TS美少女魔王さま、オタクが再発する   作:波土よるり

37 / 45
第35話 出勤

「くっ……! 朝の日差しが我が身体に襲いかかる……ッ!」

 

「何を仰るんですか。マスターは日の光に弱い種族ではないでしょう? そもそも今は人間の身体ですし」

 

「あのなナヴィ。こういうのはノリとテンションなんだ。

 それに良いことを教えてやるぞナヴィ。人間には夜行性の種族もいるんだ。そしてワタシは限りなく夜型の人間だから日の光に弱いんだ。たぶん」

 

「私は人間ではないのでよく分かりませんが…… なるほど、人間も奥が深いのですね」

 

「そうそう。そういうこと」

 

 ナヴィが言うようにワタシは別に日の光に焼かれる種族ではないが、なんかこう…… 中二病なテンションなときってあるよね? 邪気眼とかちょいちょい暴れるよね? 誰も見てないとついやっちゃう。

 

 1DKのアパートを後にしてそんな他愛もないやりとりをしながら、冒険者ギルドへの徒歩15分の道のりをてくてくと歩く。

 

 今日は珍しく早起きしたからか、通勤・通学の時間帯にあたってしまったらしく、道行く人が多い。

 スーツを着て時計を確認しながら早足で歩く男性、2列に並んで自転車で走行している女子高生たち、バス停でスマホのカメラを鏡代わりに髪をいじっている女性。色んな人がいる。

 

 道行く人の中にはもちろん冒険者もいる。

 ダンジョンができる前の日本を知っている身からすれば、スーツ姿の人々の間にときおりファンタジーな防具に身を包んでいる人がいるのはちょっと不思議な感覚だ。

 まあここに来て数ヶ月経つのでちょっとは慣れてきたが。

 

 それにしても今日は朝の時間帯という点を除いても、冒険者がやけに多いような気がする。冒険者って意外と朝型が多いのかも?

 

 そんな光景を見ながら水々市冒険者ギルド04支部へ向かう。

 

 ギルドの扉を開けて受付カウンターに行くと、いつもどおり受付嬢のみーちゃんがブンブンと手を振って元気よく出迎えてくれる。

 朝早くから元気でみーちゃんはすごいな。

 

「レインちゃんにナヴィちゃん! おっはよーございまーす! 早朝からいらっしゃるとは珍しいですね!」

 

「おはようございます、Ms.美卯」

 

「おはようみーちゃん。お金がなくてね…… 仕方なく働きにきた」

 

「なるほど…… あれ? でもこの前“キメラを討伐してたくさん儲けてたから、しばらくギルドには顔出さないと思うぜ?”ってアイテムショップの藤宮さんが言っていたような…… レインちゃんからもLIMEで“いっぱい稼いだ!”って来たような……」

 

 みーちゃんが唇に人差し指を当てて不思議がる。

 ……うん、みーちゃん。そのお金、ソシャゲのガチャとアニメとかのグッズで全部消えたというか風前の灯なんだ……

 

「Ms.美卯。そのお金はほぼ全てマスターの趣味に消えていきました」

 

「あ~、ははは…… 確かレインちゃん、最近はソシャゲにもハマったって言ってましたしね……

 まああれですよナヴィちゃん! レインちゃんはガチャじゃなくて経済を回しているのですよ! 誇るのです」

 

 みーちゃん、そのフォローはありがたいが無理がある。

 

「今日はどうしますか? クエスト受けて行きますか?」

 

「うん。たまにはクエスト受けてダンジョンに行こうかなってナヴィとも話してた。みーちゃんオススメのクエストとかあれば教えてほしいかな」

 

「そうですね……

 ダンジョンでのクエストもいくらかありますが、やっぱり今のホットなクエストは街中でのキメラ討伐ですね! 報酬が結構良いのでBランク以上の冒険者はパーティを組んだりして張り切っています!」

 

「へー……キメラの討伐ってそんなにいい額の報酬がでるんだ。ここに来る道で冒険者を多く見たのもそのせいか」

 

 どれどれ……っとみーちゃんにキメラ討伐のクエストの内容を見させてもらう。

 

 確かに、普通のモンスター討伐の依頼よりも良い額が載っている。

 

「ちなみにマスター、キメラ討伐者もしくはその協力者に報奨金が出ることは朝のニュースでも報道されていましたよ」

 

「マ? 全然知らんかった」

 

「まあ、マスターがご自身で作られた目玉焼きに舌鼓(したつづみ)を打って悦に(ひた)っていたときに言っていたので、マスターは聞いていなかったかもしれませんね」

 

 そうなのか。

 確かにワタシが作った目玉焼きの焼き加減が素晴らしすぎて聞いてなかったかも知れんな。

 

 それにしてもキメラ討伐の報奨金か……

 たしかに割といい額がでるが……

 

「どうしますかレインちゃん? レインちゃんもキメラ討伐狙ってみますか?」

 

「いややめとく。報奨金の額は魅力的だけど、そもそもキメラに出会える保証は無いし、一日中街中歩くのもちょっとやだし、なる(はや)で家に帰りたいし」

 

「了解です!

 確かに、レインちゃんの言う通り出会える保証はありませんし、最近は1日に数体出現していると言っても、広い水々市のどこに現れるか分かりませんからね。

 一発でかいのを狙いにいくとかでなければ、通常のクエストのほうが確実でしょう。

 

 ではダンジョン内でのオススメのクエストはぁあああああっとと! そうでした! レインちゃんには申し訳ないのですが、すぐに支部長室へ行ってほしいです!」

 

 突然大声を出して思い出したようにみーちゃんが言う。

 

「え? うん? どうしたの急に? 支部長室?」

 

「レインちゃんがギルドに顔を出したら支部長室へ案内するように言付かっていたのでした! 私も詳しくは聞いていませんが、キメラのことで話があると」

 

「分かった。けどなんだろ?」

 

 正直言うと偉い人に会いに行くのは億劫(おっくう)だけど、行かないと絶対後々面倒になるのはワタシでも分かる。

 

 支部長ってどんな人だっけ?

 

 あ、あれか。

 少し前にかがりんとダンジョンの中で女の子を助けたけど、それを褒めてくれて高級寿司をおごってくれたイケオジか。中トロが美味かったなぁ。

 

「支部長ってあのちょっと顔の厳ついオジサマのことだよね? キメラ討伐のお礼でまたお寿司おごってくれるのかな?」

 

「マスター、その方は“ギルドマスター”です。支部長ではありません」

 

「そうですね、ナヴィちゃんの仰るとおりです。

 レインちゃんが寿司をおごってもらったのが、水々市のギルドの各支部を束ねるトップ、“ギルドマスター”です。そして、これから会っていただくのは、この04支部のトップ、“支部長”なのです」

 

 みーちゃんがピンっと人差し指を立てて教えてくれる。

 

「ちなみに言うと、支部長のことはサブマスターとも言いますが、慣例的に支部長と呼ぶことのほうが多いです。

 あと、04支部の支部長はギルドマスターとは違って、女性の方ですよ」

 

「あ、そっか。あのイケオジはギルドマスターなのか。

 まあいいや。とりあえず了解。支部長室ってどこだっけ? 2階?」

 

「はい! あそこの階段を上がって少し行ったところです!」

 

「おけ。んじゃ、ギルドマスターのオジサマみたいにお寿司おごってくれるかもしれないし、ナヴィ行くぞ」

 

「承知しました」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。