「すごく…… 大きいです」
「何を言っているのですかマスター。魔王城に比べればだいぶ小さいでしょうに」
「まあそうなんだけど世間一般からすればかなり大きいぞ、ここ」
ワタシ達は今、Yootuberかがりんの家に来ている。
いや、正確にはかがりんの所有する数ある別荘のうち、水々市にある別荘に来ている。つまりここは本邸ではない。今は水々市に活動拠点を置いているため一応ここが寝泊まりする家らしいんだが……
本邸じゃないのにこの大きさはなかなかやるな。
まるでここからは世界が違うと言わんばかりに敷地をぐるっと一周囲む塀。奥に見える西洋風の建物。大きな鉄製の門。
だいぶ庶民生活に馴染んできたワタシだが、こういった雰囲気は懐かしく感じる。
ここに来たのは、もちろんかがりんに呼ばれたからだ。
勝手に来たわけではない。
以前かがりんとダンジョンの中で会ってコボルトに襲われてた女の子を助けたりしたわけだが、そのときに約束した「食事をおごってもらえる」という話が今日実現するわけだ。先日の街中に現れた未確認モンスターのおかげでだいぶ
ただで美味しい料理、いいよね。
「むへへ… タダで食べられるなんて、情けは人の為ならずとはこのことだな」
「マスター、ちゃんとテーブルマナーとか覚えてますか?
「ふっふっふ。案ずるな、ナヴィ。
7~8割方覚えているぞ! あれだろ、色々とお
「……」
「……そんな目で見るな。
そもそも今日は友達の家に遊びに来ただけなんだ。かがりんからも“
「それはそうですが…… ギルドの酒場のようなノリで食べるのはお控えくださいね」
ナヴィは少し心配そうな目でこちらを見てくる。
大丈夫だぜ、ナヴィ。
何も心配することはない。
1DKのアパートで暇なときはニヨニヨ動画で時間を潰したり、アニメや漫画を観たり読んだり。
あるいは布団の中でお菓子を食べたり、肘を付きながらご飯を食べるという、ほんのちょっぴりだけダラけた生活を謳歌しているがワタシだって元魔王。上品に、且つ大胆に振る舞うなんて造作も無いことだ。……たぶん。
そういえばあんまり考えてなかったけど、かがりんって何者なんだろうか。
なんとなくお嬢様っぽい口調と見た目だったし、LIMEでやり取りしてるときも節々にお嬢様感出てるけど、こんな大豪邸に住んでるってことはちょっとしたお嬢様じゃなくて、まじで大企業の社長令嬢とかでしょ?
なんで冒険者なんてやってんの?
……LIMEではダンジョンとか冒険者のこと話すのが主だけど、今日はそこらへんも聞いてみるか。
「まあいいか。そろそろ行くぞナヴィ」
「はい」
大きな鉄の門のすぐ横にブザーがあるのでそのボタンを押す。
少しすると、透き通るような女性の声で「レイン様ですね。少々お待ち下さい、今お迎えに上がります」と。
少し待っているとすぐに女性がやってきて門を開けてくれた。
「レイン様とナヴィ様でございますね。心よりお待ちしておりました」
迎えに来てくれた女性が
秋葉原なんかにいそうなコスプレメイドさんとは全然違う、クラシカルなロングスカートのメイド服に身を包み洗練された動きでこちらを迎える。
ワタシは生地とか服とか、そういうのに詳しいわけではなし、興味もさしてないが、頭に乗せている
魔王やっているときも色々と身の回りのお世話とかしてくれる使用人はいたけど、地球のメイドみたいな服装じゃなかったから、なんていうか新鮮だ。
あっちの世界では人型魔人だけじゃなくて異型魔人も多くてそもそも統一的な服装っていうのは少なかったからなぁ。あぁでも、この人みたいにメイドは皆ホワイトブリムを頭に乗っけてたりしてたか。
ワタシの付き人をしてくれてた
勇者が来てるから逃げろって何度言っても離れてくれなかったから、最後の最後は力づくで無理やり遠くに飛ばしたけど、殺されず生きててほしいものだ。
「おや? どうかなされましたか?」
「あー、いや。なんとなく昔の知人に似てて思い出してた」
「ふふ。そうでございましたか」
メイドさんは明るく朗らかな笑顔をする。
何だその太陽みたいな笑顔は…… かわいいかよ。
「ささ。お約束の時間よりも幾分か早いですが、すでにお嬢様はテラスでお待ちです。ご案内いたしますね。
あ、自己紹介がまだでしたね。私は
珊瑚さんの後ろに付いていき、いざかがりん邸へ入っていく。
鉄の門を通り、まず目に入るのは広い敷地を使ったきれいな庭園。噴水とかも当たり前のようにあるし、邸宅までの道を手入れのの行き届いた木々や花々が彩ってくれている。
そしてその奥には中世風とでも言えば良いのだろうか。蒼色を基調としたレンガ造りの大豪邸がある。
水々市みたいな割と都会にこんな場所があったなんて全然知らなかった。
――こんな大豪邸で、今からワタシが食することになる料理…… 久々の高級料理に胸が高鳴るぜ。
そんなふうに想像したのがいけなかったのだろう。
ワタシの腹の虫が盛大に『グゥ~…』と大きな音を出して鳴った。
「ぅ…… 恥ずかし……」
「空腹は最高の調味料といいますが、やはり軽くでいいので朝食は摂るべきでしたね」
「ふふ。美味しいご飯までもう少しでございますよ。
きっと、ほっぺたが落ちてしまうくらい美味しいと思います。お嬢様がご友人をお招きするなんて
珊瑚さんがワタシとナヴィのやり取りに小さくクスリと微笑む。
「……ん? 友達来るのがとても珍しいって、もしかしてかがりんってあんまり友達いなかったりするの? コミュ
「マスター。デリカシーがないのですか」
「あ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ。
……そうですね。実際、お嬢様にご友人と呼べる存在は少ないかもしれません。
あの方は、今も昔も周囲から
……だからでしょう。“対等”で“気の許せる”方は限られてしまいます」
珊瑚さんは歩を進めながら少し物憂げな横顔をのぞかせる。
まあそりゃ、お金持ちのお嬢様って知っていればそう見てしまうし、庶民からすれば一定の距離を置いてしまうだろう。有名な配信者であれば芸能人と同じだ。そういう色眼鏡を通して見てしまうのはしょうがない。
ワタシも魔王なんていう大層な仕事をやってたから、対等な存在なんて、それこそ家族かナヴィくらいだったかな。臣下もみな良いやつらだったが、どうしても上司と部下の関係だった。従者のアラクネも、仲はとても良かったが友達かと言われれば少し違うかもしれない。
……あれ? 今思うと魔王のワタシも友達少なくね?
「レイン様と初めて会われた日、お嬢様はとても楽しそうに、そして嬉しそうに私共にレイン様のことを話されました。
『レインさんったら、わたくしのこと全然知りませんの!』『レインさんと協力してサンダーコボルトの魔の手から女の子を助けたのよ!』なんて楽しそうにおっしゃっていましたわ」
その時の光景があまりに微笑ましかったのか、まるで我が子を思う母のように珊瑚さんは小さく笑う。
少しして、珊瑚さんは歩みを止めてこちらにくるりと向いた。
「レイン様。改めて、お嬢様のことよろしくお願いいたしますね」
「え、あ、うん。任せてください…?」
「ふふっ。さあ、お嬢様は2階のテラスです。
美味しい料理までもうすぐですよ」
庭園を抜け、珊瑚さんがかがりん邸の立派な扉を開けてくれる。
さすが、家の顔ともなるべき玄関なだけあって立派な扉だ。
【追記・修正】
レインが魔王さまっぽくないこと言っていたので少し修正して上げ直しました。
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アラクネみたいな半人半獣みたいな魔物すこすこ