「3、2、1…マーク、インターセプト」
「司令部指示の目標は全て撃墜」
相模湾を航行する艦艇が鎌倉上空の目標を迎撃していた。
「艦橋からCIC、目標の残骸が鎌倉沿岸に落下していく…ん、何だ?」
「CICから艦橋、何があった?」
「いや、それが…浜辺が紫色に光って…」
その言葉に艦内の乗員達は怪訝な表情を浮かべた。
「モニターにカメラの映像を出せ」
「なんだこれは…いや、何か見えるぞ」
「大きい、これはまさか…」
鎌倉の海岸、そこには巨大な影。
「司令部へ知らせ!鎌倉沿岸にアルトラ級ヒュージ出現と!!」
「艦長!?しかし、まだあれがそうだとは…」
「事は一刻を争う、急げ!!」
「で…嬢ちゃん、そのアルトラ級とは何だ?」
葉巻を吹かしながらパットンは問う。そんな大昔の映画でしか見ないようなシチュエーションにまるで自分が映画を見ているような錯覚に陥るが、百由は軽く首を振る。突然の警報で混乱していた頭が幾分か落ち着いた気がした。
「アルトラ級とはヒュージの巣、ヒュージネストの主です。そして、その大きさは1000メートルを超えるものもいる程に巨大とされています」
「ほう、そりゃ大物だな。で…倒せるか?」
「不可能ではない…とは言えます。撃破した事例も複数ありますが、基本的にかなりの戦力と下準備を必要とします。今度のような突発的な迎撃戦ではかなり厳しいかと…」
「では、嬢ちゃん。もう一つ問うが…そのデカブツは誰にも気づかれる事無く突然現れるような事があるのか?」
その問いに百由はハッとする。警戒網にも引っかからず、周辺にある各地のネストにも異変が起きたという報告は特に無かった。そう考えると今度の事態は妙な話だ。
「いえ、まずありません。それだけの大物が動けばまず何かしらの異変が感知される筈ですし…」
「ふむ…お前さんの話を聞く限りだと妙な予感がしやがる」
「閣下、まずは現地の情報を確認してもよろしいでしょうか?」
「ああ、その方がいい。こんな時は迂闊に飛び出してもろくな事にはならん」
それを聞いた百由は立ち上がると机の上に置かれたヘッドセットに手を伸ばす。そして、百合ヶ丘女学院の工廠科を呼び出す。
「こちら真島…もしもし?誰か聞いてる?」
「はいはい、聞いてるわよ!今、地獄絵図なの!説明しなくても分かるわよね!!」
通信相手は同期の生徒であった。
「ごめんごめん、状況は承知しているわ。それで聞きたいのだけれど…今、そっちはどうなっているの?」
「若菜様と綺更様が残ったリリィ達を纏めて防衛線を構築、工廠科の居残り組でバックアップ中よ」
「了解、だいたい分かったわ。それで…アルトラ級が現れた時に何か前兆あった?」
「え?突然よ。迎撃戦の真っ只中で浜辺にいきなり現れて、周りの艦艇に赤い光線を撃ち始めて…」
「えーっと、何一つ反応探知できていない?」
「ええ、ログを見ても何一つ…えっ!?」
「どうしたの?」
「その、目の前に確かに見えているのに…ヒュージサーチャーに一切反応が無いの…」
「何ですって!?」
ヒュージを探知するセンサーに反応が無い…そのような例外と言えるヒュージは確かに存在するが、過去に確認された事例は今回とは大きく状況が異なる。では、こいつは何だ?
「それにおかしいの…いくら攻撃を直撃させてもあっという間に再生してしまって…」
相手のその発言で百由の中に一つの考えが浮かぶ。
「赤い光線で攻撃してあっという間に再生、まるでネウロイ…いや、まさか…」
「ネウロイ…?ちょっと、何よそれ」
「おっと、口が滑った…あはは…いえ、何でもないわ。ごめん、こっちも忙しくなってきたから切るわね」
「え!?ちょ…」
通信相手は機密を知らされていない…百由は失言を誤魔化すように一方的に通信を切る。そして、大きな溜息を吐き出す。
「何か分かったか、嬢ちゃん」
「では、仮説が一つ…現れたヒュージの正体がネウロイであるという可能性です」
「ネウロイ?だが、全長が1000メートルもあるような大物はそんな突然現れんぞ」
「問題はそこです。この雲の中をそのネウロイが超えていったとしても、一切目撃されなかったのは妙です」
すると、室内の大型スクリーンに現地の映像が入ってきた。真っ黒で巨大な二足歩行の怪物が浜辺に立っている…全身に突起物のようなものが生え、表面はゴツゴツしている様子だ。
「これは…確かに大きい。ネウロイでもこのサイズはそう滅多に出てこない」
「確かにな。それにあの浜辺に行くまで誰も気が付かないというのは確かにおかしい。その前に出た大型は雲を抜けた時点で即座に見つかっていた筈だ」
美緒が呻くように呟くと、パットンも同意するように頷く。すると、勢いよく扉の開く音が室内に響く。
「百由!これはどうなっているの!!」
「急いで鎌倉に戻らないと!」
ネウロイの撃破から帰って来たリリィ達が部屋の中に転がり込んできたのだ。
「あー…このタイミングで帰ってきちゃったかー…」
物凄い剣幕で近づいてくる同級生達に百由は頭を抱える。
「今は状況確認中だ!邪魔すんじゃねえ!!」
パットンの一喝でリリィ達は立ち止まり、室内は静まり返る。そして、パットンは問う。
「静かになったな。で、嬢ちゃん…結論を聞こうか。敵は何だと思う?」
「今のままでは断言は…」
「直感でいい、言ってくれ。俺達にはヒュージとやらの知識が無い」
「うーん…」
百由は考え込み、画面を凝視する。すると、映っている光景に違和感を覚える。
「あれ…?なんかいつもと景色が違うような…」
「え、どこの話?」
「いつもと変わらないように思えるけれど…」
天葉と夢結も画面を見るが、それがどこの事なのか気が付かずに首を傾げる。
「浜辺に無いのよ」
「何が?」
「あんた達が討伐した7号由比ヶ浜ネストのアルトラ級の残骸が……あっ!そうだ、これだ!!」
百由はそう叫びながら机に手を叩きつける。
「その様子だと分かったようだな、ヤツの正体」
パットンがそう言うと、百由は大きく頷く。
「はい閣下。あれはヒュージではありません、やはりネウロイです」
そう断言する百由に対してリリィ達は仰天した顔を浮かべる。そして、パットンは更に問う。
「直感でいいとは言ったが…理由があるのなら説明してくれ」
「端的に言えばネウロイがヒュージの残骸を取り込んだ…と考えられます。あの浜辺にはそこにいる白井と一柳が以前撃破したアルトラ級の残骸が残っていましたが、今はそれがごっそり消えている」
「待って、百由。あの残骸はほぼ骨格だけだったと思ったけれど…今映っている敵は骨格だけの姿とは言えないわ」
百由の説明に対して夢結が問う。
「あの浜辺にはアルトラ級の残骸だけじゃない…長年の戦いで撃破された大小多数のヒュージの残骸が風化して粉々になって積もっているとも考えられるわ。つまり、材料である金属には事欠かないと言える」
「それであの見た目と…」
「あくまでも仮説よ、この場で思いついたという程度。でも、あれがヒュージでは無いのは確実。現地の情報からそう断言できる」
百由がそう口にすると、他の者からの問いは止まった。
「他に何か聞きたいやつはいないか?さて…あれがネウロイだと言うのなら話は早い」
パットンは葉巻の火を灰皿で消すと立ち上がる。
「すぐに各隊の弾薬と燃料を補給させろ!この指揮所の警備は扶桑軍に任せる、応援要請を出せ。あと、加東少佐が向こうにいる筈だ、この指揮所まで前進するように指示を出せ。ストームウィッチーズや他の航空ウィッチの支援を行うように伝えろ」
「了解!」
「…俺も出るぞ!!そして、ミーナ中佐をすぐに呼べ!」
机の上に置かれたヘルメットと金色の拳銃を掴むと、パットンは部屋を出ていった。まるで嵐が過ぎ去ったかのような様子にリリィ達は唖然としつつ、同じく外へと駆けて行った。
超巨大ネウロイが雲の向こうに現れた…その知らせを聞いて第501統合戦闘航空団のウィッチ達も困惑する。
「1000メートル以上の大きさのネウロイが向こう側に…本当ですか、ミーナ中佐?」
「ええ、敵がヒュージかネウロイか判断に迷った様子だけど。とりあえずネウロイだろうという事で話が纏まったみたい」
「それで…どのように判断したのでしょうか?」
静夏がそう質問する。
「詳しい事はよく分からないけれど、ヒュージであるという反応を探知できなかったから…との事よ。何かしらの機器を使用したとあったけど、詳細は不明ね」
ミーナはどこか困ったような表情でそう答える。すると、続いてエーリカから質問が飛ぶ。
「ねー、敵の写真とか無いの?」
「口頭で説明を受けただけだからそういうものも一切無いわ…まあ、ついさっきの出来事だから写真を撮っても現像が終わっていないだろうし」
すると、芳佳がハッとした表情を浮かべると口を開く。
「中佐、地下壕で現地の映像を見る事が出来たりするのではないでしょうか」
「映像…?どういう事?」
「私にもどういう仕掛けか分からないのですけど…向こうの世界には離れた場所の今現在の映像を中継で流す技術があるので、もしかしたら出来るのかもと思って」
「映像を電送している…?そんな、まさか…いえ、それが本当なら手っ取り早いわね。みんな、地下壕に向かうわよ」
そうして、一行は地下壕にある各種機材が置かれた部屋へと向かう。そして、その室内には美緒がいた。そんな彼女は501の一行がやって来た事に驚いた表情を浮かべる。
「坂本少佐!」
「どうした、お前達?補給はまだ済んでないだろうに」
「少佐、一つお願いがありまして」
静夏がそう言うと、美緒は首を傾げた。この状況で何の頼み事なのだろうと。
「そこの画面で向こう側の鎌倉の映像を見る事は可能でしょうか?」
「可能だ、頼んでみよう」
美緒がそう答えると、彼女は手近な日本側の士官に話しかける。そして、その士官は机の上にある機材のようなものを操作し始めた。途端に大型スクリーンに映像が映し出され、501の面々は一様に驚いたような声を上げる。
「おいおいおい…あんな薄い板でどうやってこんな映像流してんだ?」
「白黒では無くカラーの映像…これが本当に今現在のものとは…」
そして、日本側の士官が口を開く。
「相模湾で作戦中の艦艇からの中継映像です。そして…この大きな物体が問題のネウロイとなっています」
周囲の山々より高く二足の脚で直立する巨大な黒い物体…そして、不意に思い出したように周囲へ赤い光線を放っている。
「うわあ…」
「これは大きい…」
歴戦のウィッチ達も思わず息を呑む。一方、ミーナは別のものに驚いていた。それは別のスクリーンに映し出されている関東地方南部の地図である。そこには様々なシンボルが絶え間なく映し出され、常に動き回っている。そして、名称や略字が書かれている事から、それら一つ一つが戦場に存在する敵味方の戦力である事を示している事は確かであろう。
「これ…まさか、現地に展開している戦力が全て映し出されているの…?」
「はい、基本的に陸海空全て。どのユニットがどの目標を攻撃しているのかまで表示されます」
その説明にミーナは絶句する。まさに盤上の駒を見て戦場の全てを把握する事ができる…自分達の世界では伝令や通信を使ってもこんなリアルタイムで全ての兵力の動きを知る事など絶対にありえない。純粋な技術差を感じ取り、背に嫌な汗が流れる。しかし、ミーナは咄嗟に表情を変えるとこう口を開く。
「さて、どう攻めたものかしら」
鎌倉に現れた巨大な怪物…百由は手に入る情報からその正体を探る。
そして、パットンは彼女の考えを聞いて決断し、兵力を動かした。