「そこにさっきのYootuberさん居るよねー? この子のことよろしくね!
んで、ナヴィ! Yootuberさんのサポートよろしく!」
「仰せのままに」
レインはこちらを見ることなく、大きな声で言うやいなや、距離をとったコボルトたちへ瞬時に詰め寄った。
その声でかがりんはハッとする。
あまりに衝撃的なレインの登場によりしばし呆然としてしまったが、倒れている少女が危険な状況であることに変わりはない。
すぐに頭を切り替え、少女に駆け寄った。
「結構ひどいわね……」
ぱっと見ただけでも数え切れないほどの傷、右足はおそらく折れている。
たしかコボルトには獲物をいたぶる習性があったはずだ。
生かさず殺さずの状態をニチャニチャと笑い楽しむと聞いたことがある。
この少女もきっとコボルトたちにいたぶられたのだろう。
「Ms.かがりん、この場にいては戦闘の余波で治療に専念できない可能性があります。
少女を抱え、後方に下がることを推奨します」
「ええ、そうね――」
かがりんは魔法で筋力を強化して少女を抱きかかえ、離れた場所に少女をそっと寝かせた。
「右大腿骨の骨折、コボルトの刃物による切り傷及び棍棒による打撲多数。また、危険な出血量です。
すぐに治癒ポーションの使用ないし回復魔法の行使が推奨されます。Ms.かがりん、私はインターネットの情報から貴女が高位の回復魔法を使えることを知っています。
術の行使をお願いできますか? 私は貴女にバフをかけます」
レインがナヴィと呼んでいた、この四角い奇妙な生物は倒れている少女に淡い光を照射し状態を分析すると、かがりんに術の行使を求めた。
「もちろんですわ!」
そんなもの当然やるに決まっている。
かがりんは二つ返事で了承した。
――精神を集中し、術を行使する。
回復魔法というものは、例外はあれど基本的に魔力の消費量が多い。
そして、繊細な魔力操作が要求される。
ただのかすり傷程度であれば新米冒険者でもある程度心得があれば治癒できるが、この少女のように大怪我をしている場合は話が別だ。習熟した回復術師が術を行使する必要がある。
「Ms.かがりん。貴女の魔法力を一時的に向上させます」
冷静かつ落ち着いた声色で、ナヴィはバフ――すなわち強化魔法をかがりんに掛けた。
いつもより、自分の能力が強くなっていることが感覚的に分かった。
魔力操作もいつもよりスムーズに行えている気がする。
「――ハイヒール」
ナヴィのバフのおかげか、見る見る傷がふさがり、折れておかしな方向に曲がっていた右足も、まるで逆再生のように正常な向きに治り、骨折部の腫れも徐々に引いていった。
苦悶の表情を浮かべていた少女の顔も次第に穏やかなものになってゆく。
「もう少しですから、しばし頑張ってくださいませ――」
***
「――こんなもので大丈夫ですわ」
ふぅ、とかがりんは自分の額に浮かんだ汗を軽く拭った。
回復魔法の行使の甲斐あり、少女の怪我はほぼ完治したと行ってもいいだろう。今はかがりんのアイテムバッグから取り出した毛布の上で穏やかに寝息をたてている。
「あなたもありがとうございました。えっと……ナヴィさん、でしたか? 貴方のおかげで見込みよりもスムーズに治療が行えましたわ」
「はい。お役に立てたようで何よりです、Ms.かがりん。
貴女の回復魔法も噂に違わぬ精密さでした」
「お褒めに預かり光栄ですわ―― って、そういえばコボルトはどうなりましたの!? レインさんは大丈夫ですの!?」
しまった――!
ひと仕事を終えてなんだか気が抜けてしまっていたかがりんはハッと思い出した。
術の行使に集中しすぎて、ギルドで出遭った女の子――レインの事が完全に頭から抜け落ちていた。
何たる失態か。
術を行使してすぐに加勢に行くつもりだったのに!
ほっと一息、奇妙な生物と談笑している場合ではない。
正確な数は確認していないが、低級のコボルトもかなりの数がいたし、おそらく上位種である雷属性のコボルトも数体いた。
上位のコボルト名前は、たしかそのままサンダーコボルトという名前だったと思う。
かがりんも数度、サンダーコボルトと戦ったことがあるが、彼らは単体でランクB。複数体いれば、場合によってはAランクにもなるモンスターだ。
つまり、レイン一人で対処させるには危険すぎる。
ギルドでレインのこともいろいろと聞いていたが、彼女の実力は未知数だという。
オークを倒したなんて言う人もいたが、そもそも冒険者になってから一度たりともダンジョンに潜っていないという人もいた。いつもぐーたらしてるからそのへんの犬にもやられるだろうなんて言う人もいた。
コボルトの攻撃をたやすく受け止めていたからある程度の実力はあるだろうが、酒場で色んな人に話を聞いたかぎり、レインがあまり経験のない冒険者というのは間違いない。
新米冒険者にとってモンスターと戦うというだけでも一苦労なのに、あのコボルトたちを全員相手するなんて無茶だ――!
すぐに探知魔法で状況を把握して加勢を――
「もうとっくに終わってるよ、かがりんYootuberさん」
「――え?」
かがりんが焦ってレインやコボルトのいた方を向くと、ちょんちょんと後ろから肩を叩かれた。
びっくりして後ろを向けば、まるでいたずらが成功した子供のようにニシシと笑うレインがいた。
「え?え? コボルトたちはどうしたのですの?」
「倒したよ? ほら、ドロップした素材と魔石」
レインは何もない空間に手を突っ込むと、黄色い稲妻のような形をしたツノと、ジャラジャラと大粒の魔石を取り出した。
その姿にかがりんは一瞬目を見開いた。
レインは何でもないようにやっているが、ひと目見ただけでも高度な空間魔法を使っていることが分かる。
中級冒険者くらいになると見た目よりも多くのものを収納できるアイテムバッグを持っているのが普通であるが、レインは魔道具なしにその魔法を使っている。
随分と魔法が得意らしい。
――っと、今はそれよりもサンダーコボルトですわ。
レインに許可をとってドロップしたというツノを見てみれば、確かにサンダーコボルトのツノだ。それに魔石も純度の高いもので、高ランクのモンスターのドロップ品であることが伺える。
「本当に倒したんですのね…… すごいですわ。新米の冒険者とお聞きしてましたのに……」
「にひひ。まあ、ダンジョンに潜るのは初めてだけど戦闘なんて慣れっこだから」
「え? ダンジョンに潜るのが初めてなのに戦闘には慣れていらっしゃいますの?
ひょっとして元喧嘩番長みたいな……!」
「あ、いや、そ↑、そういえば、ずっと気になってたんだけど、かがりんさんの周りでふわふわ浮いてるこれ何? カメラ? あるいはナヴィみたいなヘンテコ使い魔? なんか戦闘中もときどきワタシの近くに寄ってきたりもしたけど」
「ワタシはヘンテコ使い魔ではありません、マスター」
「ああ、それは自動追尾型魔導カメラですわ。特注品ですから汎用品とは見た目が……」
そこまで言って、かがりんはまたもや「しまった」と思った。
完全にカメラの録画を停止するのを忘れていた。
一般の人の顔が配信に載ってしまわないように、かがりんはなるべく気をつけていたのだが、完全に失念した。
一応、このカメラの内蔵機能で、登録している顔以外の人の顔が映ったら自動で目にモザイクがかかるようにはなっているが、目線以外は普通に映るし、音声はそのまま配信に載る。
かがりんは光の速さでカメラの電源をオフにし、その勢いを殺さずレインに頭を下げた。
「――ッ! レインさん、申し訳ないですわ!」
「わわっ!? 何? どうしたの?」
「――実は……」
***
「なんだそんなことなら別に良いよ、減るものでもないし」
「いやでも登録者1,000万人超えの超有名人気配信者の配信に載ってしまっているわけですし……」
「自分で超有名って言っちゃうんだ…… でも本当にいいよ気にしなくて」
「そうですか…… しかし助太刀頂いた上にご迷惑をおかけして…… わたくしの気が収まりませんわ」
「うーん、じゃあ、今度何かご馳走してよ。
自慢じゃないけどワタシ、オタ活のために食費削ってるからたまにはまともなものを食べたいからさ」
「それくらいお安いご用ですわ! お抱えのシェフに腕によりをかけて作らせますわ!」
「お抱えのシェフ……? おかかのしぇふ……???
まあいいや、ともかく一旦地上に戻ろう。この女の子もかがりんさんの回復魔法をかけてもらったとはいえ、ちゃんと病院でお医者さんに診てもらった方がいい」
「はい!」