通常のウマ娘の3倍のスピードのウマ娘   作:ケルヌンティウス

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憑依でも性転換でもない気がするけど一応つけてます。



赤い彗星のシャア

 赤い彗星。その名がふさわしいウマ娘がいた。

 

 

『は、速い! 先頭を走る12番! 後続の……3倍のスピードでゴールを目指している!?』

 

 

 整えられた砂場の大地を駆けるのは紅い軍服のような勝負服を身に纏い、他の追随を許さないかのような走りで独走するウマ娘。

 

 

『ゴール!!』

 

 

 誰一人寄せ付けずに1着をもぎ取ったウマ娘へと大歓声が集まる。まるで彗星のような走りから彼女に付けられたのは"赤い彗星"

 その名が付けられたウマ娘は奇跡か必然か、その名をシャア。

 

 

『ウマ娘』

 それは別世界に存在する名馬の名と魂を受け継ぐ少女たち。彼女たちには耳があり、尾があり、超人的な脚がある。

 時に数奇で、時に輝かしい運命を辿る神秘的な存在。

 

 そんなウマ娘になった青年がいた。転生というやつで、前世の記憶を保持しながら新たな世界へと生まれ立った特殊な人間。

 しかも"シャア"という名前で。

 シャアは青年の前世、転生前の世界にいた馬の名であると同時に『機動戦士ガンダム』に登場する重要キャラである。ザビ家の策謀に巻き込まれ、家族とは離れ離れになり、青春をザビ家の滅亡のために費やし、人類に希望を見い出すはずが絶望してライバルと決着をつけるついでに地球を人の住めない星にしようとするエゴイスト。その名をシャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクン。馬に付けられたシャアという名前もこのキャラから来ている説があったりと、世界的にも有名だった男だ。

 そしてその名を背負った馬はというと、派手とはいえない実績ではあるものの、その名前と堅実な戦績から愛された馬ではあるのもまた事実だ。

 だからこそ、ウマ娘になってもおかしくは無い。牡馬でもウマ娘にされる世界なので性別が違うのはご愛嬌としても、青年はどうしてよりにもよってそれになるのが俺なのかと辟易してしまう。

 獣の耳を手に入れ、前世とは異なる性別と豪脚を手に入れた青年は、周囲が望んだ通りに陸上選手の道を辿っていた。

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。総てのウマ娘が夢見るとされるトゥインクルシリーズの最高峰。日本最大のウマ娘育成校として名を馳せるみんなの憧れとされる学園に、シャアは在籍していた。主にダートを得意とする短距離から長距離を駆け抜けることが出来る脚質を持った鬼才。頭脳も優れており、礼節も弁えた彼女を悪く言う者は少ない。

 そんな噂を聞いてか、砂上を駆ける赤い彗星の姿を一目見ようと試験を経てトレセン学園へとやってきた新米トレーナーの濱野はトレセン学園内で開催される模擬レースの会場である中央グラウンドへと足を運んだ。

 

 

 ちょうどレースが始まるトラックに到着した濱野は観客席から出走ウマ娘を見渡した。噂の赤い彗星。その姿を確認しようとしたところで、紅い軍服のような勝負服を着ているということしか知らない濱野は体操服姿で屈伸や伸びといったストレッチをこなすウマ娘一人一人に目をやるも、どれがシャアか分からずに首を捻る。

 

 

「あっ、トレーナーさん」

 

 

 この場にはウマ娘をスカウトしようと多くのトレーナーがいる中ではあったが、その名が自分に向けられたものだと直感した濱野が振り向くと、トレセン学園にやってきた時に色々と案内してくれた理事長秘書の駿川たづながこちらへと近づいてきていた。濱野は軽く会釈して頭を下げる。

 

 

「どうも」

 

 

「スカウトですか?」

 

 

「いや……まぁ、そんなところです」

 

 

 実はただ赤い彗星のシャアを見に来ただけだと、ミーハーのようなことは言いたくなかった濱野はたづなの言葉に首肯する。

 

 

「そうですか! どの娘もみんなすごいんですよ〜」

 

 

 でも、とたづなは言葉を区切ると1人のウマ娘の方へと目をやった。

 

 

「今日もあの子が1着でしょうけど」

 

 

 たづなの視線の先を見るとそこにいたの金髪でベリーショートヘアで、身長は170cmは超えているであろうウマ娘がそこにはいた。

 

 

「あの子はシャア。逃げを主に得意とするスピード特化のウマ娘ですね」

 

 

「あれが……」

 

 

 ぶっちゃけ、普通だ。他のウマ娘と体格差はあまりないし、噂が独り歩きしているだけだろうかと濱野は顎に手を添える。

 彼女よりもピンクの髪のウマ娘や、先程から自撮りに忙しないウマ娘やレスラーマスクをつけたウマ娘の方が個性が際立っているというか、目を奪われる印象を持っているが、果たしてシャアは噂に違わない脚力の持ち主なのかと濱野はゲートに入っていく彼女を見つめる。

 

 

「シャア、今日は負けません!」

 

 

「ファル子も今日は俄然本気で行くよ〜!」

 

 

「私も頑張るよ〜!!」

 

 

 シャアがゲートに入ると同時に、彼女へと好戦的な視線を送ったのはレスラーマスクをつけたウマ娘で、それに続くように自撮りしていたウマ娘と、ピンク髪のウマ娘もゲートへと足を踏み入れる。彼女達の宣戦布告を受け取ったシャアは、答えることもなければ、表情に出すことも無い。

 ゲートが開き、ウマ娘達が一斉に飛び出していく。先頭に躍り出たのは、下バ評通りシャアであった。他のウマ娘よりも3バ身開いてのスタートとなった。

 

 

「速い、な」

 

 

 濱野が不意に口にするくらいに、シャアは速かった。まるで、背中にブースターでもついているのではないかと疑うほどの加速力と、それを失わせないように全身を上手くコントロールしてコーナリングを行うと、第一コーナーを抜けた時点で後続のウマ娘との差は6バ身にまで開いていた。

 

 

「えぇ。速すぎます」

 

 

 濱野の呟きに答えるように、たづなもまたシャアの速さを褒め称える。しかし、そこには称賛とはまた違ったニュアンスも含まれたような言い方であったが、濱野はシャアの衰えることの無いスピードに目を見開いた。途中からの追い上げを得意とする差しのウマ娘は2位を走るウマ娘に縋り付くのが精一杯で、9バ身先のシャアを捉えることができない。同じく前を走ることを目的とする逃げや先行のウマ娘はシャアのスピードにペースを乱されて、徐々にスタミナとスピードを失う中で、2人のウマ娘が加速した。

 

 

「エルコンドルパサーに、スマートファルコン!?」

 

 

 もとより得意な逃げで勝負していたスマートファルコンはまだ諦める時ではないと、泥臭く、自身の靴や靴下につく砂のことなど気にせずに大地を蹴る。また、シャアと戦うために先行で走っていたエルコンドルパサーはシャアに追いつくに常に全力を出すしかないと、ここで限界を超えた。

 開いていた差は縮まるかとウマ娘達を見守っている観客席で立つトレーナー達。最終コーナーを駆けながら自分を追いかけてくる2人のウマ娘を見ながら、シャアは薄く微笑んだ。その顔がたまたま視界に入ってしまった濱野は肌がぞわりと震えた。

 

 

「なんだ、この、プレッシャーは」

 

 

 走っているわけでもないのに。いや、あの独特の威圧感は先頭を走るウマ娘が出せるものでは無い。追い込みや差しといった後ろから追いかけて、前のウマ娘を掛からせる者が出すオーラというべきものをシャアは遥か前方から放っているのだ。それに当てられたのは目が合った濱野だけではなく、共に大地を走るウマ娘たちの方が顕著であり、4位以下のウマ娘たちは目に見えて表情が曇り、フォームも不安定なものへと変わる。そして、2位のエルコンドルパサーが最終コーナーを抜ける前に───────。

 

 

「ふっ、こんなものか」

 

 

 シャアはゴールテープを切っていた。

 文字通り彗星のような他者を寄せ付けることを許さない走りを見せたシャアは涼し気な顔をしている。やや遅れてゴールしてきたエルコンドルパサーとスマートファルコン、さらに遅れてやってきたハルウララは息を整えながら、シャアをそれぞれ違った目つきで見ていた。

 

 

「凄いねシャアちゃん! また負けちゃった!」

 

 

「う〜! 悔しいデス!」

 

 

「……ッ! なんっ、で……ッ!」

 

 

 口々に漏らした言葉にシャアは耳を傾けながらも、言葉を返すことは無かった。レースが終わり、ハルウララの頭を一撫でして立ち去ろうとする彼女を追いかける者はおらず、代わりに土壇場での加速を見せた2人のウマ娘にトレーナーがついていないこともあり、トレーナーたちはこぞって敗者を囲った。

 

 

「たづなさん」

 

 

「はい? なんでしょう?」

 

 

「彼女に、シャアに、トレーナーはいるんですか?」

 

 

「……いえ、いません」

 

 

 やっぱりと、濱野は驚くことなくその事実を簡単に受け入れた。あのウマ娘ならばスカウトの声は多かっただろう。だからこそだろう。あのウマ娘に指導者は必要ない。たった1人で完成されたウマ娘だと濱野には見て取れた。加えて、驚異的なスピードと加速力、それを維持するスタミナと賢さを持つ彼女の好敵手となるウマ娘はいないのだろう。

 

 

「ジュニア級のときはいたんです。でも、そのトレーナーさんは事故で……」

 

 

 トレーナーがいないウマ娘はトゥインクルシリーズはおろか、ローカルシリーズにすら出走できない。彼女はトレーナーを失ってからはずっと学園内の模擬レースでだけ走っているのだとたづなは言う。

 

 

「私や理事長も新しいトレーナーを付けるべきだとは思うんですけど、彼女が拒むんです。前のトレーナーさんじゃなきゃダメだって」

 

 

「そんなに、優秀な人だったんですか?」

 

 

 あのシャアがこだわる理由。もしかしたらあの強さの秘密もそのトレーナーさんから授かったものかもしれないと、濱野は躊躇いながらもその好奇心を抑えられずに尋ねた。

 

 

「さぁ、どうなんでしょう」

 

 

「え?」

 

 

「息のあった2人という印象はありませんでした。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「あの子はトレーナーさんに、トレーナー以外の部分を求めていた気がします」

 

 

 それが何なのかはたづなには分からなかったが、シャアはただのトレーナーには興味がないということは判明した。

 好敵手のいないダートの上に、自己流で磨き上げてきた身体能力とレース運び。そのせいでレースに出る理由はなく、トレーナーを必要としない彼女。けれども、彼女は一体なんのためにジュニア級での1年を走り抜いたのだろうか。濱野はその理由を考えながら自身がこれから過ごすことになる寮へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────昔の自分へ。シャアの名を貰いながらも、女性にされ、さらには宇宙世紀ではなく地球の重力の上で走ることを余儀なくされるという来世を、お前は容易く受け止めることができるか? 答えは、否である。

 殺し合いのない世界でシャア・アズナブルとして生きるのは簡単ではない。そもそも、シャア・アズナブル、つまりキャスバル・レム・ダイクンではない俺に、シャアを名乗る資格はなかった。しかし、この世界にシャアは俺だけだ。ルウム戦役での活躍も、一年戦争での暗躍も、グリプス戦役での死闘も、第二次ネオ・ジオン抗争での悪逆もない。ならば、俺はどう生きるべきか。その結果がウマ娘としてのシャアを全うすることだった。

 通常のウマ娘の3倍のスピードを出しながら、他のウマ娘を蹴散らしていき、赤い彗星と持て囃される存在へと俺は到ることが出来た。同時に、俺は1人のトレーナーを失った。死んではいない。だがもうこの業界には戻ってくることはないだろう。勝つことへの執着も、走る理由も失った俺にはちょうどいい機会だった。ザビ家の滅亡も、スペースノイドの救済という目標もない俺に、トゥインクルシリーズを走る理由はない。

 だから、併走や模擬レースで競って欲しいと頼まれない限りはもう走ることは無い。そう、ライバルが現れない限りは。芝のフィールドへと戦場を移せば、この飢えも満たされるのかもしれない。しかし、そこでもまたダートと同じ運命を辿ると考えれば、足は竦んでしまう。

 

 

「誰か、誰でもいい。私はアコギなことをやっている。近く(中央)にいるなら感じてみせろ」

 

 

 言動も、見た目も限りなくシャアに近づいた俺は、もう俺本来の人格の言葉を話せない。だから、俺に勝つために挑んできた彼女たちに言葉をかけようとしても、当人たちにとっては意味不明な言葉になってしまうからと、迂闊に口を開くことも出来ない。

 

 

「これが若さか……」

 

 

 違うと思う。けど、歳を得れば、本来のシャアよりも歳上になれば、この呪縛も消えるのだろうかとそんなことを考えていた。

 これはシャアとして走ることを余儀なくされた俺が、落ちぶれて最後にレースか凶行に走るかという奇想天外な物語だ。





シャア 牝 14歳(クラシック級)
得意なこと 走ること
苦手なこと 女性の扱い
好きなこと プラモデル作り
嫌いなこと 約束を破ること
距離 オールラウンダー
適性 ダートS 芝 C
作戦 逃げ 追い込み

シャア(ガンダム)とシャア(競馬)の混ざり物。
続かないです
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