そよそよと風が吹く屋上。
いつもなら冬彦と奏ちゃんが仲良くご飯を食べているところを邪魔しに行くのだがあいにく今日は私の天敵がいる。
「愛佳さん、お弁当作ってきました」
そう言ってファンシーなお弁当を掲げるこの無愛想な男がそうだ。
「だからなんで君は中学生のくせに当然のように高校にいるんだ!」
そう言ってぐいぐいと顔を押すものの佑くんはビクともしないむしろ前進してくる。
このフィジカルの強さは奏ちゃん譲りだろうか。
「愛佳さんに会いたくて抜け出してきちゃいました。」
そう言って佑くんは頭をコツンと叩いて首を傾げる動作をする。
「可愛くないからな。全く、君も物好きだな」
結局、逃げきれないと悟り二人並んでお弁当を食べ始める。
色とりどりのおかずが並ぶ弁当は実に美味しそうだし、実際美味しいのだがそんなこと言うと調子に乗るので絶対に言わないようにしている。
「ところで愛佳さん」
「ん、なんだい」
「愛佳さんのファーストキスっていつですか?」
思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまう。
何を言い出すのだこの男は、、、
「なんで君にそんなこと言わなくちゃいけないのさ」
「いやただ気になって。いやならいいんですけど」
無表情なその顔が少し寂しそうに見えたのは錯覚だろうか。
佑くんは表情がない割に感情が豊かでわかり易いところがある。
そんな顔をされたらいじめたくなるのがいじめっ子の性というものだ。
「君もそんなことを気にするなんて意外と純粋だな。だが僕はとっくに済ましているのでね。残念だったね佑くん」
ふっ、少しは落ち込んでいるかもな。可哀想な佑くんだこと。あっはっはは.....は?
そうほくそ笑んで横を見ると佑くんの顔がすぐそこにあった。
「はえっ?ちょっと待て早まるな佑くん!待ってくれそれはさすがに......!」
次の瞬間佑くんは僕の顔に付いていた米粒をとりそれをパクッと口に放り込んだ。
「その様子じゃあキスはまだみたいですね。可愛いですね愛佳さん」
そうフッと笑いかけて僕の頭を撫でる。
ぶわっ顔が紅潮する。
「は、謀ったな!佑くん君ってやつは!」
「何を言ってるんですか。愛佳さんがただ勘違いしただけですよ」
「うるさい!」
口に袖を当ててそっぽをむく。
あんまり佑くんにこの顔は見られたくないな。
だってまた調子に乗るだろうし。
そう思っていたら、後ろからギュッと抱きしめられる。
なぜか心音がすごいことになって、、、、ん?
これ僕の心音じゃないな。
「無表情なくせして心臓バクバクじゃないか」
「好きな人に抱きついたらそんなもんですよ」
この男はまた恥ずかしげもなくそういうことを、、、、
「言っとくけど僕は冬彦一筋だからな」
「知ってます。でも僕は愛佳さんが好きなので」
「そうか、残念な片想いだな佑くん」
しばらくそうしていると突然屋上のドアが開いた。
「おいお前ら!いつまでいちゃついてんだ!今から私が卯ノ木といちゃつくんだぞ!」
そう言って奏ちゃんが飛び込んできた。
「ごめん姉さん今僕は愛佳さんと愛を育んでる途中だから」
「別に育んでない!やめろ!」
そこに申し訳なさそうに入ってくる冬彦。
僕のこの寅姉弟に振り回される日はまだまだ続きそうだ。
と、思ったのだが。
最近、佑くんを見なくなった。
気づいたのはついさっきかれこれ一週間は彼を見ていない。
まぁ中学生だしそれが普通なのだが。
「どうせしばらくしたらまたくるだろ。だから今のうちに奏ちゃんと冬彦を引っ掻き回さないとな!」
そうこうしてまた1週間がたった。
未だに佑くんは姿を見せない。
「ま、別にいいけどな。彼もようやく目を覚ましたってことだろ」
冬彦でもいじめに行くか。とカバンを漁るがいじめ道具がひとつも入っていない。
なんてこった、これじゃあ冬彦の苦悶の表情が見られないじゃないか。
しょうがないな、今日は買い出しだな。
僕はカバンを持って教室を後にした。
「ふむ、どっちの糊でスライムを作った方がより不快な感触だろうか。いっそ材料を変えてみるか?」
二種類の洗濯糊を手に取りブツブツと思案する。
こういうところを怠っていては良い嫌がらせはできないものだ。
だがどうも今日はきまりそうにない。
結局また後日買うことにしてほかのものを物色することにした。
新しいパターンがないと冬彦のリアクションもマンネリ化してしまうからな。
そう思ってぶらぶらと店内を歩き回っていると、角材を持つ赤いスカジャンが目に入る。
絶対奏ちゃんだな。
「おっす!奏ちゃん何してるんだい?」
「ん?なんだお前か」
「そんな冷たくあしらわないでくれよー君の親友なんだからさー」
「いつから親友になったんだ!毎度毎度あたしのうのきに手を出しやがって」
割と首を狙った感じの角材が目の前を通過する。
「あっはっは、それは君たちカップルが面白い反応をするからだろ?」
「カッ.....プルッ!あたしと卯之木はカップル、、、、」
わぁなんかニマニマしてるし、反応するところそこなんだな。
「姉さん、エモノの材料見つかったの?あれ愛佳さん、なんでここに?」
まずいやつに見つかってしまった!2週間ぶりともなればさぞかし、、、
「姉さんが迷惑をかけたみたいですいません。ほらいくよ姉さん」
あれ?何もしてこないのか?
拍子抜けしてゆるゆるの表情で佑くんに運ばれていく奏ちゃんを見送る。
そっか、佑くんも目を覚ましたんだな。
それがお互いにとって幸せだな。
僕はくるりと踵を返し足早に家へと帰った。
もう佑くんと関わることもないかもな。
明くる日の昼休み、僕は校舎裏の人気のない木陰でパンを齧っていた。
そういえば最近パン食ばかりだな。
いつもはいらないって言ってるのに佑くんがお弁当を持ってきてくれてたからな。
食費が浮くのは助かったてたなと思わずふっと笑いがこぼれる。
ざぁっと夏らしい風が吹いている。
「ま、元に戻っただけだからな」
「何が元に戻ったんですか?」
頬になにか冷たいものがあたる。
「いつもの場所に居ないから探しましたよ。コーヒー牛乳飲みますか?」
そこに居たのは佑くんだった。少し驚いたが今となっては関係の無いことだ。
「いや結構だよ。それに君も急に冷たくするのも気が引けるからといって僕に無理して構わなくていいぞ。どうせ僕は誰かから愛されるような人間じゃないってわかっているからな」
それじゃあと言って立ち上がり、パンの袋をくしゃくしゃにしてポケットに突っ込む。
「待ってください。なんのことですか?」
佑くんが心底不思議そうな顔をして僕の手を掴む。
「僕は未だに愛佳さんのことを愛してますよ」
「でも昨日はあんなにそそくさと切りあげて帰ったし、二週間も学校に来てないじゃないか」
「それは定期テストがあったからで、昨日のは押してダメなら引いてみろ作戦です」
「へ?」
「昨日読んだ少女マンガに書いてあったので実践してみたんです」
つまりなんだ。全部僕の勘違いってことか!?
「愛想つかされたと思ってツンケンしちゃったんですね。可愛いですね愛佳さん」
「べ、別にそんなんじゃないぞ!やめろ!今顔を見るな!」
佑くんががんとして腕を離そうとしない。
「そもそも僕が愛佳さんを嫌いになるわけないじゃないですか」
「うるさいな!僕はいつまでたっても君とは付き合わないんだし、こんな性格の悪い女いい加減嫌いになってくれよ 、、、」
佑くんが僕の腕を引き寄せて抱きしめる。
「僕は愛佳さんのことを愛してます。愛佳さんじゃないと嫌なんです」
少し抱きしめる力が強くなる。
「そうか、もう勝手にしてくれ」
じゃあ勝手にします。といって佑くんの顔が近づいてくる。
だが、迫るその唇を人差し指で押しとどめる。
「でもキスはダメだ。それだと恋人じゃないか」
「やっぱり意外と純粋ですね愛佳さん」
「君はやっぱり獣だよ。奏ちゃんの奥手差を少しは見習いなよ」
顔を突合せ思わず笑ってしまう。
まぁ、少し距離の近い共犯者も悪くないかもな。
ーつづくー
読んでくださりありがとうございました!評価と感想お待ちしています。浪人生ですのですこしばかり更新頻度は遅いかもですすいません。また18禁版もかきたいのでそちらもお楽しみに、、、、