芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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ネウロイの脅威

「もうすぐで着陸か」

「ええ、思った以上に時間がかかってしまったわね」

 

 三機の爆撃機に乗った第501統合戦闘航空団はやっと扶桑の上空にたどり着く。上層部からの命令を受けて隊自体は迅速に行動を起こしてはいたが、移動はそう上手く行かなかった。まず、休暇に出ていた一部の隊員が集まるのを待った事によって出発が遅れた。次に、戦力引き抜きへの抵抗等の厄介事が各所で発生した為、上層部で調整が済むまで待機。そして更に、移動中の機材トラブルによって予定よりもだいぶ遅れた到着となっていた。しかし、扶桑で何が起こっているのかまだ知らない彼女達の表情に焦りの色はあまり無い。

 

「ミーナ、目的地に降りた後はどうするんだ?他の隊員にも先に無線で知らせておかないといけないだろう」

 

 隣に座っているミーナにバルクホルンが尋ねる。

 

「そうね、横須賀にある飛行場に着陸。私は基地の指揮所に着任の報告を入れて、そのまま東京へ状況と任務の詳細を聞きに出かける予定よ。みんなは…そうね、とりあえず整備と協力して格納庫と宿舎に荷物を運び込んでおいて。終わったら自由時間にしましょうか」

「分かった。ハルトマン、そろそろ起きろ!」

「えー、あと三十分…」

 

 そんな会話をしていると、爆撃機の通信手がミーナを呼ぶ。

 

「中佐、通信です」

「通信…どこから?」

「リベリオン陸軍のパットン将軍からです!」

「何ですって!?」

 

 ヨーロッパにいる筈の人物から通信と聞いてミーナは仰天した表情を浮かべた。そして、急いで無線に出る。

 

「よう、中佐。ベルリン以来だな。で、急で悪いが早速本題だ」

「いえ、閣下。何でしょうか?」

「そっちは今、扶桑の上空に着いた頃だよな」

「ええ、ちょうど名古屋を過ぎて東京へ向かっているところです」

「今乗っている機体から空中発進できるか?」

 

 パットンの発言にミーナは唖然とした表情を浮かべた。

 

「どういう事でしょうか…?それと、どうしても気になってしまうのでお聞きしたいのですが…何故、将軍が扶桑に?」

「詳しくはここじゃあ言えねえが、ちょっと不味い事態が起こってな…その関係でこっちも扶桑に行くことになっちまった、今は船の上だ」

 

 詳しい情報は得る事が出来ないが、扶桑で何かしらの事態が起こっている事だけは確からしい。

 

「で…どうして緊急発進の要請を出したかについては、先程ついに現地で緊急事態が起こりやがったという事だ」

「緊急事態…武装は必要でしょうか?」

「ああ、出来る限り多く持って行け。かなり面倒な事になってやがる」

「了解、すぐに準備します」

「鎌倉周辺で発進しろ。その後は現地に展開している地上部隊からの指示に従え」

「了解!」

 

 通信を終えるとミーナは振り返って叫ぶ。

 

「緊急事態よ、すぐにストライカーの準備!!他の機にも連絡、急いで!!」

 

 この命令で三機の爆撃機の機内は途端に大騒ぎとなった。

 

 

 

 

 一方、雲の中の警戒部隊指揮所には防衛線から駆け込んできた伝令からある報告が転がり込んでいた。曰く、ネウロイがラージ級のヒュージの残骸を回収して盾にしている、といった内容であった。その奇妙な報告に指揮所内の皆は困惑する。そして、エリアディフェンス設置作業で指揮所内にいた百由もその報告に首を傾げた。

 

「確かにヒュージはマギ無しでも強固だけど、なんでわざわざそれを…」

「一つ聞いてもいいか?ヒュージは金属が含まれた体で成り立っていると聞いたが、これは本当か?」

 

 隣にいた美緒がそう質問してきた。

 

「ええ、ヒュージには多量の金属が含まれていて、それで高い強度を有しています。まあ、マギを失った場合は体を維持できない為、すぐ崩壊してしまいますが」

「金属か。それは不味いな…」

 

 そう呟くと、美緒は周囲にいた扶桑軍の士官達を集めて何やら話し合っている。百由はどうしたのかと尋ねる。

 

「ネウロイは金属を吸収するという事は知っているか?」

「ええ、そう聞きましたが…まさか、ヒュージの残骸を栄養分にしていると?」

「いや、状況はもっと悪い。ネウロイは金属で出来たものを吸収、同化する事もある」

「ど、同化…?つまり、ネウロイはヒュージの残骸を自らの体として取り込んだ!?」

「ああ」

 

 ネウロイのとんでもない能力を聞いた百由は絶句する。そして、周りにいた日本側の士官達も同様の反応を浮かべていた。

 日本側では雲の向こう側の魔法技術の研究調査が優先されており、ネウロイの調査については優先度が低かった。その理由はたった一度の戦闘しか経験していない事。また、近代的な通常兵器なら対処可能な相手という認識があり、ヒュージの方が余程厄介だろうと目されていた為だ。

 

 日本側の士官が恐る恐る質問する。

 

「ネウロイが兵器を吸収する可能性は?」

「あります。過去には戦艦の残骸を吸収し、陸上要塞化した事例も…」

「なんて事だ…」

 

 美緒がそう答えると、その士官は慌てて周囲の日本側の人員と百由を含めたリリィ達を集めた。

 

「ネウロイがヒュージの残骸を取り込んだとして…その場合、ネウロイがヒュージの能力を得る可能性はあるだろうか?」

 

 士官の質問に百由が答える。

 

「どうなるかは分かりません。ですが、ヒュージと違ってネウロイはマギ…魔法そのものが有害な筈です。よって、マギが必要なヒュージの能力は使えないのでは…」

「確かにそうだ。それなら通常弾でも戦えるか」

「ただ、ラージ級はマギ無しのそのままでもかなりの強度です」

「うーむ…」

 

 他の士官からも意見が出る。

 

「敵が兵器を吸収するのなら、車両は後退させた方がいいのではないか?相手に鹵獲された場合、非常に不味い事態になる」

「ネウロイがこちらの装甲車で暴れ回る…最悪の事態ね。機関銃や大砲撃たれたら堪ったもんじゃないわ」

 

 意見を聞いた百由がそう呟く。

 

「それもあるが…ここから撤退する時の移動手段を失う事にもなる」

 

 その士官の一言に場は静まり返る。身体能力の高いリリィだけならまだ逃げ切れるだろうが、それ以外の人員は身を隠しながら徒歩で逃げるしかない。実際はそんな彼らをリリィ達が守りながら逃げる事になる。そうなってしまえば地獄の撤退戦である。そして、重苦しい空気が場を包む。

 

「全ての車両を指揮所前まで後退させよう」

「いや、しかし…今下がらせたら防衛線の火力が…」

「どちらにせよ、通信不能なら各個撃破される可能性だってある」

 

 そんな問答をしていると、日本側から有線の通信で大型ネウロイ撃墜の一報が舞い込んできた。その明るい報告に場の空気は変わる。

 

「いや、ネウロイが何かしたからといってもまだ負けたと決まった訳じゃない。何かアイデアは?」

「じゃあ、ウィッチにこちらの武器を使わせてみるのはどうでしょう?リリィと違って彼女達なら何でも使えますよ。遠隔操作の武器はアレでしょうけど」

 

 百由がそう意見を出す。しかし、一人の士官が首を横に振る。

 

「我々の小銃より、彼女達が使っている武器の方がよっぽど強力だよ。みんな機関銃以上の装備だ」

「あー…確かに。じゃあ、この時代に無い物とか…ミサイルとかはどうでしょう?」

「その手があったか」

 

 別の士官がハッとした表情を浮かべた。そして、彼は言う。

 

「車両を下がらせる代わりにウィッチ達の火力を底上げしよう。ありったけのATM(対戦車ミサイル)と無反動砲で」

「そうだ、そうしよう。ウィッチに詳しい人物…坂本少佐をこっちに呼んでくれ」

 

 そして、指揮所内は再び慌ただしく動き出す。

 

 

 

 通信が途絶し、周囲の状況が掴めない中でも一柳隊は戦闘を続けていた。ヒュージを探知するセンサー類はネウロイ相手には役に立たず、二水のレアスキルである鷹の目も草木が多い為に視界不良でうまく効果を発揮できていない。よって、円形に布陣して全方位を警戒する策をとっている。そんな状態であるが、迂闊に動く事も出来ない…勝手に動けば戦力に穴が開く可能性すらあるからだ。

 先程まで断続的に聞こえていた味方車両の砲撃音も今やまばらにしか聞こえてこない。その為、味方はどうなったのだろう…いつ無線は復活するのか…といった不安感が皆の心の内に渦巻いていた。

 

「梨璃さん、3時方向から小型ネウロイ一体接近!」

「了解。楓さん!迎撃お願いします」

 

 即座に銃弾が叩き込まれてネウロイは四散する。一同がホッとした瞬間、空から風切り音…夢結が叫ぶ。

 

「1時上方!小型ネウロイ多数、急降下!!」

「あれは…爆弾!?回避!!」

 

 降り注ぐ黒い物体、周囲に鳴り響く炸裂音。上空からの爆撃を避ける為、一柳隊の面々はそれぞれ各方向に駆けた。頭上ではまだ複数の小型ネウロイが飛び回っている。よって、一点に集まっては先程の様に爆撃されかねない…各々ばらばらに物陰へと潜り込んでただ息を潜める。

 

「お姉様、どうしましょう」

「今は耐えて。とにかく機会を待つのよ」

「みんなは大丈夫でしょうか…」

「信じましょう。多分、そう遠くまでは行っていないと思うけれど…っ!!不味いわ、ネウロイよ。梨璃、静かに」

 

 夢結の視線の先には低空を這うように飛ぶ中型のネウロイが一体…周囲を警戒するように動いている。状況が掴めない今、こちらから迂闊に飛び出しては分が悪い。たちまち包囲される恐れがある。よって、二人はとにかく身を隠す事に集中する。すると、ネウロイの砲身らしき部位がこちらへと向いた…見つかったか?夢結がそう心の内で考えた刹那、上空から機銃弾が降り注ぐ。そして、二人は咄嗟に上を見る。

 

「服部さん!」

 

 そこには静夏の姿があった。敵の攻撃を躱しながら銃撃を続けている。すると、別の方向からも機銃弾が飛び込んだ。

 

「見てください、お姉様!宮藤さんも!」

 

 芳佳も別方向からネウロイに銃撃。二方向から時間差で攻撃する事によって相手の注意を分散させているらしい。現にネウロイの攻撃は見るからに精度が落ちている。

 

「私達も仕掛けるわ、構えて」

「はい!」

 

 梨璃と夢結の二人も草木に潜んだ体勢のままCHARMを撃つ。相手はウィッチ二人の攻撃に釘付けとなっており、動く事もろくに出来ていない。最早いい的であり、初弾から命中…相手の側面に穴を開ける。上の二人もそれでこちらに気付いたらしい、芳佳がこちらを向いたのだ。

 

「宮藤さんがこっちに気付いたみたい」

「よかった…この後どうしましょう?」

「近接戦闘…斬り込むわよ」

「えっ!?お姉様、ちょっと…」

 

 そう言うと、夢結は相手目掛けて突っ込んでいく。そして、瞬く間に相手の真下へ滑り込むと、そのまま一気にCHARMの刃を振り抜いた。すると、刃が何かにぶつかる感触があった…そう感じた途端、ネウロイは崩れ去る。うまくコアを破壊出来たらしい。

 

「よかった、お二人ともご無事でしたか」

 

 静夏と芳佳が降りてくる。

 

「ええ、なんとか…でも、隊の皆とはぐれてしまって…」

「それなら、一緒に探そうか?」

「いいんですか!?ありがとうございます」

 

 芳佳の提案に梨璃は笑顔を浮かべる。すると、聞きなれない音が聞こえてきた。

 

「お姉様、この音何でしょう?」

「馬の走る音…かしら」

 

 四人はその音の聞こえてきた方を見る。そこには馬に乗った扶桑軍の下士官がいたのである。軍人が馬に乗って移動する光景なんて今の日本では見る事がない…その為、梨璃と夢結は思わず唖然としていた。

 

「宮藤さん、伝令でしょうか?」

「うん、多分」

 

 静夏と芳佳がそう話し合う…どうやら彼は伝令らしい。無線が使えない状況であるから連絡するにはこのような手しか使えないのだろう。そして、その伝令はこちらに駆け寄ると、こう伝えてきた。ウィッチは至急指揮所まで来るように、と。

 

「指揮所に…どういう事でしょうか?」

「ネウロイがヒュージの残骸を取り込んだとの情報有り、その対策の為との事です」

「ネウロイが…!?分かりました。ご苦労様です」

 

 そして、その伝令は敬礼すると、馬に飛び乗ってそのまま走り去っていった。すると、夢結はウィッチ二人に困惑した様子で質問を飛ばしてきた。

 

「あの…今、ネウロイがヒュージの残骸を取り込んだって…何が起こったの?」

「えーと、ネウロイは船とかを取り込む事があってね、多分それだと思う。でも、ヒュージは生き物の筈だからなんかおかしい気も…」

「船を!?」

「うん、鉄とかの金属で出来たものを取り込んで体の一部にする事が出来るの」

 

 夢結はハッとした顔を浮かべた。

 

「金属…まさか」

「どうしたの?」

「ええ、ヒュージの体は強度を上げる為か多量の金属を含んでいる事も多いの」

 

 その一言にウィッチ二人は納得した表情を浮かべた。すると、梨璃が意を決したように口を開く。

 

「お二人は指揮所に急いでください」

「いいの?一柳隊のみんなを探してからでも別に…」

「いえ、私達だけで大丈夫です。それに何か策があるのなら、そっちを優先した方がいいかなって…」

「分かった。無理はしないでね」

「ええ、そちらも」

 

 そして、二人のウィッチは手を振るとそのまま飛び去って行った。

 




リリィとウィッチは孤立した状況でも戦闘を続ける。
そして、その後方の人々は新たなネウロイの脅威に策を練る。
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