ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです―   作:七海香波

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 多くのお気に入り登録、そして評価を有り難うございました。
 また誤字の指摘も有り難うございました。ほぼ先ほど修正しました。
 
 さて、今回の話は話し合いを含めると長くなると思い、キリの良さそうなところで半分に切ったため短くなっております。
 では、どうぞ。


第二弾 獣人種との初交流

 普段と変わらぬ空白の二人。王女のドレスを着たステファニー・ドーラ。薄い白布と留め金の服を着たジブリール。そして、元の制服の上に気に入った黒色のローブ(大戦時の骨董品)を羽織った黒。

 その五人は先日の約束通り、獣人種(ワービースト)の大使館を訪ねるために図書館前に集合していた。

 実に異様な雰囲気の集団だったが、ジブリールのくみ上げた認識阻害の結界により、前の通りを過ぎていく町の人々が彼らに目を向けることはなかった。まあヘタに見つかるのも色々と面倒なので。

 

 揃った四人を一通り見て、ジブリール。

 

「揃ったようですね。さて、それでは大使館へと向かいましょうか」

「……って、どうやって行くんですのよ!?今から行っても夕方ですのに!?」

 

 ちなみに現在午後三時。

 空と白の足で行けば夕方、ジブリールと黒で行けば一時間後には辿り着く時間である。

 今頃それを言うのか、と四人の目がステファニーに突き刺さる。

 

「ツッコむの遅くないかステフ?お前それだけしか取り柄ないのに、このままじゃ霞同然になっちまうぞ?」

「……ステフ、無意味」

「ここまで思考回路が遅い人間が居るとは……逆に興味が湧いてきます」

「どうでも良いからさっさと行こうぜ」

「最後に行くほど辛辣なコメントですわねぇ!?私そんなに酷いんですの!?」

 

 ノーコメントとでも言わんばかりに黒とジブリールが彼女から顔を背け、「だって、ねぇ……」と言外に示すように顔を見合わせる空と白。

 無駄にそう言う所では息が合っている四人だった。

 そして。

 

「……それでは皆様、私の身体にお触れ下さい」

「なんで誰も否定してくれないんですのよぉ!」

 

 若干涙目になっている元王女をあえてスルーして、三人はそれぞれジブリールの手、肩、腰に手を付ける。それを見て慌ててステファニーがひっつき、同時にジブリールが手元に精霊を引き寄せていく。

 

「――それでは、失礼致します」

 

 刹那。

 五人の姿は残像を残し、その場から消え失せた。

 

 

 

 

 耳元で鈴のような音が幽かに響く――その僅かな間に、全員の視界が切り替わる。

 壮大なエルキアの図書館を見ていたはずが、一転。

 この世界に来たときと同じ、地平線がのぞく光景が彼らの目に映った。

 それと共に、一瞬の浮遊感と――続く、急激な落下の感触が身体を襲う。

 

「なんなんですのよこれぇぇぇぇっ!?」

「一々五月蠅いですね、ドラちゃんは……。もう少し落ち着きというモノを知っては如何でしょう?」

「そんなの知ったこっちゃないですわぁぁぁ――」

「そうですか」

 

 そんなコントのような遣り取りをする二人を横に、空は驚いた顔で黒に問いかけた。

 

「……なあおいマスターさんよ、今お前の従者は何をしたんですかねぇ?」

 

 信じられないような体験をした空の横で、顔色一つ変えずに普段通りの顔の黒。

 彼に、今起こった事の説明を求める。いや、空にも想像は付いているのだが。それはあくまで想像の産物であって、現実には有るとは思えない――

 

空間転移(テレポート)。何処でもドアとか転移結晶とかみたいなものだよ」

 

 ――魔法。

 

「基本見たところなら何処でも行けるらしいが、その分コストは馬鹿高くてな。使える種族はそんなに居ないぜ」

「おいおい、マジかよ……」

 

 空は黒の話を聞いて、冷や汗を流す。

 現在の最新科学でも可能ではない空間移動を容易く行うとは……これが魔法なのか。

 

「少なくとも、天翼種(フリューゲル)はこんなのを簡単に使えるってのかよ……」

 

 ちらりと横を見たその先には、なんら変わらぬ顔で落ちているジブリールがいる。

 先ほど黒はコストが馬鹿高いと言っていたが、少なくとも天翼種(フリューゲル)にとっては遊戯同然の魔法らしかった。

 『一六種族(イクシード)』魔法適正序列上、その上には後五つの種族が名を連ねているのは知っている。つまり、今から相手にする中には目の前の天翼種(バケモノ)以上の存在もいるというわけで――

 

「は、面白ぇ……今から俺たちは、こんなのを相手にゲームするのか」

「にぃ、楽しそう……」

 

 それでもギュッと引っ付く片割れ()は、自身の顔が笑っているという。

 

「そりゃそうだ、ろっ!」

 

 クラミーと森精種(エルフ)相手に戦ったあのチェスが、昨日のことのように思い出される。唯のコマ遊びから、魔法と知力が絡み合う複雑怪奇な遊戯(ゲーム)へと変貌する。

 あの時以上の戦いが、これから繰り広げられていくというわけだ。

 未だ自分たちの知らないゲームと、ゲーマー達。

 そんな彼らを相手取る――これ以上の幸せが、あるだろうか。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 潰れたトマト、もしくはザクロみたいな光景が生まれるであろうその十秒前に減速を始め、ゆっくりと足から着地した五人。その目の前には、いかにも世界最大級の都市:ニューヨークに乱立する内の一本を引っこ抜いてきたかのようなビルが聳え立っていた。

 

「ほぉ。和風でアメリカ準拠の高さとは……なんかあれだな。正直不気味だ」

「マスター、そこは獣の考えることなのでどうしようも無いかと。所詮本能に従うままにバベルの塔を建て、私達に蹴散らされるような存在なのですから」

「いや、その理解は間違ってるっての」

 

 多種族をむやみに見下すのは止めろと言ったはずだが……まあいいか、と黒は思った。

 普段は別に他を差別するような考えをしない黒だが、今回はとある理由(・・・・・)が有ってジブリールの間違いを指摘するに口を留めていた。

 

「ところで空、ちょっといいですの?」

「ん、なんだステフ?」

「なんでここへ来ましたの?」

「あれ、言ってなかったか?「言ってませんわよ!!」まあいいか。そんなん、獣耳っ子に会うために決まってるだろ」

 

 別に間違ってはいない。空と白にとっては、どうせそれも本題なのだろうから。

 ただ、元の世界での遣り取りで知った事だが、この二人がもし本物のケモミミ美少女と会った場合理性が吹っ飛ばないかどうかが黒には気がかりだった。ちなみに黒の好みは天使っ子(フリューゲル)機械っ子(エクスマキナ)である。可愛いよな、うん。

 

「さあ征かん、我らが獣耳っ子パラダイスへ!」

「待って下さいな、エルキア国内でも大使館ですから領土侵犯ですわよ空!?」

 

 今にも理性を解放して走り出そうとする空&白、その二人を呼び止めるステファニー。当然この世の天国(アルカディア)に行く足を止められた二人は、不機嫌そうに振り返って彼女を睨み付ける。

 ひっ、と退く中、空が言う。

 

「とっくにアポは取ってあるに決まってんだろうが」

「聞いてませんわよ!」

「……にぃ、確かに言ってた」

「え?」

 

 

 

 ――昨日。

 

『うん、美味いなステフのクッキー』

『気に入ってくれたのなら何よりですわ。今、お茶も入れてきますわ』

『おー、頼むステフ。あ、そうだ。明日可愛い動物(獣耳っ子)に会いに行くぞ』

『(ふっふー、空に気に入られましたわ)……え、可愛い動物(ワンちゃんやネコちゃん)ですの?分かりましたわ』

 

 ――回想終了。

 

 

 

「な?」

「お前分かっててやっただろ空」

 

 ベシッ、と悪びれもしない空の頭を黒の右手がはたく。

 純粋に間違えたというのも有るかもしれないが、空の場合、明らかに今の遣り取りは狙ってやったものに違いない。

 

「いいだろ、黒。細かいことは気にすんな――どうせもう遅いんだから。な、爺さん」

「む、もうコントの時間はよろしかったのですかな?」

 

 五人の目の前に突然、何の気配も無しに一人の老人が現れた。

 その頭には黒達とは明らかに違う、飛び出た二つの獣耳があった。それが意味するところは、この人物が紛れもない獣人種(ワービースト)であるということ。

 

 彼は空と白、ステフ、そして黒とジブリールを一目(観察す)る。空と白の顔を見、ステフを適当に流した後、ジブリールを見て眉をひそめ、黒を見た。

 

「(……この爺さん、結構デキるな)」

 

 別に観察していたのは彼だけではない。

 黒もまた、目の前の人物を見抜こうと彼の身体を一通り見渡す。

 

「(獣人種と言うこともあるのか、やはり肉弾戦に優れた体つきをしている。また、煙草や酒などは余りやっていないようで特有の刺激臭やアルコールの匂いもせず、歩幅、立ち方、足の置き方からして健康体だな。目の奥にはほぼ完璧に隠しているが僅かに人類種(イマニティ)への侮蔑がある。しかし……僅かに違和感があるな。何時でも非常時に対応出来るよう構えてはいるが、そこから類推できる動きと筋肉の付き方が違っている。またその挙動に割には肉体についている傷も少ない。まるで、現実の肉体を置いて精神だけどこかで鍛錬してきたかのような……だが)」

 

 一通りの情報を読み取った後、黒の視界の中で彼から色が消える(・・・・・)

 僅かながら興味を惹かれる部分が有ったものの、それは物体としてであり個人としてではなかった。別に背景というわけではないが、精々目立ったエキストラと言った具合だろう。例えるなら――SAOのゴドフリー辺りといった所か。

 

「お初にお目に掛かります、東部連合・在エルキア次席大使の初瀬いのです。在エルキア東部連合大使、初瀬いづなに用があるのですね?」

 

 そう、いのと名乗った人物はこちら側の要件を先読みする。

 だが相手の考えを見通す、なんてのは空白と黒にとっては今更であり別段驚いたりはしなかった。思考予測・分析はSkype上の遣り取りでの日常茶飯事であり、通話時には『緋アリ』のメヌエット・ホームズほどではなくとも言葉だけで相手の思考誘導も行うのだから。

 言葉を先取りしたにも関わらず普段通りの空と白を見ても、彼は特に表情を変化させることはなかった。

 

「どうぞこちらへ」

 

 彼が左手で示した先で、建物の扉が開く。

 どうやら、少なくとも表面上の歓迎の意志はあるらしい。

 

「うし、んじゃ行くぞお前ら」

 

 空を先頭に、五人は歩を進め建物――東部連合の大使館内へと入っていく。

 後ろについてくるようにして戻る老人の、柔らかながらも射貫くような視線を感じながら。

 

 

 




 次回の外交のやりとりは、原作と少々異なる内容になる予定です。

 ちなみに今話に出てきた他作品の人物の説明を。
 ゴドフリー……《ソードアート・オンライン》で登場直後に死亡した人物。そのおおらかな性格が災いした。 
 メヌエット・ホームズ……《緋弾のアリア》のヒロインの妹。独自に発展させた技術で、話すだけで相手を操ることが出来、時には対象の人格すら変化させる人物。

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