「で、二人とも、初めて見たキメラはどうだった?」
「そうだな…… 一人で相手をするとして、まあ勝てはするだろうが最初の方は苦労しそうだ。あまり一人で対峙したくないな」
「俺も同意見だなァ。個体によっても戦闘能力に差があるらしいが、研究所のやつみたいなのは一人では面倒臭いだろうなァ」
研究室を後にしてブルーさんとブラックさんに話しかける。
研究室で捕獲・研究されていたキメラはワタシが退治したキメラとは随分と姿形が違っていた。
ワタシが討伐したキメラは狼男みたいな外見に、顎からはオークのように大きな牙、尻尾は蛇になっていて足は鶏のような足だった。
それに対して研究所のキメラは、パッと見は二足歩行の亀みたいな感じで、大きさは4~5メートルくらいはあったと思う。背中の甲羅にはコウモリみたいな翼が生えていて、顔は虎みたいな顔をしていた。
ちなみに研究室長の羽希さんによると、翼があるだけあって捕獲されていたキメラは飛ぶことができるらしい。飛ぶときは羽ばたかないらしいから、ナヴィみたいに魔力的に浮いてるのかな?
やはりニュースの報道等でも言われている通り、キメラは個体によって姿や能力が大分違うらしい。
「あの亀キメラ、亀っぽい見た目してるのに飛べるし動きも速いんだろ? 羽希にデータも見させてもらったけどよォ、あんな巨体で縦横無尽に動き回るって相当厄介だぜェ? 一人で倒すんなら結構時間かかりそうだな。
もしキメラに遭うとしても、もう少し倒しやすそうなヤツがいいなァ。タゲ管理とか楽そうなやつな」
「ちなみに1人で相手するなら面倒って話だけど、ブルーさんたちが二人で相手するならどう?」
「僕らが二人で相手をするのであれば楽勝だろうな。モンスターの相手は一人でするのと複数人とでするのではまるで話が違う。そういう意味でも今回の二人一組以上でクエストにあたるというルールは有効だ」
「だな。二人なら負ける道理がねェ。俺ら、一応Aランクだしな」
Aランク以上の人が二人いればキメラくらい楽勝か。
そういえばこの二人はどんな戦い方をするのだろうか?
ブラックさんはちょっとチャラチャラした全身黒統一のコーデだけど特に武器とか持ってないし、ブルーさんも落ち着いた青色の装備を着てるけど武器らしい武器を何も持ってない。
もしかして二人とも拳で戦う脳筋戦法なのかな?
「Mr.ブルー、Mr.ブラック。純粋に興味からの質問ですが、お二人はどのように戦うのでしょうか?」
「お、ワタシもちょうどそれ聞こうと思ってた」
「んー、まあ一応俺のジョブは戦士だ。モンスターと距離詰めて剣で戦う感じってェ言えば伝わるか? んでブルーがだいたいタンク役みたいな感じだなァ」
「もっと言えばブラックは二刀流の剣士だ。そして僕がブラックの言う通り大盾を使って戦う。ブラックは攻撃力はあるが向こう見ずに結構突っ込むからな。僕が守ってやらないと不安だ」
「あァ? んだよそれ。お前ェは俺の保護者かって」
ブルーさんの言葉にブラックさんが笑って応える。
「あれ、でも二刀流とか大盾使いとかいう割には二人とも腰に刺した短剣しか無いようだけど……?」
「ん? あァ、俺達は普段この腰のポーチに武器入れてんだ。いわゆるアイテムボックスってやつだな」
ブラックさんが自分の腰につけているポーチをちょんちょんと指差す。
ああ、そういえば今の日本には普通にアイテムボックスの魔法が付与されたかばんやらポーチやらが売っているんだった。ワタシは普段魔法で亜空間を呼び出してそこにものを仕舞ってるから気にしてなかったけど、この世界でもアイテムボックスを普通に使ってるんだ。
ふーん…… 結構見た目は小さいね。
アイテムボックスの魔法を付与されたものは品質によって性能が大きく違うと聞く。
つまり安物は見た目とほぼ変わらない容量しか無いが、高いものは見た目以上によく収納できる。ブラックさん達のアイテムボックスもきっと良いものなんだろうね。
「僕らもダンジョンの中で動くときは常に武器や大盾を身に着けているけど、街中ではそこまでしないね」
「しかも俺らのアイテムボックスはすごいぜェ? ショートカット登録ができるスグレモノだからよォ、こことここのボタンをこうやって操作すれば――
……よっと。このとおりだぜェ」
ブラックさんがポーチに付いたボタンを得意げに操作すると、なにもない空中に二本の剣が現れ、それを慣れた様子でブラックさんが手に取る。
一本は刀身が真っ直ぐな太い剣。
もう一本は刀身が少し弧を描いている剣。
大きさは一緒くらいだが、左右で違う種類の剣を使って扱いにくくないのかな?
「どうだ?」
「へー、すごいね。アイテムボックスに全然興味なかったからそんな機能があるなんて知らなかった」
とその時、急に周囲の魔力の流れに乱れを感じた――。
この乱れ方には覚えがある。
ちょうど数日前、キメラを倒したときに感じた。あのとき、キメラが出現するときに現れた黒いモヤ、その魔力だ。
「な、なんだ――!」
それは誰の言葉だったか分からないが、声のする方を見れば思った通り、空中に浮かぶ黒いモヤがあった。
「ね、ナヴィ。あれキメラのやつだよね?」
「はい、マスター。先日のものと同じような魔力反応があります」
やっぱりね。
「……空間の魔力反応に強力な反応あり。――マスター、キメラが出現します。ご注意を」
ナヴィの言う通り、黒いモヤが出現してすぐ、モヤに一瞬魔力の乱れが生じた後キメラがモヤから現れた。
馬のような4本の足の胴体に人間の上半身をくっつけたような身体。神話に出てくる半人半馬のケンタウロスのような出で立ちだが、顔に当たる部分は人間のそれではなく、羊のような、或いは悪魔のような顔をしていた。
右手には大きな槍を携え、左手には丸い形をしたラウンドシールドを装備している。
馬のような下半身をしているが、モンスターの身体の大きさは普通の馬なんかよりもかなり大きい。
遠目だが、こいつも4~5メートルくらいはありそうだ。
キメラは悠々とモヤから出てくると逃げ惑う人々をニタニタと笑いながら見下ろす。
自分に恐れおののいて矮小な生物が無様に逃げる様はさぞ滑稽に映っているのだろう。
そしてふと、逃げ惑う矮小な生物の中に全く動じていないワタシ達を見つけた。
「あ。こっち来るみたいだね」
キメラはこちらを真っ直ぐ見据え、闘牛などが威嚇するときに行う地面を足でひっかく動作をしている。
……面倒だけど相手するか。倒せばお金でるし。
この前みたいに動画に撮っても良いけど、目新しい情報はあんまりないだろうし、ギルドにも高く買い取ってもらえないだろうから良いや。
「おっと。レインちゃん、ちょっと待ってくれ。
ここは俺らにやらせてくれねェか?」
ブラックさんはポーチから取り出していた2つの剣をもう一度強く握り締め、ワタシの前に立つ。
「そうだな。いい機会だし、レインさんにも僕たちの実力を知ってもらおう」
「え、まあいいけど……」
「安心してくれ、討伐報酬は3人で山分けだ」
ブルーさんは先程ブラックさんがやったように腰につけているポーチのボタンを操作して大盾を取り出し装備する。
火炎魔法でキメラをこんがり焼こうかと思ったけど、この二人に任せてみるのもいいだろう。
一応、一緒に働くパーティメンバーだし、実力は知っておきたい。もし危ないようなら助けに入ればいいしね。
「へっ、そんじゃァ、暴れるとするか!」