れ落ちて穴が開いた。
「よし、割れた。マミ、叩き込め」
「了解!!」
小柄な体格の真美が大きな40mm砲を上へと向ける。そして、狙いを澄ませて発砲…その砲弾はそのまま穴の中へと飛び込んだ。砲弾は炸裂、爆音が轟くとネウロイはそのまま高度を下げていく。流石に都合よくコアを破壊する事は出来なかったらしい。
「ほう、このまま地面に降りてあの穴を塞ぐ気か」
「どうします、ティナ?」
「そうだな…そういえば、あれは飛行船に似ているな」
「…?そうですね、そんな雰囲気の見た目です」
「という事は船だ。まあ、こういうのはブリタニアの連中の十八番だが…大空で接舷切り込みと洒落込もうじゃないか。そして、切り込む先はあの穴だ」
マルセイユは新しい弾倉を装填しながらそう言った。そして、それを聞いた真美は目を丸くする。
「え…あの中に?」
「さあ、行くぞ!」
マルセイユの命令と共に三人はそのまま穴へと飛び込む。
「予想通り、中は空洞だな。よろしい。各員、怪しいと思しき所に向けて片っ端から撃て」
「了解!」
機関銃弾と40mm砲弾が次々と放たれ、ネウロイの内部を滅茶苦茶に破壊していく。慌てて新しく作り出された子機のネウロイは飛び上がる事すら出来ずに40mm砲弾の直撃を浴びて木っ端微塵に散った。壁際にヌッと現れた銃座らしきものも同じような末路を辿って即座に消し飛ぶ。
「コアはどこだ?」
これだけ暴れてもまだコアが見つからない。マルセイユは周囲を見回す。すると、異変が起きた。爆風と共にネウロイ側面の数か所に穴が開いたのだ。
「さっきの連中か?」
「いえ、下にいたウィッチかもしれません」
下からの攻撃が届く高度まで落ちてきたようだ。残弾はまだまだあるが、地面に降りたらこの化け物が何を起こすか分からない。早めに対処せねば…とマルセイユが考えているとライーサが指を差す。
「正面奥の壁はどうでしょう?」
「あれか」
先程側面に開いた穴から太陽光が差し込み、隔壁のような壁が奥の方に見えた。これだけ広く何もない構造なのにあそこだけ隔壁があるのは確かに怪しい。
「正面、40mm。ぶちかませ」
マルセイユが指示を出すと、すかさず真美が撃つ。砲弾は隔壁のど真ん中に命中、大穴が開く。
「ほほう、あそこだけ分厚いとは。ますます怪しい」
「では…」
「その通り、撃て」
三人の射撃が前方の壁へと集中する。そして、その壁はたちまち穴だらけになっていく。すると、壁の一点が赤く発光…光線を撃ってきた。しかし、三人のシールドは難なくそれを弾く。
「ムキになったな、それは自白したようなものだぞ…真美、あそこだ」
「分かりました、撃ちます!!」
その真っ赤に光る一点に40mm砲弾が突き刺さる。
「あったぞ、コアだ!!」
砲弾で出来た大穴の先にコアが浮いている。逃がすものかとすかさずマルセイユとライーサの機関銃が吠えた。そうして放たれた7.92mmの機関銃弾がたちまちコアに突き刺さると、そのコアは跡形もなく崩れ去っていく。そして、それと同時に周囲の巨体も崩壊、何の残骸も残らずに消えた。
「こちら黄の14、ネウロイ撃墜。繰り返す、ネウロイ撃墜」
「こちらでも確認した、感謝する!そして、後程指示を出すので暫くその空域で待機願う」
「了解」
撃墜の報告を送り、マルセイユはホッと一息ついた。すると、ライーサが下を指さして言う。
「さっき下にいた人達の様子を見てきます。ネウロイと戦って何かあったら大変でしょうし」
「そうか。私もさっきの輸送機らしき機体の様子を見てくる。そうだ、マミを連れていけ。通訳になるだろう」
「それでは…ティナは?」
「無線でブリタニア語が通じたからあっちは平気だろうさ」
「ああ、なるほど。では、行ってきます」
そして、マルセイユは未知の機体へ向けて上昇。真美とライーサは下へと降りる。降下しながら地表を探すと、先程と変わらぬ位置にその四人はいた。真美とライーサはすぐさまそこへと降り立った。
そこにいる四人の表情は様々だ。驚いたような表情をした者が二人、興味津々といった表情が一人。そして、真美の事をじっと見つめる黒髪の女性…その視線と嫌な予感に真美の背に寒気が走る。
「結爾、ステイ!ステイ!!」
「止めないでください、蒔菜!ちょっとあの子をお茶に誘うだけです」
二つ結びの髪型の女性が大げさ気味に咳払いして黙らせる。そして、口を開く。
「すみません、あなた方は何者でしょうか…?その、それにどうやって空を?」
その言葉を聞いた真美は困惑する。目の前の相手はまるでウィッチもストライカーユニットも知らないような素振りだ。ウィッチがほとんどいない地域で尚且つ田舎ならともかく、扶桑の国内でストライカーユニットを知らないという事はほぼありえない。それに横須賀からも近いこの地域なら余計にそうだ。判断に困り、真美はライーサに相談する。
「何か変です」
「扶桑語だから会話が分からなかったけれど…何かというと?」
「その、ウィッチを知らない様子みたいで…」
「え!?…それは確かに妙ですね。とりあえず、所属と氏名と階級だけは伝えてみましょう」
「はい、そうですね…まずは話して様子を見ましょうか」
真美は恐る恐る目の前の四人に話しかける。
「ええっと、陸軍の稲垣曹長です。こちらはカールスラント空軍のライーサ少尉。あなた方は?」
「あの…あなた方は本当に軍人ですか?それにカールスラントって…聞いた事の無い国名なのですが…」
その返ってきた一言に真美はついに絶句した。
一方、マルセイユは上空を目指す。
先程遭遇した謎の機体はまだ上空を旋回してその場に留まっていた。大きな出入口らしきものが後部にあり、その扉は胴体下部を起点に下方へと下がっている。なるほど、機体の構造そのものをスロープとしているのか、それは便利だ…とその機を観察したマルセイユは心の内で考える。こんな輸送機があれば車両なんかの輸送も楽に違いない、是非アフリカに欲しいものだ。
そして、ストライカーの出力を調整し、後部の出入口と思しき所に入っていく。機内には先程見た陸戦ウィッチと思われる人物が四人、更に搭乗員らしき人物が二人、こちらをじっと見ている。
「扶桑の飛行服や飛行帽とは違う?…何だコイツら」
首を傾げつつマルセイユは口を開く。
「やあ、諸君。怪我は無いか?」
「え、ええ…お蔭様で」
四人の内の一人が返事を返してきた。この様子では他の三人は語学力に自信が無いのだろうか?
「しかし、先進的な機体だ。いつ配備された?」
「えっと…その、私達はリリィなのでその辺りはちょっと…」
「リリィとは何だ?」
マルセイユがそう返すと、相手は唖然とした表情を浮かべている。これはどうした事だろうと考えていると、相手が口を開く。
「あなただってリリィでしょう?」
「何を言っているんだ。ウィッチだ、見れば分かるだろう。それにお前達だってウィッチではないのか、さっきネウロイと戦っていたのはお前達だろうに」
相手は明らかに困惑している。すると、機の奥から乗員がやってきた。
「すみません、あなたがマルセイユ大尉でしょうか?」
「そうだ」
「申し訳ありません。上層部からたった今通達がありまして…なるべく、あなた方と接触しないようにと…」
「どういう事だ…?」
そんな話を聞いて今度はマルセイユが困惑した表情を浮かべた。そして、改めてその乗員を見ると、その飛行服には見た事もない国旗らしきパッチが付いている。
「一つ確認だが…ここは扶桑だよな?」
「えっと、扶桑…?扶桑と言いましたか?その…よく聞き取れなかったので、もう一度お願いします」
「何故通じない、どうなっているんだ…」
その反応に流石のマルセイユも混乱する。
一方、マルセイユと会話した悠夏も困惑した表情を浮かべていた。その表情を見た秋日がどうしたのかと尋ねる。
「その、彼女がここは扶桑か、と聞いてきて」
「扶桑…大昔の日本の別名だったわね。なんでまたそんな単語が?」
「分かりません、地名を間違えたのか…でも、その後に乗員がなるべく接触しないようにと話していて」
「接触するな?どういう事…?」
秋日の視線の先では謎の人物と乗員がまだ話し合っている。
「分かりません…あの人、自分はカールスラント空軍の大尉って言っていますが…そんな国ありましたっけ?」
「いえ、私も聞いた事が無いわ…いったい、この鎌倉で何が起こっているの?」
秋日は眼前に広がる鎌倉の景色を見てそう呟いた。
ウィッチ達は異世界の空を飛び、ネウロイと戦う。
しかし、敵はさらに増え、戦闘はまだ続く。