TS美少女魔王さま、オタクが再発する   作:波土よるり

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第42話 でんでんむし

 そうして研究所の中を歩くこと数分。

 

「研究スペースへはもう少しだけ距離がありますが、一応こちらが私達の研究室になります。

 とはいっても、最近はキメラ研究のおかげでここにはあまりいませんけどね」

 

 見た感じ普通の事務室みたいだ。

 研究室と言うだけあって色々な書類が積み上がっているが、比較的片付いている印象を受ける。席がいくつかあるが、羽希さんの言うように皆出払っていて誰もいない。

 

「あ、ちょっとすみません。少し待っていてください」

 

「え? うん」

 

 そう言うと羽希さんは研究室の中に入っていった。

 なんだろう?

 

「ちょうど起きたんだね。

 おー、よしよし。あはは、可愛い奴めぇ! 今はお客様が来所中なんだ。また後で迎えに来るから、もう少し待ってて」

 

 廊下から研究室の中を覗いてみると、研究室の奥にある大型犬用のケージに入れられているモンスターをあやす羽希さんの姿があった。

 

 なにあのモンスター? 初めて見た。

 簡単に一言で言えばすごく大きいカタツムリなんだけど、いわゆるカタツムリのツノが3つあって、ツノの先にはピンポン玉くらいの大きさの目が付いている。あとなんか背負っている殻がめちゃくちゃメタリック。

 

 不思議な見た目のモンスターだが、それよりも羽希さんがめちゃくちゃ楽しそうというか幸せそうな顔をしている。

 あのカタツムリはペットかなにかかな?

 あんまりモンスターをペットにするって聞かないけど、モンスターを研究している研究員だし、少し変わり種のペットくらい飼っていても不思議ではないか。

 

「相変わらずマイマイにご執心だな羽希ィ。

 俺たちはだいぶ見慣れたが、それでもやっぱりなんていうか…… ちょっと近寄りがたい見た目してるよな。ま、ナメクジよりは全然マシだけどなァ」

 

「そうだな。というか僕は未だに慣れん。触ったらなんかヌメヌメしてそうだし。

 あの鈍足そうな見た目で意外と速いしな。不意に大型犬くらいのサイズのカタツムリが追ってきたらビビる人間は多いだろう」

 

 それぞれブラックさんとブルーさんがワタシの後ろで遠目で羽希さんたちを見ながら口にする。

 

 まあたしかに一般的な感覚からすれば割と不気味な外見をしている。

 魔物にあまり触れていない人間とかだったら夜中に見たら泣いちゃいそうかもしれん。自宅でゆっくりしているときに大きめの蜘蛛を見たときくらいの衝撃は受けるかもしれないね。

 小さいサイズのカタツムリならともかく、柴犬くらいはありそうな大きいカタツムリとか女の子は泣いちゃいそう。

 

「えー、そうかなぁ? こんなにも可愛いのになにが苦手なんだろう? マイちゃんは性格も温厚で私に対してもすごい優しいぞ!

 今は席外してるけど研究室のみんなも“マイマイかわいい!”って言ってくれるよ」

 

「それはお前の研究室の人は変わり者ばっかりだからだろう? ゴブリンすらカワイイというヤツのカワイイは信じられない」

 

 カタツムリを抱えて羽希さんが少し不満そうに口をとがらせてる。

 

 ワタシは魔物に慣れているというか、もともと魔物を統べる王様だったしこのカタツムリに全然嫌悪感はない。魔物の中にはめちゃくちゃエグいのとかもいるからこんなのでビビっていたら魔王なんかやってられないしね。

 

 ちなみに基本魔物に対して嫌悪感が無いワタシでもアンデッドはちょっぴり苦手だ。

 身なりに気をつけてくれる上位アンデッドなら別に普通なんだけど、ほとんど知能がない腐った死体みたいなやつがね……

 臭いはまあしょうがないとして、見た目がね、普通にR18Gなんだよね。文字通り顎が外れたまま喋りだしたりするし。

 

 ゾンビ種とかはリッチの部下とかに管理させてたくらいにはちょっと苦手。すまん、ゾンビ達。

 

「確かに少し変わった見た目をしてるけど、割とカワイイ方だと思うよワタシは」

 

 羽希さんが少し可哀想なのでワタシなりにフォローしてあげる。

 実際ゾンビなんかに比べてこのカタツムリは全然可愛い方だからね。

 

「レインさんにも分かるかい!? マイちゃんの可愛さが!」

 

 すると羽希さんが目を流星群のように輝かせて顔を寄せてきた。

 

「え、う、うん」

 

「いやーそうなんだよね。マイちゃんはめちゃくちゃカワイイんだよね!あ、マイちゃんっていうのはこの子のことなんだけどね。ちなみにレインさんはすでに知ってるかもしれないけどマイちゃんの種族名はミツメアイアンマイマイっていうんだけど、その名の通り3つのツノの先についたクリクリの目が特徴でね!あと“アイアン”って名前に入っている通り渦巻状の殻の部分が金属で出来ているんだ!成分的には(アイアン)じゃないんだけどね。ちなみに個体によって殻の部分の色合いが異なっていて、私のマイちゃんの場合はピカピカのメタリックシルバー色なんだけど、真っ黒い殻を持った子もいるし、金ピカの殻を持った子もいるんだ。個性があってとてもいいよね!ミツメアイアンマイマイはとてもめずらしい魔物で発見例もそんなに無いんだ。某国民的なゲームのドラゴンなクエストに出てくるメタルなスライムくらい出遭わないっていう人もいるくらいなんだ。で、話を戻してマイちゃんなんだけど、マイちゃんとの出会いはもう15年以上前のことで駆け出し冒険者だった私がピンチに陥ったことがあってね、そのときにまだ野生のマイちゃんが駆け寄ってきて助けてくれたんだ。いやー、野生の頃からマイちゃんは優しくて可愛くて――」

 

 マシンガントークとはこのことだろう。

 言葉の奔流がワタシに襲いかかる。

 羽希さんへのワタシのフォローの言葉が何十倍にもなって跳ね返ってきてびっくりだ。

 

「おい羽希ィ…… またいつもの出てるぞ。レインちゃんめっちゃ困ってるぞ」

 

「ああ! すみません! 好きなことの話になるとついいっぱい喋っちゃうんです……」

 

「う、うん」

 

 好きなものになるとすごい饒舌になる…… あれ? なんだか身に覚えが……

 ワタシも魔ナニカの話してるときって割とこんな感じだったりする?

 

 ……これからはちょっと周囲の目とか気にしようかな。

 

 羽希さんは“また後でね”とカタツムリ魔物のマイちゃんに語りかけてマイちゃんをケージに戻す。

 

「カタツムリ―― じゃなくてマイちゃんは羽希さんの使い魔なの?」

 

「はい、そうです。私は昔冒険者をしていたのですが、駆け出しの頃に出会いました。マイちゃんとはそれ以来のつきあいです」

 

 さっき羽希さんが早口で喋っていたときに15年の付き合いとか言ってたような気がするから、だいぶ長い付き合いだな。

 魔王をしていたワタシだからモンスターの気持ちが見て分かる、というのもあるが、マイチャン自身も本当に羽希さんのことが好きらしい。

 相思相愛で大変よろしいことですね。

 

「すみませんでした、寄り道してしまって。さあ、キメラのところへ向かいましょう」

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