「信号弾!?」
第501統合戦闘航空団のウィッチ達は誰かが放った信号弾を目撃する。これはつまり、誰かが芳佳か静夏…もしくはその両方を発見したという知らせである。そして、ウィッチ達は信号弾の放たれた地点へと移動を開始する。また、それに釣られて一柳隊の面々も後に続いて走り出す。
「将軍…えーと、戦力って?」
「ああ、本当だったら俺の軍団を欧州から丸ごと連れてきたかったが…そうはいかんのでな。代わりにハワイで錬成中だった海兵隊一個大隊、戦車一個中隊とアフリカにいた頃に俺の直属だった陸戦ウィッチ達やあちこちから引っ張り出せそうな連中を連れてきた。そして…」
「そして?」
「お前達に馴染み深い連中だ」
ニヤリと笑うパットンに芳佳と静夏は首を傾げながらお互いに顔を見合わせる。パットンの連れてきた戦力そのものはかなりの数と言えるし、心強い。しかし、最後の一言が何の事なのかさっぱり見当が付かないのであった。
一方、二水やグラン・エプレ等のリリィ達が守る陣地では絶え間なく敵からの攻撃が続いていた。リリィ達は二水の鷹の目を頼りに次々押し寄せるネウロイを迎撃、撃退し続けていたが、ネウロイは突然戦術を変えてきた。
「動きが変わった…?」
ネウロイがヒュージの残骸を集め、壁を作り始めたのだ。そして、二水が困惑気味に言う。
「ヒュージの残骸の後ろに穴を掘り始めました…何をする気でしょう?」
そして、ネウロイはその穴の中に潜り込む。その姿はヒュージの残骸の影にすっぽり隠れてしまって防御陣地内のリリィ達から直接見る事が出来ない。そんなネウロイが何をしてくるのかとリリィ達が様子を見ていると、ヒュージの残骸の向こう側から煙が上がった。そして。何かに気付いた防衛軍の隊員が叫ぶ。
「曲射だと!?伏せろ!砲撃だ!!」
刹那、その場にいる面々は積み立てた土嚢の影に伏せて身を守る。そして、鳴り響く風切り音…その音が途切れた途端に炸裂音と衝撃波が伏せている皆に襲い掛かる。すぐさまリリィ達は体を起こして撃ち返す。だが、相手はヒュージの残骸に身を隠したままであり、有効打は与えられない。すると、上空に何か影が過る。
「上空、小型ネウロイ複数!!」
まるで杯をひっくり返したような形のネウロイが宙を漂うように飛んでくる。嫌な予感が皆の脳裏を過ったその刹那、そのネウロイが陣地に向かって発砲してきた。咄嗟に伏せた叶星の耳に銃弾が至近を通過した時の独特な音が飛び込む。そして、その直後に後方から叫び声。
「撃たれた!撃たれた!!」
隊員の一人が太腿を撃ち抜かれて卒倒したのだ。歯痒い気持ちになりつつ、叶星はCHARMを伏せたまま構えて発砲。一撃で小型ネウロイを撃ち落とす。そして、姫歌達も同様に小型ネウロイを撃ち落とす。これで上空の脅威が過ぎ去った…と思った矢先、再び敵陣からの砲撃が飛び込んでくる。空陸立体の波状攻撃、人間の軍隊がやるような戦術…まるで戦争映画の中のような状況に放り込まれたリリィ達の疲労は嫌でも増していく。そして、痺れを切らした他校のリリィが陣地から飛び出そうとする。
「落ち着いて!無理に向こうに飛び込んでも集中砲火を浴びるだけよ!!」
高嶺がそのリリィを止め、必死に宥めようとする。そのリリィの瞳はまさに血走っており、興奮していた。その姿からして一年生なのだろう、経験不足な上に慣れないネウロイとの戦闘でストレスが積み重なった結果かもしれない。
「何とかしないとみんなやられます…」
「いい?あなたはあそこで倒れている人の救護と後送のサポートに行って」
「…え?」
「人の命が懸かっているのよ。急いで!」
「は、はい!」
高嶺はそのリリィを負傷者の救護に向かわせた。このまま冷静さを欠いたまま前線に立たせるよりも、明確な役割を与えてそれに集中させた方が得策だと考えたのである。そうして対処をしたものの、自分も含めて陣地内のリリィ達は皆見るからに疲弊していた。後方に下がったウィッチ達や再編成を終えた他の部隊が戻って来るまでの辛抱ではあるが…ここで更なる敵の増援が押し寄せてきた場合、耐えられるかどうか怪しい。
「叶星、このままだと厳しいわよ」
「ええ、分かっているわ…二水さん、他に敵影は?」
叶星は二水に敵情を聞く。
「後方にはっきりとは見えませんが敵影複数…うっ…」
「二水さん!?」
二水が立ち眩みを起こす、マギを消耗し過ぎたようだ。このままでは不味い。どうする?そう思考を巡らせながら叶星は周囲の様子を見る。すると、指揮所の方から轟音が鳴った。
「騎兵隊参上!!」
先程やってきた戦車隊と外国人の陸戦ウィッチ達が戦場に飛び込んできたのだ。歩兵達は防御陣地の土嚢まで滑り込むとライフルグレネードを撃ち始め、戦車は主砲弾と機関銃弾を敵陣に向かって叩き込む。そして、敵陣に火砲の雨を浴びせている隙にウィッチ達が前進。ストライカーの無限軌道の機動力とシールドの防御力を活かし、ヒュージの残骸を迂回、その中に籠るネウロイの側面や後方を突く。そうして、彼女達は手慣れた様子で敵陣に強襲を仕掛けた。
「た、助かった…」
突然の増援に防御陣地にいた全てのリリィと隊員達は安堵の溜息を吐き出した。
「ここは交代するわ、あなた達は後方へ下がって休んで頂戴」
「すみません、お願いします」
そうして、増援に陣地の守備を任せてグラン・エプレ一行とその他の人員は指揮所へと向かった。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
ボロボロになって戻ってきたグラン・エプレ一行をヘルヴォルの皆が出迎える。一方、叶星は驚いた表情を浮かべた。
「一葉、そっちこそ大丈夫だったの?あなた達、通信途絶からずっと行方不明扱いだったのよ」
「ええ、先程ここに辿り着きまして…こちらはなんとか全員無事です」
「そう、よかった…」
一葉が周囲を見回しながら聞く。
「あの、叶星様。一柳隊の皆さんは?」
「それが、二水さん以外どこにいるのか不明な状況で…」
叶星はそう言って顔を上げると二水へと視線を向ける。彼女は芳佳の治療を受けている、特に消耗が激しいからであった。
「二川さん。まだ、無理しないようにね」
「はい、ありがとうございます。しかし、本当に治癒魔法って凄いですね…傷やあざがあっという間に消えちゃいました」
「でも、落ち着くまでは休んでいてね」
「はい!」
二水への治療を終えた芳佳は立ち上がると周囲を見る。これでだいたい負傷者への治療と対応が終わったようだ。だが、視界の隅にある人物の姿が映った。そして、芳佳はその人物が一瞬だけ苦悶の表情を浮かべていた事を見逃さなかった。
「宮川さん、ちょっと話が」
「何かしら?」
「ここだとあれなので、ちょっと向こうで…」
そうして、芳佳は高嶺を連れ出した。
「それで、宮藤さん。話って?」
「単刀直入に聞くけど、どこか痛むの?」
高嶺は驚いたような表情を浮かべた。
「何故そんな事を?」
「調子悪そうに見えたから…」
「なるほど、流石は軍医ね。誤魔化せなかったか」
高嶺は溜息を吐き出す。
「ええ。実は過去の戦闘で負傷して、その時の後遺症がね」
「後遺症…」
「でも、大丈夫よ。これなら少し休めばどうにか…」
「ちょっと待って」
すると、青白い光が高嶺を包み込む。芳佳が治癒魔法を使ったのだ。
「凄いわ…だいぶ楽になった」
「よかった…まあ、これは一時しのぎだけど。うーん…そうだなあ、怪我とかの後遺症なら定期的に針…いや、これは温泉で長期療養してじっくり治した方がいいかも」
「え…温泉?」
「うん、療養なら軍の病院もあるし」
「温泉に軍の病院が…?」
元の世界ではまず聞くことが無いような発言に高嶺は唖然とした表情を浮かべた。そして、彼女は改めて時代の違いを実感したのである。
「えーと、その…考えておくわ」
「うん、その時は良いお医者さん紹介するから」
「治療してくれてありがとう。そろそろ戻るわ」
そうして、高嶺は作り笑顔を浮かべてやり過ごす。相手が善意で療養を提案している事は分かっているが、今の自分に長期療養を受ける余裕は無い。大事な幼馴染を守る為、彼女の側を離れる訳にはいかないのである。
「温泉で長期療養…でも、叶星も一緒なら」
「私がどうかした?」
高嶺が驚いて振り返ると、叶星がすぐ後ろに立っていた。
「いえ、なんでもないわ」
「そうなの?あら、高嶺ちゃん。なんか顔色良くなった?」
「ええ、宮藤さんに治療してもらったの」
「へえ。でも、高嶺ちゃん怪我なんてしてたっけ?」
「まあ…さっきの戦闘でちょっとぶつけてしまってね」
そうして、二人は仲間達の元へと歩いていった。
「あれか?」
「はい、あそこです」
見えてきた陣地を指さし、バルクホルンはミリアムに問う。
「やっと着いた…」
「ええ、でも到着まで気を抜いては駄目よ。梨璃」
梨璃、夢結、ミリアムにミーナ率いるウィッチ三人を加えた一行はついに指揮所の近くまでたどり着く。そして、周囲を警戒しながら進もうとした時である。
「梨璃さぁーん」
「か、楓さん!?」
突如、草むらの中から楓が飛び出してきた。梨璃が驚いて目を白黒させていると、その後ろから雨嘉と鶴紗が顔を出す。
「あ、いた!」
「よかった…えっと、神琳と二水と梅様は?」
雨嘉の問いに夢結は首を横に振る。
「いいえ、私達だけよ」
雨嘉の顔色が曇る。
「…そうでしたか、夢結様…あ、そうだ。私達、宮藤さんを探しているというウィッチの人達と会って」
「あなた達も?」
「え、という事は夢結様も?」
夢結は頷くと、ミーナ達の方へと視線を向けた。
「やはり、外国の方でしたか」
「ええ。では、そちらも外国人のウィッチと?」
「そうですね、皆外国のウィッチとの事でした。あ、ちょっと呼んできます」
そう言うと、雨嘉は再び草むらをかき分けて行く。そして、暫くすると彼女は四人のウィッチ達を引き連れて戻って来た。
「ミーナ中佐」
「あなた達も信号弾を見てここに?」
「ええ。この方達と一緒に…その言い方ですと、信号弾を撃ったのは他の方でしょうか?」
ペリーヌの問いにミーナは頷く。
「ええ、私達ではないわ」
「となると…残りの班ですわね」
ペリーヌの脳裏にシャーリーとルッキーニの姿が浮かぶ。とにかく自由奔放な二人である為、同じ場所に留まっているだろうか…という心配がミーナとペリーヌの内心で募る。だが、頭上から声が響く。
「おっ、皆さんお揃いで」
「やっほー、あの二人見つかった?」
噂をしていたらその二人が飛んできたのだ。しかし、そんな二人の様子にミーナは驚く。
「え?あなた達が見つけた筈じゃ…?」
「んん?いや、私達は信号弾を見てここに今来たばかりだ…どういう事だ?」
「では、誰があれを?」
ペリーヌが困惑した表情で問う。すると、ミーナが言う。
「他の隊が何らかの事情で偶然撃ったのかもしれないわね」
「では、中佐。どうしましょう?」
「とりあえず、あの指揮所に行きましょう。そうね…いきなり押しかけても相手が混乱するかもしれないわ、彼女達に案内と事情の説明を頼みましょうか」
そして、ミーナはミリアムに通訳を依頼しようと話しかける。
「ええと、ちょっと宮藤さん達を見つけた合図があったという話だったのだけど…私達の隊は誰も彼女達を見つけていない様子なの」
「そうですか、私達の探していた隊員もあなた方の仲間に偶然同行していたのですが…あと一人がどうしても見つからなくて」
「そう…心配ね」
「なので…私達はこれから情報収集に指揮所に行こうかと」
「丁度いいわ、私達も同行していいかしら?」
「はい。では、上級生に伝えますので少々お待ちを…」
そうして、一柳隊と第501統合戦闘航空団の一行は指揮所に向かうのであった。
陣地を守り抜く為、幾多のネウロイと激闘を続けるグラン・エプレ。
一方、第501統合戦闘航空団と一柳隊一行は芳佳と静夏を見つけたという合図があった位置へと向かうが…