水星のミホシ   作:トリケラプラス

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2 話 隊長会議

 水麗都市オオサカその中心地に巨大な要塞のような建物があった。

 

 この都市を炎から守るナニワ消防署。その本部である。

 

 

 

 暗い廊下を進む者がいる。黒い防火服を纏ったその身は周囲の風景と同化しており辛うじてその長い蒼の長髪が揺れているのを確認できるのみであった。

 

 ミホシである。彼女は先ほどの事件を本部に報告した後、開かれる会議に参加しに会議室へ向かっていた。その時だ、

 

 

 

 「おいミホシ」

 

 「おひさ~派手にやったねぇ。みぽしぃん」

 

 

 

 後ろから声を掛けられ振り向く。すると二人の女性が並んで歩いていた。二刀の刃を腰に差した長身の女性はきつく結んだ顔を一層険しくするとミホシを睨みつける。

 

 

 

 「お前。またウチの隊の得物を横から掠め取ったな。いいか。お前が来なくても我々は簡単に怪火を討伐していたし。直ぐに消火も出来た。だいたいお前はー」

 

 「ああ……すまないリノン。たまたま手の届く範囲にいたからついでに倒しただけだよ。わかっている。誰も君の隊が弱いなんて思っていないさ」

 

 「嫌味か!くそ……」

 

 

 

 リノンと呼ばれた女性は苦虫を噛み潰したような表情でミホシから顔を逸らす。それをもう一方の、無数のガンホルダーにウォーターガンの群れを差している。ピンク色の髪によく立った睫、星型の瞳とおおよそ消防官とは思えない女性が割って入る。

 

 

 

 「はいはい、リノノリそこまでー。もーダメじゃんみぽしぃん困ってるしぃー。伝えたいこと他にあったんでしょ?」

 

 「うっ、ハッピートリック……それは……」

 

 「なんだい?私にまだ何かあるのかな?」

 

 「ホラー!期待してるよ~さあさあ。バンバーン!」

 

 

 

 二人がかりの期待の目に徐々に後ずさりをするリノンであったがやがて覚悟を決めたのか顔を真っ赤にしミホシに向き直る。

 

 

 

 「ウチの隊員が……その、世話になった。三人とも命に別状はないらしい。ありがとう……それと」

 

 

 

 顔を逸らしながら懐から紙を取り出しミホシへと差し出す。

 

 

 

 「これは……」

 

 

 

 立食パーティーへのチケットだ。オオサカだけでなく全国各地から一流の素材と料理人が集まり料理が振舞われるというもので、チケットの入手も至難のモノである。

 

 

 

 「お前。確か行きたがっていただろう。たまたま手に入ったから、くれてやる」

 

 

 

 ミホシは身を乗り出すと勢いよく両手でチケットを持つリノンの手を掴み掲げる。

 

 

 

 「リノン。僕は素晴らしい友人を持ったものだね。うん。ありがとう、当日は君のことを思って食べるよ」

 

 

 

 その言葉を受けリノンはますます顔を真っ赤にし。

 

 

 

 「友……!?いらん!普通に食え!」

 

 「そうか……」

 

 「あー!ハイハイ二人ともキャッキャしてないで用が終わったらちゃっちゃいこ!はやくいかないとー」

 

 

 

 突如として会議室の扉が内から強引に開け放たれ中から強面の白い特攻服型の防火衣を着た金髪の男が顔を出した。男は一度舌打ちを打つと。

 

 

 

 「オマエらいつまで部屋の前でキャイのキャイの言うとるんや!もう始まる時間やとっとと入れ!」

 

 

 

 怒鳴り口調でまくし立てながら指で背後の会議室を指す。彼女たち以外の人間は既に集まっているようだ。

 

 

 

 

 

♦ナニワ消防署本部の会議室では9名の幹部が円卓を囲み座していた。一ノ隊から八ノ隊の隊長とそこに特例としてミホシを加えた構成である。

 

 

 

 筋肉質で頭皮の薄く、恰幅のいい40代ほどの男性。六ノ隊隊長タケトヨは口元の整ったカイゼル髭を一撫でする。

 

 

 

 「なんでもいいが早く始めてくれたまえよ。私も暇ではないのだ。この後もイベントを走る予定があるのでね。議題は、えー……なんだったか」

 

 「さっきみぽしぃんが倒した怪火についてだよ~。ともあれトヨタケちゃん、イベントでるとかマ~ジ~?」

 

 

 

 言葉に詰まったところに四ノ隊隊長ハッピートリックが答えを提示する。そこに、

 

 

 

 「騙されたらあかんぞ!このオッサンはよ帰ってゲームやりたいだけや。ちゅーか怪火ぐらいなら今までようさん出て来とるやろ。なんで今回わざわざ俺ら集めたんや」

 

 「…‥‥今回の炎はですね。弄火から怪火への変化速度が異常に早かったんですよ。触媒になる素材があるといっても、です。規模も怪火としては大きい。ちょっと放置してたら劫火ぐらいまでいってたんじゃあないですかねー」

 

 

 

  先ほど会議室の扉を開けたヤンキー崩れの五ノ隊隊長タケノリのあげた疑問にダウナー気質の七ノ隊隊長ヒカリが答えていく。

 

 

 

 それに続き黒い蓬髪の丸眼鏡をかけた白衣の男性。三ノ隊隊長キリヒコが眼鏡を上げる。

 

 

 

 「ハイ、えーとですね。更に付け加えるとここ数ヵ月出火原因不明の炎。天火の発生件数が飛躍的に上昇しています。皆さまご存じと思いますが、え~これは火夏星ひなつぼし発生の予兆とされることもあるんですね」

 

 

 

 火夏星という単語に場内には緊張が走る。それは火消しだけでなくこの世界に生きる全ての人にとって禁忌ともいえる言葉だった。

 

 

 

 炎にまつわる事件は通常四つの段階に区分けされている。炎の発生源になりうるモノが不法に発見された段階を示す。隠火。小規模の炎が発生しそれが意思を持って活動を始めた段階である弄火(ろうか)。これが成長し核を持つと怪火(かいか)になり、更に巨大化すると体長十数メートル頭部の劫火となる。いくら巨大になろうともそこどまりだ。最大の劫火であってもナニワ消防署であれば数隊連携で事に当たれば消火は可能である。しかし、何事にも例外はある。火夏星(ひなつぼし)だ。

 

 

 

 火夏星は十数年に一度各地で発生しており、莫大な規模の炎をまき散らす原因不明の災厄である。劫火とのもっとも大きな違いは規模。ではない。発生する本体の戦闘能力が他より隔絶しているのである。討伐の為には各都市の消防署が結集し数日に渡っての戦闘が必要になる。これに個人として対応できるのは世界でも唯一、

 

 

 

 「ミホシちゃんが倒したばっかりじゃなかったかしら。三年ぐらい前のートウキョウが燃えた時に。近年頻度が高すぎないかしら」

 

 

 

 水着姿の上に防火衣を着込むという正気を疑う格好の女性。八ノ隊隊長アヤセがその唯一の存在の名を上げる。

 

 

 

 「うん。確かに私はアレを殺したけど。また”直ぐに会うことになる”と。そう言っていたからね。可能性はあるんじゃないかな」

 

 

 

  ナニワ消防署のみならず全世界としてみても超絶した戦闘能力と異常な耐火能力を持つミホシは火夏星に対する最大の対抗手段となる。それはここ十五年以内に発生した火夏星は全てミホシが討伐していることが証明している。

 

 その事実に、ニノ隊隊長リノンは歯噛みの音をたてた後、追加の報告を上げる

 

 

 「また今月、地下組織火の民の目撃情報が続いています。こちらも対処が必要かと」

 

 

 

 炎を信奉する危険テロ組織の情報があがる。それらの情報を元に初老の伏目の男性、一ノ隊隊長シゲユキは方針をまとめる。

 

 

 

 「本当に火夏星が来ると。そう決まったわけではありませんがよからぬ予兆は多く見られます。今日から市中巡回の密度を上げましょうか。ひとまず火の民の動きを潰すまでの間はね」

 

 

 

 「「異議なし」」

 

 

 

 全会一致の応答を持って臨時の会議は閉幕を迎える。

 

 

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