「ちょっと貴女! わたくしを差し置いてなに目立っちゃってくれちゃってますの?!」
お嬢様口調でズンズンとワタシの方までかがりんさんが寄ってきた。
「え、あ、いやごめん。別に邪魔するつもりはなかったんだけど、おっちゃんたちがなんか変に群がってきちゃって……」
「ふん! 貴女、随分とここらへんで人気があるようですわね! しかし、その人気も今日までですわ!
なにせ、このかがりん様がここ、水々市に活動拠点を移したのですから!」
ああー……
たしかにさっきテツさんがちらっと言っていた気がする。もともとは別の場所で活動していた配信者だったけど、最近水々市に拠点を移したんだっけ?
「あー、じゃあ、これから顔を合わせることもありそうだね。よろしく」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますわ! ぜひとも一緒にお茶会をしましょう!
しかし! 随分と余裕でいらっしゃること!!
確かに可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃいますが! わたくしには敵いませんわ! その可愛らしいお顔と、心が穏やかになるような甘い良い声で人気を得ていたのでしょうが、真の人気者たるわたくしには可愛いだけでは勝てませんことよ!」
「いやおっちゃんたちとは単に飲み仲間なだけで…… 一緒に食べたりとか……」
「まあ! “食べたり”ですって?! 直接的な表現は避けていますが、わたくしには分かりますわよ! つまり、接待飲食店よろしく、接待をして人気を得ていたのですね!
人気へのその
「え、いや普通に食事しただけだけど……」
うん、だめだこのお嬢様。
全然話が通じない。
「そういえば貴女、このかがりん様を前にしても握手や写真を求めないなんて、随分と珍しいお方ですわね。さすがにこのわたくしを倒すべき強大な存在と認知してのことでしょうが、その心意気や良し! 評価に値しますわ!
しかし! わたくしが人気で負けることはありえません! わたくしへの挑戦は茨の道と知りなさい!」
「いや~…… ワタシ、かがりんさんのこと今の今まで知らなかったから、握手とか求めるモチベーションというかテンションがないというか……」
「ええ?! 貴女、わたくしのこと知りませんの?! うぬぼれでもなんでもなく、自他ともに認める日本トップクラスの冒険者系Yootuberですのに!?」
「ワタシ、Yootube派じゃなくて、ニヨニヨ動画派だから……」
「そんな言い訳は聞いておりませんの!」
「えぇ……」
これはあれだな。少し話の方向を変えていかないと延々とループに嵌りそうだ。
「えっと、かがりんさんは配信者なんだよね? すごい有名だっていうことだけど……
ワタシ、全然知らないから知りたいな~、なんて」
「おや、わたくしの魅力に気が付き始めて、もっとわたくしのことをお知りになりたいと? いいでしょういいでしょう」
ワタシがかがりんさんの話を聞きたいと言えば、かがりんさんは嬉しそうに眉をピクッと動かしてドヤ顔をしながら色々と教えてくれた。
分かりやすくて可愛いなこの人。
そもそもワタシは『冒険者系Yootuber』なるものをあまり知らなかったのだが、冒険者系Yootuberとは、その名前の通り、冒険者をしているYootuberのことを指すらしい。そのまんまだな。
ダンジョン攻略の様子や、モンスターの効果的な攻略法や危険性の解説、ダンジョンで手に入るアイテムの解説など、冒険者にまつわることを色々配信しているとのこと。
当然モンスターを倒す場面が動画に映るわけで、そんなグロいものを動画配信していいのか疑問に思ったが、別にこの世界では普通のことらしい。
Oh...
日本、たくましくなってるな。
かがりんさんの戦闘スタイルはいわゆる『殴りヒーラー』らしい。
いや、MMORPGとかでたまにそういう変態ビルドする人いるけれど、現実でする人いるんだ……
あー、でもそういえば、異世界でもそういう変なビルドする人とかたまに人間でいたな。
防具を何も付けずに普段着だけで、モンスターの攻撃はすべて避ける人間。
武器を何も装備せず、大盾だけで防御も攻撃もする人間。
アイテムだけでモンスターを倒す人間。アイテム代が高くてかなわんって言ってた。
……ぱっと思いつくだけでも結構いる。
しかもそういう変態に限って魔王城まで乗り込んで良いところまで行けるやつが多いんだよなぁ。まあ全部倒したけど。
そんなふうに昔に思いを馳せつつ、かがりんさんのドヤ顔を堪能していると、長い話が終わり解放された。
まあ結構興味深い話だったから普通に面白かったけど。
「まあ、いいですわ。今日のところはこんくらいのところで勘弁してやりますわ。
こんどお茶会でもっといっぱいお話しましょう」
そういって、かがりんさんが元の場所に戻ろと
かがりんさんが自分の足に足を引っ掛けて「へぶしっ!」というおよそお嬢様が口にしなさそうな断末魔とともに盛大にころんだ。
それはもう盛大にころんだ。
漫画かよという具合にビターンと顔面で地面にキスをしに行った。
数秒間、その場のときが止まったように間が空いたが、ぬるっとかがりんさんは立ち上がった。
「えっと、大丈夫?」
見て見ぬ振りをしようかとも考えたけど、こういうときは逆に声をかけてあげたほうがダメージが少ないかなと思って、一応声をかけてみた。
かがりんさんは涙目でこちらを向いた。
「じ、心配にはお、およびませんわ!」
「あ、うん」
早足で元の場所に戻っていったかがりんさんを遠目で見送ると、ナヴィがワタシの近くに寄ってきた。
「マスター」
「どうした?」
「私はこの2ヶ月間、この世界に関するありとあらゆる情報を集めておりましたので、彼女のことも知っています。
彼女は見た目も人気ですが、高飛車な性格ながらドジっ子であり、その性格のギャップが人気のようです。あと、配信の収益の何割かを募金にまわしていたり、誠実な面も評価されているようですね。毎年チャリティイベントにも参加しているそうです」
「なるほどなぁ……」
戻る途中でもう一回ころびそうになっているかがりんさんを見て、ワタシは顎をさすりながらつぶやいた。
コロナ君のせいで最近忙しすぎなんじゃ^~