TS美少女魔王さま、オタクが再発する   作:波土よるり

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第8話 前兆

 その後いろいろな手続を終えてギルドの壁にかけられている時計を見てみれば、結局1時間以上かかっていたようだ。まあ、思っていたよりは早く終わった気がする。

 

「赤坂さん、長い時間付き合わせて悪かったな。助かったよ」

 

「いやなに、さっきも言ったが、ロストの保護は冒険者の義務だ。それに保護すれば冒険者にも協力金という形で金が入る。気にする必要はないぜ」

 

 最後の手続きを終えて待合室のソファで手続きが完了するのを待ちながら赤坂さんと話す。

 

 時刻は既に夕暮れ。赤坂さんはこのまま今日の仕事を終えるらしい。

 保護してもらっている手前聞きにくかったが、攻略初日のイシギダンジョンの攻略は良いのか聞くと、別に今日じゃなくても良いとのこと。

 

 多くの冒険者が攻略初日のダンジョンを攻略するのは、金目のものが手に入りやすいからだそうだが、赤坂さんはお金目的というよりも、初見のダンジョンを攻略するのが楽しいから来ただけだそうだ。攻略なんていつでもできるから良いのだと。

 

「ナヴィちゃんも、ちゃんと使い魔として認められてよかったな」

 

「使い魔登録というものが至極面倒でした。

 写し絵――写真でしたか。写真をたくさん取られましたし、奇妙な機械で測定されるし、あまり気分の良いものではありませんでした」

 

「まあまあ。これで大手を振って嬢ちゃんと一緒に街へ出ても問題ないんだからさ。そう拗ねた顔しなさんな」

 

 ナヴィの言うように使い魔の登録というのは結構手間がかかった。

 写真を撮って、魔道具のようなものでナヴィの生体情報を記録する、みたいな感じだ。

 

 まあ、モンスターが街中で自由気ままに歩いているような状況はありえないし、ちゃんと管理しようとしているところには個人的に好感が持てる。

 

「そういえば詳しく聞いていなかったが、使い魔を連れている冒険者というのは結構いるのか? それと、何体も連れている人もいるのか? そのあたりが良く分からないんだが」

 

「うーん、そうだな…… モンスターを使い魔として使役するのには特別なスキルが要るって話だし、冒険者の1割にも満たないんじゃないか?

 魔力消費的にも結構きついし、連れているとしても1~2体がほとんどだな」

 

 ふーむ、そんなものなのか。

 このギルドに来る道中も街中で人を観察していたが、たしかに使い魔を連れている人はほとんど、というか一人も見なかった気がする。

 

 

 そんな風にしばし談笑していると、窓口の方から美卯さんが戻ってきた。

 

「おっまたせしましたー! これでレインさんの保護プログラムの手続きはすべて完了ですっ!

 はい! こちらをどうぞ!」

 

 そう言って美卯さんからもらったのは一枚のカード。

 名前やらワタシの顔写真やらが載っている。

 

「これがレインさんの身分カードになるので()くさないでくださいね!」

 

「承知した。ところで、保護プログラムでは住む場所を三ヶ月無料で貸してもらえるとの話だったが、どこに行けば良いんだ?」

 

「私がこのあと案内しますので大丈夫ですよ!

 歩いて10分くらいのアパートですからここからすぐです。

 にひひ…… 実は課長からレインさんを送ったら今日はこのままあがっても良いと言われているのです!」

 

「んじゃ、俺もそろそろお役御免みたいだし、帰るとするかな」

 

 赤坂さんがどっこいしょとソファを立ち上がると伸びをする。

 

「赤坂さんもありがとうございました! レインさんのことは私が責任を持ってお家までご案内します!」

 

「おう」

 

「お疲れさまでした~!」

 

 自動ドアへ向かう赤坂さんに美卯さんが大げさに手を振った。

 

 そう――、美卯さんが赤坂さんに手を振った、まさに瞬間。

 

 ワタシに電撃が走った――!

 

「美卯さん! その左手を見せてくれ!」

 

 ワタシのあまりにも鬼気迫る表情や声に、帰ろうとしていた赤坂さんも慌てて戻ってきた。

 ワタシは美卯さんの左手を強引に掴むと、その手首をまじまじと見る。

 

 

 ――ああ、ああ……

 

 こんなことがあるなんて――!

 くそ! なぜ今の今まで気が付かなかったんだ――!!

 

「どうした嬢ちゃん!?」

 

「赤坂さん、こいつを見てくれ!」

 

 きょとんとしている美卯さんの左手を赤坂さんに見せる。

 薄いピンク色を基調とした、可愛さとスタイリッシュさを兼ね備えた腕時計。造形も非常に凝っている。

 

「……? みーちゃんの腕時計がどうかしたのか?」

 

 赤坂さんはどうやら事の重大さに気がついていないらしい。

 確かに、詳しくない人が見ればなんてことはない、ただの腕時計に見えてしまうだろう。

 

 しかし、これは――。

 

「赤坂さん、落ち着いて聞いてくれ」

 

「あ、ああ」

 

 赤坂さんはゴクリと喉を鳴らし、ワタシの次の言葉を待つ。

 

 

「これは、魔法少女ナナニカ・ニカナの主人公、ニカナが身につけている腕時計そのものなんだ――!」

 

「……ん? え、ん?」

 

 赤坂さんは状況がよく飲み込めず、目が点になっている。

 

 たしかに、ワタシもこれが魔ナニカの主人公のニカナが身につけていた腕時計だと気がついたときには理解が追いつかなかった。

 

 

 すると、瞬間的に瞳の奥が銀河のごとく輝いた美卯さんが、ワタシの右手を胸の前で両手で包む。

 

「んなー! レインさん、魔ナニカをご存知なんですか?!」

 

 まるで暗闇の中でひときわ明るい輝きを見つけたような――。

 まるで窮地に駆けつけるヒーローを見るような――。

 

 キラキラとした眼でワタシを見ていた。

 

 そんな美卯さんにワタシも応える。

 

「ああ! ワタシが異世界に飛ばされるまで毎週楽しみにしていたアニメだ! 3期が始まって、あれは6話だったか。物語が佳境に入りかけたときに異世界に召喚されたからな……」

 

「あぁ、それはお気の毒に……

 今は災厄の日以前の魔ナニカの再放送もやっていますし、ちょうど今期、リメイクの2期がやってるんですよ!

 私はリメイクの1期を見てハマった口でして、その時限定販売されていたこの腕時計を買ったというわけなのです!」

 

「マジか! いや~、魔ナニカが続いているだけでも嬉しいし、日本での生活は楽しくなりそうだ!

 魔ナニカの何が良いかって、魔法少女という女児向けの題材ながら、バトルアクションへの力の入れようが半端ないんだよね。純粋にバトルアニメとして評価が高いし、合間合間の人間ドラマも素晴らしい」

 

「分かります分かります! 大人も子どもも楽しめる、まさにアニメの完成形の一つとも言える名作です! 主人公サイドももちろん魅力的ですし、敵サイドも魅力のあるキャラクターたちばかりなんですよね! なんていうか芯が通った敵が多くて、ある種、敵にも感情移入してしまうんです!」

 

「だよな! それから――」

 

 

 語りが止まらないワタシ達の後ろで、ナヴィと赤坂さんが何か言っているが、美卯さんとの語りが楽しすぎるのでスルーしておこう。

 

 

 

 

「なんかすげぇな…… 嬢ちゃんも、みーちゃんも」

 

「そうですね…… マスターはオタクという人種だったと昔おっしゃっていましたが、これほどまでとは……」

 

 






んなー! コロナくんのせいで投稿が遅くなってしまったンゴねぇ……
やっとプロローグ終わったンゴ!
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