「……えーっとですね、まず最初に説明するとですね」
あの後、なんやかんやあってタケルさんが精神をすり減らして燃え尽きたボクサーみたいになってしまったので偶然、この辺りを通っていた馬車に乗せてもらって近くの村に戻る事になりました。やっぱりアレでしょうか、引きずったままオーク二体とリアル鬼ごっこしたのが原因でしょうか。低確立の相手に追い回されるなんて夢の様な(悪夢とも言います)展開ですが、転生者にはこの手の展開は付き物なのでそこんところは理解してもらいたいです。分かりやがれ。
「まず、私はタケルさんと同じ転成者であって、転生の神様にしばらくの間は同行する様に言われたので___聞いてます?」
「……」
馬車の席の向かいに座っているタケルさんに声をかけますが、まるで反応しません。目も三マイル先を見ている様な感じで俗に言う「魂が抜けちゃった状態」になってます。
「おーい、目を覚ましてくださーい」
「……」
「……仕方ないですね、こうなったら目覚まし手刀で___」
___ガゴンッ!
「___っ!」
「わっ!? な、なんだ!?」
手刀のモーションに入ったところで突然馬車全体が大きく跳ねた様に揺れて止まりました。今の衝撃でタケルさんも目が覚めた様で辺りを見回しています。まあ、今ので起きない方がおかしいですが。
「……着いた、訳じゃないよな」
「変ですね。何かあったんでしょうか?」
この馬車は旅人を村まで運ぶ役割があるのでアーチの形をした布製の屋根と後方以外に布製の壁が取り付けられており、私達は馬車の後ろしか見えないので降りることにします。なんか前方が騒がしいのですが……これはもしや、
「おい見ろよ! やっぱり居たぜカモどもがよ!」
……出ました、男が四人。それぞれが装備している防具は無理やり奪い取ったかの様に傷だらけ、変に補強した跡。西洋風な鉄製のアームに胴体の革製のレザーメイルなどの統一感のない装備。間違いありません。
「盗賊!?」
「あらら、いきなり厄介なのに当たりましたか。やはり突然のアクシデントは転生者にとって避けては通れない道なんでしょうかね?」
「何呑気な事言ってるんだよ! だが、確かにあいつらをどうにかして案内人を助け出さないといけないな」
後から遅れて降りてきたタケルさんの言っている通り、馬車の馬を扱える案内人の老人が囚われてしまっているのでどうにかして助け出さないと馬車を扱うどころか、村に着く事すら困難かもしれません。……布団の柔らかさを覚えてしまった身では野宿は嫌なんですよ。
「カモが二人だからシケてんなとか思ったらこのガキ、いい武器持ってんじゃねーか。何処ぞの勇者のお使いか? ボウヤ」
「なっ……! 誰がボウヤだ!」
盗賊の煽りに反応したタケルさんの前に腕を出して止めます。しかし、どうしてこう筋肉質でない女の子の腕一本と言うのはこんな時に頼りないのでしょうか。もうちょい、電信柱ぐらいに太かったら頼り甲斐があるのでしょうけど。
「おい、止めようとすんじゃねぇ。あんたが誰だか知らないが下がってろ!」
「その発言が怒りで冷静な判断が出来ていないのか、紳士的な物から来るのかは知りませんが今のあなたの状態じゃ厳しいです。相手は野良の兎と違って多くの経験を積み重ねている盗賊です。もちろん、あの装備から見て襲った人間の数も多い訳ですし私らを殺す事に躊躇いは無く、寧ろソレに快感を覚えてるかもしれません」
「だったら何だよ! 俺は大人しく指を咥えて待ってろってか⁉︎」
「いえ、そんな事はさせません」
私はこの世界で言う普段着の袖を捲って盗賊達を身捉えます。
「ほう、この女はなんだ、結構可愛いじゃんか。___お前ら! こいつは殺さず生け捕りだ!」
どうやらリーダーらしき男が私を見てそう命令を下します。生け捕りってあんた……ゴブリンじゃないんですし、その言い方はどうなんですか。
まあ、今の命令に関しては、私が女の子だったら嬉しさ半分、迷惑半分だったのでしょうが、見た目は子供(ロリ的な意味では無いですよ絶対に)、頭脳は男と言うお前は何処の探偵だと指摘されそうな今の私にそれは火にガソリンを注ぐ様な物です。殺意が人間を超越できるレベルで沸き起こりそうです。
「先に言っておきましょう、脅し、誘惑、交渉、マス○ーボール、飴玉。どれを使っても私には無意味です」
「そうかいそうかい、まあ、攫って行くんだけどねぇ?」
そう言って近付いて来る男に取り出した長方形の箱___携帯電話を向けます。携帯電話の短いアンテナを向けられても男は一切動じませんが仕方ないでしょうね。この世界では携帯電話は存在してませんし只のガラクタにしか見えてないと思いますから。
「おい⁉︎ 携帯なんて向けてどうすんだよ⁉︎」
「大丈夫ですタケルさん。杖づかっ……携帯使いの基本は確かビューン、ヒョイ、でしたね___
私はそう言って携帯電話の決定ボタンをピッ、と押します。すると携帯電話のアンテナから黄色い光が矢の様に真っ直ぐ男に向かって飛び出します。
「___アベベべべべべべ⁉︎」
男に命中した途端に光は弾けて男を包む様に電流として流れます。被弾した男は大の字で後ろに倒れてピクピクと痙攣していました。なんかカエルの死体に電流流す実験を思い出します。
「な、なんだよ今の⁉︎」
「私の携帯ですよ。最近新しいアプリを入れてみたので使ってみたのですが、思ったより使えそうですねコレ」
「あ、アプリって……ガラケーなのにアプリって……」
「そんな事よりタケルさん」
カエルのポーズで白目剥いて倒れてる男の腰から一本のナイフを頂戴してタケルさんに投げ渡します。そーれっ。
「お、おまっ⁉︎ ナイフを投げ渡すな! 今手で止めてなかったら絶対刺さってた‼︎」
「さてさて、そんな事よりタケルさん」
「なんだよ⁉︎ 人を串刺しにしようとして‼︎」
「そのナイフ、どう思いますか?」
「へっ? ナイフ……ナイフ……なんか仕掛けでもあるの、これ?」
「はい、貴方にとっては只のナイフです」
「んだよそれ⁉︎ あんな感じに聞いといて只のナイフです、は無いだろ!」
……彼のサブ職業は魔術射撃手でしたね。
この世界の魔術射撃手とは武器を杖の代わりにして簡単な中遠距離魔法を放つと言う剣士の短所を補える職業で、魔法の種類や威力などの性能は武器に依存するのも特徴です。ただ、元から魔法を扱わない職業では魔力がすこぶる少ないのであまりにも多い連射は無理ですし、他の魔法を扱う職業と比べてみると性能もイマイチなので希少な職業です。跡継ぎ不足的な意味で。
「タケルさん、試しにそれで魔術射撃を行ってもらえます?」
「えっ、……俺、この職業苦手なんだよ……」
おい待て、ならなぜその職業にしたんですか。……まあ、その原因は資料見た時からだいたいわかったんですけどね。
「そのナイフ、今までの剣に比べてどうです? 軽くて狙いをつけやすくないですか?」
そう尋ねるとタケルさんはナイフを振って火属性の魔弾を飛ばします。ああっ、倒れている盗賊に命中しましたよ。なんて惨い、今のは完全に死体蹴り行為ですよ。
「___おおっ、本当だ! 手が重さで震えないし魔力を込めやすい!?」
……やっぱりですね。
「よし、タケルさん! これから毎日盗賊を焼こ___おおっと、失礼。それで盗賊を蹴散らしますよ!」
「うっしゃあ‼︎ さっき馬鹿にしたお返しだ! ドンドンやってやる‼︎」
毎日ドゥンドゥンヤろうじゃねぇか、ですよっ。
「……いやー、一時はどうなるかと思いましたよー」
「お前、一時たりともなんとも思ってなかっただろ……」
過程は消し飛んで現在、帰還した村の食堂のテーブル越しにタケルさんは顔を引き攣らせて私にそう突っ込んで来ます。まるで私が世紀末のテンションで無双したかの様に言いますが、こっちは携帯で攻撃したり裏拳叩き込んでいただけであって、魔法でサンドバックの様に盗賊を撃ちまくったタケルさんよりは優しいですよ。
「……相手を羽交い締めして『さあタケルさん! 威力の調整の難しい魔法の的からアヤシイ薬の実験まで、自由に試しても良いんですよ!』なんて言った奴が言うか」
あらら、心の声が垂れ流しでしたか。
「……で、だ。なんだかんだで聞き出せなかったが、一つだけお前さんに聞きたい。なんで俺の名前を最初から知っていた? 多分お前さんは転生者だろ? 何故俺について来る様な行動を取ってる?」
「一つだけ聞きたいって言っておきながら質問が二つになってますがまあいいでしょう。貴方の察した通り私は事情の異なる転生者。そして貴方の名前も職業に魔術射撃手があるのも、バカみたいに重い剣を使ってるのも、脳筋なのも全て知ってます」
「……今のセリフ悪意があるだろ、絶対」
「そして私が貴方に関して無駄に知っている訳として、神様に貴方のお助けを頼まれて此処に来たのです」
「……は? 神様? もしかして転生の時の?」
「はい、何時もシリアルばっか食ってる___失礼、あの白い髭禿げです」
私はそこで一度咳払いして仕切り直します。指をビシィ! なんて効果音が付きそうな勢いでタケルさんに突き立てます。
「転生の神様から頼まれた事。それは貴方が一人前になるまでビッチリ鍛える事です」
「ゑっ。なんで? 何でお前さんが俺に? お前だって元は唯の学生か一般社会だったんだろ?」
「私に聞かないで下さい。そもそも転生した人って大抵一般人じゃないですか。それに、神様が勝手に決めた事なんですよ……」
私がそう言うとタケルさんは下を向いて腕を組み、ブツブツと般若心経の様に何かを呟き始めました。まるで神様が勝手に決めた様に言いましたが、実際も転生したはずの私に神様が勝手にこんな仕事を言いつけてきた様な物なので嘘は言ってないです。と言うか、拳のマシンガントークだけで納得して仕事を引き受けている私はまだ優しいのです。
「……わかった。ただし、お前さんは俺を鍛えるとか言ってたが基本は俺に同行しているって形でな」
「はい、ありがとうございます」
私がそう答えたと同時にタケルさんが何かを閃いた様でこちらに手を出します。握手でしょうか?
「一緒に行動するんだったらまずは自己紹介からだな、俺はタケル。剣士と魔術射撃手をやってる、よろしくな」
ああ、そう言うことでしたか。中々礼儀正しい人ですね。
「
そこで私に電流が走ったかの様な、’私にも敵が見える‘みたいな感じに酷似した感覚がしてちょっと冷や汗を流します。
……あらら、そういやそうでした、イケネ。
「……うあーっと、けーたいがでんぱをじゅしんしたので、ちょっとしつれーしますねー」
そう言って離脱。いや訂正、逃走しました。そしてメールアドレス欄から神様のメールアドレスを選択して応答を待ちます。
「___単刀直入に聞きます、私の名前はなんですか」
『……せめてもしもしぐらいは言わせてよ、読者さん方も何が起きたかわからなくなるじゃん……そして名前?』
「そうですよ! コレを含めてもう四話だと言うのに振り返ってみると‘あんた’とか‘君’とか___絶妙に誤魔化されてましたけど、考えてみて四話目でも名前が明らかになっていないのもアレですよ? ’レア’ですよ⁉︎ 連載して初登場から記憶喪失で半年近く名無しだし、おまけに現在は四部の主人公と同音の名前の人はいますがそれとこれは別なんですよ! 家は家、外は外ですよ!」
『い、いやいやそんな事を言われても___あ、いや違うよママ! 彼女さんじゃないから!___と、兎に角名前は君が決めてくれ! 頼むよ!』
それから携帯はツー、ツー、とした虚しい音しか聞こえなくなりました。神様のお母さんが来てたんですか、おのれ逃げおったな転生神め。
「……? おい、なんだ今の」
にっくき神様に呪いどころか祟りのメールを30件程送りつけながらテーブルに戻るとタケルさんがそうたずねてきます。
「いえ、突然の退室失礼しました。私の名前ですが___」
そこで一度咳払い。ポク、ポク、ポク、とリズミカルな和の音が頭の中に響きます。懐かしいですね、日本。
チーン。
「……名前など……ない」
「私の名前ですが名前などないってどう言う意味だ」
……ダメでした、この誤魔化し方はわりと閃いた方なのにダメでした。豆電球どころかLEDが点灯するレベルの閃きでしたのに。
「……まあ、その……
「何をだよ⁉︎」