とある街にあるモルガンさんの大きなお家には、モルガンさんとニ匹の犬、そして二人の女の子が住んでいます。見た目はよく似ているのに性格はまるで違うとご近所でも評判の双子の少女。
これはそんな彼女たちのある一日のお話です。


※「幻の犬」名義でpixivとマルチ投稿。

1 / 1
モルガンの回想で妖精騎士トリスタンの過去を見た時、思いついたので書いてみました。ちょっとした暇つぶしにでもなれば幸いです。

※本小説には、「Fate/Grand Order 第2部 第6章 Lostbelt No.6 『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻』及び登場キャラのネタバレが含まれています。ご注意ください。

2022年3月2日、タイトルをわかりやすく変更


モルガンさんちの双子のおはなし

きょうから日記を書こうと思います。

なんでかっていうと、なんでもかんでもその日にあったことを文字にしてのこしておけば、忘れないし、忘れても思いだしやすくなるんだそうです。このあいだテレビで、と。とと?とぺとろ?……忘れちゃったけど、トトロなんとかっていうすごいドレスを作れるおねえさんがいっていました。だから、わたしもわすれんぼなので、やってみようと思ったのです。あとトトロおねえさんはちっちゃくてかわいかったです。

 

日記ははじめてなので、まずなにを書けばいいかまよっていたら、『あなたが書きたいことから書きたいように書いたらいいわ。好きにしなさい』っておかあさんがおしえてくれたのでそうします。だから、まずはおかあさんのことです。

 

わたしのおかあさんは、すごくきれいな人です。頭もよくて、わたしにはよくわからないむずかしい仕事をたくさんやっているすごい人です。『キミのおかあさんみたいな人はびんわん女社長というらしいよ』と、おともだちのメリちゃんがいってました。

いつもおこったような顔でおこったような話しかたをするけど、ほんとうはとてもやさしいおかあさんだということを、わたしは知っています。

 

それから、うちには大きな犬が2匹います。

どちらもまっ黒でつよそうで、わたしが小さなころから飼われていて、わるい人がきたら追いはらうお仕事をずっとしているすごい子たちです。

でもおかあさんになでられると、2匹ともすごくうれしそうな顔をします。とくにウーくんなんかシッポもぶんぶかふります。

 

それと、あと――

 

 

「あー!」

 

 女の子は、自分の部屋の扉を開けたところで思わず大声を上げてしまいました。お屋敷の外にまで少し漏れそうな大声で、お母さんがいれば注意くらいはされたかもしれませんが、幸いまだお仕事の途中。せいぜい庭でくつろいでいた犬たちの耳が少しはねたくらいです。

 女の子が声を上げた理由は双子の姉妹である少女。といっても、大好きなお菓子を買って帰ってきてみれば、少女が勝手に女の子の部屋に入り込んでお気に入りのピンクの椅子に腰掛けていたから、ではありません。

 それは、彼女がそういう事をするのは今更のことで珍しくもないことだったのに加えて、女の子もそういう事を気にしない子供だったからで、だから女の子が声を上げた原因が少女が手にしている本にあるのは明白でした。

 

「ウルサイわね、バー子。読書の邪魔をしないでよ。いくらなんでも、そんな事も分かんないくらいおバカじゃないでしょ、あんた?」

 

 読んでいた本から顔を上げると女の子とよく似た少女は、大体いつもふわふわしている女の子とは似ても似つかない笑みを浮かべました。ニヤニヤと意地悪そうに唇を歪め、楽しそうに目を細めながら、これみよがしにヒラヒラと手にした本を女の子に向けて振って見せます。

 

「わたしそこまでばかじゃないよ。ばかなのはトリスだよ、なんでわたしの日記を読んでるの!?」

 

 女の子の言うとおり、少女が読んでいたのは最近女の子がつけ出した日記帳でした。一月前にお小遣いをはたいて手に入れて、誰にも見つからないよう、いつも勉強机の引き出しの奥の奥に入れておいたのに、なぜ彼女が?

 女の子にしてみれば当然の疑問。それに対し少女は「は?」とわざとらしく首を傾げました。

 

「呼び捨てすんな。お姉様って呼べよな、バカ妹。えっと、それで何だっけ。あんたの日記を読んでる理由?そんなの決まってるじゃん、暇つぶしだよ。なんか面白いものないかな〜って、あんたの部屋を漁ってみたらさ。あら不思議、バー子の秘密の日記帳を見つけちゃいました〜ってね。こんな面白そうなの、読まないほうがウソじゃない。ハッ、始めた理由が物忘れの激しい頭のフォローのためとか、いかにもおバカなバー子って感じだよな。ねえ、そうでしょ?」

「だ、ダメよ!見ちゃダメ!返して!」

 

 慌てて女の子は少女に突撃して日記を取り戻そうとしますが、少女もさるもの、日記を持った手を右に左に素早く動かし、女の子の攻撃を躱していきます。

 終いには、わざわざ女の子の目の前に日記を差し出して見せたりしました。そうして彼女が飛びついてくるのを躱して、ひっくり返った妹を指差してゲラゲラ笑います。大笑いです。

 

「アハハ。パンツみえちゃってるじゃん、カッコ悪ー。ダメじゃない、バー子。女の子なんだからもっとお淑やかにしないとさ〜」

 

 お世辞にもお淑やかとはとてもいえない笑い声をあげる少女を、起き上がった女の子は睨みつけました。その顔は髪の毛の色に負けないくらいに真っ赤。目にはうっすらと涙が浮かんでいますが、少女はこたえた様子もなく、ふんと鼻を鳴らすだけでした。

 

「なあに?いつもヘラヘラ笑ってるおバカなバー子が偉そうに。このお姉様に言いたいことでもあるのかよ?」

「と、トリスの……ばかーーっ!!!」

 

 女の子は叫びました。それはさっきよりも遥かに大きな、庭で寛いでいた犬たちが顔を上げる程の大きな大きな声でした。何を言われようがこたえないぞと余裕を見せていた少女も、流石に物理的な大声は予想外だったようで、キンキンと鳴る耳を押さえ、苦しそうに顔をしかめています。

 その隙を逃さず、しがみつくようにして少女の手から日記帳を奪い返すと、反射的に女の子は部屋を飛び出しました。その背中に向けて少女が何か叫んでいましたが、立ち止まって聞く気すら起きず、女の子は走り続けました。

 

 

 

「トリスのばか。トリスのばか。トリスのばか」

 

 家を飛び出した女の子は、抱え込むようにして日記帳を持ったまま街を歩いていました。目的地なんてありません。ただ、あれ以上意地悪な少女の側にいたくなかったのです。

 血が上がったままの頭はまだかっかと熱くって、それに浮かされるようにして、少女に対する悪口が女の子の口からこぼれていきます。

 

「ばかばかばか。あんぽんたん、おたんこなす……」

 

 そうやって愚痴りながらどれだけ歩いたでしょう。いつの間にか悪口を言う元気すらなくなってきた女の子は、道端に置かれていたベンチに気づくと座り込みました。一つ息をついたところで喉がヒリヒリと痛むことに気付き、顔をしかめます。

 間違いなくさっき大声を上げたのが原因でしょう。そう考えて、女の子はなんだか情けなくなってしまいました。本当なら今頃、大好きなお菓子を食べながら好きなことをしていたはずなのに、なんでこんな事になっているのでしょうか。

 

「……トリスのばか」

 

 抱えたままだった日記帳。表紙に書かれた白い毛玉のようなゆるキャラのイラストを眺めながら、女の子はポツリとつぶやきました。

 少女はこれを秘密の日記帳と呼んでいましたが、そもそも日記というのは持ち主の気持ちや日々の出来事を綴った大切なもので、他人が勝手に見ていいものではないはずです。お母さんもそう言っていたから確かでしょう。なのに、それが悪いことだとわかった上で盗み見をするなんて。

 そんな事をする少女の方がずっとバカだと女の子は思い、お母さんが帰ってきたら言いつけてやると、日記帳を抱きしめながら心に決めました。学校の先生にすら反抗的な態度をとる程の、ワガママで自分勝手な彼女の数少ない弱点がお母さんです。基本は放任主義ですが、本当に悪いことをした時にはきちんとしかるお母さんなら、女の子の日記を盗み読みした事をきつく叱ってくれるでしょう。

 しかしそれまでどうしようか。少女と顔を合わせたくない女の子は悩みます。今すぐ帰って部屋にこもっておかあさんが帰ってくるのを待とうか、それとも夕方まではどこかで遊んでいた方がいいでしょうか。

 

「なんだよ、こんなところで何してるんだ?」

 

 その時です。声をかけられた女の子はびくりと体を震わせました。恐る恐る声をした方に目を向けると、のそのそと近づいてくる大柄な少年の姿が目に入り、女の子は困った様子で眉をひそめました。

 出来損ないのクマのぬいぐるみのような彼の事を、女の子はよく、という程ではないけど知っていました。この辺りの子供たちの間では有名な乱暴者で、女の子も何度か髪の毛を引っ張られたり買ったお菓子を奪われたりしたことがあったのです。

 

「なんでもないよ。気にしないで」

  

 そう言いながら女の子はもし日記帳に気づかれたらどうしようと、気が気ではありませんでした。

 女の子は我慢が得意だったので大抵のことなら我慢できます。お菓子を奪われても、バカにされても、ニコニコ笑っていられますし、そうしていればほとんどの場合、相手が飽きてどこかに行ってくれることも経験として知っています。だからいつもなら、少し運が悪かったで済ませてしまったでしょう。

 でも今はタイミングが悪いと言わざるを得ません。

 

「お前、面白そうなもの持ってんな」

 

 悪い予感は的中しました。

 不安にかられて身じろぎをする女の子が抱えている日記帳に男の子が気づいて、興味を持ってしまったのです。

 慌てて女の子は体をひねり日記帳を隠しました。そんな事をしたら却って男の子の興味を引いてしまうだろう事はわかっていましたが、彼から逃げ切れるほど足に自信のない女の子には、それしかなかったのです。

 

「なんだよ、その生意気な態度は。ほら、見せてみろよ」

「いや!そこのリュックの中のお菓子ならもってっていいけどこれはダメ!ぜったいにみせない!」

 

 無遠慮に掴みかかってくるいじめっ子の手に奪い取られないよう、抱きしめるようにして日記を持つ手に力を込めながら女の子は大声で叫びました。

 姉妹に見られるのですらあんなに嫌だったのです。それをよく知らないよその男の子に見られるなんて冗談ではありません。

 いや、それどころか一度奪われたらもう手元に戻ってこないのではないか。そんな恐怖が頭の中いっぱいに広がって、日記を持つ女の子の手には更に力がこもります。

 そんな女の子の当然の反応に、しかしいじめっ子は眉を釣り上げました。いつもなら自分の言う事を何でも聞いて、お菓子を取っても、小突いて突き飛ばしても、ヘラヘラとバカみたいに笑っているだけの女の子が、自分の言う事を聞かないどころか反抗をしてくるとは思っていなかったのでしょう。こうなればリュックの中身なんて知ったことじゃないと言わんばかりの勢いで日記を奪おうとしますが、女の子も必死です。意味のわからない大声を上げ、手だけでなく足まで使って、なんとか彼を追い払おうと奮闘します。

 

「お前ぇ……!俺が見せろってんだからぁ……!見せろっての!」

「あ」

 

 とうとう業を煮やしたのか、いじめっ子は見せつけるように拳を握り、それを大きく振りかざしました。

 逆らえば殴ると雄弁に語ってくる、目に見える形での暴力に、女の子はびくりと体を震わせました。まるで痛い注射をされる前みたいに、怖くて目を背けたいのに怖くて痛いだろう(それ)から視線をそらすことができません。

 今からでも日記を渡せば、痛い思いはせずに済むかもしれない。頭の中でそうささやく声がして、しかし彼女はそうしようとは思えませんでした。

 日記にこだわったから姉妹とケンカすることになって、その上今こんな目に合っているのに?声は更にささやきますが、それでも嫌なものは嫌なのです。誰かのためなら自分の我慢は我慢とも思わない女の子にも、我慢の限度というものはあるのです。

 それは、人が良すぎていつも損をしてしまう女の子が、いじめっ子に対して始めて示した反抗でした。それで相手を怒らせることになっても、痛い思いをすることになっても、譲れないことはあるのだという決意の現れでした。

 だから女の子は、泣き言が漏れそうな口をぎゅっと引き結び、精一杯目を険しくして男の子を睨みつけます。可愛らしくも勇ましいそれは、しかし思い通りにいかない状況にイライラを募らせていたいじめっ子の激情に火を付けるには充分すぎるものでした。

 

「〜〜〜!!!」

 

 いじめっ子が、意味をなさない、獣のような声でわめくのを、女の子は黙って見ていました。きっと数秒後には腹いせもかねて、あの握ったままの拳を自分にぶつけてくるでしょう。

 

(ああ。あんまりいたくないといいなあ)

 

 覚悟はしたつもりですが、それとこれとは別物です。痛い思いをせずに済むならそれに越したことはありません。ですがそれはきっとかなわない事なのでしょう。

 何回殴られるのを我慢したら、いじめっ子はあきらめてくれるかなと諦め混じりに考えながら、女の子は彼が拳を振りかぶるのを見つめ――

 

「テメー、なにやってんだ!?今すぐそいつから離れやがれ、カスが!」

 

 その時鋭い声があたりに響きました。女の子の覚悟も諦めも知ったことかと蹴っ飛ばすような、傲慢で力強いその声の主のことを女の子はよく知っていました。

 

「トリス!?」

 

 不機嫌を絵に書いたような表情で、ぜえはあと荒い呼吸を繰り返しながら、その少女はずかずかと女の子たちの方に近づいてきました。ギラギラと剣呑な光を放つ目で射殺さんとするようにいじめっ子を睨みつけています。

 

「な、なんだよ、お前。なんの用だよ」

「あん?私がアンタなんかに用事があるわけないじゃない。というか見ているだけで不愉快になるから、今すぐ私の前から失せろ、ザコ。見逃してやるから豚はとっとと豚小屋に帰ればいいわ」

 

 突然の乱入者に戸惑ういじめっ子の問いかけに対しても、少女の返事は容赦の無いものでした。女の子たちの母親が聞いたらさすがに眉をひそめるのではないかというくらいに、乱暴な言葉が次々飛び出し容赦なくいじめっ子に襲い掛かります。

 姉妹として、少女のそんな言動に慣れているはずの女の子ですらあっけにとられる程の言葉の暴力。いじめっ子は最初は何を言われたのかわからないといった感じで立ち尽くしていましたが、自分がバカにされていることを理解すると、さっき女の子に怒ったときと同じくらいにその顔を真っ赤に染めると少女につかみかかりました。

 

「トリス!」

 

 助けにきてくれた少女がふっとばされる光景を幻視して、女の子は悲鳴を上げ、そして少女はーー

 

「あっは」

 

 とても。とても愉しそうに笑いました。

 そして次の瞬間。いじめっ子の手が届くより早く、地をこするようにして少女の足が弧を描きました。一体どこで身につけたのか、稚拙で未熟で、だが彼女の年齢を考えれば充分以上の美しさと鋭さを兼ね備えたそれは、まるで刃のように体格で少女を上回るいじめっ子の足を刈り取り、容赦なく地面に叩きつけました。

 

「あらあら、どうしたの?ママにヨチヨチ歩きのやり方も習わなかったの?それとも教えられたことを覚えられないスポンジみたいな頭をしてるの?可憐な美少女に殴りかかっておいてすっ転ぶとか、そんなみっともないマネ晒して恥ずかしくないのかよ?」

 

 少女に苦もなく転ばされたのが信じられないのか呆気にとられるいじめっ子に追い打ちをかけるように、嘲る少女の顔には嬲るような笑みが浮かんでいます。自分の絶対有利を確信し、その上で格下の相手を嬲る喜びに満ちた嗜虐的なそれは、いつも女の子が見ているものと同種で、それでいていつもと何かが決定的に違うものでした。

 

「これで少しは身の程ってのがわかったでしょ?だったらさっさと尻尾巻いて逃げやがれ。私の(モノ)に手を出そうとしてこの程度で済ませてやるんだから感謝しなさいよ、豚」

 

 いじめっ子を見下ろす少女の顔からまるでスイッチを切ったように笑顔が消えました。冷たい光をたたえていじめっ子を見下す目だけが、彼女の怒れる内心を何よりも雄弁に語っています。

 気分屋で癇癪持ちな彼女が怒るのは珍しいことではないですが、今日は本気で怒っている……。そのことに気づいた女の子は、知らずぶるりと体を震わせました。

 そばで見ているだけの女の子ですら、そう(・・)なのだから、正面から見据えられているいじめっ子はたまったものではなかったのでしょう。さっきまで激高していたのが嘘のように青ざめた顔で立ち上がると、大慌てで逃げ出してしまいました。少女に引っ掛けられた足をかばうようにひょこひょこと逃げていくその様子に「ふん」と少女は鋭く鼻を鳴らしました。

 

「逃げっぷりは無様で面白かったわね。何度も見たいほどじゃないけど」

 

 いじめっ子が戻ってこないか、見張るようにしてその背中を追っていた少女は、そう言って忌々しげに舌打ちをすると女の子の方に向きなおりました。

 

「ムカつくのはあんたもね。考えなしに飛び出すからあんなクソ野郎に絡まれるのよ。わかってるの、バー子?」

「……うん」

 

 返す言葉もなく、女の子はうなずきました。飛び出すことになった原因を作ったのは目の前で偉そうにしているこの少女にあるのですが、自分が衝動的に飛び出したのは事実だからです。しかしいつもならここぞとばかりに馬鹿にしてくる少女はなぜかバツが悪そうにだまりこみました。

 

「あんたは本当に……。謝るきっかけとかさァ、そういうのも考えろよな……」

「?なにかいった、トリス?」

「なんでもない………。ほら、いつまでもへたり込んでんじゃないわよ」

 

 ほらと突き出された手を反射的に握ると、女の子はそれを支えに立ち上がろうとしてーー

 

「あ。しまった〜」

 

 なんだか妙にわざとらしい声と共にぱっ、と手を離されて、尻もちをついてしまいました。痛むお尻を撫でながら、意地悪そうに笑う少女を睨みつけます。

 

「なにするの!トリスのばか!」

「ワザとじゃないわ、うっかりしてただけよ。ごめんねー。ほら、謝ったんだから機嫌なおしなさいよ。今度は気をつけるから手を出しな、バー子」

 

 なぜかスッキリした様子で改めて差し出してきた少女の手を恐る恐る握ると、それを支えに女の子は素早く立ち上がりました。幸いまた手を離されるようなことはなく、女の子はほっとしながらぱんぱんと、お尻についた砂を払いました。それから思い出したように日記を裏返したりして状態を確認してから、ほっと息を付きます。

 

「よかった、やぶれたりしてない」

 

 そう言いながら抱きかかえるように日記を持ち直した女の子に、少女が声をかけました。気のせいでしょうか、面白くなさそうなしかめっ面に少しだけ気まずさが滲んで見えます。

 

「そんなに大事な物なら、引き出しの奥なんて不用心なところにしまってんじゃねーよ。だから盗み見なんてされるんだろうが」

 

 少女が口にしたのはツッコミどころの塊のようなセリフでしたが、この場でただ一人ツッコミを入れられる女の子は黙ったままでした。あえてツッコまないのではなく話を聞くのに集中しているようで、少女もそのまま話し続けます。

 

「鍵付きの箱でも買ってそこに入れときなさいよ。それなら私も、じゃない。誰も勝手に読んだりできないわ………鍵の管理をきちんとしないといけないけど」

「――それって、お姫様の宝石箱みたいなの?この間読んだ漫画に出てた!でも高そうだからわたし、買えないかも………」

「なんで宝石箱なのよ。そんなんじゃない、ただの鍵付きの箱でいいの。心配しなくてもあんたでも買える位の奴なんてたくさんあるわよ」

「本当!?」

 

 少女の言葉に女の子の表情がパッと明るくなりました。日記を買うのに貯めていたお金をほとんど使ってしまった女の子にしてみれば、それはとても大事なことです。

 そんな女の子の反応に、なぜか少女はどこか呆れた様子でため息を一つ付きました。

 

「そんな事で嘘つかないっての。……なんなら、帰る前に少し寄り道して見てみる?お金が足りないのなら少しだけなら出してあげてもいいわよ」

「え、いいの?」

 

 女の子は驚きました。少女の買い物に女の子が付き合わされることはあっても、女の子の買い物に少女が付き合ってくれることなんて滅多にないことだったからです。しかもお金を出してもいいとまで言うなんて。明日は雨かもしれないから傘を持っていかないと、なんてそんなどうでもいい考えが頭の隅をよぎります。あるいは本気にした自分をバカにするつもりなのかもしれません。なら断ったほうがいいのかも。   

 さっさと歩き出した少女の背中を見つめながら女の子がそんな事を考えていると、少女がくるりとこちらに振り向きました。

 

「私がいいって言ってるんだからいいんだよ。ほら」

 

 そう言いながら少女は女の子の方を見ようともせず話し方はぶっきらぼう。よく見てみるとその頬は赤く染まっています。それはまるで妹に慣れない世話を焼く姉のようで、そう思いついた途端、女の子はなんだか嬉しくて嬉しくて仕方なくなってしまいました。

 

「ーーなんかムカつくからヘラヘラ笑うな、もう!……ほら、いくわよ。バーヴァン・シー」

「うん、トリスタンおねえちゃん」

 

 そう言って女の子(バーヴァン・シー)がいたずらっぽく笑ってみると、顔を赤くした少女(トリスタン)もしかめっ面を崩して小さく笑いました。

 そうして、似ているのか似ていないのかよくわからない双子の女の子は、手をつなぎ軽やかに駆けていきました。

 

                      おしまい

 




おまけ
モルガンさんちの妖精(ひと)たちについて

バーヴァン・シー
モルガンさんちの双子ちゃんの片割れ。女の子の方。
とろくさいけど真っ直ぐで優しい女の子。
危なっかしいところはあるが保護者や友人に恵まれていることもあり、本気で洒落にならない目にはあっていない。
度の過ぎた人の良さそのものも改善されつつある。

トリスタン
モルガンさんちの双子ちゃんの片割れ。少女の方。
意地が悪いけど、なんだかんだでいい子。
年上ぶっているが実は学校の成績はバーヴァン・シーとどっこいどっこい。でも興味のある事には努力を惜しまない。
一流の靴職人になって自分のために世界一の靴を作るのが夢とか。

モルガン
双子ちゃんの母親。世界的企業の経営者。
ぶっきらぼうで誤解されやすいが大の家族思い。
お手伝いさんと時々遊びに来る友人たちの助けを借りながら、会社経営者と親という二足のわらじをこなしている。

ライラック&ウッドワス
愛称はラッくんとウーくん。
物静かと気取り屋な、モルガンさんちの番犬コンビ。
知らない相手が寄ってきたら黙って距離を取るのがライラックで唸り声を上げるのがウッドワス。
モルガンが大好きなのは同じ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。