「ええと…今どういう状況?」
困惑したように室内を見回す天葉と依奈。
交代要員との合流に失敗、なんとか雲の境目にストックしていた補給品だけは確保。そんな散々な状況で後方からやっと復帰した途端、地下壕内のこの部屋に入るようにと指示されて入室したが…その室内の雰囲気はとにかく異様であった。各部隊と各レギオンの指揮官達が勢揃いし、更に見た事も無い外国人の一団までいる。
「えー、彼女達を推薦します」
困惑した二人を尻目に百由は言う。一方、その言葉に驚いた表情を浮かべる天葉と依奈。
「ほう…それほどまでに強力な戦力と言えるのか?今入ってきたそのお嬢ちゃん達は」
「ええ」
パットンの問いに百由は深く頷く。
「彼女達はレギオン『アールヴヘイム』。私達の世界でも有数の実力を有する、こちら側で用意可能な最強の戦力になります」
「なるほど。で、その実績は?」
「そうですね…私達の世界の敵であるヒュージ。そのネスト…そちらで例えるとネウロイの巣に該当するものを撃破したことがある程度には」
「ほう、それなら十分だ」
そう言うと、パットンは椅子から立ち上がる。
「上空を飛ぶネウロイには501を。もう一方の陸上にいると思しきネウロイにはそのリリィの隊を投入。速やかに敵の妨害電波を無力化し、そのまま一気にネウロイの掃討戦へ移行する。おおよその方針はこうだ」
そして、雲の内部を模した紙の地図を指先で叩くとこう言う。
「しかし、その為にここがお留守になっては本末転倒だ。よって、この拠点の防衛は扶桑陸軍の各歩兵、砲兵部隊。更にこちらの海兵隊と陸戦ウィッチが担う。日本と扶桑の機甲戦力と各戦闘車両は前進し、攻撃部隊の支援。そして、扶桑のウィッチは攻撃に回す」
各部隊の指揮官達は頷く。
「リリィについても同様にネウロイへの攻撃に回す…だが、俺はリリィというのがどういった戦力なのかよく把握できていない。よって…坂本少佐、日本側と調整しその編成と配置を任せる。以上だ」
その言葉と同時に各隊の指揮官達は皆一斉に立ち上がり敬礼、そのまま駆け出した。そして、その場に残されたのは各レギオンのリーダー達とウィッチの面々。
「それで…一体何がどういう事なの?」
依奈が困ったように質問の声を上げた。
「私が現状を説明しよう」
机に広げられた地図の前に立つ美緒がそう言うと、その地図を差しながら手短に説明を行った。
「ウィッチって凄いわね。電波を使ってまるでレーダーみたいな事が出来るなんて」
サーニャの能力の説明を聞いたアールヴヘイムの二人は驚いたように目を丸くする。
「で、戦力をどう振り分けるかだが…他の地上戦力はリリィの側に回すとして。501の側はどうするか…航空ウィッチは地上部隊の支援にも必要となるし…」
美緒はそう言うと考え込む。この場にいる航空ウィッチの数は多くない。しかし、ネウロイは空からもやって来る。それに対しての地上部隊への航空支援は必要不可欠だ。だが一方で、501だけを突入させるのも酷な話である。よって、こちらの支援も必要だ。
「困った、これでは手数が足りないな」
「美緒、私達はいざとなれば支援無しでも行けるわ。だから、他の航空ウィッチは向こうに回して頂戴」
困り果てる美緒にミーナは言う。
「いや、流石にそうはいかんだろう…」
美緒が首を横に振りながらそう答える。すると、芳佳が手を挙げた。
「ミーナ中佐、坂本少佐!一つお願いがあります」
「どうしたの?」
そして、芳佳が口を開く。
「501に一柳隊を同行させる許可をください」
「何、一柳隊を?宮藤、その理由を言ってくれ」
「はい、少佐。私は彼女達の戦いを目の前で見ました。だからこそ、信頼できる戦力だと自信を持って言えます」
「いや、しかし…ウィッチとリリィでは移動速度がまるで違う。この状況ではスピードはとにかく重要だぞ」
すると、今度はミーナが問う。
「何か他に理由がありそうね」
「ええ、彼女達には強力な攻撃手段があります」
「攻撃手段?」
「ああ、あれか」
首を傾げるミーナと納得したように頷く美緒。
「敵に何が出るか分からない…そう考えればいいアイデアだ、宮藤」
そうして、一柳隊は第501統合戦闘航空団と行動を共にする事となった。彼女達に期待されているのはその火力であり、空を飛ぶウィッチの火力で押し切れない相手に備えてというものであった。一方、リリィに対する知識が皆無なミーナは疑問を浮かべつつも美緒の決定に従った。
「では、少佐。他のリリィはこっちで引き受けますね」
「ああ。しかし、馴染みが無いであろう他の学校のレギオンまで押し付けるような形になって済まない」
天葉に対して、美緒は頭を下げて言う。しかし、天葉は首を横に振る。
「いいえ、少佐。リリィは横の繋がりも結構ありますので、その辺りは心配ご無用ですよ。むしろ、頼れる戦力が増えて心強いぐらいです」
「そうか…では、諸君。よろしく頼む」
「ええ、任せてください」
笑顔でそう答える天葉。そして、美緒はホッとした表情を浮かべた。部外者に厄介事を押し付ける形になったが、相手が不満無く受け入れたという事に安堵したのだ。また、調整役は方々から圧を受ける立場である。そんな気苦労を受けずに済んだという面でも無意識の内に安堵したのであった。
そうして、リリィ達も部屋を出た。それぞれのレギオンに戻って方針を伝える為である。
「それで…何故私達だけウィッチ隊の側でして?」
楓が周囲を見回しながら言う。他のレギオンは少し離れた位置に集まっている…一柳隊は出撃準備を整える第501統合戦闘航空団の側にいた。
「宮藤さんが私達を連れて行きたいと言ってきたのよ」
「何故でしょう?」
事情を説明する夢結に対し、楓は首を傾げる。すると、梨璃が口を開く。
「私達に求められているのは火力みたい」
「火力…ですか?」
「そう、ノインヴェルト戦術」
「ああ、なるほど。それなら確かに」
納得したように楓は手を叩く。そして、続けて梨璃が言う。
「それに宮藤さんは私達の事を信頼できる戦力だと言ってくれたし…」
「あらあら、それは嬉しいお話ですわね」
「うん、だからこそ私達は私達にしか出来ない事をやらないと」
そう語る梨璃の手には自然と力が入り、彼女の抱えるCHARMを握り締めていた。すると、突然背後から肩を叩かれる。
「わっ、梅様!?」
「なーに、あのウィッチ隊はかなりの強者らしいからな。そこまで気負う必要はないぞ、梨璃」
そう言って笑う梅の顔を見て、梨璃の表情に笑みが戻る。自分達だけが戦うのではない、梅の言葉でその事実を思い出したのである。そうして、視線はストライカーユニットのエンジンを始動しているウィッチ達へと移る。すると、一斉に響き渡るエンジン音。彼女達は準備を終えたらしい。
「私達も行きましょう」
一柳隊一行は各々CHARMを抱えて立ち上がった。そして、ホバリングしながら待機中の501の隊員達のすぐ隣へと移動する。
「ミーナ中佐、よろしくお願いします」
軽く礼をしながら挨拶する梨璃の言葉を語学力に長けた楓が通訳する。
「ええ、こちらこそ。宮藤さんや服部さんからそちらの話はおおよそ聞いているわ、よろしく頼むわね」
「はい」
「さて、そろそろ作戦開始予定時刻ね」
そうして、ミーナは隊員達の方へと振り返る。
「みんな、今回は無線を使えない苦しい戦いになるわ。僚機の位置を常に把握する事を第一に…単独で戦うのは危険よ。目標がどういった相手なのかも不明、分かっているのはおおよその方位のみ。そして、敵はネウロイだけではなくヒュージという未知の敵と交戦する可能性もあるわ。よく周囲を索敵し、十分に用心して戦うように。危うい時は無理をしない事、以上」
「了解!」
そんなミーナの訓示を見た梨璃も口を開く。
「皆さん、こちらの戦力は501の皆さんと私達。他には後方支援の車両隊とその護衛の皆さんのみです。戦力が少なく危険な戦いになりますが、どうかよろしくお願いします。あと、いざとなればノインヴェルト戦術で目標を攻撃する事になりますので、いつでも備えておくようにお願いします」
梨璃の言葉に一柳隊の面々は頷く。
「指揮所からは味方が砲撃するエリアには危険なので絶対に入らないように、との事です。それで、まだ無線も使えないので…何か起こっても助けを呼べないので、えーと…」
途端に怪しくなってきた梨璃の訓示に一柳隊の面々は苦笑いを浮かべる。そして、夢結は溜息をつく。まだまだ未熟ね…そう心の中で考えて、口を開く。
「常に味方同士で死角をカバー、孤立という事態だけは絶対に避けるように。誰かいなくなったらすぐに周りに知らせるようにして頂戴。そして、仲間とはぐれた場合は目印としてさっき配った緑色の発煙弾を使う事。さて…ネウロイが何をしてくるか、正直想像も出来ないわ。油断だけはしないように」
「了解」
夢結の訓示を聞き、一柳隊の皆は目標がいるとされる方向へと視線を向けた。その空は暗く、視界は相変わらず悪い。敵がどこに潜み、どれほど待ち構えているのかも分からない…心の内で覚悟を決める。
そうして、作戦開始予定時刻。スピーカーからパットンの声が響く。
「作戦開始!敵を叩き潰してこい!!」
その一声と共に各種火砲が火を噴き、砲撃音が響き渡った。着弾音を待たずに各部隊もすぐさま動き出す。
「梨璃さん、ご武運を!!」
一葉がそう叫んで手を振りながら、もう一方のリリィを主力とした隊は別方向へと飛び出していく。そして、梨璃も手を振り返す。すると、その様子を見届けたミーナが叫ぶ。
「総員出撃!目標、電子妨害型ネウロイ!!」
エンジン音と共にウィッチ達は飛び上がり、リリィ達は駆け出した。
未知なる敵に立ち向かう為、リリィとウィッチはついに出撃。
目指すは妨害電波の発信源。そこにははたして何がいるのか…