TS美少女魔王さま、オタクが再発する   作:波土よるり

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今回は神宮寺さん視点。




第22話 事情聴取にカツ丼はありません

「お二人ともご協力ありがとうございました。供述調書の作成もつつがなくできそうです」

 

 神宮寺は事情聴取に使っていた書類を集めて机でトン、トン、ときれいに揃える。

 

「ふっふっふー。今のワタシは機嫌がすこぶる良いからね。これぐらいお安いご用ってやつ?」

 

「いえいえ! ご協力できて何よりですッ! 警察に協力するのは市民の務めというやつなのですよ」

 

 銀髪の小柄な少女――レインは得意げに腕を組んで『ふふん』とドヤ顔を。

 そして栗色の髪の少女――三成(みなり)美卯(みう)は警察官や自衛隊員がする『敬礼』のポーズをしながら元気に応えた。敬礼は右手でするのが本来のルールなのだが、それを言うのは野暮というものだろう。

 

 なにはともあれ、無事に事情聴取ができてよかったと神宮寺は少しほっとしていた。

 事件現場に居合わせたこの少女たちに事情を聞こうと思ったが、その場では逃げられてしまい、どうなることかと思ったが、約束通り、ちゃんと彼女らは警察署に来てくれた。

 

 通常、こういった事情聴取や事後処理的な事務は、暴力的な事件や魔法を使った犯罪等の対処を主な業務とする特殊機動隊の領分ではあまりない。しかし、神宮寺の隊では余裕があればなるべくやるようにしている。

 こういった事後処理のことも知っておいたほうが、一般の警察官とも連携が取りやすくなり何かと役に立つからだ。自分より2つ前の隊長からの風習らしいが、神宮寺はその考えに大いに賛同している。

 

 ちなみに今回は神宮寺が直接彼女たちに話を聞きたいと思い、少し根回しをして彼女の事情聴取に当ててもらった。

 

一条(いちじょう)、彼女たちを入り口まで送ってくる。すまないが、書類を持って先に戻っていてくれるか?」

 

「承知しました」

 

 神宮寺は一緒に事情聴取をしていた女性――副隊長の一条に持っていた書類を渡し、そのまま小会議室を後にした。

 

「そうだ。わざわざ来ていただいたお礼と言ってはなんですが、なにかおごりますよ? どれが良いですか?」

 

 会議室を出てすぐのところにある自動販売機がふと目に入ったので、二人に問いかける。

 

 するとレインのアホ毛がピコンと一瞬揺れたような気がした。

 ……最近働きすぎで目が疲れているのかもしれない。しかしまあ、アホ毛が意思を持ったかのように動いたとしても不思議ではないくらい、レインの目は輝いていた。

 

 たかが100円ちょっとの飲み物がそんなにお気に召したのだろうか。まるで小さな子どものような無邪気な反応に、神宮寺は思わずくすりと小さく笑った。

 

 三成(みなり)も『ありがとうございます!』と元気に神宮寺へお礼を言った後、自動販売機の前に立ち、レインと一緒に何を買うか悩み始めた。

 レインと三成は歳が近いらしいが、自動販売機の前で一緒に悩んでいる様はなんだか姉妹にも思える。さしずめ三成が姉で、レインが妹だろうか。

 

 二人はしばらく悩んで、レインは『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』、三成は『練乳抹茶みるくティー』を選んだ。

 名前だけ見てもどちらも甘ったるいのが容易に想像できる。

 ……というよりも、『練乳抹茶みるくティー』はまだ分かるが、『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』とはどんな味なんだ。そもそもそんなニッチなジャンルの飲み物がある事自体、神宮寺は今初めて知った。おでん風とはなんだ。おでんのつゆでも入っているのか。

 

「なかなか独特な飲み物ですね」

 

 あまりにも衝撃的な飲料に思わず口がひとりでに動いてしまった。

 

「そう? 結構美味しいよ。……口つけちゃったけど、神宮寺さんも飲む? 一回飲んだら病みつきかもよ?」

 

 レインは不思議そうにこちらを見上げ、飲んでいた『ハチミツたっぷりおでん風いちごみるく』をこちらに寄越してきた。

 

「いえ、自分は大丈夫です。あまり甘いものが得意ではありませんので」

 

「うーん、美味しいのに…… みーちゃんもこの前飲んで美味しいって言ってたよ? ね?」

 

「そうですね! 最初は敬遠していましたが、意外と美味しいですよ! 私は『おでん風いちごみるく 南国フルーティー味』が一押しですね!」

 

「お気持ちだけで大丈夫です。ありがとうございます」

 

 なるほど。

 どうやらレインだけでなく、三成もなかなか独特な味覚の持ち主らしい。――いや、自分が単に歳をくったおじさんだからだろうか。今の若い子は一般的にこういった味が好きなのかもしれない。

 

 そのまま三人で少し世間話をしながら入り口までレイン達を送った。

 

「んじゃバイバーイ、神宮寺さん」

「みるくティー、ごちそうさまでした! 失礼します!」

 

「どういたしまして。改めてお二人ともありがとうございました」

 

 そのまま神宮寺は自分の隊の事務室まで戻る。

 今、神宮寺の隊の隊員は出払っている者が多くて事務室は少し閑散としていた。

 

 パソコンの前で事務作業をしている一条に『お疲れ』と言って、先程自動販売機で一緒に買っておいた缶コーヒーも渡す。

 

「あら、頂いてよろしいんですか?」

 

「レインさん達に買ったついでだ。……あ、すまん。ブラックで大丈夫だったか?」

 

 つい癖でビターのコーヒーを買ってしまったが、実は一条もレインたちのように甘党だったかもしれない。カフェオレとかにしたほうが良かった気がいまさらしてきた。

 

「大丈夫ですよ? 私は苦いのも甘いのも大丈夫です」

 

「そか。なら良かった」

 

 大丈夫なら良かったと一安心して、神宮寺も自分用に買った缶コーヒーを開けて飲む。

 やはり、自動販売機で買うのはブラックのコーヒーに限る。先程妙に甘そうな名前の飲み物を見たせいで余計に缶コーヒーが美味しく感じる。

 

 美味しい苦味を感じながら、ふぅと一息ついて神宮寺は口を開く。

 

「……一条、彼女のことをどう思う?」

 

 『彼女』とは、もちろんレインのことだ。

 

「……そうですね。成人している割に少し子どもっぽい性格をしていますが、ひとまず人格等、問題のある人物には見えませんでした。それに…… 例の動画で見た限り、かなり実力があります。スカウトするには申し分ない人材かと」

 

「そうだな。俺も同意見だ」

 

 神宮寺は一条の答えに満足気に笑った。

 

 今日の事件、銀行からの通報を受け、すぐに動ける状態にあった自分たちの隊がすぐに現場に向かった。

 しかし、すでに事件は解決済み。

 

 銀行に来ていたお客に訊けば、銀髪の少女――レインがすべての銀行強盗を相手取り、あっけなく倒して拘束したのだという。

 レイン達に事情聴取から逃げられたあとはとりあえず現場検証に協力していたが、その際、銀行に来ていたお客の一人がスマホで動画を撮っていたので見させてもらった。

 

 一言で言えば圧倒的だった。

 弾丸は指で止め、剣は力任せに根元から折り、魔法はなにかの魔法を使って消滅させていた。

 

 剣を折るのは神宮寺でも簡単にできるが、弾丸を指で止めるのは難しい。自分に強化魔法をかけて(はじ)くくらいはたぶんできるが、目で見てそれを掴むという芸当はできないだろう。

 

 それに、神宮寺は魔法にも多少腕に覚えがあるが、レインが使っていた魔法は初めて見た。

 室内での魔法攻撃に対する行動としては、基本的に避けるか、防壁を貼るかだ。なにか別の魔法をぶつけて対処することもできるが、そうすると敵の魔法も自分の魔法も、思わぬ方向へ跳ねたりして味方や周りに被害が出る場合がある。

 しかし、レインは相手の魔法を完璧に消滅させた。どういう魔法なのだろうか。

 

 動画を見ただけでも、特殊機動隊の隊長格クラス―― いや、それ以上だと言っても過言ではないだろう。

 

 そんな人材を放っておく手はない。

 レインは冒険者だと言っていたが、ぜひ特殊機動隊にスカウトしたい。不安定な冒険者よりも収入や福利厚生も充実している特殊機動隊に、きっと彼女も魅力を感じるはずだ。

 

 

「それと…… 彼女たちはたぶん同志です。持っていた紙袋は私も行きつけの店のものでしたし、一緒に働くことになったらぜひ語り合いたいものです」

 

「……ん? 同志? どういうことだ?」

 

「いえ、失言です。気にしないでください。こちらの話です」

 

「……そうか?」

 

 一条との話は、今回みたいに時々噛み合わない。やはり自分よりも一回りも歳が下の、しかも女性との会話に付いていくのは難しいなと改めて思う。

 若者に置いていかれぬよう情報はなるべくアップデートするようにしているが、もう少し精進しようと神宮寺は(ひそ)かに誓った。

 





アニメとか漫画とかでよくある意味不明な飲み物・食べ物たちが好き。

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小説のことはそんなにつぶやいてないですけど…
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