TS美少女魔王さま、オタクが再発する   作:波土よるり

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まだ数話は魔王さまのオタクは再発しません



第1話 ここは誰? 私はどこ?

「……ここは? ぐっ……」

 

 痛む頭を右手で押さえ、起き上がる。

 上体を起こし、あたりを見渡してみると、どうやら洞窟のようだ。

 

 なんでワタシはこんな場所で寝ていたんだ?

 

「マスター」

 

「うわ?!」

 

 急に後ろから話しかけられて、反射的にびっくりして変な声が出てしまった。

 話しかけられたほうを見ると、ふわふわと浮かぶ、淡いピンク色をした立方体がいる。

 

「びっくりさせるなナヴィ」

 

 パタパタと側面についた長方形の耳を動かし、一つ目をパチパチ瞬きさせると、ピンクの不思議立方体生物―― ナヴィは少し不機嫌そうな目をする。

 

「ただ単に話しかけただけなので心外です。

 それに、マスターが目を覚ますまで甲斐甲斐しく見守っていたことを褒めて欲しいくらいです」

 

「いやまあ、それはありがとうなんだけどさ」

 

 彼、あるいは彼女の名前はナヴィ。

 20センチ四方の立方体のような身体をしているが、れっきとした精霊で、ワタシが魔王に君臨してからの付き合いだ。もう何十年、ナヴィと一緒な気がする。

 

「ところで、ここはどこだ?」

 

「分かりません」

 

「へ?」

 

「分からないのです。

 私の最期の記憶は、魔王城でマスターと一緒に勇者に殺された記憶です」

 

「あぁ――」

 

 思い出した。

 そうだ、たしかにワタシは殺された。人間がワタシを討伐するために遣わした17人目の勇者。そいつに殺された。

 

 別に悔いはない。

 いや、むしろ楽しかった記憶しかない。

 

 日本から異世界に飛ばされて何十年間も魔王として君臨していたけど、あんなにも心躍る戦闘は初めてだった。

 

 強かったな、アイツ。

 

 しかし、そうなると、ワタシはなぜ生きているのだろう?

 確実に胸を剣で貫かれたはずだ。

 

 いくら魔族の身体が丈夫だからといって、生きていくのに必要不可欠な器官を破壊されて生きているはずがない。

 

「ワタシ、たしかに殺されたはずなんだが…… 生きてる?」

 

「マスターは生きていますが、どうやら事はそう単純ではないようです。マスターの角や羽根など、悪魔的な特徴が消失しています」

 

「何だと?」

 

 

 ナヴィに言われて慌てて頭や背中を手で触って確認してみる。

 

 ……本当だ。

 

 猛々しい2本の角、コウモリのような羽根、先端がスペードのような形になった尻尾がない!

 

 もしかして、死んで全く別の人に憑依した、とか?

 

 ……ありえる。

 インターネットに張り付いてアニメや掲示板ばかり見ていたオタクサラリーマンが異世界に飛ばされて、美少女になって魔王になることがあり得るのだ。死んで別の人に憑依することだって起こり得る。

 

 できればちゃんと自分の姿を確認したいが――

 

 そう思ってキョロキョロとあたりを見渡しても当然姿見はない。

 しかたがないので、地面の適当なくぼみに水魔法で水たまりを作り、水面の反射で姿を確認することにした。

 あたりはぼんやりと明るいが、より強い光源を求めて光魔法で明かりも出す。

 

 即席の姿見へひょいっと、水面を覗き込めば、そこに映るのは美少女。

 

 すこしウェーブのかかった長い白銀の髪に、炎を凝縮して落とし込んだような紅の瞳。

 幼さの少し残るものの、猫の目のように少しつり上がった勝ち気な目つき。

 

 かわいい。

 

 おっと、ついつい自画自賛してしまった。

 

 しかし、これは紛れもなく、魔王であるワタシの姿だ。

 まあ、角とか羽根とかないが。

 

 うーむ…… 死亡して、知らない人間に憑依したという説は薄いだろうな。顔の造形も身体もワタシだし。尻尾ないけど。

 

「意味が分からない」

 

「全くですね。しかし、ここでじっとしていても事は進みません。

 マスターの体調が良いようでしたら、ここがどこだか確かめるためにも出口を探すのはいかがでしょうか」

 

「そうだな。うん、頭痛いのも治ったし、とりあえず進もうか」

 

 

 

****

 

 

 進んでいると、色々と分かることもあった。

 

 まるで誰かが整備しているかのように洞窟の道には明かりが設置されているし、ときどき宝箱(中身は程度の低い武器だった)もある。

 それに、低級のスライムみたいなモンスターも出現する(あろうことか魔王であるワタシを攻撃してきたので火炎魔法で焼いておいた)。

 

 これらを勘案すると、ここはおそらく――

 

「ダンジョンだな」

 

「そうですね。しかし、先程のスライムは妙でした。

 モンスターの王であるマスターを攻撃するなど、いくら低級モンスターでも本能で分かりそうなものですが。それに、私の知識にあるスライムと色や形状が一致するものはありませんでした」

 

 

 たしかにあのスライムは見たことがなかった。

 ワタシを攻撃してきたことも良く分からない。

 

 確かに今のワタシは尻尾や角はないが、魔王としての力、すなわち魔力は変わらず健在だ。勇者と対峙したときと同じように、魔法も問題なく撃てる。

 モンスターは基本的に相手を魔力で判断するから普通ならワタシに攻撃なんてしようとも思わないはずだが……

 

「うーん…… 新種のスライム?」

 

「どうでしょうか……

 それに、殺したスライムが光の粒子になって消滅するのもよく分かりません」

 

「ゲームみたいだよね」

 

「ゲーム……?

 あぁ、マスターが生前“ニホン”というところで遊んでいた遊戯具ですか」

 

「そそ。倒すとあんな感じでモンスターがぱあっと消えてドロップアイテムが……」 

 

 そんなふうに話しながら歩いていると、不意に気配を感じた。

 ちょうど前に見える曲がり角の先だ。

 

「――ナヴィ」

 

「はい」

 

 数秒後、轟音とともに、曲がり角の向こう側から巨大な何かが吹き飛ばされてきた。

 

「ゴウガァァ…ァ……」

 

「あれは…… オーク? ちょっと知らない種類だけど」

 

 吹き飛ばされてきたのは体長2メートルはありそうな人型のモンスターだった。

 顎から生えた2本の牙に、人間と豚を混ぜたような顔。(おおむ)ねワタシが知っているオークのそれだった。

 

 まあ、細部は違うのでこれもまた新種かもしれないが。

 

 吹き飛ばされてきたオークはキラキラと光の粒子になって消え、オークが居た場所には握りこぶしくらいの紫色の宝石と、牙が1本残されていた。

 

 

『ふぅ~、あっぶね~』

 

 それを通路の先から来た人間が拾う。

 

 人間はこちらに気がついたらしく、声をかけてきた。

 

『あれ、うそ。まじかー、俺より先に進んでるやつが居たのか。

 俺は赤坂。お嬢ちゃん、見ない顔だな。名前は?』

 

『レイン、だけど……』

 

 そこまで言って、ワタシは気がついた。

 赤坂と言った男性、そしてワタシも、日本語(・・・)を使っていたことに――。

 

 

 

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