かがりんさんから解放されたワタシ達は、ガンテツ兄弟や、いつもの呑み仲間のおっちゃんやお姉さんなどに別れを告げ、そのままギルドの窓口へ向かった。
「おやおやレインちゃんではござりませんか! ご飯のあとに私のところへ寄ってくれるのはありがたいですが、私はまだまだ仕事中なのです。
この前レインちゃんに教えていただいたナナニカ・ニカナの1/8スケールフィギュア購入のために、私はしっかりと働かなくてはならないのですよ。オタクトークはお仕事のあとにしましょう」
「いや、ワタシは仕事でここに来てるんだよみーちゃん。たしかダンジョン攻略する前に、申請しなくちゃいけないんでしょ?」
「ちょわ?! なんですと!? ぐーたら姫でおなじみのレインちゃんが!? おおおおおおお仕事!?
……そうですか。……グスン。
ついに私の思いが通じたんですね。
さすがにあと1ヶ月もしたらロスト保護プログラムも切れてしまいますから、働いてくださいとかねてよりお願いしていましたが、私の思いについに答えてくださるとは…… 私感激です!」
いつもギルドの酒場にしか来ていないが、今日はお仕事で来ているのだドヤァ…とみーちゃんに言うと、みーちゃんはどこからともなくハンカチを取り出して、オーバーリアクション気味にヨヨヨと泣いて喜んだ。
うん……?
ていうか、みーちゃんも私のことぐーたら姫って言っていたの? 驚愕の事実なんだが。
そんなにもワタシに働かないイメージが付いていたのか……
たしかに、みーちゃんから何度か『冒険者じゃなくても、色々なお仕事の斡旋もギルドでやっていますから、働きましょ? ね?』と何度か言われていたが、まあ、ついにワタシも本気を出したってことだ。ワタシの事、もっと褒めてくれていいぞ?
「ふっふっふ」
「おお! その不敵な笑いもレインちゃんが大人に一歩近づいたことを示す偉大な笑みに見えますね!」
「ドヤァ……」
「Ms.美卯、盛り上がっているところ恐縮ですが、マスターは貴女と同じくアニメのフィギュアを買いたいのに、お金があまりにも無さすぎてここに来ているのです。
ちなみに、ここに来る前はさんざん文句を垂れていました。そんなにかっこいいものではないですよ」
「ちょおま!? 主人のことディスるな!」
まったく、マスターを裏切るとはなんて使い魔だ。
「私はレインちゃんが働こうとする意思を見せているだけで嬉しいです。
そういえばレインちゃん。ダンジョンの攻略申請に来たと言っていましたが、ダンジョンの攻略の基本とかちゃんと覚えてます? 一番初めにルールとか教えましたけど」
「あー…… うーん…」
うん。ぶっちゃけあまり覚えていない気がする。
冒険者になるために免許の交付に来たときも、じつはアニメの魔法少女ナナニカ・ニカナの話の続きが気になりすぎて話をあまり聞いていなかったり。ルールとかも色々言ってた気がするけどほぼ覚えていない。
まあ、なんとなくダンジョンに行く前にギルドに攻略申請をするということだけは口酸っぱく言われていた気がするので覚えていたわけだ。
大事なことを覚えているワタシ偉い。褒めて。
「レインちゃん……
まあいいです。今日はYootuberのかがりんがあっちでファンサしているせいもあってか窓口にお客さん少ないですし、もう一度レクチャーしましょう! よーく聞いていてくださいよ!」
みーちゃんは右手を腰に当てて、ビシッと左手の人差し指をたてて説明してくれた。
冒険者は強さや実績に応じて、E~Sランクが与えられる。
ワタシは冒険者になりたてだが、オークを実際に倒していることや、ワタシを助けてくれた赤坂さんの口添えのおかげで、初心者の上限のCランクとなっている。ちなみに、赤坂さんはAランクなので、冒険者的に赤坂さんは結構強い部類になる。
同じくモンスターにも危険度に応じてE~Sランクが割り振られている。
基本的には、危険度Cのモンスターの場合は、Cランク以上の冒険者が対処することが推奨されるというように、モンスターと冒険者のランクは対応している。
「ここまでは良いですね、レインちゃん?」
「ばっちり」
「で、あちらにある掲示板にはられている依頼、通称クエストにも同じように難易度が振られていますので、ちゃんと自分の冒険者ランクに合ったものを受けてくださいね」
あー、そういえば、そんなことも言っていた気がする。
異世界でもたしか人間の街には似たようなシステムがあったが、この世界でもギルドでクエストが受けられるようだ。
たとえば、メジャーな内容で言うと、モンスターの素材を集めてこいという内容のクエストが多いとのこと。
どのモンスターからもドロップが期待できる魔石は流通量が多く、需要も供給も安定しているが、ある特定のモンスターの素材とか、レアドロップの素材とかは流通量が少なく、そういうものを欲する人はクエストを通じて、直接収集するそうだ。
で、同じくクエストにも難易度があり、基本的にはそれを守るようにとのこと。
システム的に自分のランク以上のクエストを受けることもできるが、ランクを無視した冒険者はよく死にますとみーちゃんは悲しそうに言う。
ただでさえ死にやすい職業なのだから、話を聞かないやつにはそれ相応の結果が待っているというわけだな。
え? ワタシ?
ワタシはほら、今ちゃんと話を聞いてるから…… ワタシ、偉い。話を聞くいい子。
+++++
「……っと、まあ、ざっくりとこんな感じです。分かりましたですか、レインちゃん?」
「おk、完全に把握した」
「じゃあ、なにかクエスト受けてからダンジョンに行きますか?」
「いや、今日はクエスト受けなくていいや。適当に雑魚モンスターを狩って、魔石で稼ごうかな。クエストは対象のモンスターとか探すの面倒ですからな。適当に出遭ったモンスター倒してくのが楽。
で、どのダンジョンに行くかだけど……
うーん、イシギダンジョンに行こうかな」
そういうと、みーちゃんが待ったをかけてきた。
ワタシが保護された場所でもあるイシギダンジョンは、出現してからおよそ2ヶ月が経ち、だいぶ調査も進んでいるが、基本的にはまだ『新規ダンジョン』という括りのダンジョンだ。おそらく階層もそう多くなく、モンスターもランクE~Dのものがほとんどで低階層なら危険性も低いと見られているが、まだ確定ではない。
「レインちゃんは強いと赤坂さんからも聞いていますが――
良いですか? イシギダンジョンに行かれるのであれば、慢心せず、油断せずに気をつけてくださいね」
「ハッ! 慢心せずして、何が王か!」
「ったはー! それは某有名なアニメのセリフでかっこいいですが、慢心はだめですよ? それにレインちゃんは王様じゃないのです」
元魔王様なんだよなぁ…… と思いながらも、たしかにまともにダンジョン攻略するのは初めてだから一応気を引き締めておこうと思い直した。
++++
「あ~、楽勝だな~」
「事前情報通り、低階層のイシギダンジョンは低ランクのモンスターしか出現しないようですね。もう少し奥に進みますか? 以前のようにオークくらいなら出遭えるかもしれません」
「ん~。まあ、フィギュア代くらいは充分にあるし、とりま戻ろうかな」
適当にダンジョンをぶらつき、手当たりしだいにモンスターを倒していけば、ある程度の魔石は集まる。ポータルにしまった魔石も充分な量だ。
これくらいあればナナニカ・ニカナのフィギュアを買うことはできるだろう。
「ん?」
そろそろ戻ろうかと思った矢先、遠くの方でこれまでとは違う強い魔物の気配がした。
どうやら何匹かいるようだ。
それに…… なんか弱っている気配も一つある。
魔物じゃない、おそらく人間の気配だ。
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