有線式ウィッチーズ ヘラります! 作:impossible
メンタルヘルスの略。
本来の意味は精神の健康を指す言葉だった。
しかし近年では精神に何らかの問題がある人間
そこから転じて関わりたくない人間、かまってちゃんなどの意味で使われるようになった。
プロローグ:手記 / 悔恨
【薄汚れた手記がある。読みますか?】
グーテンモルゲン、見知らぬ誰かさん。
こいつはおれのどうでもいい半生を綴ったノートみてぇなもんだ。
読むなり焼くなり好きにしな。
自分語りをするな?
手遅れだぜ、そいつぁ。
さてこの地球に爆誕したおれだけれど。
残念ながら俺に両親はいなかった。
死んだのか蒸発したのかは定かじゃないがな。
孤児院のシスターと院長が強いて言うなら親なんだろうが、そこも経営難で早くに潰れてしまった。
つまりおれは若干6歳でホームレスになったわけだ。
まぁ変な知識が生まれた頃からあったわけだし、女の体というのもあってソッチで食べ物を得ることもできたんだろうが………幸か不幸かひょろガキに興奮するやつはいなかったな。
結局、おれはスリや窃盗の軽犯罪に手を染めなきゃ生きていけなかった。
人の善意?そんなもんスラムじゃ存在しねぇよ
料理なんてのもしたことはないし、カップラーメンのないこの世界で自炊なんてできやしねぇ。
それでも空腹に耐えかねて毒草を食ったり、スリに失敗して半殺しにされて痛い目にあったりしつつそれでもなんとか生きていけた。
ただ、転機というのはいつ来るかわからんもんでな。
ある時、道路を不用心に――まぁ警戒はしてるんだろうが俺から見りゃ不用心だ――歩いてる二人組の女がいたんで、財布をスッてやろうと近づいたわけ。
結論から言うと、それが運のツキだった。
――――バルクホルン
近づいてデカイ方の顔を見た途端、そんな言葉が口から飛び出した。
やべぇ、と思っても後の祭り。
おれがスリを働こうとしたのはすぐバレちまった。
ただまぁ、その瞬間に理解もできたよ。おれがなんで変な知識を生まれたときから持ってたのか。
怪異やウィッチの存在、生まれ故郷らしきカールスラント、そして目の前のバルクホルン………だいたい分かった。
話を戻すと、出会っちまったのはバルクホルン……トゥルーデ姉妹だった
ただまぁ、「あの時点」の姉妹は相当なお人好しだ。クリスを失ってないトゥルーデは特に。
そうなるとおれの方針は決まった。
同じ孤児たちにゃ悪いが、バルクホルン家に世話になろうという魂胆よ。
生き残るのに手段は選んでられん。
というか半分はもう死んでたな。お互いそれを気にする余裕がなかっただけで。
あとこれはあとから気づいたんだが、おれの顔ってクリスそっくりだったんだわ。
それもあって薄汚れた服を着たクリス……みたいに見えたらしく、ゲルトルートはうろたえてたもんだからツケ入らせてもらったさ。
戦場でスキを見せちゃいかんよ
まぁ楽しかったぜ?
バルクホルンとの姉妹ごっこはよぉ……
唯一の不満点としちゃあ、おれはいつまでたっても「ちんまいガキ」だったから二人に揉みくちゃにされたことか。
ゆるさん。
ときは流れて、予想通りネウロイが出現するのを期にゲルトルートは軍に入った。
ネウロイのことを伝えなかったのかって?
お前の精神状態を疑われて終わりだよ。第一次ネウロイ大戦はあったが、そもそもどうしようもねぇと思われてたからな。おれ一人じゃ無理だった。
自分勝手で結構。
何言ってんのかわかんねえって?
わたしにもわからん。
そんなおれだがさすがに恩知らずじゃねえ。クリスのことをどうにかしたくてトゥルーデの後を追った。
その養成学校でまた騒がしいやつと出会うんだが……それはいいや。
ともかく、クリスはおれの知る限りじゃバルクホルンの撃破したネウロイが原因で意識不明になるはずだ。結果としてなんともない様子で数年経てば回復するが、あくまで俺の知識ならだ。おれと出会っちまったことで変化があるかも知んねぇ。
いや、おれと知り合ったがおれは死んでたから知識には出てない………そういうこともあるか?
まぁいいや。とにかく数年世話になった姉妹なんだし、怪我なんてしないに越したことはないだろ。
そういう考えがあって、おれの目標は撤退戦の最中にクリスを傷つけさせないことだった。
おれが軍へ入るころにはもう負け戦ムードでな、撤退戦もほどなく始まったよ。
ちなみに原隊はJG52。運良くバルクホルンの指揮下に入れたのもいい。
………姉さん、ひょっとしなくても謀ったな?
さて本題のクリスだけど。
まぁ、守れたよ。
そのために投げ捨てたんだ、この体も。
生きてるんだぜ?
手足なんて飾りだよ。偉いやつにゃそれがわからんのさ
だから。
ああ、トゥルーデ……
いまでもあの顔を夢に見る。
いつもは前線で雄々しく戦ってる姉さんが狼狽えて恐怖に顔を歪めたその表情を、呼吸を、震えを。
それがおれのためだけに向けられると思うと………。
――――絶頂すら覚えるよ
ネウロイのレーザーは患部を炭化させちまうんだから血なんて出ないのにねぇ。
そんな心配することある?
でも心配して? ちゃんとこっち見てよ。
あの顔でおれをよんでよ。
ねぇ、よんでってば。
ねぇ!
ねぇ!
トゥルーデ!
ねえさんは今どこにいるの?
これ見てる? 見てるよね? 姉さん、ねぇ。見てるんでしょ? 見てるんなら呼んでよ! ねぇ!
あたしはここ! ここにいる!
はやくきてよ。
じゃないとさぁ。
じゃないとさぁ!
傷が疼くんだよ……バルクホルン!
おねがい
ねえさん
はやくあいたい
【紙が滲んで読み取れない】
【数ページほど破られている】
話がそれた。
その後は戦うことを諦めていた。
いや、諦めてると思いたかった、か。
燃え尽き症候群とでも言うのか、やりたいことをやって満足しちまったんだ。
笑えるね。
クリスは助かり、けれどバルクマンはあの頃より自罰的な性格になった。
おれはクリスじゃないんだから、なんで知識みたいになってんだよ。なんて思ったりもしたな。
ただまぁ。
茶化す空気じゃないし、おれのせいで姉さんが
ぶっちゃけ、おれが手足を失う意味なんてない。あのくらいならたぶん受け止めきれた。
それでもそうしなかったのは………姉さんにおれを見ててもらいたかったからだ。
お優しいお姉さまは自分が原因で身内が傷ついたら酷く後悔する。知識で知ってたからな。
我ながら気味悪い性格してるだろ?
知ってた。
ただ、病院にいつまでも居続けて金食い虫になるのはおれだってごめんだった。軍属になって短いからおれに金はないわけで、支払いはトゥルーデ持ちだったんだ。
言うまでもないが、おれに使うくらいならクリスに使ってほしいからな。
そうなると早く傷を治すか裏技を使うかなんだが。
扶桑のウィッチほどの回復魔法を使えるやつは流石に見つからないから早く治すのは却下。
そうなると裏技に頼ることになるが……。
あったよ、裏技が!
なんでもおれを「使いたい」やつがいるらしくてな。そいつの手に乗ってやったよ。
物好きだよなぁ、確かにおれの魔法は珍しいけど。
その後はいろいろあってまたおれはウィッチになった。
両手足を義肢に変えたんだ。もちろん代金は出世払い。
数年分だがな。
でも急に病院を抜けたからなあ、姉さん心配してくれてたかな?
ねぇ、どうなのさトゥルーデ。
心配してくれた?
してたよね、姉さんだし。
どんな顔してたんだ?
今度見せてほしいよ!
さてまぁ、その後だけどな。
アフリカで実験飛行をした。
戦闘が激化するアフリカへの援軍なんだってさ。
なんと
しかも階級まで上げてくれやがった。
すげぇよなぁ。
ま、おれ以外死んだけどな。
皆いい奴らだった。ケイン、ウィン、ラッセ、プレア、ミゲル…………。
死んでいいやつなんていなかった。
おれは、あいつらの分までネウロイを殺さなければならない。
あいつらだけじゃない。焼き払われた難民や、盾になってくれた陸戦ウィッチたちの分もだ。
けど、おれ自身はそんな大それた事なんて出来ねぇ。ただの孤児だぞこっちは。今は軍人だけど。
ハルファヤの鷹?
フラガラッハ?
知らん知らん。誰だそいつは。
噂が独り歩きしやがってる。
仮面をつけててよかったよ。
元は身バレ防止のためだったが、何度もお上の前で顔をしかめそうになったからな。
みんな死んだんだぞ?
何が奇跡だ、ハッ倒すぞ。繋いでくれたんだよ。あいつらが、お前らに。命をな。
名前もとっくに変えてたが、本当によかったよ。
バルクホルンの妹のままだったら何してたかわからん。
ネウロイに怯えるのはいいし、助かって喜ぶのはいい。けど、そのために死んだ奴らのことを、想いを、あの子らの恐怖を勝手に書き換えるんじゃねえ。
おれの仲間たちはいつだって泣いてたんだぞ!
明日をも知れない命でな!
誰もが英雄的に前へ進むわけじゃないんだ。
戦傷を負った寄せ集めの底辺が高潔な志を持つと思うのかよ。
………思うんだろうな。
ノブリスオブリージュは御大層で結構! 素晴らしい!
いいね! たらふく飯が食えそうだ!
こんな奴らに、こんな奴らのために戦ってたなんてな。みんなが浮かばれないんだよ。
なぁ、姉さんはどうして戦うんだ?
さて、この日記を書き始めたきっかけは招待状が届いたからだ。
いや、挑戦状だったか?それとも辞令?
どっちでもいいか。
大事なのはある部隊にようやくおれが関われるってこと。
1944年だ。
ようやく会えるよ、姉さん。
さぁ、501へ行こうか
◇ ◇ ◇
――――姉さん、みんなをよろしくね。
「ぁぁッ………!」
脳裏にこびりつく苦い記憶が蘇る。
燃える祖国。
泣き叫ぶ難民。
ぴくりとも動かないあの子――――。
夢見は最悪だった。
目覚めた私の前には書類の束。
どうやら居眠りをしてしまったらしい。
ミーナが補給物資の確保に忙しい中、私はせめてもと書類仕事を買って出たのだ。
「いかんな、これからだというときに」
欧州がネウロイの手に落ちてからというもの、人類はブリタニアで反抗作戦を伺い続けていた。
501
各国からエースを選抜し、戦力を集中運用することで状況の打開を狙う。そういう部隊だ。
しかし各国のエースをまとめたといえば聞こえはいいが、それでは烏合の衆だ。
人の数だけ常識はあり、常識が違えば理解は遠のく。理解も遠のけば仲違いをする。
実際、私はあの軽薄なリベリアンが気に食わない。どうして軍規をああまで疎かにできるんだ?
しかしそれは私の心の問題だ。任務のときはそうも言ってられないから、切り離して考えている。
なんとなくお互いが気に食わない。その気持ち自体は私以外も持っていることだろう。
いや……持っていた、か?
少佐の連れてきた新人が入ってきたことで、501に新しい風が吹き始めている。
宮藤博士の娘。類稀なる回復魔法の素質があるウィッチだ。
「しかし、彼女は………」
似ている。
クリスはもちろんだが、あの子に。
雰囲気も、顔たちも。
言動は……微妙なところだが。
私はいつだって思い出せる。
もう一人の大事な妹のことを。
「お姉ちゃん、今日はこっちにいこう!」
「なんだって? はぁ……しょうがないな」
あの子と出会ったのはクリスが新しい地下鉄を探検したいと言い出して、普段は行かない道に行ったときの帰りだった。
私たちの後ろをチョロチョロと歩く影があるのは気がついていたが、別段気にすることもなかった。
あの子が私たちの名前を呼ぶまでは。
振り返ると、フードで顔を隠した少女がいた。
声をかけるつもりはなかったのだろう、オロオロしていたのが印象的だ。
すぐ路地裏へ逃げてしまったが。
「……? なんだったんだろうね、今の子」
「さぁ、な」
そういえば、なぜ名前を知られていたのだろうか。当時の私は軍属でもないただの一般人だったはず。
まぁ、知識を取り入れなければスラム街で生きていくことはできなかったんだろう。
当時は世界恐慌の影響でカールスラントも経済に大打撃を受けていて、孤児の数がいつも以上に増えていた。
あの子もそんなひとりだったのだ。
「みんな大変そうだね……」
「ああ、だが彼らは彼らのやり方で生きているんだ。余計な手出しをすると困らせてしまう」
「うん……」
「…………」
そう、大勢いる孤児のひとり。
なのに私は……あの子のことが気になって仕方がなかった。
あの子は妹だ。なら、お姉ちゃんが守ってやらなければ………そんなことを考えていた覚えがある。
なぜあの子だけにそう思ったのかはわからない。私がお姉ちゃんだからだろう。
だからもう一度会えないかと、度々あの近くを通ってしまっていた。
そして見つけることになる。
「てめぇ! 二度目はないと言ったよなぁ!?」
「ぅぐ……ええ、はい……」
「わかってんのか? てめぇが盗んだせいで代金を払った客さんにこのリンゴがいかなくなるかも知んねぇんだぞ。ただでさえ値上がりが酷いんだから、汗水垂らして働いたあとに買いたかったものが買えなかったらバカらしく思っちまうだろ、なぁ!?」
「はい……はい……」
「ほんとかよおい!」
八百屋の店主に押さえつけられている彼女を。
そんな光景を見たら声をかけずにはいられなかった。
たとえあの子が、おそらく窃盗をしようとしたのだとしても。
「なにかあったんですか?」
「ん、なんだよお嬢ちゃん。こいつの知り合いか?」
「いえ………」
違う、と言いかけて。
フードが外れたあの子の顔を見た。
「………っ」
以前はフードで隠していた姿。
それはクリスと瓜二つの顔だった。
息が止まる。
違いがあるとすれば、栄養不足で表情は青く、露出した肌にはいくつもの擦り傷があること。
そして足も震えていて。
よほど強面の店主が恐ろしかったのだろう、ズボンも濡れていた。
そんなあの子が……クリスが、縋るような瞳で私を見ていた。
頭が真っ白になる。
お姉ちゃん――――。
幻聴だ。
あの子は口を動かしていなかった。
けど、わかっていてもそう聞こえてしまったんだ。
だったら………。
「ああ、私の………妹が失礼をしました。すみません、店主殿。代わりに買い取らせてもらえないでしょうか?」
「ん、お嬢ちゃんがか? 言っちゃ悪いがあんたら…………いや、いい。金を払ってくれるならこれ以上は言わん」
せめて道理を教えてやれ、それだけ店主は言って、あの子をこちらに渡してきた。
受け止めたとき、あの子の体重はひどく軽いものだった。骨と皮だらけだったんだ。
あの子は孤児だとわかっていたから、そのままスラム街に投げ出すわけにも行かず、私は家で引き取ろうと思った。
家族もそれに異を唱えなかったのは感謝している。
とくにクリスは妹ができたとはしゃいでいたくらいだ。年齢的には姉なのだが、お姉ちゃんは私だけでいいからな。
その喜びようといえば、あの子が「ねぇね」と呼ぶとクリスは小躍りして破顔するくらい。
クリスの笑顔はいいものだ。DNAに素早く届く。
そしていつだったか。
「あたしは汚い生まれ。ここにいていいのかな」
あの子は下を向きながらそう言ったことがあった。
「あたしは、生まれなきゃよかったんだ」
年の割に落ち着きを払っていたあの子が、その時ばかりは相応の幼子に思えた。
だから私は決めたんだ。形ばかりではない、あの子の姉になろうと。
けど、新しい家族を迎えてすぐ。
奴らが、ネウロイが現れた。
ネウロイは人類を脅かす大敵で、カールスラントにも迫ってくる予兆はあった。
だから私は妹たちを守るために軍へ志願した。
「お姉ちゃん、行っちゃうの?」
「ああ。だが、私はいつでもクリスたちと一緒だ。お父さんやお母さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「姉さんほど負担はかけない」
「はっ、言うじゃないか! フラムもクリスと仲良くな」
「ん。それは――――むぎゅ」
「フラムはわたしが独り占めしちゃうから安心してね、お姉ちゃん」
「まったく…………それではゲルトルート・バルクホルン、出征する」
「はい、お元気で。お姉ちゃん」
「お元気で」
しかし、戦争は甘くなかった。
私が入った当初は拮抗できていた戦線も、時間が立つほど絶望的なものに。
私達はどんどん追い込まれていった。
戦いの中で幾人ものウィッチが、軍人が、市民が命を落とすことになる。
私の想像以上にネウロイという存在は……人類の天敵だった。
コアを破壊しない限り死なない驚異の再生力。近づくだけで人をおかしくする瘴気。そして人類を凌駕するマンパワー。
戦線は拡大の一途をたどり。
人類が手を取り合っても敵わない。
そして部隊に補充兵を入れる話になったとき、恐れていた事態が………あの子が軍に来てしまった。
「馬鹿者! どうして来たんだ!」
「姉さんを、ねぇねをネウロイから守る」
「フラム……これは戦争なんだ、死ぬかもしれないんだぞ!」
「あたしは死なない」
「口ではなんとでも言える!」
あの子は時折意地っ張りを見せた。
私の睨みを受けても視線を外さなかったくらいだ。
「そんなに心配ならお前の僚機にしてやろう。お前が守ってやれば問題あるまい」
「ボニン指令……」
「そうよトゥルーデ。訓練学校を出てるんだから実力はあるはずでしょ? それに妹さんの思いを受け止めてあげて欲しいわ」
「ヨハンナまで………」
「そんなに嫌なら私がもらってやろうか。友人の妹を部下につける……中々面白そうじゃないか」
「ラル……ええい分かったわかった! フラム、私の隣を離れるなよ!」
「わかった。期待してて」
「「「素直じゃないなぁ」」」
「うるさーい!」
初めはなんとしても守らなければ、と気が気じゃなかったのだが。
悔しいことに、あの子は強かった。
敵を取り逃がすことはなかったし、すぐエースの仲間入りをした。
「当たれ」
あの子がそう言えば弾丸は必ず命中する。
そんな魔法と合わせるように、あの子は対装甲ライフルを好んで使っていた。
501で言えばリネットもそうだな。
私が前で暴れて、あの子が撃ち漏らしを叩く。
それが私達の必勝戦術だった。
「ほんとフラムちゃんってトゥルーデが好きだよね〜」
「姉さんだから」
「ハルトマンもこれくらい素直に慕ってくれていいんだぞ?」
「あはは、遠慮しときま〜す」
「はっ、澄ました顔しちゃってさ。隊長にひっついてスコア稼ぎ? 私は自分だけで出来るけどね」
「ん………さすが」
「マルセイユ、貴様なんてことを!」
「なんだよシスコン隊長。べつにあんたのこと言ってないんだからいーだろ」
「なんだと……!」
「姉さん、静か」
「しかしだな……!」
「フラムちゃんの言うとおりよ、トゥルーデ。マルセイユも喧嘩しないの」
「ミーナ! 裏切るのか!?」
「そうはいってないじゃない。頭に血が上ってるわよ、トゥルーデ」
「ぐぬぬ……」
「あははっ、いわれてやんの!」
「マルセイユ
「…………悪かったです」
「わかればよろしい」
「マルセイユ、あたしと仲間」
「……ふんっ、使い魔が同じだからってイイ気にならないでよ」
そういえば、マルセイユはあの子やハルトマンと張り合うことが多かった。使い魔や魔法が似ているからだろうな。
けど、あの子はそんな姿勢を見せられても気にする様子はなかった。むしろ歩み寄ってたくらいだ。
それをマルセイユめ………。
いや、それより問題だったのは伯爵だ。
クルピンスキーのやつ、私があの子から離れるとすぐに粉をかけようとしてきたんだ。何度言っても聞きやしない………!
「おや、人形姫。こんなところにいたのかい? せっかくの休日で基地にいるなんて勿体ないな。よかったら僕とティータイムをやろうよ」
「んー………いいよ」
「ほんとかい! それじゃあ今すぐに行こうじゃないか。この近くはいいお店があってね。ぜひご馳走したいんだ」
「楽しみ」
「おい、ここにいたのかクルピンスキー! ハルトマンに飽き足らずフラムに手を出そうなどと!」
「うわっ、おっかない保護者が来てしまったか。すまないね、
「ん、またね」
「くそっ、逃げ足の早い! だいたいあいつはストライカー破損の始末で倉庫掃除のはずだぞ……! フラ厶、あいつに変なことは吹き込まれなかったか? お酒は成人してからだぞ。いい子だから部屋もきちんと整理出来るよな? それとあいつの出したアイスティーは飲んではいけないぞ……!」
「…………姉さん、心配症」
「伯爵……そこに正座しましょうか」
「げぇっ、先生!?」
そうだ、あの子にジト目で見つめられるとどうも胸がざわつくんだった。
あれはなんだったのか………。
まぁいい。
今となってはこれも思い出の中。
それもすべて私のせいだ。
時代や環境のせいじゃない……わたしがわるい、わたしのせいなんだ。
あれは、そう。
撤退までの時間を稼ぐため、最大の脅威である大型ネウロイをJG52の皆で攻撃しているときだった。
「トゥルーデ、後ろよ!」
「え?」
私はミーナの悲鳴にも近い声を聞いて後ろを振り向いたが、遅かった。
夥しい数の熱線が私を飲み込もうとしていたんだ。
ネウロイの攻撃。どこから。
そんなことを考えている余裕はなかった。
シールドを張らなければ死ぬのみだ。
1射目はなんとか防げた。
「なんだ!? あぁぁっ!」
けれどあの当時、私は攻撃にばかり意識を割いていた。クリスが下にいたのもあったろう。早くネウロイを倒したい気が急いでいたんだ。
強度の低いシールドは砕かれ、姿勢も崩されてしまった。
そして2射目への対応が遅れた。致命的だ。
だから死ぬんだと思った。
けど、あの子は諦めてなかった。
「姉さんどいて!」
横から突き飛ばされた。
あの子は私の僚機だ。つまり近くにいて。
私を、シールドで守ってくれていた。
私が守る立場なのに!
「ぐうっ…………!」
しかしあの子はシールドが得意じゃない。ただでさえ多いレーザーだから、持って数秒。
「っ、フラム! 今助け――――」
その間に助けなければと考えて。
「あぁぁっ!?」
何かがあの子を連れ去った。
飛行機のようなネウロイだ。大型の影に隠れていたに違いない。レーザーの出どころでもある。
そいつが恐ろしい速さで正面からぶつかったんだ。
シールドでなんとか耐えてはいるが、レーザーの照射も続いている。
限界はすぐ来てしまう。
「シスコン隊長! 取られちまったぞ!」
「わかってる!」
マルセイユに言われるまでもなく、私は翔け出した。焦っていたと言ってもいいな。
魔力を込めた7.62mmをネウロイに叩きつける。
「間に合え……間に合え……!」
削る。削る。削る。
でもコアが見つからない。
もっと近づいて大きく削らなければ!
追いつけないわけじゃない。だからといって時間はかけられない。
あの子のシールドはどんどん小さくなっていった。
焦りが募る。
「姉さん、あたしはいい。ねぇねたちを守って!」
それでもあの子は自分より任務を優先してほしいと言う。
私はそれを認めるわけには行かなかった。
「馬鹿を言うな! 私はお姉ちゃんだぞ!」
「だめ! みんなだって……ネウロイは待ってくれない!」
「私が速くなればいい!」
「わからず屋……………なら!」
「なにを!?」
あの子はとんでもないことをやった。
ネウロイに肉薄されたまま、緩やかでも方向転換をやってみせたのだ。
騎兵のようにネウロイを誘導していた。
そしてどこに向かうかといえば。
「同士討ちをさせようっての!?」
大型ネウロイだ。
しかしそれは大型ネウロイからも攻撃されるということ。
既に魔法力も僅かだったあの子に、その負担はまずかった。
「馬鹿者! 何をしてるんだ!」
「あたしは、不可能を可能に………」
だめだ、声が届いてない。魔法力不足で気を失いかけてるんだ!
そう思って私はさらに加速した。
「間に合えぇぇぇぇぇぇ!!」
私が必死に追い縋る中。
明確な「終わり」を前にあの子は満足そうな笑みを浮かべていた。
やはり、あの子は死にたかったのだろうか。
あの夜の言葉が頭を離れない。
自分の生まれに後悔なんていらないのに。
お前がどんな生まれだって、私の妹だろ!と。
そう分からせてやるには言葉が足りなかったのか。
それとも。
戦場で地獄のような光景を見てきたから、生きることを諦めてしまったのか?
だからって、私を庇って満足するなんて……それは違うだろ!
結局。
私はあの子の身も心も守れなかったのだ。
後悔するには遅すぎる。
そして十字砲火を浴びることになったあの子は………。
墜落するあの子をマルセイユが受け止めなければ、命もなかったに違いない。
ネウロイは倒せた。
衝突のおかげでコアが露出したからだ。
国民の避難も完了した。
十二分に時間を稼げたし、ネウロイが消滅したのは街から離れた場所だったから被害も少なかった。
けど、そんなことを喜んでなどいられなかった。
祖国は焼け落ちた。
ベルリンの街並みは焼け野原だ。
あの子がお気に入りだった菓子屋はもうない。
一緒に星空を見た公園も瓦礫の山。
そしてあの子自身も。
目と両手足を失った。
「怪我はもう大丈夫ですが、妹さんの状況はその……かなりショックを受けると思います。それでも面会を希望しますか?」
「ああ………それが私の務めだ」
医師に断りを入れられた時点で身構えてはいた。
しかし、実際に病室で全身を包帯に包まれたあの子を見て。
「みんなが無事で、良かった」
そう言われた瞬間。
心をせき止める何かが決壊してしまった。
「ああ……あああ! ごめん……ごめん、フラム。私、私は……!」
私はお姉ちゃんなのに。みっともなくすがりついて、泣きわめいてしまったんだ。
「いいの、姉さん。あたしが勝手にしたこと」
そんな私をあの子は責めることもなく受け入れようとして……それが何より辛かった。
責めてくれれば、罰してくれれば楽なのに………そんな浅ましい心を持っていたことに気がついて、私はさらに泥沼のような気分になった。
「よくない……よくない! フラムが手足を失ったのは私が油断したからなんだ……!」
「ううん、姉さんは自分のやるべきことをしてた」
「違う……違うんだフラム」
「違わない。私は姉さんを守れて、姉さんはねぇねを守った。それでいいの」
「よくない! よくないんだ……!」
「いいの。言葉じゃ伝わらないなら、姉さんを抱きしめてあげたいけど……」
手、なくなっちゃったから。
ほとんど残ってない腕を振ろうとする姿を見て、余計に私はやるせなくなった。
その慈愛のような表情を見るのが辛くて………小さな体を、小さすぎる体を抱きしめることで視界から外した。
温かい体温が、あの子の命を証明しているようだった。
「ごめん、ごめん……」
「姉さんも、辛かったよね」
「辛いなんて、そんな……私はお姉ちゃん失格だ。フラムに慰められる権利なんてないんだ……」
「そんなことない。姉さんはあたしの大好きな人」
なんて優しい子だろう。
こんな状態にまでなって、醜態を見て。それでも姉と呼んでくれるのか。
病衣が私の涙で汚れていくのに、あの子は抵抗もしない。
強く抱きしめれば弱いうめき声を上げる。けどそれだけだ。
このままもっともっと強く抱きしめれば……折れて死んでしまうに違いない。
あの子の命を握ってるようで、昏い笑みが浮かんだ。
そうだ、あの子の命は私次第なんだ。
こんな状態ならもう戦えない。
どこにも行けない。
危ないところに行かなくていい。
私の目が届く場所に「
誰にも触らせない。私だけだ。私だけが……いやクリスならいい。私とクリスだけがあの子に触れるんだ。
そんな気持ちを自覚して、また自分が嫌になった。
あの子は優しい。
優しいが、本心はどこにあるのだろうか。
まだ、怯えてるんじゃないのか?
いつか捨てられると考えて、私に媚を売ろうとしてるのかも……。
「嘘だ……信じられない。失望しただろう? 妹をこんな姿にする姉が世界のどこにいるんだ」
「なら、約束する」
「約束?」
「そう。姉さんが約束を守り続ける限り、あたしはあなたを姉さんと呼ぶ」
そう言ってあの子は私の耳元に口を近づけた。呼吸の吐息がかかってくすぐったくなるほど。
あの子の姉でいられる?
まだ、こんな私が?
そんな醜い欲望に従って、私はあの子の言葉に耳を傾けた。
そうしてあの日、私は約束を交わしたんだ。
「出来るよね? 姉さん」
頬へ口づけをされて慌てて顔を見たとき。
あの子の目には尽きることのない憎しみの炎が宿っていた。
いい加減、私も悟ったよ。
あの子は、私も、ネウロイも、初めから許す気なんてなかったんだって。
これは地獄の契約だ。一度結んでしまえば勝手に抜け出せない……。
でも、私はあの子の姉で居たくて……ネウロイを殺しまわった。
そうすればあの子も私を姉として扱ってくれる。姉さんと呼んでくれる。
それが嬉しかった。
でも私たちがいくら頑張っても、カールスラントはネウロイの手に落ちた。
だから戦えないクリスたちは疎開船団でブリタニアへ避難させることにした。
けれど満月の夜、事件が起こった。
「フラムが消えた!? どういうことだ!」
「いえ……朝の検診に看護師が向かったところ病室はもぬけの殻で」
「あんな体でどこかに行けるわけ無いだろ!?」
「同感です。なので今朝から聞き込みをしたのですが……」
私に事情を話す医師の口が重くなった。
「どうなったんだ?」
「夜空を見ていた別の患者さんが、昨晩にフラムちゃんを連れた男を見たそうです」
「……! そいつはどこにいる!?」
「それが、森で狼に食い殺されたようでして………その場にはこれも」
医師がスカーフに包まれた、血塗れの髪留めを取り出した。
「まさか、それはあの子の………」
間違いない、私があの子の誕生日にあげたものだった。
「信じがたいことですが、おそらくフラムさんは――――」
「言わないでくれ! その先は……言わないでくれ」
たとえ嘘でも事実でも、そんな言葉は聞きたくなかった。
あの子は昨日と同じように私に笑いかけてくれると………思いたかった。
「………はい。警察の方も捜索をしてくれるそうですし、私達も船団の出発まで探したいと思います」
「…………助かる」
唯一の手掛かりはすでに死んでいる。
あの体では狼から逃げることなんてできない。
まさか、ほんとにそんな……。
「嘘だ………嘘だと言ってくれ、フラム」
警察だけを信じるわけにもいかず、JG 52のみんなにも頭を下げて探してもらった。
でも、見つからなかった。
あの子は事故死とされてしまった。
警察はせめて形見が見つかっただけでも幸運だ、なんて言う。
たしかにネウロイと戦って死ぬときは何も残らないことが多い。それを思えば、ということだろう。
でもあの子は言ったんだ、約速を守る限り私を姉として扱うって。
そして私はお姉ちゃんなんだ。
きっとあの子はどこかで私を見ていてくれてる。
だから止まってしまえば、もう姉でいられない…………。
なら、なら私がやることは決まってた。
ネウロイは殺す。クリスも守る。
クリスのためにもガリアを奪還し、そして祖国を取り戻すのだ。
そうすればあの子のお墓だって………。
いまでもあの包帯姿が目に浮かぶ。
それでも落ち込んでばかりじゃいられない。
宮藤が教えてくれたのだ。
「ひとりでも多くを守る、か。…………ん?」
ふと、書類に一通の手紙が混じっていることに気がついた。
宛名は私。
「マルセイユから? 珍しい……」
あの軍規違反が何の用だ?
中身を見てみると。
「私の妹をよろしく?」
あいつに妹がいたなんて聞いてないぞ。
名前:フラム・バルクホルン(死亡)→
身長:140cm弱
年齢:12歳(1940年)→
誕生日:1928年 11/29(推測)
通称:
愛称:妹の方
原隊:カールスラント空軍 第52戦闘航空団 第2飛行隊
所属;同上
階級:少尉(1940年)
使い魔:大鷲
固有魔法:超射程(視界内なら射程圏内になる)
使用機材:Fw190
使用武器:マウザーM1918S(5発装填仕様)