ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです―   作:七海香波

17 / 27
 どうも、お気に入り登録数が順調に増えて結構嬉しい安心院かなみです。読者の皆さんには感謝感謝、です。
 前回に比べれば早くに投稿できたかと思いきや、実はまたまたテストで更新は二週間ほど有りません。本当に済みませんが、どうかご了承下さい。

 それでは、どうぞ。
 


第三弾 姫が見据えるその先は

 大使館の中は――黒達日本人が驚くほど、和風そのままだった。

 洋風を基盤に作られた建物に、自然の木々を使って落ち着く雰囲気を醸し出す。

 ステファニーやジブリールは周りをきょろきょろと見回しているが、黒や空、白にとってはコレが普通なため前者二人より落ち着いた様子で歩いている。

 いのの先導の下、エントランスを抜け、壁際に立ってお辞儀をしてくる獣人(何故か主に女の子)を横目に流しつつ、奥のエレベーターに乗る。

 いのが六十と書かれたボタンを押すと、ほんの僅かな上からの力を感じると共にエレベーターが上に向かって動き出す。実に普通で、異世界なりの工夫というか違いがない。

 ……ファンタジーのハズなのに、ロマンもクソも無く現実的だ。

 ポーカーフェイスを保ちつつ、黒はこっそりと心の中で呟いた。もちろん自己中心的な文句だと分かっていても、ついつい思わずには居られなかった。

 沈黙が続きながらも上昇を続けるエレベーターの中で、いのが口を開いた。

 

「ちなみに。お次からは正規の手続きを踏んでいただけますかな?今回はあくまで例外ですので」

 

 どんな手続きを踏んだのか知らない黒とジブリールには反応に困る言葉。首をかしげるしかない。

 横を見れば、知った事かと空と白は普段通りに聞く耳持たず。

 そのままスルーされるか思われたその声に反応したのは――まさかの元王女様だった。

 

「どの口がそんなことを言うんですの!東部連合がまともに取り合ってくれたことは一度もなかったはずですわよ」

 

 ……彼女の口から飛び出たのは、真っ向からの反論だった。

 つーかそれが本当だったらかなりの大問題なのだが。いくら小国とはいえ国境を接している隣国からの要請をガン無視するのは外交のいろはを知らないってレベルだぞ?

 正直空白も黒も「(いや流石にそれは無いだろ……)」と思った。

 もちろんいのもその言葉が意外だったらしく、振り返って彼女の瞳を眼鏡越しに覗き込む。その行為に、黒は僅かばかり興味を持った。

 

「(アレ、なんか意味があるのか?)」

「(獣人種が相手の思考を読み取ることが出来ると言われているのは、マスターもご存じでしょう。恐らくアレは、それを彼女に魅せつけるようなパフォーマンスと言った所かと。)」

「(なるほど、ね)」

 

 テレパスでジブリールから、彼女なりの分析を聞く。

 何の情報も得られなかったのはゲームに関することだけであって、獣人種に関する知識が手に入らなかったと言うわけではない。

 

 位階序列十四位:『獣人種(ワービースト)』。

 卓越した六感を以て生まれ、その身体能力は物理的限界に到達するに等しいスペックを秘めている。元々は細かな部族に別れて存在していたため国内では長くの間内戦が続いていたが、獣人種の女性である『巫女』によって纏め上げられることで、現在の世界第三位の大国『東部連合』が結成されるに至った。

 精霊回廊接続への適性は低く魔法を使うことは出来ないが、鋭い感性によって探知することが可能である。

 また、体内に宿す精霊を自分の意志で暴走させることで物理的限界を突破する身体能力を発揮させる『血壊』と呼ばれる技能を有する個体も存在する。よって、魔法を使えない場においては『十六種族(イクシード)』の中で最強の存在だと呼ばれている。

 そして、その優れた感性によって相手の思考を見抜く能力も兼ね揃えており、大戦期にはその能力で猛威を振るった個体も僅かながら存在していたのが確認されている。

 

 ……だが。いくら身体能力に優れていようとも、相手との直接的な繋がりが一切無い状態で頭の中を覗けるわけもない。正誤判定ぐらいは出来るだろうが、それでも相手の頭の中を知るなんてのは魔法でも無い限り不可能に近い。そして獣人種は魔法を使えない。つまり――相手の思考が読めるなどとは、真っ赤な嘘に過ぎない。

 そのような結論を持つ黒の目の前では、自称:思考を読み取るその目(パラサイトシーイング)にステフが若干たじろいでいた。

 

 ちなみに結果はどうだったのやら。

 

「む……本当に書簡を出しておられるとは」

 

 あー、そりゃそうだろうな……と、黒はジト目で見つめる――ステファニーを。

 なぜなら、心が読めようと読めなくとも、いのの答えは良く考えれば分かるのだから。

 

「(ま、元王女様が嘘付けるわけもねーしな……)」

 

 馬鹿正直な王女様がここで嘘を言う理由も無い。

 常識的に考えれば誰だって分かることだった。

 

「お爺様の頃から何度も書簡を出してますわよ!知らないでは済まされませんわよ!」

「……申し訳ありません。正直に言えば、先王との最後のゲーム以来一切私の元にはそちらからの書簡は届いておりません。先の件以来、エルキアに対して良い感情を持つ者は少ないので……恐らく、その者達が原因かと。恐らく下で勝手に処理をしたのでしょうな。論外の対応です、後に全ての関係者を厳罰に処します。どうかご容赦を。今後は私、初瀬いの宛に直接お送り下さい」

 

 怒るステファニーに、いのは本当に申し訳なさそうな(・・・・・・・・)顔で詫びる。

 

「……先の件ってなんだ?」

 

 書簡の件はここでこれ以上話しても意味が無いと思い、空が今の発言で気になったところを口に出す。

 答えたのはジブリール。

 

人類種(イマニティ)は城――現東部連合大使館を奪われた後、大使館が王城より立派なのは面子に関わるからと新たな城に増築を重ねたのです。それに対し東部連合は大使館をさらに増築し――ここから先はただの意地の張り合いで御座いますね。最終的には力も技術も勝る東部連合によって、現在に至るというわけです」

「なるほど……めんどくさ」

 

 馬鹿馬鹿しい、と額に手を当て空は目を伏せる。

 確かに国としての面子は大事だろうが、結果が分かっている勝負に無駄に労力を注ぐとは。……驚きを通り越していっそ呆れるほどである。

 

「唯でさえ獣人種は人類種(イマニティ)を過剰に見下す傾向が有りますから。……まさに五十歩百歩大同小異、目くそ鼻くそを笑う――こんな所でしょうか」

「はっはっは、実に面白い例えをなさりますなぁ――空を飛ぶだけの白い蠅如きが」

 

 ……ここから先の展開は綴るまでも無いだろう。

 いのとジブリールの二人はまさに五十歩百歩の互いの種族の罵り合いを、エレベーターが目的階に到着するまでずっと続けていましたとさ。いい加減にしろよお前ら。

 

 

 

 

 さて、エレベーターが到着した後。

 

 いのが連れてきたどう見ても年齢一桁台の獣耳幼女に空白が揃ってキンクリ発動&飛びつきからの頭撫で撫でを実行し可愛らしい声で丁寧語とは言えない丁寧語を吐かれていのがブチ切れ最後の最後で空白が自虐ネタでオチを付けたのは――今更であるからどうでもいいとして。

 

 そろそろ本題である会談が始まろうとしていた。

 

「では、そろそろハゲザル共の意見を聞いてもよろしいですかな?」

 

 ――なるほど。

 

「ああそうだな、生臭い獣共がその口を生と共に閉じたのなら、話し合いを始めようか。悪いが俺は動物嫌いなんでな、人に対してそんな口をきく獣とは話したくもない」

 

 交渉相手を遠慮無くハゲザル呼ばわりする相手なら、容赦は要らないよな。

 ジブリールを除くこちら四人に掛けられた蔑称に真っ先に反応したのは黒。

 先ほどから随分と不満が怒りが溜まっており、ここがチャンスとばかりに攻撃ならぬ口撃を返したのだった。

 

 爽やかな笑顔と共に自然と吐かれた毒に空と白、ジブリールの目が点になった。

 

「はっはっは、異な事を仰いますな。サルにはここが外交の場というのも分かっていないようですね……猿山にお戻りになっては?」

「へー、おかしいなぁ……動物って直感でお互いの優劣を解するはずだから、そっちの面々は俺たちに平伏しているハズなんだが」

 

 実は黒は――ここまで余り話したことはないが、大の動物嫌いなのだった。

 もちろんここで言う動物というのは文字通り動物の全てではなく、一般的に飼われている犬や猫、猿などだ。魚やは虫類、昆虫類は別段苦手というわけでもないのだが、ほ乳類は大概嫌いな部類に入っている。それでも一般的に動物と言われれば頭に浮かべるのは魚やキリンなどではなく可愛くデフォルメされる犬猫なのだから、総じてそれらを嫌悪するという黒の事を動物嫌いと呼んでも間違いではないだろう。

 転生する前、織城和真として生きてきた頃から引き継がれたその感情は小夜鳴黒として再度生まれても改心する――改めるということでもないが――言い直せば、治る事は無かった。

 別に、動物アレルギーのような体質に基づいたものではない。

 唯単に生理的嫌悪とでもいうべき感情がそれらを見た瞬間に心の中に渦巻くのだ。

 人間の誰も彼もがあの動く黒曜石(例のG)に向ける感情が、黒の場合には犬猫にも向く。まあ、見ても潰したくなるわけではなく、その死体の捨て方にすら頭に熱を持つほど考え抜くわけでもないのだが――ただ何となく、嫌なのだ。他の人間が飼い、愛でる分には構わない。だが、自分が触れる、もしくはそれに準ずるような何かの行為をそれらに行うのだけは死んでもお断りだ。理由はなくともただその感情がある。

 

 そして現状、獣人種もその黒からしてみれば犬猫と同様のグループに纏め上げられるわけで――精神的に無意識に苛つくのも、無理ない事だった。

 約一名――先ほど空白が愛でていた一名の幼女、初瀬いづなという名の彼女を除くその他全てが、この大使館に足を踏み入れてから黒にとってはテラフォーマー(火星の奴ら)と同じような存在に見えていた。

 そこへ来て先の、いのによる見下すかのような発言だ。

 元々相手から言い放った分、こちらから同等の言葉を返しても問題無い――だから遠慮無く暴言を吐いた。心の中での、どうせ頭が悪いお前らには言葉は通じないんだろう?という罵倒も含めて。

 

「いやお前ら、どっちもどっちだから……つーかなんだよ黒、雰囲気変わってんぞ」

「悪いな空。今更の追加設定だが――俺は動物、特に犬猫が嫌いなんだ」

「ホントに今更だなぁオイッ!?」

 

 いきなり馬鹿馬鹿しい罵り合いを始めた二人に、空は溜息をつく。

 まさか黒が大の動物嫌いだったとは――。

 確かに「  (空白)」と(クロ)との付き合いはそう長いことではない。だから互いに知らない事ぐらい一つ二つはあってしかるべきなのだが……まさか動物が嫌いだとは思わないだろう。

 目の前の爺さんも大概だが、それに反応する黒も黒だった。

 

「つーか爺さん、アンタ思考読めるんだろ?だったら一々意見聞くも何もないだろうが」

「この場は口頭もしくは書面で遣り取りをする場です。その様なことはマナー違反だと、サルには分かりませんかな?」

「めんどくさっ。いいからさっさと読んでくれ。黒とアンタが殺気立ってるせいで、もはや話し合いの場になってないから」

 

 うぐっ……と黒はバツの悪い顔をした。

 それでも目の前の老人を殺気を込めて睨むのを止めない辺り、本当に動物が嫌いなんだなぁと思い知らされる。というか唯の高校生がなんでそんな獣人種(ワービースト)と渡り合えるほどの殺気を出せるのか。おかしいだろ。

 その辺りも含めて聞いてみるのは今度にして。

 まずはさっさと、要件を済ませよう。

 

「つーわけで、ほら。さっさと読んでくれ」

「だから先ほどから――」

 

 何度言えば常識を理解するのかと、自分のことを棚に上げて怒りを募らせるいの。

 流石に彼は彼で頭が冷えてきており、さすがに馬鹿馬鹿しい遣り取りだと気づきいい加減頭が痛くなっているのだが、ここでそのことを言い出す必要も無いだろう。さっきから心の中を読めという、実は出来ない無茶ぶり(・・・・)を課してくるこの目の前の男の不遜な態度にも限界がある。

 もう追い出して一旦空気をリセットしようと考え、席を立ち上がり――そしてすぐに座り直させられた。

 ここまでの雰囲気を一変させた、『王』としての「  (空白)」に。

 

「分かった。なら言ってやろう。そこまで心の中を読みたくないのなら、仕方なぁーく言ってやろうじゃないか――いづなたんの耳を撫でさせろ」

「そうかそうか良く分かったつまり殴られたいんだなこのサルが!」

 

 ――しかし、結局空は空だった。

 雰囲気は変わっても、言ってることは変わっていない。

 見た目で人を信用してはいけないという教訓はまさにこのためにあるんだな――そんな訳ないのだが、ふと、そんな言葉が黒の頭を横切った。

 実は一番この場面をどうでもいいと思っている黒だった。

 最初に言いたいことを言って後は傍観するだけと、やはり黒もマイペースだ。

 

「……別に良いだろ、撫でるくらい。爺さんよりマシだって言ってたじゃねぇか」

「たわけ!あんなの嘘に決まっておるしそれよりさっさと本題を言えと言ってるだろうが!」

「じぃじ、ヘタ……爪が痛ぇだけ、です」

「ぐほぁっ!」

 

 予想外の口撃に、いのはダウンした。しかしそこは百戦錬磨の気力で持ち直す。

 机を支えにしてよろよろと立ち上がりながら、眼鏡の奥で怒気を立ち上らせる。

 

 もはや茶番としか思えなかった。

 最初にかき回した張本人が自分だと言うことは完全に頭の隅に追いやって、黒は傍観者の振りして一連の空といのの遣り取りをただ観察する。

 

 ちなみにそんな三人を冷ややかに見ているのは白だった。

 

「仕方無い、代わりにステフの頭を撫でさせてやるから」

「どうしてですのよ!?今の遣り取りからそこで私が巻き込まれる必要はないでしょうに!?」

ステフだ(捨て札)から」

「今発音が何かおかしかったですわよね、空ぁ!」

「だって爺さんに白の頭撫でさせるわけにも行かないし、消去法的にお前だろ」

「自分の頭を差し出せば良いじゃないですの!」

「え、男の頭撫でるとかいくら何でもそんな馬鹿な事はしないよな爺さん?……ほら、しないってさ。ついでにステフの胸揉ませてくれだって」

「誰もそんなこと言ってねぇよこのサル野郎!てめぇマジで本題に触れないんだったらさっさとお引き取りしやがれ!」

「言ってることめちゃくちゃだぞ、爺さん……。一旦落ち着け。ステフの頭といづなたんの頭撫で。それで良いって言ってるだろ?」

「だから、もう本題に入れと――」

 

 ふしゅー、ふしゅーとキレかけのいのは鋭い目で空を見る。

 そして黒はいのを見る。……口元から白く水蒸気を上げるアレは一体どうやっているのだろうか。獣人種って凄い。

 そんなことを考える黒の横で、空はならばと次の言葉を切り出す。

 

 普通に考えて、信じられないような――獣人種の心を読むに等しい鋭い感覚を持ってしても想像できなかったような一言が。

 

「やだね。もう本題は、終わってるから(・・・・・・・)

「――は?」

 

 今の今まで真っ赤に染まっていたいのの顔から、一気に怒気が消え失せる。続いて浮かぶのは戸惑いの表情だ。

 

「何ッ回も言ったろ?俺たちの本題はいづなたん撫でるのとステフの胸揉みの交換だってな。いい加減本題本題叫ぶのもいい加減にしやがれっての。俺は何回もそう言ったぜ。それでもアンタは碌に相手もしない。『本題本題本題――』もう聞き飽きた。変えるぞお前ら」

 

 ガタッ、と状況を理解出来ないステファニー以外の全員が席を立つ。

 

「んじゃあな爺さん。もう帰るわ。じゃーなー、いづなたん」

「……ぐっばい」

「うし、それじゃあジブリール。転移の用意、頼む。転移先は直接エルキア城の中庭でいいぜ」

「はい、マスター。それでは再度転移、ということで。帰還いたしましょう」

「え?え?」

 

 ステフだけが唯一人、状況を飲み込めていないと様子で左右を見渡しているが――他の四人はそうではなかった。確かに、彼ら四人の共通の目的は達せられているのだから。

 その全員が、もう十分だと言う顔で背を翻す。

 

「なにしてんだステフ、行くぞ?」

 

 手を振って帰ろうとし、背を向けた空――その肩をいのが掴む。

 

「おい待てクソザル。本題は『エルキア(お前ら)東部連合(こっち)にゲームを挑む』だろうが。いいからさっさと席について宣言しろや!」

「ジブリール、転移」

「はいっ」

 

 ジブリールの手元で魔法陣が展開、一瞬のうちに五人の姿はその場から掻き消えた。

 軽い音と共に歪んだ空間が元に戻り、――ひらり。

 彼らが消えたその場所に、一枚の手紙が舞い落ちる。

 

「……何だ?」

 

 拾い上げ、封を破って中身を開ける。

 二つ折りにされていた紙を開く――そして、僅かに精霊が集束し。

 空と白の姿のホログラム――条件発動型光系統多重集束魔法が発動し、手紙の上に立ち上がった。

 

 そのギミックに驚くいのを、嘲笑うかのような大胆不敵な笑みを浮かべて、僅かに透けている空――魔法陣に記録された、空の複製――が話し出す。

 

『――もしそっちが、俺たちの本題を《エルキアが東部連合に勝負(ゲーム)を挑む》と本当にそう思い込んでいたときのみ、この魔法が発動することをまず最初に伝えておこう』

「――っつ、なぁ!?」

 

 咄嗟にいのは手紙を取り落とした――いや、正確に言えば、その直前に何者かの手によって、彼の手からはたき落とされたと言う表現こそが正しい。

 彼の目の前には、右手を振りきった様子のいづなが立っていた。

 

「……精神干渉魔法にかかってんぞ、じぃじ」

 

 その彼女のセリフに、いのはハッとなって今のセリフを思い返す。

 今の内容は相手側がこちらの心の中を把握しなければ発動しないことを意味する。そして突然のホログラムに気を取られて気付かなかったのだが、いづなに注意されて、手紙にはかの術式とはまた別の精霊の動きがあることを把握する。

 

『――今アンタは突然の驚きに手紙を取り落としただろう?』

 

 ドクンッ――いのは、心臓を握られたかのような錯覚を覚える。

 この男は見ていないにも関わらずこちらの動きを察知しているというのか、と。

 

『俺には分かるぜ、アンタらの様子が手に取るようにな。くっくっく、実に面白いじゃないか。心を読めると自称する獣人種が、逆に行動を予測されているってのは――ああ、うん。時間がないって?分かった分かった――それじゃあ副題(・・)に入らせて貰うぜ』

 

 今の言葉からこの映像が録画だと言うのは分かる。

 だと言うのに、その中の男と女――空と白から、こちらの目を、心の中までをも見透かすような視線を感じてしまう。

 

『いいか良く聞け。一度しか言わないぜ――

 

 

 

 

 

 ――我らが人類種(イマニティ)最後の国家エルキアが、獣人種(ワービースト)最大の国家東部連合に。『位階序列一六位・人類種(イマニティ)が一国『エルキア王国』全権代理者である「  」の名の下に、貴国、位階序列一四位・獣人種(ワービースト)が一国『東部連合』にゲームを挑む。また、貴国が我らの世界征服の覇道において名誉ある、最初の犠牲者に自ら志願したことを、祝福と共に歓迎しよう。当方は、貴国との『対国家戦』において勝利した暁には《大陸にあるてめぇらの全て》を要求する――以上だ。

 

 

 

 あ、この手紙はテンプレ通りに、終わったらその場で燃え尽きるんで。それと、こっちの参加者は俺たち五人な。あー、あんたらの一存だけで決められるとは思って無いから、存分に本国政府で相談なりなんなりしてから決定したゲーム内容を報告してくれ。じゃあな――』

 

 ポッ……小さな音と共に手紙から空と白が消失し、火と共にそれはゆっくりと消えていった。

 

「は……?」

 

 今の内容に、軽く放心状態になったいの。

 相手がゲームを挑んできた、それは良い。それ自体はこちらの予想していたことであり、また準備もまた出来ている。

 だが今の内容はまるで――こちらが絶対に断らないと予想しているかのような言葉だったではないか。

 ふむ、確かに考えてみれば東部連合が断る理由は何一つとしてない。だが、一切言葉を濁すことなくそう断言しきる等、そう簡単に行うことではない。

 

 普段ならそんな些細なことはどうでもいいと流してしまうのだが、今回は違う。今まで相対した相手とは全く異なる「  (空白)」という存在を目にした後では、まるで全てが偶然ならぬ、相手の手の上で踊る必然だったかのようにすら思えてしまう。

 

 っ――いのの額に一筋の汗が垂れる。

 

 今回の一件、果たして喰われる(敗北する)のはどちらなのか。そんな考えがふといのの頭を過ぎり、そして何度も反響する。普段通りの自分であればそんな疑問は一笑に付すものだが、今回ばかりは話が違う――そんな気がしてならなかった。

 

 今の流れを見ていたこの場の誰もがそう心の中に思い、大使館の空気が一気に冷え込み、停止した中――その中で唯一人。

 

「へえ、面白いことになってるじゃねーの」

 

 「  (空白)」達が居なくなったことで『です』の丁寧語の語尾を廃し、本性をむき出しにした初瀬いづなは――口を大きく横に開き、愉快愉快とでもいうような笑みを浮かべていた。

 

「あの四人――空に白に黒にジブリール」

 

 そんな彼女の瞳が、赤く紅く朱く――真紅に染まっていく。

 それは、獣人種の中でも一握りの者しか使えない特別な力、『血壊』の証。

 

「相手に取って不足はねぇ……徹底的に、ぶっ潰すぞ」

 

 その現象が起きているのは、今まさに、彼女が心から奮い立っている証拠である。

 

 彼女に取って国家対抗戦(ゲーム)とは則ち――戦。

 

 己の魂と魂の慟哭が響き渡る、戦場の地。

 

 その遙かな未来――仮想世界の中で相対する彼らの姿を、虚空に見据え。

 

「――さあ、合戦(ゲーム)の始まりだ」

 

 仮想世界に佇む戦姫としての自分を現実に重ね、照準を彼らの額に添えて。

 想像(イマジネーション)の引き金に掛けた細い人差し指を――引いた。

 

 

 

 




 今回の内容ですが、ハッキリ言います。
 原作とは全く異なってますねーアハハ。第一章とは比べものにはならないくらいに。

 特にいづなたん。そもそも口調が全然違う。
 ま、原作よりもかなり好戦的な性格だと思って貰えれば。これはこれで可愛いじゃないですか?作者的には可愛いです。

 そして黒。まさかまさかの動物嫌いという追加設定。ま、どんな人間にも一つ二つは嫌いなものは有りますし。

 まあ、安心院なりのちゃんとしたエンドは見えてますので――期待して続きを楽しみにして貰えれば、と思います。

 感想等々、出来ればよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。