相澤一葉の誕生日   作:政影

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二度あることは三度ある、と言いますので。


相澤一葉の誕生日2023

 時間と共に消えていく泡沫。

 

 

 周囲の喧騒とは裏腹に静寂に侵される私の内側。

 

 

 繰り返された悪夢と後悔はもうお終い。

 

 

 それなのに……ああ、この感覚は――

 

 

 

「一葉、飲んでるぅ!?」

 

 

 

 幕が上がったみたいだ。

 

 

 舞台は六本木にあるホテルの宴会場での同窓会、キャストは2052年のエレンスゲ女学園全レギオンメンバー。

 

 

 糸の切れたマリオネットはドールかな、と埒も無いことを考えつつ鮮明になる意識に身を任せた。

 

 

 

「……飲み過ぎですよ、優珂さん」

 

「優珂って呼べって言ってるでしょ!!」

 

 元LGクエレブレ隊長で序列二位の松村優珂さん、『シャナ』という金髪の水の妖精に由来する称号を持っていたけどこれでは台無しだ。

 だけどツンツンとしたあの当時よりは親しみやすいな。

 顔が近くて声が大きいけど。

 

「優珂がすまない。嘆かわしいことだな」

 

 元LGクエレブレの副隊長牧野美岳様が優珂さんを引き剥がしてくれた。

 当時も優珂さんが唯一頭が上がらなかったリリィだった気がする。

 同じレジスタ持ちとして参考にさせてもらったこともあり尊敬できる人物だ。

 

「いいえ、美岳様。教導官というお仕事はストレスが溜まるでしょうし多少は――」

 

「そーなのよ! 上は派閥やら利権やらでグダグダだし生徒は無駄に建物壊すし!」

 

「一葉、飲むか」

 

「ありがとうございます」

 

 優珂さんの発言に突っ込みたい気持ちもあったが、遮るように美岳様がビール瓶を差し出されたので急いでコップの中身を飲み干してそれを受ける。

 軽く一口、同じ炭酸でもコーラは苦手だけどビールの苦みは好きだ。

 少しは大人になったということかな?

 

「あー、私も!」

 

「優珂は十分飲んだだろう。代わりにこっちだ」

 

「ウニ軍艦! あーん♪」

 

「やれやれだな」

 

 流石は美岳様だ。

 同じ教導官として公私にわたって優珂さんをサポートしているだけある。

 逆に優珂さんは……幼児退行している気も。

 

「こ、こら、指までしゃぶるんじゃない!」

 

「みたけしゃまおいちい……」

 

 ……見なかったことにしよう。

 目を背けつつコップの中身を飲んでいると私に近づく二つの気配。

 

「はぁ、元隊長のあの体たらく、貸し切りの会場で良かったです」

 

「それじゃあ結爾、あたしらも――」

 

「このコロッケ美味しいですね、一葉」

 

「はい、千香瑠様が事前に用意してくれたので」

 

 元クエレブレの森本結爾さんに賀川蒔菜さん、お二人とも元気そうで何よりだ。

 残りの一人苅谷緋紅様は不参加なのが残念。

 一緒にバイクの話をしたかったな。

 

「確か今はフリーランスの教導官でしたっけ?」

 

「蒔菜と一緒というのが不本意ですが。さっさと平和になって福島で化石掘りでもしたいというのに」

 

「こんなこと言ってるけど昨夜はね」

 

「黙りなさい! ところで藍はまだかしら?」

 

 そういえば藍、というか私以外の元ヘルヴォルメンバーもまだ来ていないな。

 決して私だけが暇というわけでは無い、と思いたい。

 

「一葉お待たせ」

 

「藍!」「藍♪」

 

 腰の辺りを抱きしめる懐かしい感触。

 思わず顔が綻んでしまう。

 私以上に結爾さんの顔は綻……いや崩れている。

 

「藍、ちゃんと新曲のCD買いましたよ!」

 

「結爾ありがとう」

 

「ではこの後熱い夜を――」

 

「はい、そこまで。うちのアイドルから離れて」

 

「ちっ!」

 

 私が止める間もなく瑤様が結爾さんから藍をガード、流石は敏腕マネージャーだ。

 藍も今ではトップアイドル、岸本来夢さんとのユニット『シークレット☆プリンセッシズ』は海外でも知られる存在。

 

「一葉、久しぶり」

 

「ご無沙汰しています、瑤様。欧州ツアーお疲れ様でした」

 

「藍と一緒なら疲れない」

 

「そうですね」

 

 その言葉通り疲労の色は全く見えない。

 藍も元気そうにたい焼きを頬張っているので大丈夫そうだ。

 

「何か飲まれますか?」

 

「藍にはあんこのリキュール、わたしにはノンアルコールで適当に」

 

 あくまでも結爾さんへの警戒を怠らない瑤様。

 彼女がいれば闇が深いと言われるアイドル業界でも藍は安心だと思う。

 

「何故藍に食べさせては駄目なのですか!」

 

「それはわたしの仕事」

 

「蒔菜、今すぐ教導官を辞めて藍のマネージャーになります!」

 

「いや無理でしょ」

 

 ……やり過ぎる恐れはあるけど。

 

 

 

「よっ、一葉、元気してた?」

 

「お久しぶりね、一葉ちゃん」

 

「恋花様に千香瑠様、お久し……って何ですかその岡持ちは!?」

 

「え、新作のラーメンだけど?」

 

 恋花様が千香瑠様と神庭女子の石塚藤乃様を巻き込んでラーメン屋を始めたのは有名、だけどまさかホテルにまで持ち込むとは。

 お二人とも更にパワフルになっている気がする。

 

「本当はイベント出店用の屋台を持ち込みたかったんだけどね」

 

「ごめんなさい一葉ちゃん。少し冷めちゃっているかも」

 

 真剣な顔でそう言われると拒否し辛い。

 テーブルの上にラーメンどんぶりを置かれ割り箸を渡されてしまったら周囲の視線が多少恥ずかしくても食べるしかない。

 

 濃厚なのに後味スッキリなスープ、しっかりとしたコシの麺、ラーメンに対する情熱が伝わってきた。

 今まで食べたどのラーメンよりも美味しい。

 お二人とも凄いな……。

 

「ところで恋花様、少し見ないうちに随分とお腹周りがご立派になられたようで」

 

「いや、これは千香瑠のご飯が美味しくて……」

 

「恋花さんったらラーメン研究の名目で毎日食べてるの。一応健康診断はしっかり受けさせてるけど、一葉ちゃんからも何か言ってあげて」

 

「そうですね……食べた分だけ走りますか、当然学生時代の体重になるまで」

 

「一葉の鬼! 悪魔! 血反吐!」

 

 体型は変わっても罵倒はあの頃の恋花様のままだった。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 酔い覚ましにホテルの空中庭園でベンチに座る。

 火照った顔に日が落ちて幾分涼しくなった夜風が気持ち良い。

 旧友との再会とアルコールで少しはしゃいでしまったかな。

 

「こんなところでどうしたのよ、序列一位」

 

「優珂さん……懐かしいですね、その呼び方」

 

「でしょ?」

 

 悪戯っ子の様な笑顔で隣に座る彼女。

 既に酔いは醒めた様子なので強化リリィはアルコールの分解も早いのかなと変なことを考えてしまう。

 それなら私は――

 

「一葉は今幸せ?」

 

「……どうでしょう」

 

 あの時とは違い今は戦いから距離を置いているので命の危険はあまり無い。

 

 やりたいこともそれなりにやれている気はする。

 

 だけどあの時とは違い大切な仲間は傍にいない。

 

「結局一人ぼっちの私……努力不足ですね」

 

「……はぁ、分かってないわね」

 

「えっ!?」

 

 彼女の発言の意味が分からず顔を向けると頭を抱えていた。

 何か変なことを言ったのだろうか?

 

「全員無事に卒業できて努力不足!? 努力の問題じゃないわよ、この『ばかずは』!」

 

「……流石にそれは傷つきます」

 

「『傷つきます』? 傷ついてるのは私たち、いえ私の方よ、鈍感序列一位!」

 

「っ!?」

 

 唇に押し当てられる彼女の柔らかな唇。

 

 時間にしたらほんの数秒、だけど私の頭を沸騰させるには十分な時間だった。

 

「な、な、何を!?」

 

「言わせんな!」

 

 再び押し当てられる唇、彼女は泣いていた。

 思わず抱きしめる震える細い肩。

 慰められているのか貶されているのか良く分からないけど……私のことを思って泣いてくれているのは分かった。

 

 

 紛い物の肉体に紛い物の心、どこか後ろめたさを感じ周囲から一歩引いてしまった学生時代。

 

 その事で傷つけてしまった人が少なくても目の前に一人。

 

 鈍感と言われても仕方ないか……。

 

 

「……落ち着きましたか?」

 

「そうね、悔しいけど」

 

 少し時間が経ち名残惜し気に優珂さんが体を離す。

 目が赤い気もするが元々だということにしよう。

 

「別にさ、隣にいるのが私じゃなくてもいいのよ……いや、ちょっと嫌かも」

 

「ふふっ、どっちなんですか?」

 

 眉間に皴を寄せて考える彼女に思わず笑いが漏れてしまう。

 

「あー、とにかく『相澤一葉』が報われない物語なんて私が認めない、却下なの!」

 

「優珂さんもしかして私のこと――」

 

「それ以上言ったらここで押し倒す」

 

「流石にそれは勘弁ですね。いくら私でも時と場所は弁えます」

 

「どの口が言うんだか。だったらしっかり証明してみせなさいよ、序列一位♪」

 

 

 そう言って笑う優珂さんの笑顔は夜なのにとても眩しく輝いて、私の意識は段々と――

 

 

 

 

 

 

「……あれ」

 

 気付けば自室で朝を迎えていた。

 どうやら昨日行われた私の誕生日会は無事終わったようだ。

 何か夢を見た気もするけど……すっきりした目覚めから少なくても悪夢じゃなかったことは確かだと思う。

 胸と唇に残る不思議な感覚、何だか背中を押された気もする。

 

 ……気を取り直して、さあ今日も一日、あれっ?

 

「塊根植物、でしたか?」

 

 ベッドサイドテーブルに置かれたどっしりとした球根状の植物の鉢植え、パキポディウム・グラキリスだったかな。

 昨日までは確実に無かった筈なのに。

 

 とりあえずヘルヴォルの仲間たちに聞いてみるか。

 それなりにセキュリティはしっかりしているから不審者は入れないだろうし。

 

 それでも分からなかったら――――

 

 

「詳しそうな人に聞いてみるのも良いかもしれませんね」




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<備考>

相澤一葉:ノーマルエンド

松村優珂:口は悪いが面倒見が良い。

牧野美岳:愚痴を聞くのに慣れている。

賀川蒔菜:たびたび生徒からゲームに誘われる。

森本結爾:見つけた化石にフタバカガワリュウと命名。

パキポディウム・グラキリス:花言葉は「永遠の愛」「愛嬌」

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