「いやぁ~、付き合ってもらってしまってすみません」
「ううん、別に気にしなくていいよ~。ワタシも少しお金おろしときたかったし」
ワタシとみーちゃんは今、カフェ・スターバックレからほど近い銀行に来ている。
みーちゃんがフィギュアを買うためのお金をおろしたいとのことで、ちょうど私もおろしたいと思っていたので一緒に来ている。
今どき電子決済だろ
災厄の日以前から日本では現金が好まれていたように思うが、今も日本は現金での支払いが好まれる傾向にある気がする。もちろん電子マネーも結構普及しているが。武器屋とかでも電子マネー使えるしね。
「はぁ~! やはり一生懸命に働いて得たお金を手にし、オタクコンテンツのために使う、というのは一番生を実感する瞬間ですね~!
生きるためではなくオタ活をするために働く。これが私のモットーですっ。もしオタクコンテンツがこの世に存在しなかったら私は今きっとニートまっしぐらでしょう!」
「これには
「ではレインちゃん。少し早いですが、そろそろ行きましょう!」
「
ワタシもみーちゃんもお金をおろし終わって、魔ナニカのフィギュアを予約してあるアニメショップに向かおうとした、まさにその時だった。
――パンっ!
重い金属的な衝撃音が入口の方から響いた。
「おいお前ら、死にたくなかったら妙な真似するんじゃねーぞォ?」
顔全体を覆うレスラーマスクのような覆面をした5人組が入り口から入ってきた。
覆面の一人は慣れた様子で店員の方に詰め寄ると大きなカバンを取り出し、金を入るだけ詰めるように迫った。
威嚇射撃で店内には何度か銃声が響き、そのたびに店員たちは体を強張らせ、恐怖のまま、言われるがままかばんを受け取り、金を詰め始める。
「……なるほど、これが銀行強盗というものなのですね。初めて見ました」
「ワタシも初めて見た。意外と迫力あるな」
「ななな、なにナヴィちゃんもレインちゃんも冷静に見てるんですかー…!!!
やばいです、私の命運はここで尽きてしまうのですか…! まだ魔ナニカのフィギュアも買っていないのにこんなところでは死ねません…!!!」
ドラマやアニメでは時々見るけど、初めて生で銀行強盗を見たので感想を言っていると、みーちゃんがかなり怯えた様子で息を殺しながらツッコミを入れてきた。
やっぱり生で見るのは違うな。
銃声とかもゲームの音声よりもなんていうかリアルで重い音だ。
というかコイツら普通にみんな銃を携えているわけだけど、どこから仕入れてきてるんだ? ファンタジー的な武器じゃない普通の拳銃なんて売っているお店、日本にはないはずだけど…?
覆面の男達は拳銃だけではなく、魔法力増幅安定器(いわゆる魔法の杖)や片手剣も携えている。随分とやる気だこと。
「銀行強盗に遭うなんて、日本の安全神話はどこにいったんだか」
思わず独り言が
今の日本は、災厄の日以前、つまりワタシがまだ男でサラリーマンをしていた時代とは異なり、犯罪率が結構高い。
テレビやネットニュースを見ていればそれを何となく実感できる。
災厄の日なんていう突拍子もないことが起きたせいで、普通の一般人でもモンスターさえ
おまけに今の日本は『力』や『才能』による格差がさらに大きく広がっている。『力』や『才能』は努力でなんとかできる部分もあるが、能力は往々にして生まれた時点でほぼ決まっているという。
分かりやすく犯罪に走る理由も割とあるわけだ。
そりゃ犯罪率も上昇するのも道理だ。
まあこの銀行強盗達が生活に困窮してやっているのか、はたまたおもしろ半分で犯罪をしているのかは知らんが。
「さて、どうしようか」
ワタシは顎に手を当てて考える。
きっと、こういう場合は警察の到着を待ったほうが良いのだろう。武器や魔法を使うような犯罪者を専門にする警察の部署も確かあった気がする。面倒事はプロに任せるに限る。
しかしそうすると、警察の到着を待たねばならず、アニメショップの開店時間に間に合わない可能性が出てくる。
うーん……
コイツらもなんでワタシが来るタイミングで銀行強盗しちゃうのかなぁ。
別にワタシは正義の味方ではない。
なんなら悪の組織のほうが属性的には近いし、このまま銀行強盗を放っておいても別にいい。
かと言って、このまま店員たちが殺されたりしたらみーちゃんのメンタルに良くないしなぁ……
「まあいいや、とっ捕まえてそのへんに縄で縛っておいておけばいいでしょ」
「ちょちょちょレインちゃん!? どこ行くんです!?!? やややばいですって!!! 刺激しちゃ殺されますってぇ…!!!」
ワタシは自分の中で活動方針を決めると、覆面の男の一人に近づいていく。
「……あぁ? なんだ女ァ、俺様が妙な真似はするなっつったの聞こえなかったのか? それとも鉛玉撃ち込まれて死にてえのか!? あァ!?」
男はドスの利いた声で怒鳴る。
おー、怖い怖い。
後ろでガクブル震えているみーちゃんからも『それ見たことですかぁ!』っていう感じで無言の圧力をひしひしと感じる。
いやだってフィギュア早く手に入れたいし……
「おいてめえ、聞こえてねえのか! 死にたくなかったら、その場から一歩も動くな」
覆面の男はこちらに銃を向け、怒気を乗せて命令をするが、ワタシは気にせず口を開く。
「キミ達には今2つの選択肢がある。
一つは、今すぐ銀行強盗なんかやめて自分の足で警察に行く。これはちょーおすすめだね。ワタシの時間を奪わなくて済む。合理的。
もう一つは、ワタシにボコされて醜態を晒すこと。
どっちがいい?」
ワタシが笑顔で聞くと、覆面の男がブチッと青筋を立てたのが分かった。
こんな美少女の笑顔に怒るなんて……!
「どうやら撃たれないと思って完全に舐めきってやがるようだな…… ガキぃ……
ちょうどいい。見せしめにいくらか殺してもいいと思ってたんだ。後ろの連れの女も、そのヘンテコな生き物もまとめてブチ殺してやるよ」
覆面の男は銃のトリガーに人差し指をかける。
「じゃあなクソガキ。
恨むんなら、大人に対して生意気に口答えするように育てた、自分のママを恨むんだな」
そして無情に重い音が響く。
「――なっ!」
しかし男は驚愕の声を漏らす。
たしかに、銃弾を片手で受け止められる体験というのはなかなかないだろう。驚くのも無理はないかもしれない。それに、基本的に人間という種族では銃弾に素手で対抗するというのはなかなか難しいし。
「びっくりした?
まあでもアレだね。銃弾って、勇者の攻撃よりは遅いね。もっと早いかと思ってた」
ワタシは人差し指と中指で止めた弾丸をポイッとそのへんに捨てる。
「……ッ!」
男は半ば恐慌状態に陥ったのだろう。
一心不乱に何発も弾丸を放つ。
そしてそれを右手の指と指の間ですべて挟んで止めてみれば、男は情けない声を出して尻餅をついた。
「ば、化け物……!」
「侮蔑の意味でその言葉を使ったのかもしれないけれど、それはワタシに対する正当な評価だよ。
じゃあ、選択肢②をご所望とのことで、5名様ごあんな~い」