それでは、どーぞ!
「……ふぁああっ、夕べは快眠でしたね……わりと寒くありませんでしたし、この気温なら万が一の野宿も問題無いでしょうね」
ベッドの上で天に向かって腕をピンッ、と伸ばしますが、リーチが短いので物凄い違和感を感じます。前世との差が明確でこれをなんと言い表したら良いかわからないってかあのクソ転生神シリアルジジイめ。
あの後、私はタケルさんに同行許可をいただいて目的無しに村を歩き回り(取り敢えず無駄に長い散歩だと受け取っておきます)、宿にチェックイン。そんな文にして数行と言うオマケ感覚で説明出来る様な時間を過ごしました。
私がモゾモゾとベッドから出て木の板で縁取られた窓をアルプスの少女の様に開けると、そこには広々とした小麦畑が広がってました。しかも全て黄金色で波の様に揺れているので転生前の感覚が残ってる身としては感動もんです。見渡す限りの黄金の海なんて日本に生きてる限り、こんな黄金体験は不可能ですよ。
「……さて、私が隙間の無い畑に感動しているのに対してタケルさんはどうしてるんでしょ〜か?」
そう問い掛けるかの様に小声で言いながら私は窓側のベッドでイビキをかきながらだらしなく寝ているタケルさんに近付いて、顔に向かって拳を大きく振りかぶって……
「___せいっ」
……寸止め。顔に風圧を受けたりしてもこうして動じないところからやっぱり寝ている様です。
因みにですがたまにコレ、寸止めミスってうっかり相手に鋭い痛みがゆっくりと伝わったりします。それはそれで黄金体験ですが。
タケルさんの意識が夢の中な事を確認した私は速やかに携帯を取り出して開きます。仕事を始める前に神様の仕事仲間さんからいただいたメールを開いてみます。
「……『ヒロインのテンプ
書いてあった内容を見て思わず私は
「私も
私が言った通り、修行はもう既に始まっとるのです。別に顔に影が差して表情がにやけてるのは気のせいです。私はポケットからコードで絡まった物を取り出します。
「今こそ、世代の波に飲まれつつあるガラケーの本気を見せてやりますよ……」
取り出したコードの末端部分を携帯の穴に差し込んで準備完了です。携帯と接続した部分の反対には二手に分かれたコード。その先にはなんとも言えない形状。強いて言うと……耳の穴にちょうど入る大きさ。オブラート引き剥がして言うとイヤホン。
それをタケルさんの耳にセット。携帯の設定画面で右矢印を恐ろしい速度で連打して音量を跳ね上げさせます。
あとはミュージックから音楽を選択。
スイッチポンだ、です。
「_________ぎゃああああああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? なんだぁああああああ!? 耳の中がァ! 耳の中で何かが不協和音をおおおおおおおおおおお!!」
突然流れ込む音の激流の集中砲火にタケルさんは飛び跳ね、そのままシーツの上をのたうちまわってからトドメと言わんばかりのベッドからの落下による
「タケルさーん……朝ですよー……」
私は朝にバズーカをぶっ放した後恒例の挨拶の様に静か〜に告げます。が、
「だああぁぁあああああ!? 耳がぁ!? 耳がああぁぁあああああ!?」
ワタシの言葉なんぞ耳に届かず、タケルさんはピンボールの様にベッドと壁を何度も跳ね返るかの様にぶつかります。スコアが凄く美味しい事になっていそうです。
「……なんてスコアラーな意見を述べてる場合じゃありませんでした。ここで会話が成立しないのは厄介ですし、やりますか……」
私は携帯を開いてアプリを選択します。回復魔法を選択してからビューン、ヒョイ、と振るって唱えます。
「___ホイミ!」
懐かしさを感じる音が(携帯から)したと思うとタケルさんのピンボールが徐々に穏やかな物へ変化してやがて止まりました。完全に治った後でもタケルさんは「助けてもらったけど納得いかん」とでも言いたそうな顔をしています。
「……助けてもらったのに けど納得いかん……!」
……あ、本当に言うんですね。
「___さて、タケルさん。前日言った通り、早速修練を始めますよ! 私は貴方を鍛える為なら
「……アカンこれ」
場所はぐるっと変わって村の近くの平原。そこで日本人の観光客の様な格好をした女の子と足軽もビックリな程に軽装備な剣士の図が出来上がっていました。
「……って言うかさ? 一体何を修練する訳だ? 普通、修練と言えば剣の試合とかだろうが、それだと剣とかを使ってないお前は無理じゃないのか?」
「いえ、結構いけますよ? 格闘術は基本我流ですが、対武器ならある程度ですけどちゃんとしたのを知ってるんです。おかげで魔法の次に格闘が得意なんですよ? 例えば、一夫多妻去勢拳とか」
「おいやめろ、俺を再起不能にするつもりか」
「私を除けばハーレム展開は許可します」
「違う、そこじゃない」
流石にその手の事はしませんけど、少し冗談が過ぎたかもしれません。実際にタケルさんが嫌な汗を流しながら後ろににじり下がってますし。そこまで警戒しなくてえーっちゅうねん。
「……と言うか、そもそも貴方には剣を振る以前にまず根本的な物が足りません!」
「なんだと? 根本的な?」
「ええそうです。そうですとも! そしてそれは___っ!」
……ふぅ。
「……はいタケルさん、言ってみてください」
「えぇえ!? 今の流れから俺!? どうみても今のはお前……まあ良いや。んで根本的な物……?」
タケルさんは手を顎に当てて考えます___が、すぐに頭を掻いて思考を停止させてしまいます。蒸気機関車の様に白い煙をもくもくと発しているのは愉快なのか残念なのか。
「あのですね、一つ申し上げさせていただくとですね。私が今まで見てきた転生者は王道な物で魔王を倒すとか、何か大きな事をやろうとしているのです」
ですが、と一度そこで台詞を切り、
「貴方は何も
私は異議のあるポーズでタケルさんを指差してそう叫びます。すると思考停止してたタケルさんも復活しました。
「目的って……そんな無理に決める必要は___」
「あります。せめて目標でもいいから決めてください。いいですか、人間は目標を持たなければまともな生き方を出来ません」
しかも、と一度そこで私は台詞を区切ってキッと目を鋭くして拳を握りりながら肺に空気を入るだけ入れて___
「___しかも、貴方は転生者! 知ってます? 転生者の行動や生き様はたとえ一ヶ月の内容や数週間の内容だけでもえらく濃密なんですよ。そうっ、
「お、おう。なんか危ういラインを超えそうな気がしたが取り敢えず熱意は伝わった。超伝導する程に」
「熱意が伝わったわりにはマイスナー効果が起きる程に超クールじゃないですかそれ」
なんやかんやと長い説明がありましたがこれでタケルさんが理解してくれるなら良いのです。
「うーん、だとしても目標ねぇ……どうしよ」
「出来れば目的もお願いしますね? 目標は弓で言うと標準、つまり最終的な結果を目指す為の通り道だと考え、目的は弓が捉えて矢が射抜く為の的。つまり最終的に自分がどの様な道を進むかを決める物だと考えてください」
しばらくしてタケルさんは深く息を吸い込み大きく吐き出します。そしてキッと目を鋭くして拳を握り___
「___駄目だ、全く思い浮かばんわこれ!」
___意気込み諦めを語りました。ダメですこの脳筋転生者、私がなんとかしないと……!
いっその事、頭を地面にパーンさせて
「うーん……ってかさっきこの変な子、『今まで見て来た転生者』って言ってた様な……どう言うこと何だろう?」
何かをボソボソと呟くタケルさんに気付かれない様に携帯を背中に隠して開き、何時も扱っている手の直感を頼りにアプリを起動します。そのまま小声で唱えながら携帯を振り、
「___
唱えた事によって軽い風___突如机の上の物が転がる程度の風が吹き、落ちていた紙を巻き上げます。宙を舞った紙は風に身を任せて飛び立ち___
「___ギャッ!? な、なんだなんだ!?」
顔面に舞った紙がタケルさんの顔面にシュートされます。影でこっそり良い顔を作って『計画通り』と言わんばかりの表情を浮かべます。
「……なんなんだよこの紙、誰が捨てたんだよ……ふんっ」
「あ''っ」
私の期待を無視して顔面に張り付いた紙をポイと捨てるタケルさんを見て思わず声が出てしまいました。コイツ、本当に転生者なんでしょうかこの全自動フラグ割り機もとい、ルールブレイカーは。
と言うか今の行動で私の中で何かがプッツンと音を立てて切れました。決定的な何かが。
「……
チョチョイと複雑な型を携帯で振り、そう唱えると一点___紙に突風が空中で細切れに分解させんとばかりに当たり、
「___ブベラッ!?」
……ぶっちゃけあり得ない動きで真っ直ぐタケルさんに突き刺さります。ちょーえきさいてぃーんぐ。
私の中で切れた物。以外ッ、それは堪忍袋の緒でした。
「なっ……! んだよこの紙!? 俺かもしくはこの紙は呪われてんのか!?」
今度こそタケルさんは紙を手に取り中身を見ます。すると怒りを浮かべていた顔がパッと別の顔に変化します。
「……何、闘技? チームと共に戦い抜け? んだこりゃ」
「……ふむ。どうやら、あと数週間後に大会が開かれる様ですね」
紙を見ると一番上に『集え強者ツワモノ! 闘技大会開催!』と赤く太い字で書かれていてタケルさんは疑問を顔に浮かべます。
___闘技大会。
この異世界に来る前から事前に調べた内容ですが、此処から東へ数百キロかそんなぐらいの場所に都市が存在し、1年に数回不定期で大会が開かれる様です。詳しいところは流石の私でも完全に把握してませんが、一位のグループには多くの賞金が送られるのだとかそうでないとか。
タイトルに闘技、と堂々と載っていますが、これは戦うことを指すわけで肉弾戦を強いるわけでは無い___つまり、魔法やら妖術やらと戦闘用の技術を使うならルールに反しなければなんでもありなのです。
そんな死人は出てないけど何時出てもおかしくないと言われる闘技大会。因みに、そこには勿論ツワモノが集まる訳ですし、転生者がそんな美味しそうな餌を前に飛びつかない訳が無いわけで……
「……そう言えばまだ貴方は目標を持ってないんでしたよね?」
「ん? おう。___ってま、まさか……?」
私はタケルさんの手から紙をピッと抜き取って今度は自然によって流れてきた風にその紙を流します。数秒ぐらいでそのまま流されて見えなくなりましたが今は関係ありません。
「……ところでタケルさん? 今、私が思っている事がわかります?」
タケルさんはまるでこれから何があるのかがわかっているとでも言うのか、少し青ざめた顔で引きつった苦笑いを浮かべていました。
「___さあ、タケルさん。これを機に強くなって目的を得ましょう?」
「……嘘だろ、コレ…………」
目的、______