時間があるときにちまちま更新していきます。
第25話 未確認モンスター
「マスター、働きましょう」
「りょうか~い。明日から頑張るね~」
「だめです。可及的速やかに、です」
ベッドで布団にくるまりながら携帯型ゲーム機で遊んでいると、ナヴィが顔の前に割り込んできた。
「ナヴィ、画面が見えない。
ご主人様のゲームライフを邪魔するなんてどういう了見なんだまったく。国際孵化厳選でワタシ忙しいんだけど。今日こそ国際孵化を完遂するって決めてるんだワタシは」
「色違いを狙うよりもっと大事なことがあります。
いいですかマスター? 我が家の家計は火の車どころか大炎上中です。プレミアムフィギュアの購入、Ms.美卯やMs.一条との度重なる買い物による支出、ゲームやアニメグッズの通販などなど。
お金を使うことは悪いことではありませんが、支出をするのであればそれ相応の収入が必要です。いい加減働いてお金を稼いでください」
「明日から本気出すし~、何なら昼ごはん抜くくらいなら大丈夫だから~」
「ダ・メ・で・す。人間は一日3食が基本だと何度も言っているでしょう。
マスターは今人間の身体になってしまっているのですから、健全な食生活は必須です」
ナヴィがジト目になってまくしたてる。
ナヴィ=おかん説、あると思います。
こうなるとナヴィは譲らないんだよな……
まあたしかに、実際のところお財布の中身が寂しいのは本当だ。この前ダンジョンに行って稼いだお金は軒並みオタクライフの必要経費に消えていった。ナヴィの言う通りそろそろお金を稼がないといけない。
まあでも明日からで……
「ほらマスター、いつまでも布団でミノムシにならないで起きてください」
ナヴィはスッと移動すると、無慈悲に布団をめくった。
起きたばかりで体温のまだ上がりきっていないワタシの身体に、朝の少し冷えた空気が容赦なく襲いかかる!▼
「ぎゃあああ! お前、何してくれてん!?
朝の肌寒い時間帯に布団にくるまりながらダラダラとゲームをして過ごす時間がどれほど至福の時であるかお前は知らんのか??? お?お? なかなか起きてこない息子を強制的に起こすおかんかよお前!?!?」
「おはようございますマスター。今日も元気がよろしいようで何よりです。
しっかりと労働に励むことができそうですね」
こいつ…!
「はぁ、分かったよ…… 働きます働きます」
ワタシは肩をがっくりと落として渋々了承する。
まあいいや…… この前みたいにテンポよく稼げるかは分からないが、良さそうなクエストがあったらそれも受けてしばらくは働かなくてもいいくらいに稼いでやる。
*****
「で、ナヴィ。あれは何?」
「私にも分かりかねます。おかしいですね…… 現在日本で確認されているモンスターはすべて私の記憶領域にインプットされているはずですが、あのモンスターの姿形に合致するものはありません」
「まあそもそも街中でモンスターが暴れてるのがおかしいけどね」
ワタシとナヴィはおかしな光景を遠目から冷静に見ていた。
時刻は朝の8時過ぎ。
通勤途中のサラリーマンやOL、あるいは通学途中の学生が忙しそうに歩いている中、突如として悲鳴が上がった。どこから現れたのか、人間よりも一回りも二回りも大きいモンスターが突然現れたのだ。
体長は3メートルくらいだろうか。
人型の身体に狼のような獣の顔、爪は鋭く伸び、身体は毛に覆われている。一見すると童話や神話に出てくる狼男がただ単に大きくなっただけのように見えるが、顎からはオークのように大きな牙が伸びているし、尻尾は蛇になっている。おまけに足は鶏のような鳥類の足だ。
「うーん、たしかに初めて見るな…… モンスターって結構変な見た目してるやつ多いけど、その中でも群を抜いて変だね。なんていうかチグハグだ」
「もしかすると、最近
その時のモンスターとはまったく姿が違いますが、関連がありそうですね」
「そんなモンスターが話題になってたのか…… 全然知らなかった」
「最初の未確認モンスターの報告例がつい1週間前です。最近マスターはゲームにかかりっきりでしたからご存知ないのでしょう。
特殊機動隊はこの対応に追われているらしいですね」
「そういえば
「失礼、マスター。『いっちー』とは誰のことを指しているのでしょうか」
「ん? 一条さんのこと。
ショップでばったり会って以来仲良くなったし、いっちーからも『年上だからって気を使わないでください』って言われて、んじゃいっちーって呼ぶねってなった」
「承知しました。ではそのように記憶しておきます」
少し話がそれてしまったが、暴れているあのモンスターは話題の未確認モンスターと関連がありそうだ。
そこかしこから聞こえてくる悲鳴。逃げ惑う人々。
今のところ怪我人は出ていないようだが、建物や街路樹を破壊しながら、モンスターは逃げ惑う人々をニタニタとしながら追いかけている。
どうやらただ単に無秩序に暴れているわけではなく、弱い生き物をいじめるのがとても楽しいらしい。自分の力に酔っていると言ってもいいだろう。
「討伐しますか? 地上で暴れる未知のモンスターからどのようなアイテムがドロップするのかわかりませんが、多少は家計にもプラスになるでしょう」
「うーん…そうだなぁ。まあ準備運動がてら討伐しようかなぁ…… ギルドに行くこの道を壊されたらワタシが困るしなぁ。
……あ。
なんかこっち向かってきた」
しょうがないから倒してあげようかと思っていると、モンスターの方からこちらに来た。
なんだなんだ。
怯えもしないし逃げもしないワタシにイラッときちゃったのかな?
「というかさナヴィ。ワタシ今良いこと思いついちゃったんだけど、このモンスターってたぶん情報があまり出回ってないんだよね?」
「そうですね。今まで未確認モンスターは5体が確認されていますが、詳細なことはあまり分かっていないようです。加えてこのモンスターは今まで確認された5体のいずれとも合致しません」
「つまりさ、スマホで思う存分こいつの動画を撮ったら、その動画って特殊機動隊とかに高く売れると思わない? あ、週刊誌とかに売っても良いかも」
「可能性は否定しません」
「よし」
ニィッと笑い、ワタシはポケットからスマホを取り出す。
普段スマホゲームしかやらないが、高いだけあってカメラも高性能の自慢のスマホだ。かがりんさんみたいに自動追尾型魔導カメラなんて
「ほらほら鬼さん、こちらまで!」