芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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雲の外:後編

 由比ヶ浜の海岸に一機の水上機が着水する。海面を二度三度とフロートが跳ね、徐々にスピードを落としながら浜辺へと近づく。エンジンの回転音が下がり、機体は停止。すると、浜辺からは出迎えの陸軍兵士の乗った手漕ぎボートがやってくる。そして、水上機の風防が開くと機の主翼に一人の女性が降り立つ。坂本美緒 海軍少佐。魔法力の枯渇によって現役を退いた元ウィッチであり、芳佳と静夏の上官である。機の下まで来たボートの乗員達が敬礼して出迎える。美緒は敬礼を返すと、ボートに乗り込む。乗員への挨拶もそこそこにボートはそのまま浜へ向けて漕ぎ出した。すると、向かう先の浜には人が立っている。そこにいるのは美緒の部下、土方圭助 一等兵曹。美緒よりも一足早く列車で鎌倉入りし、今まで情報収集を行っていたのだ。

 

「少佐、お待ちしていました」

「ご苦労、土方。その後、宮藤や服部から連絡は?」

「いえ、あれ以降何も…おそらく、今も雲の中かと」

「そうか、無事だといいが…」

 

 追浜飛行場に事態を報告し、再び鎌倉へと飛んで行った静夏からは一つの無線報告が送られてきていた。

 

『宮藤少尉の姿を確認。雲の中で何かしらの異変があった模様。異変の内容については今から調査し、物証等を確保した後に口頭にて報告する。なお、問題の雲の内部にてネウロイの姿が確認されたと宮藤少尉から報告があった為、警戒されたし』

 

「で、あれが問題の雲か…」

「はい。既に陸軍の一部部隊が近辺に展開済。そして、あの天幕に将校が集まっています」

「ふむ。情報を集めるにはそこが最適という事だな」

 

 二人はその大きなテントへと移動する。その前には小銃を持った歩哨が二人立っている。その歩哨へ所属、氏名と階級を伝え、敬礼を交わしつつ中へと入る。テントの中には陸海軍の士官が複数人立って机を囲んでいる。それぞれの階級章へと目をやると何故か尉官よりも佐官の方が多く見えた。テントの隅の方ではそれぞれの士官の従兵が立ったまま待機している。そして、別の机では陸軍電信隊の下士官と兵卒が無線機や電話機の設営を行っている様子が見えるが、周りが見知らぬ士官だらけでどこか緊張したような表情で作業を行っている。更に軍人以外の面々も数人程見える、警察官や公務員のお偉方といった風貌で、椅子に座って事態を見守っている様子だ。様子見や連絡にやってきた県の関係者や警察署の署員だろうか。すると、声を掛けられた。その相手は顔見知りの海軍中佐であった。そして、その周囲には横須賀でたまに見かけるような面々が屯している。

 

「来たか、坂本少佐。欧州から休暇で戻ってきて早々こんな騒ぎとは災難だったな」

「いえ。で、状況は?」

「そうだな…ちょうどいい、陸軍さんも交えて一度状況確認をしよう」

 

 そして、その場にいる将校達は各々自己紹介を始める。海軍からは横須賀鎮守府や陸戦隊、横須賀に停泊している各艦隊の幕僚、航空隊の関係者といった実動部隊の面々が揃っている。そして、陸軍側も南関東各地に布陣する連隊所属の士官、関東を管轄する師団や軍の参謀等々。更に陸海軍省、海軍軍令部や陸軍参謀本部所属の士官達もいる。ついでに何故ここにいるのかよく分からないような面々もちらほら紛れている…直接戦闘には関係ないような部隊や組織、学校等の人員である。彼らは文字通りの斥候なのだろう、情報収集の為にここへと放り込まれたのだ。

 一同が一通りの紹介を終えると一人の陸軍中佐が早速状況説明を開始する。

 

「気象部の調査によると、あの雲は自然現象とは思えないとの事だ…この地図上だと雲はだいたいこの辺りになる。今のところ、雲やその周囲に目立った動きはない」

「付近の地区の住民は避難済と報告が来ている。よって、最悪の事態は避けられそうだ。だが、鎌倉全域の避難まではまだ終わっていない」

「こちらとしては、各連隊からとりあえず動かせる事ができる戦力を周囲に配置、展開しているが…どれも小隊や分隊単位のこまごまとしたもので指揮系統もぐちゃぐちゃに等しい。本格的な戦力を配置するにはもうしばらくかかりそうだ」

「とりあえず、陸戦ウィッチをなんとか六人程確保したので展開させてある。あと、貨車に無理やり速射砲二門を放り込んで運んできた。現状、これがここにある最大の火砲と言えるだろう」

「うちの連隊からはちょうど演習出発前で準備を終えていた完全装備の歩兵一個中隊を連れてきた。で、そこから一個小隊…それに偵察将校と陸戦ウィッチ二人を付けて斥候として雲の中に突入させてある」

「そんな話聞いてないぞ。貴様、それは独断専行ではないか?」

「馬鹿言え、そんな真似するか。軍司令部の許可は取った。そして、斥候に出した士官は欧州帰りで場数は踏んでいる。下手な事はしないだろう」

 

 陸軍の士官達が情報を出し合っている。どうやら、陸軍は偵察部隊を既に雲の中に投入したらしい。そして、不十分ではあるが、雲を囲む形で小規模な部隊を配置しているようである。また、話を聞いているうちにやたら士官が多い理由も見えてきた。それはここが東京から近く、鉄道も通っている為だ。よって、装備を整えてから動く実戦部隊よりも、情報収集の為に放たれた士官達の方が先に現場へと到着したのだ。

 

 そして、海軍士官達も報告を始める。

 

「海軍としては…現在、横須賀から陸戦隊一個中隊を鉄道にて輸送中、もうすぐ鎌倉駅に着く頃だろう。そして、陸路からも車両を出してはいるが、その道路は避難民で混乱中…しばらく通行不能と思われる」

「戦闘機は追浜、厚木、館山等の各基地から出撃、交代で上空警戒の任に就いている。爆撃、攻撃、偵察の各航空隊もそれぞれの基地からいつでも飛ばせるように待機中。事があればすぐに攻撃可能である」

「陸軍も同様で、関東一円の各飛行戦隊と独立飛行隊が待機中。上からの命令さえ出れば何時でも飛ばせる態勢だ」

「艦艇については…相模湾にて演習中だった練習艦隊所属の艦艇が鎌倉沖に展開中。旧式だが20cm砲を積んだ装甲巡洋艦、それに加えて水雷艇が二隻の編成である。万が一の時には強力な火力になる筈だ。そして、他の主力艦についてだが…外洋で演習中の艦隊は帰還までに数日かかる模様。また、停泊及び整備中の艦もあるが、それらはすぐに出港できない以上、準備が出来次第出撃となる。あと、他の補助艦艇については万一に備えて横須賀や東京湾内から他の港に疎開させる方針だ」

「ふむ…坂本少佐、ウィッチの方はどうか?」

 

 美緒は報告書を一目見てから答える。

 

「現在、横須賀海軍航空隊所属のウィッチを警戒配置には就かせていますが…そこだけでは数が不足。海軍各航空隊や陸軍に支援要請を出しています。ただ、欧州等に派遣している都合でどこも欠員が多数あり、その調整に時間がかかっています。また、ウィッチ二名…宮藤少尉と服部少尉が最初にこの雲の存在を無線報告。そして、ネウロイらしきものと交戦と一報。その後に内部へと突入した模様です」

「宮藤…あの501JFWの?」

 

 宮藤、第501統合戦闘航空団という単語に場が騒めく。

 

「ええ。ちょうど、休養の為に欧州から帰国した直後です」

「ほほう、それはいい知らせじゃないか。あのネウロイの巣を破壊した宮藤少尉がいるのなら心強い」

 

 一人の見知らぬ海軍中佐はそう言うが、美緒の表情は暗い。このように英雄視されているものの、宮藤も服部も自身の大事な部下だ。そして、その二人とは未だに連絡が取れない為、とても安心なんてできないのである。そして、美緒は報告を終えると手近な椅子へと座る。思いの外、緊張していたらしく若干の疲労感が出ていた。まるで欧州で各国の名立たる将官達を相手にしてきた時と同じような感覚だ。一方、他の士官達は更に情報を出し合っている。

 

「僅かばかりの歩兵ではいざという時、頼りにならん。戦車や重砲はどうしている?」

「砲は鉄道輸送しかないでしょう。しかし、戦車は自走させるか、鉄道輸送させるか…千葉から東京、横浜の市中を戦車隊に通行させるのは流石に混乱が発生しかねない為、詳細な検討が必要かと」

「では、やはり鉄道か?しかし、鎌倉駅周辺にそんな大掛かりな物を降ろせる都合のいい場所があるかどうか…やはり時間がかかるか」

 

 一人の陸軍中尉の説明を聞いた陸軍少佐は頭を抱えながら呻くように言う。そして、他の士官達もため息をつく。

 

「三方を山々に囲まれ、南は海。守りなら理想の地形だが…外から入るには苦労しかないな」

「道路の数もたかが知れている」

「海…そうか、海路という手があるな。陸戦隊の重装備を大発で運ばせよう」

 

 どうやって兵力を運び込むかという話が進む中、突如電話が鳴った。これは警戒部隊と直通の有線電話である。定時連絡以外でこれが鳴るという事は雲の周囲で何かがあったという事だ。電信隊の伍長が即座に受話器を取る。

 

「もしもし……ネウロイ出現!!」

 

 その伍長の叫ぶような報告を聞いた瞬間、美緒を含めた士官達は一斉に外へと飛び出した。

 

「いたぞ、あれだ!」

 

 誰かがネウロイを見つけたと叫ぶ。

 

「あれは銀色のネウロイ?今時珍しい…しかし、何故だろう。どうも生き物のようにも見えるが、気のせいか?」

 

 そして、美緒もそれを見つけた。その視線の先では木々より少しばかり大きい銀色の物体が山の中腹で蠢いていた。

 

 

 

 雲の周囲では扶桑陸軍の歩兵達が配置され、監視の任務に就いていた。しかし、その歩兵の大部分は大した装備を持っていない。急いで装備を整えて東京から鎌倉へと送りこまれた為だ。あるのは小銃、軽機関銃と重擲弾筒に手榴弾。そして、対戦車攻撃に使用できる速射砲が一個小隊…計二門に陸戦ウィッチが数人程度。しかし、周囲には重砲も戦車もない。よって、今の戦力でネウロイを相手にするには心細い状況である。この海の沖合に海軍の軍艦がいると話は来ていたが、その大きな火砲は最後の手段になるだろう。それは強力な艦砲射撃を浴びればこの辺り一帯が滅茶苦茶に耕されるからという理由である。

 

「しかし、やはり変な雲だ。気味が悪い」

「ああ、あまり近寄りたくはないねえ。しかし、聞いた話だと偵察で一個小隊があの中に突っ込んでいったと聞いたよ」

「どこの連隊だ?無茶するなあ」

「さあねえ。そういえば…飯はどうなるんだろう?手持ちは何もないぞ」

「後で分隊長殿に聞いてみるか…」

「せっかく鎌倉まで来たんだ。何か洒落たうまいものを食いたいよ」

「期待するだけ損だろうさ、どうせ携帯口糧の類だ」

 

 歩兵達は穴を掘り、簡易的な塹壕を構築。そこに身を隠しながら雲の様子を監視していた。すると、突如として雲の表面がぶれる。

 

「おいおい、今何か動いたような…」

「怖い事言うなよ…冗談だろ」

 

 雲を監視している二人の兵士が何かに気づく。すると、その雲の中から巨大な爪のようなものが飛び出してきた。

 

「で、出た!出たぞ!!」

「ウィッチはどうした!?」

 

 そして、その銀色の巨体が姿を現した。爪か刺のように尖った足が四つ、丸っこい形状、その真ん中には発光する部位…それはまるで目のようにも見える。そして、その表面には所々刺状の物体が飛び出している。こんな奇妙な物体はネウロイに違いない。その場の皆が直感的にそう考え、小火器の筒先がその化け物へと向けられた。しかし、撃ったところで牽制にしかならない。相手が脆弱な小型ネウロイならともかく、ここまで大きなネウロイはだいたいが極めて頑丈だ。歩兵の小銃弾や擲弾の破片なんて簡単に弾かれるだろう。

 

「こいつはまずい!下がろう!!」

「そうしよう!」

 

 殺気のような嫌な気配を感じた歩兵が塹壕から大慌てで飛び出す。その刹那、歩兵達がいた塹壕にネウロイらしき化け物の足が突き刺さる。それを見た他の歩兵は一斉に小銃を発砲。逃げる味方を支援する為だ。銃弾の雨を浴びたネウロイは左右を見回すような動作をし、逃げる歩兵を追うのをやめた。その隙に逃げた歩兵は藪の中へと転がり込む。そして、この間に砲身の向きを化け物へと変えた二門の速射砲が火を噴く。

 

「撃ち方始め!」

 

 二門の速射砲から放たれた徹甲弾と榴弾はそのままネウロイの胴体横っ腹へと当たる。だが、効果無し。

 

「弾かれた!」

「榴弾も駄目だ。傷一つない」

「対ネウロイ用徹甲弾を使え!」

 

 すると、ネウロイは砲弾を撃ってきた速射砲陣地へとその体を向ける。その体の一部が青白く輝き始め、速射砲小隊の隊員達は血の気の引いた表情でそれを凝視する。撃たれる、そう確信して目を瞑る者もいる。しかし、放たれた光線は直撃しなかった。青白いシールドがそれを弾いたからである。

 

「間に合ったか…助かった」

「腰抜かしてないで装填しろ、急げ!」

 

 陸戦ウィッチ達がギリギリのタイミングで駆け込み、速射砲小隊を守り抜いたのであった。更に上から機関砲弾が降り注ぎ、エンジンの轟音が唸る。海軍の戦闘機隊が機銃掃射を行ったのである。すると、ネウロイの視線はそれを追って上へと向いた。

 一方、危機を脱した速射砲小隊は装填を開始。今度は事前にウィッチの魔法力を注ぎ込んだ特殊な砲弾、それを使う。このような対ネウロイ用兵器は欧州戦線等で使用され、いくつかの戦果を挙げていた。だが、この速射砲用の砲弾はネウロイ相手に戦果を叩き出した兵器よりもずっと小さい、同じように成果を出せればいいのだが。

 

「奴さん、上に気を取られているぞ…装填完了!」

「撃て!」

 

 そして、再び発射。放たれた砲弾は銀色の巨体に吸い込まれるように飛び込むと、そのまま期待通りに巨体の表面を撃ち抜いた。だが、そこで奇妙な事態が起こった。被弾痕から青白い液体が噴き出したのだ。

 

 

 

「軍司令部に打電!大型と思しきネウロイ出現。至急支援を求む、警戒中の歩兵各隊が交戦中の模様。以上だ」

「師団長殿に繋いでくれ!ネウロイが出たぞ!…何?外に出ていて出られない?じゃあ、どこの戦隊でもいい。今すぐ軽爆…いや、襲撃機か直協を飛ばすように命令を出すんだ。攻撃命令が駄目なら、偵察でも哨戒でも訓練でも名目は何でもいい。歩兵を支援できる機体をすぐに飛ばせ!味方がやられてしまうぞ」

「おいおい、落ち着け。軍司令部に打電した!無茶せんでも命令は下りるだろう」

「あっ、待て待て。軍司令部に話が行ったそうだ、そのうち命令が下る筈だから準備だけ整えておけ」

「そうだ。今、交戦中だ。ああ、そうだ!目の前でうちの零戦隊が機銃掃射しているんだ!!増援を…何か出せる機は無いのか?…何、五〇番(500kg爆弾)を積んだ機体なら今すぐ出せる?駄目だ、駄目!味方まで吹っ飛ぶぞ。六番か三番…小型爆弾だ!そいつを用意しろ。急いで、だ!!」

「陸戦隊はどうした?うん…今、鎌倉駅前か。車は…ああ、無いだろうな。いや、こちらで何とかする。陸戦隊には戦闘準備を済ますように無線で伝えろ、以上。さて…警察署長、お力をお借りしたい。いいですかな?」

「車ですな。なんとかかき集めましょう」

 

 臨時前線司令部と化したテント内では、電信隊がモールスをひたすら打電する音や電話、無線機に叫ぶように報告を行う者の声。更に四方へと慌ただしく駆け回る人々の足音が響き渡っていた。ここに揃った士官達の動きは迅速の一言であり、あっという間に各所へと情報が飛んでいく。美緒はそれを一瞥すると、テントの外に出る。彼らに任せておけば援軍要請等は安心だろう。すると、彼女は再びネウロイの様子を見ようと借り物の双眼鏡を手に取った。

 

「こんな時に魔眼があれば、味方に相手のコアの位置を知らせる事が出来たのだがな…まあ、無いものをねだっても仕方ないか」

 

 美緒が現役のウィッチだった頃、彼女も芳佳の治癒魔法のように固有魔法を持っていた。その力は魔眼、視力強化とネウロイのコアの位置を把握する能力があった。特にネウロイのコアの位置を把握する事が出来る点は戦闘時に極めて有利と言えた。それは何故かと言うと、ネウロイは弱点であるコアさえ破壊する事が出来れば一撃で撃破可能という理由である。その力がもし今あれば、火力が不足している味方でも善戦できたかもしれないと美緒はつい考えてしまったのだ。そして、その考えを振り払うように双眼鏡を覗き込む。すると、その先では異変が起こっていた。

 

「なんだあれは、青白い液体?まるで血のようだ…」

 

 ネウロイは被弾したように見えた。すると、その個所から液体が噴き出したのだ。このような反応をするネウロイは初めて見る。どうなっている…と美緒が考えていると、速射砲と陸戦ウィッチの攻撃によって更に被弾痕が増える。そして、更に青白い液体が噴き出し、悲鳴のような咆哮が響く。

 

「あれは本当にネウロイなのか?どう考えても異常だ。もしや、古代に現れたとされる怪異の部類では…」

 

 そう美緒が呟くと、新たな爆音が響く。聞きなれたエンジン音、間違いなくストライカーユニットのそれだ。横須賀所属の航空ウィッチがやってきたのだ。美緒が空を見上げる、視線の先では三人のウィッチが空から急降下し、二人はシールドを張りながら銃撃を浴びせる。そして、残りの一人は刀を抜く。扶桑ウィッチの十八番である刀剣類を使った近接戦闘を仕掛けるのである。三人のウィッチはみるみる距離を詰め、刀を持ったウィッチは銀色の巨体に斬りかかる。そして、魔法力が強くこもった刀身はネウロイの胴をざっくりと切り裂いた。

 ウィッチは再攻撃の為に上空へとそのまま離脱していく。しかし、銀色のネウロイは反撃しようともせずにその場に倒れ込んだ、まるで力尽きた生き物のように。すると、それを見た周囲の歩兵と陸戦ウィッチ達は好機と判断して一斉に攻撃開始。小銃や軽機関銃の銃弾、速射砲と重擲弾筒の砲弾が次々と撃ち込まれる。そして、そのまま数分攻撃が続く。だが、妙だ。ネウロイに動きはない、ピクリとも動かない…姿かたちが残っている事からコアは健在だと考えられる。しかし、あまりにも動きが無いことから警戒部隊は困惑し、電話を使って指示を乞うのであった。

 

 

 

 

 

 山の中腹からその様子を観察していた一団がいた。日本の防衛軍の偵察小隊と百合ヶ丘女学院所属の強行偵察レギオンである。

 

「これは夢か…それとも現実か…?」

「小隊長、現実です」

 

 あまりの光景に偵察小隊の隣に並ぶリリィの一人は頬をつねってこれが現実なのか確認していた。それを見た防衛軍の隊員はため息をつきながら質問を飛ばす。

 

「しかし…小隊長、ここはどこでしょうか?」

「地形から判断する限り、鎌倉に違いない。とても信じられんが…な。GPSやデータリンクは?」

「受信不能。よって、正確な現在位置は不明。また、友軍とは無線を含めて通信不能」

「では、今の戦闘は記録したか?」

「はい、ばっちりと。地形も含めて全部記録しました。しかし…あれは?」

 

 別の隊員は呆然としながら質問を飛ばす。

 

「見て分からんか。そうだな…名前ぐらいは聞いた事があるだろう、あそこを飛んでいるのがあのゼロ戦だよ」

「は…えっ?なんでそんな大昔の戦闘機が、これはタイムスリップですか?」

「さあ?あの国籍マークを見ろ、何かがおかしい。それにタイムスリップだとしてもさっき飛び回っていた人間が謎だ。もし、リリィだとしてもこんな時代にリリィはおらん」

「はあ…では、何が起きたのでしょうか?」

「それを判断するのは俺じゃない、もっと上の連中が結論を出す。だからこそ、この情報を一刻も早く持ち帰らねばならん」

 

 そして、偵察小隊の隊長は隣のレギオンへと視線を向けると言った。

 

「あの軍隊と接触すると厄介な事態になる可能性があり、すぐに帰還しようと我々は考えています。そちらもそれでよろしいですか?」

 

 あまりの出来事に目を白黒させるリリィ達はただ黙って頷いた。そして、この一団は雲の中へと引き返していく。

 

 

 

 

 

 戦闘から一時間後、テント内に士官達が再び集まり情報交換を始める。

 

「さて、現場はどうなっている?」

「ネウロイらしき物体は速射砲、ウィッチ隊による攻撃で動かなくなった模様」

「そのネウロイらしき残骸からは凄まじい腐敗臭が漂っており、伝染病等の危険有りと判断。警戒部隊には一切近づかないように指示を出しました」

「ふむ、よろしい。坂本少佐、どう思う?この場では君が一番ネウロイとの戦闘経験が豊富だ。意見が欲しい」

 

 美緒は一瞬考えてから言う。

 

「少なくとも…あれがネウロイとは思えません。何か別の生命体かもしれない」

「やはり、そう思うか…陸軍省に防護服や対応可能な人員を依頼済。そして、生物の専門家を呼んだが…その結果待ちだな」

「とりあえず、その専門家が来るまで現場は保存しろ。誰も入れるな」

「了解」

 

 ネウロイの残骸に対する調査隊が夕暮れには到着する。彼らは防護服を着こみ、数々のサンプルを回収していく。その結果はすぐには出ないだろう。だが、東京からやってきた生物の専門家達は興奮しながら、あれはネウロイではなく新種の生物だ。と言い出す。そして、それを聞いた美緒を含めた陸海軍の士官達はただただ唖然とするしかなかった。

 

 では、あれは何だ?

 




雲の外では新たに現れた怪物との戦いが発生していた。
双方の軍勢はそれを撃破する事に成功するものの、いつもと違う結果にただただ困惑するのであった。

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