「よいしょっと。いっちょ上がり」
パン、パン、と手をたたき仕事を終える。
覆面の男達5人は結構簡単に制圧できた。
まあというか、簡単に制圧できなかったらそれはそれでびっくりなわけだけど。
銃弾を片手で止めたのが効いたのか、他の人達は拳銃を使わず、剣やら魔法やらで攻撃してきた。「銃が効かないならファンタジー系の攻撃だ!」ということだろうか。
もちろん被弾はしてない。
剣は回避して根元から折って、魔法はすべてマイナスの作用を持つ魔法を当てて消滅させて対処した。
で、目をパチクリさせている銀行強盗に近づいて、頭に手を当てて昏睡の魔法で卒倒させる。
簡単簡単。
一応縄で縛って動けないようにしてあるからこれで安心だろう。
ふっふっふ、ワタシってば超魔王。
ワタシの魔王ムーブにひれ伏せ、愚民ども。
「お、警察来たっぽい」
ワタシの不敵な笑いに呼応するかのように、けたたましいサイレンの音がいくつか近づいてきた。
きっと銀行の店員が通報したのだろう。
たしか銀行の受付の下には通報用のボタンが有るとか無いとかいう話をテレビでやっていた気がする。銀行強盗の目を盗んでボタンを押す店員さん、さすがだぜ。
……というか、こんなに早く来るならワタシがわざわざ対処する必要なかったのでは?
「……まあいいや。
よし、あとは警察の人がいい感じに処理してくれるだろうし。うんうん、開店時間にもなんとか間に合いそう。終わりよければ全てよし。
いこう、みーちゃん!」
「レインちゃんの力が凄いことは動画を見て知っていましたが、これほどまでとは…… レインちゃんのファンになってしまいそうですね……」
「ふふふ。もっと褒めてもいいよ?」
ひと仕事を終えたので、入り口から出てアニメショップに向かう。
銀行からアニメショップまでは歩いてだいたい10分くらいだ。開店時間の11時まであと20分くらいはあるので、ゆっくりみーちゃんと喋りながら行けばちょうどいい感じだろう。
ワクワクするぜ。
あぁ――!
麗しの1/8プレミアムフィギュア!
「――! 誰か出てきたぞ!」
ワタシ達がルンルンとした足取りで自動ドアから外に出ると、外に来ていた警察官の一人が大きな声で発する。
その言葉に周りの警察官も盾やら警棒やらを構えてこちらを見る。
20~30人くらいは居るだろうか。
透明な厚いバイザーの付いたヘルメットに、人ひとりを余裕で守れそうなライオットシールド。防弾や防魔加工が施されているであろうベストを着用し、ザ・特殊機動隊という装備をしている。
……初めて見たけどかっこいいな。
男心に突き刺さる、素晴らしいデザインだ。まあ今のワタシは女だが。
ご苦労さまですという意味を込めて、一度ぺこりとお辞儀をして通り過ぎようとすると、機動隊のリーダー的な人に呼び止められた。ガタイのいい人が多い機動隊の中でもひときわ図体もでかくて強そうな見た目をしている。
武器を構えたままで、どうやら超警戒してるご様子だ。
ワタシも銀行強盗の一味なんて思われてるんだろうか? こんなか弱い少女を疑うなんて……!
まあ、今の日本で見た目で判断するほど愚かなことはないけど。
「失礼。我々は特殊機動隊だ。
通報がありこの場にいるのだが、あなた方は? 中はどうなっていますか?」
丁寧な口調だが眉間にシワを寄せ、警棒を手に、すぐに応戦できる構えだ。
「ワタシ達は…… しがない一般市民?です。 ワタシは冒険者で、こっちのみーちゃんはギルド職員。銀行強盗なら入口の近くに縄で縛って置いてありますので、あとはよろしくおねがいします。
ではワタシたちはこのへんで……」
「まてまてまて。んん゛ッ。待ってください。状況を確認するのでここから動かないでください。いいですね?
……おい」
「はっ」
機動隊のリーダーが近くにいた隊員に声をかけると、声をかけられた隊員は他の隊員を引き連れて銀行の中に入っていった。
むむ……
結構時間かかる感じ?
まだ多少ショップの開店時間までに余裕はあるが、早いとこ行きたいんだが。
魔ナニカに興味のない人からしたら「別に予約をしてあるのだから、急ぐ必要はないのでは?」という感想を抱くのかもしれないが、それには断固として「否」と答えたい。
たしかに、ショップで購入の予約はしてあるから、1/8プレミアムフィギュアを手に入れるのはショップの開店時間以降であればいつでもできる。
しかし、しかしだ。
発売日にいち早く手に入れたいという、この熱い気持ちは何よりも優先されるのだ。
楽しみにしていたアニメの第1話の放映日、続編が出ることが無いと思っていた名作ゲームの続編の発売日、好きなアニメの声優が出るイベントの日――。
何かを一途に愛する人種である我々オタクからしてみれば、まるで遠足を楽しみにする小学生のように、恋い焦がれたその日、その瞬間を1秒でも早く味わいたいのだ。
簡単に言うと、早くフィギュア買いに行きたい。
「みーちゃん。もうワタシ達行ってもいいかな? いいよね? ね?」
「だ、だめですよ……! もうちょっと待ちましょう! 見てください。あの隊長的なひと、眼力がやばいです。 きっと2,3人は
「マスター。Ms.美卯の言う通りです。しばし待ちましょう。後で面倒なことになりかねません」
「うーん……」
しょうがない。
早く早くと思いながら数分待っていると、中に入った隊員の一人が出てきてワタシたちの前で野獣の如き眼光をしている機動隊リーダーに報告した。
「隊長。彼女の言う通り入口付近に覆面をかぶった5人が縄で縛られていました。
中にいたお客や店員に軽く話を聞いた限り、銀髪の彼女が銀行強盗のすべてを相手取り撃退した模様です」
「間違いないか?」
「はい、複数人に聞いたので間違いないかと。一部の人がスマホで事件の様子を動画を撮っていたようなので現在他の隊員が確認中です」
「ふむ……」
隊長は顎に手を当てて何かを考えるような仕草をする。
……もう行ってもいいよね? いいよね?
「じゃあ、そういうことでワタシ達はこのへんで……」
「ああいや、ちょっと待ってください。
まずはご協力感謝いたします。詳細は確認中ですが、あなたのおかげで被害は最小に食い止められたでしょう。ありがとうございます。
ついては事件のことについて色々とお聞かせいただければと。ご協力いただけますか?」
「いやです」
「……え?」
いけないいけない。
つい食い気味に即答してしまった。
断られると思っていなかっただろう隊長さんはきょとんとした。
「あ、別に後でならいいんですけど、このあと買い物に行かないといけなくて」
「そういうことですか。いえしかし…… 重要な参考人を……」
隊長は歯切れの悪い言い方をする。
うん、分かりますよ? そりゃ犯人逮捕に関わった人物から事情聴取したいよね。隊長さんも職務を遂行したいよね。でも、ワタシは早くフィギュアが買いたい!
もう、いいよね。
ワタシ十分我慢したよね。
我慢したワタシ偉い!
「うーん、えっと、ワタシはレイン。レイン=フレイム。
隊長さん、お名前は?」
「え、はっ。失礼、自己紹介が遅れました。
本官はこの隊を預かる神宮寺と申します」
「そっ、じゃあ…… はい、これ一応ワタシの携帯電話の番号だから。用事が済んだらすぐに警察に行ってあげる。
……んじゃ、そういうことで! 行くよ、みーちゃん!」
ワタシは持っていた適当な紙に自分の携帯電話の番号を乱雑に書き、その紙をそのまま神宮寺さんの胸ポケットにねじ込むと、みーちゃんの手を引いてアニメショップへ向けて走り出す――!
「え、ちょわわわわっ!? レインちゃん!?」
「はっはっはー! じゃあね神宮寺さん、また後で!」
「え、あ、ちょっと! レインさん!?」
隊長さんの呼び止めを無視してワタシは走り抜けた。
私の俊足には太刀打ちできまい!
ごめん、神宮寺隊長さん!
あとでちゃんと警察に行くから!