「かがりん?」
聞き慣れない名前に思わず聞き返した。
するとガンさんは目を見開いて驚いた。
うーん…… Yootubeはもちろん知っているけど、YootubeなんてほぼゲームのボスラッシュBGMくらいしか聴かないからなぁ。ああ、あとヒーリングBGMみたいなものも聴くな。
「マジか、レイン知らんのか? かがりんだぞ?」
「全然知らない」
「ええ…… 日本でトップクラスの冒険者系配信者だよ? インターネットに疎い僕でも知ってるくらいには有名だけど…… ほら、ときどきテレビに出たりとかも。
そこらへんのアイドルなんかとは比べ物にならないくらいかわいいし、お嬢様口調と性格のギャップで結構人気あるよ?」
「いやホント知らない。ワタシ、ロストだからまだ2ヶ月しかこの世界のこと知らないし」
「2ヶ月もあったらどこかで耳にしてそうだけどなぁ」
うーん、知っているのが当たり前みたいな雰囲気だな。
顔を見たら分かるかな? でも酒場の奥の方にかがりんなる人物がいるから、ここからだとよく見えないなぁ。
……せっかくだ。近くまで行ってそのご尊顔を拝んでやるか。
「マスター、Ms.かがりんを見に行くのは良いですが、お金を稼がないと1/8スケールのフィギュアが買えなくなってしまいますよ? まあ、私は良いですが」
「分かってるって。ちょっと顔見たらすぐダンジョン潜って稼ぐから」
ガンテツ兄弟と一緒に酒場の端で群がっている集団に近づいていく。
うーむ、結構な人が来ているな。
男性だけでなく女性も結構来ているし、年齢も幅広く居る。
本当に有名らしい。
「えーっと、どれどれ……」
人だかりの後ろの方からぴょんぴょんとジャンプしてかがりんなる配信者を見ようとするが、いかんせん、ワタシの身長は150センチちょっとで高くないため、なかなか見えん。
ぐぬぬ……
「レインちゃん、あれだったら僕が抱えてあげようか?」
「お、ホント? ありがたい。お願いテツさん」
「了解。よいしょっと」
身長2メートルほどのテツさんは、己の発達した筋肉にものを言わせてワタシを軽々と上昇させる。
さすがマッスル兄弟の片割れ。
成人女性の平均よりも軽いとはいえ、ワタシをこうも軽々持ち上げるとはやるな。褒めてつかわす。
どれどれ~……
覗き込むように手を当てて改めて前を見ると、キラキラしたオーラの女の子がいた。
はちみつ色の糸を編み込んだかのような美しい色合いの金髪に、星を散りばめたようにきれいな瞳。創作の世界ではなく現実で見ることになろうとは微塵も思っていなかった縦巻きロールツインテールが目を引く。パーツ一つ一つも綺麗だが、それらが整って顔に配置されている。
身長はワタシよりも高いかな? 並んでいる人と握手をして、一緒に写真も撮っている。
ふむ、ファンサービスが良いらしい。
「お、レインじゃねーか」
「ほんとだ。なんだ、レインも意外とミーハーだな! まあ俺が言えた義理じゃねえけど! ガハハハハ!」
テツさんに抱っこされながら、かがりんなるyootuberを見ていると、ワタシの前で並んでいる冒険者に声をかけられた。
ときどきギルドの酒場で同席になるおっちゃんと男勝りのお姉さんだ。
とりあえずかがりんを見るのはこれくらいでいいだろう。そろそろ降ろしてもらおう。
「テツさん、ありがと」
「どういたしまして」
2メートルの高い高いを終え、無事地上に帰還。
テツさんに「なかなか見晴らしが良くてよかったぜ」と、彼の太腕をパシパシ叩いてお礼をしといた。
「オッスオッス~」
テツさんから降りて、話しかけてきたおっちゃんとお姉さんに挨拶する。
「さっすがインターネットにかじりついているお姫様だ。Yootubeで有名なかがりんと一緒に写真を取れるって情報を聞いてすっ飛んできたんだな」
「いや、ワタシたまたま居合わせただけだし。
なんなら今日は冒険者として働きに来てるんだけど」
「え?! あのぐーたら姫が?!!? 働きに!?!?」
「なんだなんだ? どうした?」
「ぐーたら姫が働きに来たんだってよ!」
「ウソつけ」
「いやワタシ、マジで今日は働きに来てるから」
ワタシが働きに来ていると言ったらめちゃくちゃ大きな声でおっちゃんがびっくりして、その声に釣られるように他のみんなもぞろぞろとこちらに来る。
いや、お前らなんだよそれ。
ワタシが働くのがそんなにもおかしいのか? ワタシだって大人で社会人ゾ? 働くときは働くんだよなぁ……
「まあ、マスターの日頃の行いを考えれば当然の反応ですね」
「
ワタシはギルドの酒場によく来るからか、ここ、水々市冒険者ギルド04支部を中心に活動している冒険者に結構顔が知られている。
みんな、「ええ!あのぐーたら姫が!?」「エイプリルフールはまだ先だぞ」とか好き勝手に言っている。
……?
ワタシってそんなにぐーたらしてたか? ていうか信用なさすぎない? ワタシ元魔王だよ? 恐れ
あぁ~あ~、もう~。
ぞろぞろこっちに来て……
みんなかがりんYootuberのファンサに来てるんなら、ワタシなんかに構わずちゃんとかがりんに並んで。
「いやうん、ホント。ダンジョンでお仕事する前にちらっと覗きに来ただけだから、ワタシもう行くからね。
ほら、かがりんさんも皆が放ったらかしにするから目をパチクリさせてんじゃん」
「ぐーたら姫がついに起動したんだぞ! みんなにとっちゃ一大事だぜ!」
「そうだぜ!」
「えぇ……」
「マスターもMs.かがりんと同じように握手会や写真撮影会ができそうな勢いですね? フィギュアを諦めて握手会をやられたらどうですか?」
「やるわけ無いでしょ。シャラップ、ナヴィ」
「さいですか」
まったく……
いつまでもここで時間を費やすわけにも行かないので、とっととダンジョンに行こう。
――と、ダンジョンの攻略申請をしに受付に行こうとしたときだった。
みんなに放ったらかしにされたYootuberかがりんがこちらにズンズンと寄ってきた。
「ちょっと貴女! わたくしを差し置いてなに目立っちゃってくれちゃってますの?!」