「ふっふ~ん♪ 情報通り、低階層は低級モンスターだけのようですわね!
かがりん様の前では羽虫も同然ですわ!」
:さすがかがりん
:殴りヒーラーは伊達じゃないな
:ヒーラーなのに回復魔法一回も使っていない件
:攻撃全部避けるじゃん
:メイスで頭かち割る姿はまごうことなきAランク
:光魔法もやっぱつえーな
:スライム君が蒸発しておられる……
:スライム、いいやつだったよ……
ライブ配信をしながら、かがりんはルンルンとダンジョンを攻略していく。
スライムに出遭ったら得意の光魔法で倒し、ゴブリンやコボルトに出遭ったらメイスで殴打して倒す。いつもと変わらない快進撃にリスナーたちも満足している。
ある程度探索したが、事前の情報通りイシギダンジョンの浅い階層は低級のモンスターしかいないらしい。
「まあ、低階層はこんなものですわね。
そうですわ! もっと奥まで進んでオークも倒してしまいましょう。奥の階層では目撃例がそれなりにあったはずです」
:簡単にオーク倒すとかいうヒーラー怖いンゴ
:オークはマジで鬼門
:俺オークに殺されかけて冒険者引退したわ
:オークはな、誰でもそうなるんやって…
:オークはエロ同人の中だけの存在にしてクレメンス
「ふふん♪ わたくしくらいになりますと、オークを倒すことなど赤子の手をひねるよりも
……いえ、この表現は少々よろしくありませんわね。
赤ちゃんの手をひねるなんておぞましい行為、わたくしにはそもそも出来ません。……そうですわね、スライムの核を握りつぶすより容易い。うん、この表現のほうがしっくり来ますわ」
:全然たやすくなくて草
:草
:ゴブリンの頭をかち割ることはおぞましくないんですか…?
:スライム君に辛辣で草
:まあ確かに赤ちゃんには優しくしないとな
:戦闘中との乖離が激しい件について
:オーク簡単ってやっぱAランクはちげーわ
:スライムの核に触るとかそもそも無理だろwww
「あら? スライムの核に触ることは出来ますわよ?
ほんの少し精密な魔力操作が必要ですが、このように腕に魔力でコーティングして…… こんな具合ですわ」
:えぇ…
:一般人には出来ないんですがそれ
:○逸般人 ×一般人
:コーティングできても、核ってリンゴ潰すより硬いと思うんですけど
:↑かがりん魔力で筋力強化して余裕でリンゴ潰せるぞ
:はぇ~、精密な魔力操作……
「さあ、どんどん進んでいきますわよ!」
そろそろダンジョンのもっと奥まで進もうと、再び歩みを進めた、まさにその時だった。
「……たす…け……」
消え入りそうな声で助けを求める声がかがりんの耳に届いた。
魔法で聴覚を強化しているかがりんだからこそ聞くことが出来たかすかな音。
「今のは……!」
かがりんは唇を強く結び、すぐさま探知魔法を声のした方へ発動した。
反応が3つ、4つ…… いや、もっと多い。
探知魔法ではどの反応がモンスターで、どの反応が冒険者かまで判定できないが、数からして状況はあまり良くなさそうだ。
――急がないとまずいですわ!
確実に助けを求める声がした。
早く駆けつけなければ――!
配信していることなど頭の中からすっかり抜け落ち、カメラを切ることも忘れ、かがりんはすぐに地面を蹴った。
反応はここから近い。
メイスを力強く握りしめ、駆ける。
近接戦闘に秀でている自分がヒーラーを目指したのは、誰かを助けるためなのだ。
――絶対助ける!
「……!」
思わず言葉を失った。
目的の場所に近づき、かがりんの目に飛び込んできたのは、今にも少女に棍棒を振り下ろそうとするコボルトの姿。
――間に合わない。
かがりんは直感した。
コボルトは既に棍棒を振り下ろす動作に入っている。
どうする――!
どうすればいい――!?
シャイニングアローで攻撃…… いや、詠唱が間に合わない!
身体強化魔法で足を強化して走って…… これもだめ!
それなら、詠唱時間が短いホーリーレイで――
コンマ0秒にも満たない時間でいくつもの方法を考えるが、今まさに振り下ろされる棍棒を止める手段が思い浮かばない。
無理だ。
瞬間移動でもしなければ間に合わない。
そして、いくら早く思考を巡らせても、現実の時間は止まらない。
まるでコマ送りをしている映像のように、振り下ろされる様子が鮮明に見えた。
「まっ――!」
待てと言ってコボルトが待つはずがない。
そもそも彼らに人語は理解できないだろう。
無慈悲に、棍棒が少女に向かって振り下ろされた。
――が、その瞬間、少女がいた場所を中心に砂煙があたりに起きた。
「何ごとですの――!?」
巻き上がる砂煙から右手で顔を守りながら状況を把握しようと、なんとか目を開ける。
「生きるのをあきらめるのはまだ早いぜ、お嬢さん?」
透き通るような心地の良い声。
その声の主はコボルトが振り下ろした棍棒を、なんでもないように片手で受け止めているではないか。
腰まであるきれいでつややかな白銀の髪。
フードの付いたダボっとしたジャージに身を包むこの女の子には見覚えがあった。
少し前、握手会で自分よりも目立っていたかわいい女の子。
「名前はたしか――」
レイン。
レイン=フレイム。
握手会の後、来てくれた人たちに聞いたら幾度となくその名前が出た。
四角い奇妙な使い魔を連れ、水々市冒険者ギルド04支部で知名度がある不思議な少女。たしかぐーたら姫なんて呼ばれ方をしていた。
曰く、冒険者の初期登録の上限であるCランクにいきなりなった。
曰く、冒険者になっても一度もダンジョンに潜ったところを見た者はいない。
曰く、ステータスは並の冒険者を凌ぐ。
曰く、見た目とは違って実は成人しており一緒にお酒が飲め、ついでに笑い上戸。
いろいろな噂を聞いた。
「ちょっと待っててね。すぐに片付けるから」
倒れている少女に安心させるような笑みを浮かべると、レインはおよそ先ほどの柔和な笑顔をしていた人物と同じ人間だとは思えないほど、獰猛な目つきをした。
まるで狩りをする獅子のように、あるいは殺戮を楽しむ悪魔のように。
ヒーローが遅れてやってくる演出、王道だけど大好きなんや(性癖)