ワタシ達は特殊機動隊がやってくる前にそそくさと現場を離れ、ギルドまでやってきていた。
言っておくと、別に後ろめたいことは全然ない。
ないったら、ない。
なんなら『街を破壊する未確認モンスターの討伐』という、ヒーローもかくやというような大活躍をしたわけである。素晴らしい。褒めて。
まあ、ただなんていうか……
特殊機動隊の事情聴取とか時間かかりそうだし、ドロップしたこの丸い不思議な宝石も没収されそうっていうか……
まあ実際のところは別に没収とか理不尽なことはされないと思うけど、ワタシは元魔王。つまり人間から見たら悪だったわけだ。警察とかいう正義の権化に対し、本能的に避けてしまったのかもしれんな! あっはっは! あと、早く家に帰って今やってるゲームのランクマッチもやりたいし。
まま、そんなことはさておき。
これから始まりますは、楽しい楽しい、お宝鑑定タイムでございまする。
ギルドの扉をくぐるや否や、ワタシはアイテムショップのカウンターへめがけて駆けた!
「
みーちゃんが居る受付窓口とは少し離れた一角。
そこにアイテムショップがある。
アイテムショップでは文字通りアイテムが売られており、これからダンジョンに行く冒険者たちの物資補給の場所となっている。
そしてここではアイテムを売ってくれるだけでなく、ダンジョンの中で手に入れたアイテムを適正価格で買ってくれるのだ。
そんなアイテムショップのカウンターで頬杖を付きながらアイテム図鑑を読んでいる女性が一人。
彼女が藤宮の姐御こと、ここの店長さんだ。
赤みがかった長い茶髪を頭の後ろで一つにまとめ、目は三白眼。
彼女を知らない人が見れば、彼女のことをヤンキーかと思うかもしれない。服装もなんとなくそれっぽいし、言葉遣いも荒いしね。
ちなみに、このギルドでお世話になってる人は大抵彼女のことを『姐御』だったり『姐さん』と呼ぶ。もちろん慕ってのことだ。ワタシも彼女のことは尊敬と畏敬の念を込めて姐さんと呼ばせてもらっている。
姐さんの審美眼は本物だ。
それは彼女の持つ特異な
一応彼女もギルドの職員だが、彼女の居るこのアイテムショップは、クエストカウンターや総合カウンターとは少し雰囲気が違う。
クエストカウンターとかは市役所の受付みたいな感じだが、この場所はアイテムやモンスターからドロップした素材で溢れかえり、ここだけは異世界風味が強い。
だからだろうか。
ここに居ると、なんだか妙な安心感を覚える。
「あァ? んだよ、騒がしいと思ったらレインじゃねーか。こんな朝っぱらから珍しい。
ナヴィも一緒か。朝からどうしたんだ?」
「ふっふーん♪ 姐さんがそんな透かした顔をしていられるのも今のうちだよ」
ワタシは溢れ出る自信をそのままに、ポータルを開いて、未確認モンスターからドロップしたあの紫色の宝石を姐さんに見せる。
もちろん、とびっきりのドヤ顔で。
「じゃーん!」
「……! ――ほぅ」
姐さんは一瞬目を見開いた後、まるで好敵手を見つけた歴戦の戦士のような目つきで小さく感嘆した。
「見てもいいか?」
「もちろん。姐さんならこいつの価値を見抜いてくれると思うからね」
ひょいと姐さんに渡す。
姐さんは美術館の学芸員がつけるような手袋をはめ、ワタシから受け取った宝石をいろいろな角度から見る。
カウンターに備え付けられたライトで宝石を照らしながら見たり、頭の上に上げていたスチームパンクなルーペを通して目を凝らしてみたり。
そうしてひとしきり見た後、姐さんの眼の周りに魔法的な流れを感じた。
瞬間、姐さんの眼は大海を思わせる深い蒼色から、財宝のような金色へと変化する。彼女のスキル、『鑑定眼』だ。
姐さんは30秒ほど『鑑定眼』で宝石を見ると、満足したように、小さくふぅと息を漏らした。
「どう、姐さん?」
「そうだな――」
姐さんは顎に手を当てて少し考えると、ニカッと口を開いた。
「一言で言えば…… 分かんねぇ!」
これ以上ないほど満面の笑みで、かつ自信満々に言うので思わずズコッと
姐さんの鑑定眼は創作物でよくあるような鑑定とは少し違う。
創作物でよくある鑑定はその場で人物やアイテムが何か分かるものが多いと思うが、基本的にそういった鑑定は現実には存在しない。
姐さんの鑑定眼は、構成する物質が何か、魔力をどれくらいまとっているか、質量はいくらか、というくらいしか分からない。まあ、それが分かるのはとても凄いのだが。
うーむ…… 姐さんでも分からないとなると、いよいよこのアイテムは新発見の
新発見という響きはいいが、値がちゃんとつくのか心配だ。
見たこともないアイテム→値がつけられません→買取不可 のコンボになったら最悪だ。ワタシはこの後もお仕事をしないといけなくなる。
「えぇ~…… なんでそんな自信満々に分からん宣言してるの姐さん……」
「まあ聞けレイン。
これが何かは分からんが、見たことはある」
がっくしと
「ん? どゆこと?」
「最近、未確認モンスターが街中に現れるっつー事件が起きてるのは知ってるだろ? そいつを討伐したときにドロップするアイテムとこいつは瓜二つだ。
つい2日前に水々市に現れた未確認モンスターは特殊機動隊に討伐されたんだが、そんときあたしも呼ばれたんだよ。見たことがないドロップ品があるから鑑定してほしいってな。そのときに見たんだ」
「はぇ~、すっごい」
「で、だ。率直に聞くが、レイン。コイツをどこで手に入れた?」
姐さんは座ったままこちらを心底楽しそうにまっすぐ見てくる。
「つい15分くらい前に街中でモンスターが暴れててそいつを倒したらドロップしたよ」
「そうか。ふふ…… クククク……ッ」
ワタシがそう答えると、姐さんは肩を震わせながら笑い出した。
「クク…… それで、特機隊はお前が倒した後に来たってわけか?」
「うーん……たぶんそうじゃない?
事情聴取されるのとか時間がかかりそうだったから、特機隊を待たずにスタコラサッサとここに来たから」
「ププッ……アハハハッ……! そうかそうか!
ったく、レインはやっぱおもしれーな! クククッ…… ナヴィもコイツといて飽きないだろ?」
「そうですね…… マスターと一緒にいるととても楽しくて刺激的です」
「ククッ……」
ひとしきり笑いきると、笑いすぎて目に浮かんだ涙を拭って姐さんは言葉を続けた。
「あー、おっかしー。
……で、倒したやつはどんなモンスターだったんだ?」
「んー、ぱっと見は狼男みたいだったんだけど、蛇みたいな尻尾が付いてたし、足がなんか鶏みたいな感じだった」
「ほぉー…… そうすると、2日前のモンスターとは全然違うわけか。
特機隊に見せてもらった写真だとあれはライオンと象とキリンを足して3で割った感じだったし…… しかし、共通して同じような宝石がドロップするわけか。興味深いな。他の共通項としては街中に現れる点と複数の種の特徴を備えていることくらいか…… そもそも未確認モンスターが一番最初に確認された隣の市のときもそうだがモンスターが自然発生的に街中に現れること自体――」
姐さんはぶつぶつと考えをつぶやきながら顎に手を当てて考えはじめる。
控えめに言って凄い楽しそう。
姐さんはヤンキーみたいな見た目をしているのに……なんていうと失礼だが、すごい知識に貪欲で、こういう『未知』にひときわ心を躍らせるらしい。たしか冒険者学校も主席で卒業しているとか言ってた気がするし、基本的にハイスペックなんだよね、この人。見た目とのギャップが凄い。
……と、それはさておき、ワタシはまだ重要なことを姐さんに聞いていない。
思考に
「姐さん、姐さん。
買取不可はまじで勘弁してほしい。
「ん……? ああ、すまねえ。そうだな、コイツは協定が適用されるだろうし…… ウチで買い取れる額は基本的にこうなるな」
そういって姐さんは電卓を叩くと、ワタシに見せてくれた。
「えっと、一、十、百、千、万、十万…… ?! マジ?! 姐さんマジ?! これ10万の
あまりにも嬉しすぎてぴょんぴょんと跳ねて姐さんに聞く。
こんな石っころがこんな大金になれば、今日はもう働かなくて済むぞ! 早起きは三文の得どころの話じゃない!
「ああ。まじのマジだ。
本当を言えばこんな不思議なアイテム、金積んででもあたしが欲しいくらいなんだが、たぶんギルドと特殊機動隊との間の協定が適用されるからな。一律適用ってわけでもねぇが、事件解決の重要なアイテムになりそうなやつは、このくらいの値段で買い取れることになってる。まあ、あたしの裁量もある程度入るけどな。
ここで買い取って特殊機動隊と後でやり取りすることになるわけだな。
……で、どうする? 売るか?」
「売る売る!」
今日はもう働かなくてOKだ!
これで勝つる! キタコレ!
「マスター、マスター」
家に帰ってからのぐーたら
「ん?」
「動画はよろしかったのですか? せっかく撮影されたのですからMs.藤宮に売れるかどうか聞いてみてはいかがでしょう?」
「あ」
すっかり忘れていた。
「姐さん姐さん。ワタシ、こんな動画撮ったんだけど、これのデータとか買い取ってもらえそう? ワタシの実況付きという付加価値もあるけど」
「見せてみろ」
ポケットから取り出したスマホのライブラリを開いて姐さんに見せる。
5分にも満たない動画を見終えると、姐さんはニヤリと口を開いた。
「これも同じ額でいけるぜ? どうする?」
「売る売るー♪」
「良かったですね、マスター」
「ん!」
今日のワタシまじ豪運じゃね?
夕飯は奮発して、近くのスーパーでお寿司でも買おうかな!