深海より、ジェットを響かせて   作:海月くらげ

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第一話

 それはある晴れた日のことだった。

 私が暮らしていた孤児院は少し前から金欠気味で人手も足りなく、その時ある程度体が大きくて頑丈なウマ娘の私が職員の手伝いや、小さい子供らの面倒を見ていた。その日もいつもと同じように子供らの相手をしていた、違ったのは珍しく来客があったことだ。黒く輝く洗練されたフォルムの、あまり車に詳しくない私でもわかるような高級車の乗ってやってきたスーツ姿の胡散臭そうな男。こんな貧乏な孤児院になんの用事だろうと思っていたが、子供達に遊ぼうと手を引かれひとまず置いておくことにした。

 

 来客があってから30分ほど経った頃、院長に部屋に来るよう呼ばれ行ってみると先ほどの胡散臭そうなスーツを着た男と、そのボディガードだろうか、サングラスをかけた屈強そうな男が立っていた。スーツの男は私を見るとニッコリと笑い何やら難しい文章が書かれた紙を手渡してきた。手紙の中身を簡単に要約すると、孤児院への出資をする代わりに私の身柄を引き取り、専属のトレーナーをつけ訓練を積んだのちトレセン学園へ入学、結果を残せというものだった、もちろん結果を出せなければ孤児院への出資は止まってしまう。スーツの男はよく考えて決めろと言い残しその日は去っていった。

 あまりにも虫の良すぎるこの話を怪しんだ院長は私の身を心配し、そしてその怪しさからこの話は蹴ろうと言ってくれた。この孤児院に住むすべての子どもたちの父ともいえる院長の優しさは身にしみたが、今の経営状況がよろしくないことは私が一番知っている。本当の父も母も知らない私にとって家族はここのみんなであり、この孤児院は帰るべき家、魂の故郷だ。

 

 答えはとっくに決まっている。

 

 ***

 

 今日はいい出会いをしたと私は静かに走る車の中でそう確信していた、あの薄汚い孤児院にいた白毛の美しいウマ娘。昔のツテを使って有望そうな、そして誰も知らない寒門出身のウマ娘を探していた矢先に見つけた存在。写真では何度か見たが今日自分の目で見て確信した、あれはきっと強くなると素人目から見ても理解できた。まだ小さいながら才能を感じる走りと契約書を見せた時の覚悟の決まった目など特に素晴らしい、写真を見せればどのトレーナーもきっと同じことを言うだろう。

 あんなところに支払う金などこれから得る金額に比べればはした金もいいところだ。

 

 そもそも金などは重要じゃない、。彼女を強くし、そこから生まれる利益と功績でもってあの少女を理事長の座から引き摺り下ろし、そこに私が座る。ただの才能溢れるウマ娘ではダメなのだ、最底辺で燻っているありふれた少女がその才能を見初められ、家族や大切なもののために努力と友情で上まで這い上がってくるというドラマ性、特に日本人はこういうのが好きだ。ただ強い奴が上に行くよりも熱狂してくれる。

 

 プルルルと携帯が鳴る。

 画面に表示されているのは彼女の担当トレーナーとして働いてもらう予定の男。昔は優秀だったが、最近はウマ娘を勝たせることができなくなり首が涼しくなりそうになっていたところをすくい上げた。そうなるように仕向けたのは我々だが、この哀れな男は気づいていない。仮に気付けても逆らえない、彼にも生活があり守るべき家庭がある。

 

「もしもし、私です」

 

「ああ大米留さん、俺です。有望な娘を見つけたと連絡があったので」

 

「ええ、まだ幼いですが走りますよ、彼女は。これから英才教育を施せばかのシンザンに並ぶかもしれません」

 

 窓ガラスに薄く映った顔は笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 ***

 

 数日後、あの胡散臭そうな男が一目で営業スマイルとわかる笑顔を浮かべてやってきた。

 前回と違うのは、ボディガード以外に複数人の黒服の男を引き連れていること。引き連れてはいるが、応接室に入るのはボディガードと胡散臭い男だけのようだ。私は院長の隣に座った。

 

「前回渡した書類、読んでいただけましたか?」

 

「はい、バッチリと」

 

「それは良かった。そちらにとっても悪い話ではないと思いますが、いかがでしょう」

 

 何も言わず無言で頷く。

 

「それは良かった、契約成立ですね」

 

 その言葉とともに男が握手を求めてきたのでそれに応じる。

 院長はどこか悲しそうな顔を浮かべているが、無視した。覚悟が揺らいでしまいそうになるから。

 

「それでは今日この瞬間から、君は我々の抱えるチームのウマ娘となった。名前は?」

 

「…オブライエン」

 

「ではオブライエン。これから君は『ホワイトグリント』と名乗ってください」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 






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