ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです―   作:七海香波

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第十弾 鮮血の覚醒

 この世界で最も優先される物とは何か。

 そう問われれば、この世界では誰もが口を揃えてこう答えるだろう――ゲームの結果だと。基本的な仕事や日常作業ではさておき、友人との賭けやちょっとした遊戯の間、果ては値引きまでもがゲームによって決められる場合が多い。

 しかしそれらはあくまで『十の盟約』の副産物に過ぎないのだ。

 この世界の住人であれば『殺傷、戦争、略奪の絶対禁止』が一般認識となっているが、異世界の住人である黒からしてみれば別に絶対がつくほどではない。一応法治国家の日本では禁止されているものの、それを破る者がいるが故に罰則も存在しているのだから。

 

 さて、それでは――ゲームの中に直接『十の盟約』を持ち込むことは不可能なのだろうか。

 そう問われれば、大半の人が何を言っているのかを理解出来ないだろう。

 『十の盟約』とはゲームの上位に存在しているものであり、ゲームと同じステージに立つという発想は普通には出てこないものなのだから。そもそも所謂そのようなイカサマとは自身で出来る範囲でのゲーム操作が第一として挙げられる上に、他者への強制というイカサマを行うほどのゲームは早々行われないのだから、問われるまではそんなことは考えることすらしなかっただろう。

 

 しかし、『自分で十六種族を纏め上げ、テトへと挑む』という目標を掲げた黒はその方法に真っ先に辿り着いた。何しろ単純計算で対国家戦を最低十五回は行わなければならない上に、空白とも戦わなければならないのだ。本人としては『十の盟約』を使っても未だ足りないというのが本心だが、それはさておいて。

 

 とりあえず、目の前の戦争(ビッグゲーム)である対東部連合戦にそれを持ち込むにはどうすれば良いのか。

 東部連合のゲームの内容は電子世界の恋愛戦闘において『十の盟約』はいかにして有効活用できるのかはさておき、そもそも仮想世界にどう『十の盟約』を持ち込むかが黒の課題だった。

 内容が不明な以上、どのような指示を通すかすら予想が付かないと考えた末、思いついたのが――『令呪』だった。

 

 

『盟約の下に命ず――さあ、“全身全霊を以て、物理限界を超えろ”――ジブリール!』

 

 

 回数制限のある対象への絶対命令権。

 盟約を用いて『十の盟約』の効果をゲーム内に持ち越すことを思いついたのは本当に偶然だったものの、様々な理由により、目に見えてそれを使えるという点では丁度都合が良かったのだった。

 

 

 命令と同時に、現実世界の黒の右手から紫色の強い光の柱が立ち上る。

 突然の異常事態に獣人種は誰もがそちらに目を引きつけられ、精霊を感じることの出来ない人類種もまた、そこから発せられる圧倒的な雰囲気に気を奪われる。

 その黒紫の帯の中で、黒の手に刻まれていた呪紋の内の一つが静かに消え失せる。

 

 

 空と白のものは互いに形を取らない歪な形状をしているが、二人合わせて真円を描く。二人揃っての一人を文字通り体現する空白にとっては、陰と陽が揃った太極、すなわち万物の根源――「  (空白)」ならば“何にでもなれる”――を意味するらしい。

 

 対して黒の令呪は左右に広がった、非対称の細かな意匠の施された優雅な翼だ。正直、何故かその形の意味に黒自身は思い当たることはなかった。《翼》と聞いてまず思いつくのはジブリールだが、それは今の黒を構成する要素には余り関係がない。

 ……まあ黒の本性は今は問題ではない。

 

 現状では空と黒がそれぞれジブリールへ一画を使用済みである。

 その内容は空の命令の遵守及び、黒の命令の強制執行。

 普通のゲーマーなら、それだけで“勝てる訳ないだろ”と匙を投げるようなルール内でのチートだ。まず、攻略できるわけがない。

 

 

 

 

 ――しかし、それでも。

 人類より上位存在である天翼種(フリューゲル)の意思やこの仮想世界を編み上げるプログラムを無視しての罠を持ってしても――彼らの力は後一歩、届かなかいのだった。

 いづなの剣を確かに貫いた感触。それはジブリールに勝利の確信を与えた。

 

 しかし、それ(・・)にいち早く気付いた黒は、その様子を神の視点(監視カメラ)から捉えながらその顔を驚愕と後悔に歪め、手元を片付け始める。

 

「ここでそれを切るかよ、初瀨いづな……ッ」

 

 黒はモニターを視界から外し、ここまで集めたものを全て鞄に詰め込んで、慌てるようにしてこの部屋の中から飛び出した。思いの外早くあの行動(・・・・)に映ったいづなのお陰で、この後の展開は少しずつ予想とは変化していくだろうと考えて。

 

「悪いな空、少しの間さよならだ」

 

 その口は愉快と苦悶の二つを含むように食い縛られていた。

 

 

 

 ――ジブリールの刀によって心臓を突かれたいづなの仮想体が、画面の中で黒いノイズとなって淡く消え失せる。それは単なるカメラの処理の問題ではなく、この世界を支配する電脳が処理しきれなかった信号が残した僅かなラグ。

 それを黒に一泊遅れて理解したジブリールは、慌てて掻き消えたいづなの姿を探そうとして――ドスッ。

 

「危なかったぞ、まさかここまで早くにコレを使う事になんて。しかし後悔することはない、この姿に至らせたことは十分に賞賛に値するからな」

 

 彼女の胸元から、もう一つの剣が現れた。

 

 

 

 その剣を握るのは、確かにジブリールが討ち取ったはずの――いづなだった。

 

 

 

「な、何故……?」

 

 そう呟いたジブリールは、ふと後ろから感じられる熱気が凝縮したかのようなオーラを感じ取り、それで全てを悟った。

 ギリッ、と歯を軋ませながら答え合わせのように、自らの推測を呟いた。

 

「いえ、この感じは――なるほど、そう言うことでしたか。やけに先ほどから既視感が頭をチリチリと焼くかと思えば、それもそうでしょうね。なんて馬鹿馬鹿しい。今更なんですが、以前私が個人で東部連合に挑んだとき、貴方と私は闘ったのですね。それで分かりました――そして今と同じように、あの時もまた、その姿となった貴方に倒された――その、《血壊》によって」

 

 そこまで理解したジブリールの身体が、力が抜けたように崩れ落ちる。

 それによって、今のいづなの姿が露わになる。

 

 

 先ほどまでとは大きく異なっているいづなの姿。髪や瞳、爪と言った部位が真紅に染まり、全身から赤い蒸気を上げている。また、口の隙間からは激しい息づかいと共に漏れる命の蒸気――獣人種の奥義、《血壊》。

 彼らの真の切り札であり、体内に眠る精霊を意図的に暴走させ、強靱な肉体が崩壊を始めるまでの間に爆発的な、物理的限界さえも超えうるブースター。

 

 それに抗うには、常識的に考えて、不可能に近い。

 

 その光景を捉えていたカメラがいるであろう辺りにいづなは目を向け、一際強く睨みを利かせる。突如画面に映ったいづなの鋭利な灼熱の瞳に、その場にいた人類種は皆、誰もが直接心臓を鷲掴みされたような錯覚を覚えた。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

『フィー……あれが血壊、でいいのかしら?』

 

 画面の向こう側から、あくまで気を張ったようなクラミーの声が私の耳に届きます。

 全くもう、強情ですねぇ、クラミーは。声の震えが隠しきれていないのですよ?

 とりあえず彼女の質問に答えるために、私は手元の資料を捲って、あの小さな子の状態と森精種(エルフ)側に保管されてあった獣人種の《血壊》の調査結果を比較します。

 その結果は、

 

『はい、そうなのですよクラミー?あれは確かに、大戦期に見られた朱い獣人種特有の状態なのですよ。私の目から見たところに寄りますと、体内の精霊が暴走したことにより、体内の各器官の作動が許容範囲内を超えているみたいなのです。敢えて言うなら、自己発動可能・反動無視の『火事場の馬鹿力』といったところでしょう。普段抑えられている身体機能を極限まで解放し、その上で狂化した精霊の力で無理矢理物理的限界の壁を越えているのですよー』

 

 全くもう、本当に信じられないのです。

 あの天翼種(フリューゲル)さんも精霊を力尽くで使い潰す方法をとっていましたが、に勝るとも劣らない乱暴な扱いなのですよ。本当に、彼女達は精霊をなんだと思っているのでしょうか。

 人知れず頬を膨らませながら、クラミーの視界を覗きます。

 すると、そこでなにやらクラミーが何かに気付いたようです。

 

『けれどもそれはあくまで仮想世界の中での事だから、現実には影響を残さないと……?どんなズルよ、それ。……って、あれ?』

『どうかしましたか?』

『フィー、貴方今《血壊》は狂化した精霊が関係してるって言ったわよね?』

 

 ――む、そこに気がつきましたか。さすがはクラミー、なのです。

 

『ええ、言いましたよ?』

『だったらおかしくない?』

『なにがですか?』

 

 あくまで私は何も知らない、気付いていない――そう装いながら、あの子の答え(・・)を引き出します。

 本来森精種(エルフ)である私がそのことに気付いていない。

 今のゲームの異常に気付いていれば、私の異常にも気付いてくれるはずなのですが……。これは今後の彼女の課題ですね。獣人種のゲームの真実に触れたはいいのですが、それに捕らわれて周りのことが見えなくなっているのですよー?

 そんな私の心に気付かないまま、クラミーは私が、そして黒さんが(・・・・)予想したとおりの答えを、周囲に伝わらないようにハッキリと呟きました。

 

『相手は今《血壊》を使ってるわよね――要するに今あの子は、『精霊を使ってる(・・・・・・・)』ってことじゃないの!?』

『――そうですねぇー?今の彼女は正確に言えば、暴走させた精霊を精神にだけ上手く作用させているんですよぉ。一見現実には何の影響もない、絶妙なコントロールですー』

『なんでそんなに緊張感がないのよ!?いくら空達でも、物理限界を超えられたらもうどうしようもないじゃない!こんなの、想定外よっ(・・・・・)!ねぇ、クラミー――』

 

 叫ぶクラミーの声に心の中で謝りながら、ここで私は通信魔法を一旦切断します。

 このまま好きに聞き続けても良かったのですが、私ではついついクラミーに本当の事を教えてしまいそうですし――そうだと思いませんか、黒さん?

 自分の心の軽さを知り合って間もない男性に問うのもなんですが、貴方なら、私の気持ちが分かるでしょう?自らが心を許す相手にも、全てを明かすわけにはいかないという苦悩が……。いえ、それは今は関係ありませんね。

 

 例え彼女(初瀨いづな)がどれほどのモノであろうと、貴方達――貴方ならば問題無く勝利出来るのでしょう?

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 ジブリールがいづなの手に渡った瞬間、それを確認した空が、間を置かず白と攻撃のサインを交わす。

 

『ちっ――白、行くぞ!』

『了、解……ッ』

 

 空は交差点の建物の陰から、白はタワーの展望台から、赤い煙を上げるいづなの姿に狙いを定める。

 

『3、2、1、……0!』

 

 二人は発射タイミングを合わせるようにして、弾道さえも完全に重なるように息を合わせ、ゼロコンマ数秒の差もなく同時にいづなの心臓へと狙って銃弾を放った。

 

 しかし、血壊を発動したいづなにもはや銃弾が通用することはなかった。

 

「ははッ、甘いなァ!今や、たかが銃弾如きの速度でこちらを捉えられると思ったか――!!」

 

 瞬間、またも彼女の姿が視界から消え失せる。

 ――何処へ行った?

 空は慌てて周囲を探す。ジブリールですら反応できない速度で動く相手に、自分たちが素で叶う訳がない。考えろ、次にいづなが仕掛けてくるのは一体誰だ――?

 黒は居場所が割れていない、それに今彼女が知っているのは空と白の二人だけ。そのうち彼女が最も狙いやすいのは……ッ。

 空が全てを悟った刹那、日の光を遮るようにして彼と太陽の間に一つの陰が躍りでる。

 その陰は口を狂気に歪ませて、呟く。

 

「こんな時は、こういえばいいのか――ハロー、哀れな子羊よ?生贄の覚悟はいいか?」

「ははは……なんつうチートだよ……」

 

 そして。

 十をゆうに超える弾丸が、空の全身に命中した。

 為す術もなく、空の身体の上で、ほぼ全ての弾丸が花を咲かせる。

 

 そしてまたもやいづなの姿が消え失せる。

 

 その姿がモニターに映った瞬間、ほぼ同時に黒は今いる場所の窓から飛び降りた。

 同時に一瞬遅れていづなが全力で投げ飛ばした、光に匹敵する速度のボムが反対方向の廊下辺りで建物を破壊し、大爆発を起こす。その桜色の爆風は一気に廊下の中を埋め尽くしていき、残り香ほどまでに少なくなった僅かな爆風が窓から出で、黒の背中を軽く押した。

 すかさずベルトの糸を窓の縁に引っかけ、三階分ほど糸を伸ばした後、振り子の要領で窓を蹴破り、糸を切って再度中へと到達する。

 そして慌てず記憶の中の地図と照らし合わせ、一人の人影を走り様に拾い上げる。彼女に無駄な力が伝わらないようその華奢な身体をすくい上げ、するりと腕の中に収める。

 

「ん、ナイス……黒!」

「まあ、兄から白ちゃんの事は任せられてたからな。スピードを出すから舌噛まないよう口閉じとけよっ」

 

 先ほどまで黒が陣取っていたのは実は白と同じビルの三階上のスペースだった。

 白の回収まで予測しての布陣だったが、まさか本当に使用するとは思っていなかった。

 コレによって黒達は、当初考えていた作戦から第二の作戦へと変更することになる。

 

 白からしてみれば周囲が霞むような速度で黒は一気にこの階層――展望台の中を駆け抜けていく。そして、正面の分厚いガラスを見、触れる直前までその速度を緩めないまま足を動かしていき――

 

「――砕け散れッ!」

 

 どうせ衝撃波など現実には還元しない――獣人種側の《血壊》を使うことまで含めた設計を逆手に取り、黒もイメージに任せたまま全力で身体を振るう。

 手元に抱きかけた白の身体へと一切の衝撃が行かないように最新の注意を払いながら、足から肩までの骨格で作り上げた加速度に白と黒の体重を掛け合わせ、そのエネルギーを全て分厚いガラスの内部に伝えきる。

 そのガラスは黒の視界の中で中心から徐々に罅を広げていき、やがて粉々に散っていった。砕けた窓の縁に足をかけ、ベクトルを変えて黒は足を地面の方へと向ける。足の指でタワーの壁を掴みながら、黒は全力で加速を掛けていく。

 その真横へと、真っ赤に染まったいづなが飛翔してくる。

 

「ほう、人の身で良くやるものだな!その心意気は買うぞ!」

「結構だよ!んで、じゃあな初瀨いづな(・・・・・)!」

 

 同時に迫ってきていたジブリール、その光の消えた瞳を横目に流してから、その振りかぶられた拳に足裏を合わせて黒は一気に遙か彼方のビルの壁面へと飛ぶ。そして源義経の八艘飛びとは比べものにならない、ビルからビルへの跳躍という離れ業を見せて一気に陰の中へと消えていった。

 そんな彼の速度を追うカメラからは、やがて地面へ通り、予め開けられていたらしいマンホールの中へと姿を消していった。

 その様子をいのから聞いたいづなは、面白そうに笑う。

 

「――ほう、まさか一気にあんな遠くへと逃げるとはな。これは予想外だ」

 

 予想外だと口に出しても、その表情は変わらない。

 ゆっくりと再度落下を始めながら、自らの隣にいるジブリールへと語りかける。

 

「そう思うだろう、ジブリール?」

はい(イエス)我が主(マイロード)

 

 抑揚のない声で呟く彼女の声には、聞いた者をぞっとさせるような静かな王者の雰囲気が漂っていた。それはかつての戦時中、彼女と遭遇したことのある者なら分かる――あの頃の、声だった。

 

 ――現在、獣人種側陣営:初瀨いづな、空、ジブリール。

 人類種側陣営:白、黒。

 決着までは、残り二人。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 ――第二集合予定地点、θポイント。

 街の下に同じように張り巡らされた下水道の中を白のナビゲートと自身の記憶で確かめながら辿り着いたそこで、二人は食い入るように画面に映ったいづなの姿を見る。

 暗い下水道の中で二人を照らすのは、街の電気屋からついでとばかりにかっぱらってきたノートパソコン。その中に記録媒体に移した《血壊》の記録を、二人は見つめていた。胡座をかいた黒の中に白が小動物のように入り、まるで本物の兄妹のように二人は対象を観て、語り合う。

 

「――ほんの少しだったが、あれが『血壊』だな。予め勉強してきたとおりの内容、確かに捉えたぜ。データもそれなりにあるしな……白ちゃん、それをついでに打ち出していくから計算式の方はヨロシク」

 

 黒が自分の知識から血壊に関する内容を絞り出しつつ、その隣で白がいづなのあの姿における計算を重ねていく。

 今のところ残っているのは白から黒への令呪三つ、空からジブリールへが二つ。黒からジブリールへが二つだ。しかし、あの状態(LOVE)が令呪で動かせるか……。働いても即座に弾かれる気がするため、不用意には使えない。

 兄が敵の内に落ちたせいか、ふと白の計算速度が遅くなっているのを黒は読み取る。

 そして、その頭を軽くポンポンと撫でた。

 

「ん……」

 

 あくまで式から目を話さないまでも、不思議そうな声を上げる白に黒はこちらも目を話さずに話す。

 

「気にするな。空が取られるのは計算通りだろ。白ちゃんがしっかりしないと、取り返せるものも取り返せない。アイツならきっと戻ってくる、だから今は落ち着いて作業に集中しろ……それに、白ちゃんがやってくれないとまだ足りないしな(・・・・・・・・)。一応、そろそろのハズなんだがな……?」

「分かっ、た……」

 

 明らかに追い詰められている状況だというのに、黒は普段通りの明るい声で話す。

 

「それよりもこれからどうするか、だな」

 

 真剣な声をして、黒がそう呟いた。

 もしやどこかに不確定要素でもあるのかと、白は尋ねようと顔をあげた。

 

「俺と白ちゃんだし――今まで通り「  (空白)」と(クロ)って訳には行かないだろ?一時的にとは言え、なにか新しい名前が必要だと思うんだが」

 

 こんな絶望的な状況の中でも平気な顔でそんなことを考える(クロ)に、白はクスッと笑う。

 

「空と白、合わせて空白(くうはく)……。だったら白と黒、合わせて、――黒白(モノクロ)は?」

「それは、白ちゃん……なんか普通すぎて意外性に欠けるな。他の呼び方にしないか?」

「だったら、他の読み方……?」

「ここじゃ日本語自体が俺達三人だけの言語だし、母国語って言うことも踏まえてそれで行こうぜ。黒と白、合わせて黒白(こくびゃく)って感じで。これでいいんじゃないか、多分。どうせ俺達以外は意味は分からんだろうし」

「それ、禁句……」

 

 俺達は互いに苦笑する。

 どうやらこんな負け犬ムードの中でも、俺達は十分に普段通りに力を発揮出来るらしい。

 ……思い返せば、それはそうだ。

 俺達は何時だって、こんな舞台で千を超える勝負を経てきたのだから。

 そしてまだ、俺達に暗い未来予測は似合わない。

 何故なら俺達はまだ手が残っているのだから。

 

 さあ、一時の間の余興――黒白の協奏曲(コンチェルト)を奏でよう。

 




 すみません。
 名前をどうしようか悩んでいたときにSAOが目に入って、それが丁度良かったんです……。

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