ウマ娘系Vtuberが再び成り上がるお話 作:蒼龍
「ウマにちは~! ウマ娘系Vtuberのボルカだよ! 今日もトゥインクルシリーズの実況配信やっていくよー!」
配信カメラとテレビの電源を入れ、画面の前の皆に対して元気よく挨拶する。配信者たるもの、これを怠ってはいけない。
その瞬間、コメント欄に沢山の文章が流れ込む。皆首を長くして私の配信を待っていてくれたらしい。この感覚、非常に懐かしい。
『快晴な青空のもと、中山レース場にて栄えあるレースが行われます!』
「今日は年末を締めくくる有馬記念ッ! 皆さん誰が勝つと思いますか? 私はぁ~……ん~、今回皆凄いからなぁ~」
有力株とされるウマ娘が多数集結するこの有馬記念。故に勝者を予想するのが一番難しいレースとも言われている。
これまで多くのレースを見てきた私でも今回のレースを予想するのは非常に難易度が高い。コメント欄でも「さすがのボルちゃんも難しいか」という声が流れている。ここまで言われると、さすがの私でも少し悔しい気持ちになってくる。意地でもこたえたいいう想いを湧きあがらせてくれる。
「そうだなぁ、ファストライナーとかも有力株だし、メリケンサックもここ最近成り上がってきた有能株だからね。頑張ってほしいかなぁ~?」
曖昧に答えながらその場をやり過ごそうと試みる。こういうのは事前に予想せずに、ゴールをワクワクしながら待つ方がレース全てに期待がもてて楽しいのだ。
私は是非とも、みんなにその楽しさを味わってもらいたい。現地に行くのが難しい人達に対しても。
『――スタート! 今ゲートが開きました!!』
『皆集中してますね、好レースが期待でいます』
「あ、始まった始まった! 皆好きなウマ娘を応援しよーっ!」
発砲音と共にゲートが開く。この瞬間、場に静寂が訪れる。だがコメント欄は止まることを知らない。レース映像を見ながらコメントを打てるのか、中々器用な人達である。
ここまでこれば、レースが終わるまで私の仕事はない。終盤あたりで『きたぞきたぞ』と言うだけのお荷物でしかない。レース中の主役は、走っているウマ娘たちなのだから。
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『今一着がゴール! 今年の有馬記念を制したのはファストライナー! 見事な走りでした!』
「ゴールッ! 2着との差は……4バ身!? 終盤に見せた見事な末脚でメリケンサックを見事に差しましたなぁ~!」
最終コーナー入る直前、1着だったメリケンサックは後続と3バ身程広げた独走状態だった。しかし今回1着をとったファストライナーはコーナーであるにもかかわらず、段々とスピードを上げて1着に迫り、最終直線で全力を解放し、おぞましい末脚を見せつけた。
そう、これだ、これである。レースは1着がゴールするまで何が起こるか分からない。最後尾にいるウマ娘が1着を取ることだってあり得る世界である。だからレース観戦はやめられないのだ。
ふぅーと身体を伸ばしながらコメント欄を見る。そこには予想が当たったという人もいれば、当たらなかったけど楽しかったという人もいる。十人十色だ。その光景を垣間見て、私は嬉しい気持ちになった。配信者になってよかったと感じさせる。
「じゃぁレース後の映像も閲覧しながら、感想会と行きましょうか――」
私がパソコンのマウスに手を伸ばし、次の画面に映そうとしたその瞬間だった。
『いやぁ、あの末脚。去年の有馬記念を彷彿とさせましたね』
『ええ。やはり有馬記念、何が起こるか分かりません。今年の春引退した前回覇者、デジタルボルトも恐るべき末脚でしたからね。彼女がまた、新たな時代を築き上げるかもしれません』
その名が耳に入り、私の手がビクリと震え、足がカタカタと揺れ動く。ふいにコメント欄に視線を移すと、同じような事を述べるコメントが沢山なだれ込んだ。
どうして……、今は今年の覇者をほめたたえるべきでしょう。何故昔の話なんかするのだろうか……。
「……ご、ごめん皆! 感想会は明日に持ち越そうと思いますっ。急用が入っちゃったみたいなんだ。ウマ娘系Vtuberだしね、トレーニング頑張らないとっ! ではでは、さよウマら~!」
明らかに動揺を隠しきれていなかっただろう。私は急いで配信停止ボタンをクリックし、今回のレース配信を終了させる。コメント欄は終始『どうしたんだろう?』といった声であふれかえっていた。
よしよし、一応バレてはないな。と安堵した私は、静かにパソコンをパタンと閉じる。
「去年のことなんか、掘り下げなくてもいいじゃないか」
テレビを消して、私は
そこには、数多くのトロフィーとメダルが飾られていた。そう、これ全部私が勝ち取ったものである。
何かって? 卓球? テニス? はたまた陸上? そんなわけない。それは、私の耳と足が証明してくれている。
――トゥインクルシリーズに決まっている。
大切な品であることには変わりない。だけど、今となっては当時の辛い記憶を想起させる忌々しい品でしかない。
捨てよう、捨てよう、と何度思ったか。けれど、私は実行に移すことが出来なかった。嫌なのに中々手放すことのできない、正に呪いである。
「はあ、情けない」
押入れを閉じる。その瞬間だった。
ピリリリリッ、電話が鳴る。
こんな時に一体誰だろう。といっても、私が連絡先を教えた人物なんて、たかが知れているのだが。
「――もしもし」
「……久しぶりだな、ボルト。今まで何度もかけたが、出てくれなくて心配したぞ」
「アンタには関係ないでしょ、ルドルフ」
シンボリルドルフ、中央トレセン学園で生徒会長を務める優秀なウマ娘だ。『皇帝』なんて異名も持っている。
「今更何の用?」
一応入学時期では同期にあたるため、こうやって冷たく当たっているが、他の人から見たら大変失礼な物言いである。もうこの際気にしない方針で扱っているが。
彼女は私の返答に『すまない』と一言言い、本題に入る。
「……今から会えたりしないか? 時間はあまりとらないさ」
「何のために?」
「――今後のウマ娘業界の話さ。
「気づいてたか」
ルドルフの観察眼には相変わらず頭が上がらない。彼女の成績がものをいうように、一切つけこむ隙が見当たらない。
まったく。扱いづらい同期で困ったもんだ。
「ボルカの口調で会いに行けばいいわけ?」
「冗談がうまいな、君は。そこまでは言わないさ。トレセン学園の前で集合だ、いいかい?」
「……30分くらい時間ちょうだい。それまでには行く」
「了解だ、待っている」
電話をきり、窓に移る空に視線を移す。ウマ娘業界についての話――とはいうが、どういう意味かは全く見当がつかない。
これが私と彼女の差か? そう思うと何故かイライラしてくる。私の気持ちも知らないで。
だが約束してしまったものは仕方がない。向かって文句の一つや二つは言ってやるとしよう。私は部屋の電気を消し、そそくさと身支度を始めた。