ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです―   作:七海香波

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 え、原作の空消失事件はカットですよ?
 強いて言うなら、

白「にぃ、どこ……?くーなら、何か解るかも……」
黒「え、空?いるに決まってるだろ。ジブリールちょっと手伝え」

 終了。
 原作でステフとジブリールに相談してましたが、この作品では黒という人類種に属さないイレギュラーが入るのではい解決。

 というわけで、どうぞ。


第四弾 走れステファニー

 

 ステファニーは激怒した。必ず、かの怠慢兄妹の王をしばかねばならぬと決意した――そんなわけで、エルキア城中廊下にてステファニー・ドーラは走っていた。脇目もふらずただひたすらに、自身の役割を果たすために。連日の疲労が積み重なっているのか、目の下にはうっすらと隈が浮かんでいた。

 

「――まったく、もう、いい加減にして欲しいですわ!」

 

 空白の提案する国内の現状に対する補助の新たな政策展開。

 それに対して半ば無茶苦茶ながらも的を射てくる老政治家・貴族達による反論。

 エルキア国民の世論の状況の常時確認と、それらの纏め。

 

 それらをたった一人で(・・・・・・)こなす日々。

 世界が世界なら労働基準法違反で訴えて余裕で勝てるぐらいには、彼女は働いていた。

 

「空も白も仕事を一切しないなんて……それを認めてしまう辺り、私ももうダメですわね……はぁ……」

 

 脳裏に浮かぶ二人の顔を八割方諦めた目で思い返しながら彼女は走る。

 ――空と白は、仕事という仕事を一切しない。本当に、何一つ、塵一欠片分の仕事すら手を付けることはない。ただ要所要所で革命的な意見を出して政治に貢献はするものの、自ら動くなどと言うことはしない。その代わりに動くのは、あくまで自分(ステファニー)なのだった。

 

 

 

 ステファニー・ドーラは凡人ではない。むしろ優秀な部類に入るのだ。確かにクラミーにチェスで負け、空白にトランプで負けてはいるものの、あの二人を例外にカウントすれば彼女自身の戦績は悪くはない。このゲームが全てと言う価値観の世界の元で、アカデミーを首席で卒業しているという点を鑑みてみれば彼女は決して馬鹿ではない。ただどこぞの“あかいあくま”のように何処かが抜けているだけなのである。

 

 

 

 つまり、ぶっちゃけて言うと、何よりもゲーム一筋である空白にとって自身(ステファニー)は非情に都合の良いコマだった。コレがただ口先だけの有象無象なら空白もここまで無茶苦茶を押しつけることはしない。だが運の悪いこと、もしくは良いことに、彼女はなまじ優秀であり、“空に惚れて”おり、人見知りの激しい空白のどちらにとっても簡単に接することの出来る相手であった。

 

 ――最も、だからと言って、ブラック企業も真っ青の仕事量を押しつけて平然とこなせるほどではないのだが。断れない従来の性格が災いし、彼女はひたすら彼らの言うとおりに働き、彼らに予想通りの結果をもたらしていた。

 

 そんな彼女がついつい周囲への注意を怠り、

 

 ドンッ!!

 

「きゃっ!?」

 

 ぶつかった。

 廊下を向こうから渡ってきた一人の老人男性――確か交通大臣だったか――とすれ違い様に正面から衝突させてしまった。

 同時に尻餅をついて倒れたところで、ステファニーは一瞬早く相手より先に彼の存在に気付き――また彼の様子にも気付いた。

 

 ――何か、不自然だ。

 

 こちらを見た顔色が僅かに青く、また、遅れてぶつかった相手に気付いた彼の挙動は何処か慌てているかのようだった。不自然にわたわたと慌てて居る。そんな彼の挙動をふと観察していると、こちらを見た後、さりげなく胸元を左手で隠したのが見えた。

 ――ステファニーは、そこには何も見えていなかった。

 だがそれは逆に、何かが在ることを示している。

 

「あ、ああ、失礼しましたステファニー様」

 

 ジーッと気の抜けたように老人を見つめるステファニーに老人は気を取り直すと、急ぎ立ち上がり、来た方向へと去っていこうとした。彼は奇妙さを隠せていないままステファニーに背を向けて歩き始める。

 

 ――だが、そこでステファニーが声を掛ける。

 

「お待ちになって。貴方一体、そこに何を隠しているんですの?」

 

 その一言に彼の動きが一瞬静止した。と同時に、恐る恐ると言った様子でゆっくりとステファニーの方に振り向く。――次の瞬間、ステファニーの手が閃いた。

 

 空白相手に挑み続けるイカサマゲーム、その過程で鍛え上げられた技量が成果を発揮する。

 振り返った男性にタイミングを合わせるようにその胸元に手を滑り込ませ、隠されていたなにやら薄いものを人差し指と中指で挟み、引っ張り出した。

 抜き出した手に挟まれていたのは、一通の便箋。

 その表に書かれていたのは。

 

「……在エルキア東部連合大使館館長代理:初瀬いの……?消印は、六日前!?貴方まさか――」

 

 慌てて逃げようとした老人、その身体が静止する。

 彼の目に映ったのは、怒りに満ちたステファニーの背後に燃える炎。

 額に女の子らしからぬ十字を浮かび上がらせて、大きく息を吸って――

 

「――ふざけてるんじゃ無いですわよ!?何を考えてるんですか貴方はぁぁぁぁぁ!!」

 

 ステファニーの雷が落ちる。

 

「大方ゲームを妨害しようとか何とか考えていたんでしょうけどもっ!よりによってゲーム開催の知らせを隠すなんて妨害どころか反逆以外の何者どもないですわよっ!」

「な、反逆だとっ!?貴様如き小娘が何も分からんくせに――」

「ああもうコレ処理するのが一体誰だと思っているんですのよ!これからあの二人への連絡に黒様への連絡役の手配に馬と馬車に馭者の準備に街路の手配に、一体どれだけの仕事が追加されるんですの!?今でさえ限界を超えて一日中忙殺されているというのにここで厄介事が起きるなんて完全に予想外ですわぁぁぁぁ!」

 

 手紙の表面を虚ろな目で除きつつ、「今後のスケジュールが……」とブツブツ呟く。

 唯でさえ無茶無謀先刻承知のスケジュールが組まれていると言うのに、さらにここで最大級の爆弾が投下され心ここにあらずと言った無我の境地に陥るステファニー。

 半ば自棄になって手紙を開くと、前置き、本国での判断、ゲーム開催箇所、そして日時――27日の夕刻。

 則ち、今夜(・・)

 

「……ふっ」

 

 ブチッ。ついにステファニーの堪忍袋の緒がキレた。

 今日この日まで空白に振り回されてきた間ずっと限界ギリギリで切れる寸前になっていた堪忍袋の緒の最後の一筋がプッツンと、切れた。

 

「ああもう良いでしょう解りましたわよやってやろうじゃないですのぉぉぉぉっ!」

「貴様さっきから何を――」

「五月蠅いですわ!元凶の貴方はしばらくそこで正座していなさい!」

 

 次の瞬間、老人はみた。

 彼女の知らぬ間に空白とのゲームで鍛え上げられた、有無を言わさぬステファニーの圧力に。本能から彼は直ぐに正座を超えて土下座した。

 やらなければ、殺られると本能が理解した。

 

「これからの時間を考えるともう……」

 

 ステファニーは一瞬でこれからの予定を組み直し、新たなスケジュールを立てる。

 

「まずは二人に知らせてから、ですわね」

 

 そう悟った彼女は、すぐに黒と白の家へと向けて走り出していったのだった。

 

 後にはただ、一人の老人だけが残されていた。

 

 ステファニー・ドーラ。

 ブラック企業もさながらの空白の秘書として、日々心身をすり減らして働いていた。

 

 

 

 ――これは神話において語られる少女の悪戦苦闘の一ページ。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

「白、空!東部連合からの書簡ですわよ!」

 

 バタバタと慌てた様子で部屋に駆け込んできたステフに、二人が目を丸くしてゲームから一旦目を離す。

 

「どうしたステフ、そんな馬鹿みたいに慌てて?」

「ここ数日の私への扱いを思い返せば馬鹿になるのも当たり前ですわよ!ってそれよりも、コレを!」

 

 ベッドの上で仲良くゲームをしていた二人にステフは、先ほど奪い取った手紙を渡した。

 その内容を、胡座を掻いて座った空とその中に座った白が同時に読んでいく。

 

「ふむふむなるほど……条件は大概飲んでくれたようだな。ま、飲まなかったらここ数日分(・・・・・)のを含めてそれ相応の仕返しも考えてたんだが……さて」

「ステフ……今日、何日……?」

「二七日、その当日ですわよ!」

 

 ステフは頭を抱えながらヒステリックに叫ぶ。

 

「一部の貴族(お馬鹿さん)達がそれを隠していたようでして……まったく、もうっ!」

 

 ギリギリと王女にあるまじき歯ぎしりすら始めたステフに、空が問いかけた。

 

「ふーん、ま、確かに組織の一部にはそう言う輩もいるっちゃあいるか。それよりステフ、お前良く気がついたな」

「先ほど挙動不審の方がいらっしゃったので、スってみたらそれだったんですのよ」

「スるって、お前……」

「空と白相手にはそれぐらい出来なきゃ話にならないでしょう!」

 

 確かにそれはそうだが。

 しかし、それを相手が何か不自然だからと直ぐさま直接的行動に移せる辺り、ステフも中々壊れてきたに違いない。

 

「そうか。良くやったなステフ、お手柄だ」

 

 よしよしと空がステファニーの頭を撫でる。

 その感覚に僅かに頬に赤みがさすが、直ぐに時間がないことを思い出して冷静さを取り戻す。褒められたからと言って直ぐに周りが見えなくなるようでは、どこかの天災の妹のような残念な子でしかない。

 

「よし、それじゃあ今すぐ出るぞッ!出陣だ!」

「……おー」

 

 のそのそ、と二人がベッドから降りて立ち上がる。

 

「ちなみにステフ、準備は――」

「私ならここに来る途中で着替えてきましたから大丈夫ですわ!二人は――今更ですわね」

「どこはかとなく嫌みに聞こえるが、まあ良いだろ。黒達はどうした?」

「すぐにこちらへ来られるかと思いますわ」

「……やべぇ、ステフがいつになくマトモに機能している」

 

 驚愕の事実に驚くが、それはそれで良い。

 

「ちなみに足は馬車で」

「もう少しで準備が終わるハズですから、黒達が来たら直ぐに出発できますわ」

「……ソウデスカ」

 

 一体いつの間にここまで手腕が素晴らしくなったのだろう。

 先ほどからのステフの働きはもはや以前とは全然違うものだった。

 

 

 

 

 

 

 三人がそうやっていると、王室の片隅に黒とジブリールの二人が現れた。

 転移の際の光に彼らが目を向けると、そこでは何故か跪く黒の姿。

 

「サーヴァントセイバー(大嘘)、召喚に従い参上した。問おう、汝が私のマスターか」

「……ないわー」

「状況的な空気と未来的な予測を読んで何となくノリでやってみただけだぞ。ないわキモイわは承知の上だ」

「くー、テンションがおかしい……?」

「ああ、実はコレで三徹目だからな。若干狂った感じになってる。頭が」

「ゲーム前日に何をやっているんですのよ!?」

「俺の直感スキルはEXだが、どうでも良いことには直感は発動しないんだ」

「国家戦をどうでもいい呼ばわりしないで下さる!?これでも結構重要なゲームなんですのよ!?」

「だって実際俺たち『人類種(イマニティ)』じゃないし」

 

 実際の所数日前にそれを証明するゲームがあったのだが、それはさておき。

 

「すなわち勝っても負けても問題は無い。人類種も一度痛い目見た方が目が醒めると思うんだ」

「その目が醒めた後には絶望の二文字以外何も残ってませんわよねぇ!?」

「希望を失っちゃだめだ!(苗木君ボイス)」

「希望を根こそぎ奪った人が言うセリフですかそれ!?」

「しかもなんか声真似上手いし。笑えるな」

「くー、面白い」

「そこの二人も笑わないで下さる!?貴方たち一応国王なんですから!」

「草が生えるな」

「言い換えろとも言ってませんわよ!」

 

 ※ちなみにステフもそれなりに勉強してるので意味は分かってます。

 

「コントはそこまでにしておいて出発すべきでは?」

「「「「「あ」」」」

 

 珍しく場で一番真面目なジブリールの一言で、場の空気が修正される。

 

「ゴホン。とりあえず出発するか。ステフ、馬車はどこだ」

「裏口ですわよ。現在起きてる暴動(・・)のことは知っていますわよね?あそこに堂々出陣なんて……いえ、まさか……っ」

「理解してくれたようで何よりだ」

 

 ニヤリと笑う空に、ステフが顔を青くする。

 

「俺たちはコレより、城門から正々堂々出発する。異論はあるか?」

「……当然」

「当たり前だろ」

「常識ですね」

「そうですよねそう言う人達ですものね……」

 

 かくして、黒達五人は獣人種の用意したゲーム舞台へと出発したのだった。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 暴動。多数の民衆が集団的に行動し、罵詈雑言を浴びせるだけではなく暴行脅迫破壊工作その他諸々なんでもござれで行う暴力的な行動の事を指す。

 

 現に今エルキア王城前では空達が宣戦布告したその三日後から、そこに立ちふさがる民衆の群れはただ文句を言うどころかそこら辺の石を投げるわ落書きするわで一日中ただひたすらに騒いでいた。

 

 一体何があったのかと問われれば、空白が東部連合に挑んだという話を知った一部の貴族達が『二人が人類種のコマを賭けてゲームを挑んだ』と話を千切れるほどにねじ曲げて民衆に広めたのと黒達が仕込んだ種のお陰である。ちなみにこちらはただ《大陸にあるてめぇら(獣人種)の全て》を要求しただけであって何を賭けるかは一切宣言していない(・・・・・・・・・)。そもそもなんでこんな無茶苦茶なゲームが成立したかと言えばそれもまた黒達の仕込んだ種によるものであるが――その話はまた後にしよう。

 

 

 

 さて、前置きはここまでにして。

 そんな民衆の前にわざわざ少数で出る王様はいないだろうが――まずはその幻想(政治家の常識)をぶち壊すッ!

 

 

 

 

 ――城門が、開く。

 そして。

 散々騒いでいた民衆達は次の瞬間、無意識の内に口を閉じてしまっていた。

 

 ――普段通りに不敵な態度で、絶対的な自信の表れを目に宿す空。

 ――ただ真っ直ぐに、勝利を確信した朱い瞳で歩く白。

 ――何処までも無機質で、何も見ていないかのように人類種を見ている黒。

 ――誰もかもを魅了するように――同時に恐怖を抱かせるように笑うジブリール。

 

 彼ら四人の、有無を言わさぬその雰囲気が、その場にいた人類種の声を潰す。

 

「「邪魔」」

 

 ――ザッ!

 

 それはさながら混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)球磨川禊の如く、人の海が文字通り真っ二つに割れる。それは未知の物に対する畏怖故か、誰もが黒達の方を直視できない。ただ本能に従って、自らの足を彼らの通る道から動かした。

 

 黒と空のたった一言が、それだけの現象を目の前に引き出す。

 

 それは黒が最も見慣れた光景で有り――また、最も嫌う光景だった。

 

 空白の先導に続いて割れた人波の中を歩き、先に待たせている馬車へと歩いて行く。

 その横顔に僅かに浮かんだ苦虫を噛み潰したような顔に気付いたのは唯一人、ジブリールだけだった。

 

 

 

 

 民衆の長い長い集団の道を抜け、ぽっかりと空いた場所に空気を読まないかのように待機させられていた馬車へと四人は乗り込む。

 

 

 

 乗り込んだ馬車は馭者により、獣人種の国――東部連合へと歩みを始めた。

 

 

 

 




 最後に。
 長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
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