有線式ウィッチーズ ヘラります! 作:impossible
『こいつがあればネウロイなんて目じゃないぜ!』
そう言っていたアイツは、おれを庇って死んだ。チームのムードを考えられるいい奴だった。
夜の司令室。
501のブレーンである3人のウィッチが顔を見合わせていた。
話題は戦力強化という名目で先日部隊に配属されたウィッチについて。
「さて、数日経ったわけだが……どう思う?」
「ほぼ間違いなく本部からのお目付け役でしょうね」
「まだそんなに悪目立ちした覚えはないんだがなぁ」
バルクホルンの言い出しにミーナが返して坂本はぼやく。
「またいつもの政治家たちが疑心暗鬼起こしたんでしょ、陰謀大好きなんだから」
「せっかく宮藤が入って部隊の風通しが良くなってきたところなのにな」
「私たちの妨害をしてガリア奪還が遅れたらどうするつもりなんだまったく……」
またいつものことか、と思いながらも当事者としては政争ほど関わって面倒なものはない。
3人は肩をすくめた。
「というか、本当にあいつはマルセイユの妹なのか? 妹の存在なんて聞いたことがないぞ」
「それに関しては上層部が寄越した情報しかないわね。マルセイユさんのご両親は未だ行方不明ですし……気になることでもあるの? トゥルーデ」
妹。
バルクホルンにとって、その話題はいつまでも胸に刺さった楔だ。
だからだろう、心配そうにミーナが見つめてきたため、バルクホルンは言いたいことを少し変えた。
「ああ、大したことじゃないんだが」
一度呼吸を挟む。
「四六時中仮面をつけてるって……やっぱり変だよな?」
「……確かに、変だけど。何か事情があってのことだと思うわ」
「そうだろうけどさ……」
誰に仮面をつける人間の心情が理解できるというのだろうか。
いや、できまい。
気まずい沈黙が流れる。
2人の視線は自然と助けを求めるように坂本へ向かった。
坂本はうなずいて、本部から送られて来た資料を手に取る。
「あの仮面、上層部の前でも外さないらしいぞ」
「少佐……」 「美緒……」
違う、そうじゃない。
2人は同じことを思った。
「はっはっはっは。わかってるさ」
坂本は再び資料に目を移す。
「大まかにわかるのは5つだ。1つ、書類上マルセイユ大尉の妹であること。2つ、徴兵されて軍に入りオストマルク国境戦後にアフリカへ渡ったこと。3つ、アフリカでは国連の独立中隊を率いたこと。4つ、中隊壊滅後は
「……独立中隊など組織する余裕が当時にあっただろうか?」
当時の状況は指揮系統すらまともに機能していないこともあるくらいの混乱ぶりで、原隊からはぐれた小隊同士が臨時中隊なんてものを作っていたくらいだ。
もしかしたら、そういった臨時中隊の戦果が大きかったために後出しで独立中隊なんて名前を付けたのかもしれない、とバルクホルンは考えていた。
「それは私もわからん、リベリオンが口を出したのかはたまた……。ともかく、そこでの活躍ぶりからフラガラッハなんて通称が付いたらしい」
「伊達にここへ転属されていない、か」
通称が付くということは周りに実力を認知されたということだ。実際、入隊したばかりの宮藤とリネット以外の501メンバーも通称を持っている。
「公式
「ああ、ここに来るときも宮藤たちの援護をしたようだからな」
「援護ありきとはいえ宮藤とリネットがネウロイを共同撃破か……」
「嬉しそうだな、バルクホルン」
「む、部隊の仲間が戦果をあげたんだ。喜んでもいいだろう」
「そうでもあるが」
「よかったわね、トゥルーデ。宮藤さんがあなたの期待に応えてくれて」
ミーナの言葉にバルクホルンは顔を逸らした。少し、耳が赤い。
「と、ともかくだ。編入のタイミングで大尉に昇進だなんてどういう風の吹き回しなんだ?」
「ああ、
バルクホルンの疑問に答える坂本。
「となると……私たちを何らかの理由で拘束しようって魂胆があるわけね。ガランド総監が何も考えてないとは思えないけれど」
「そういうことだ」
坂本は呆れを隠さぬままため息をついた。いつまで足の引っ張り合いを人類同士で続けるのか考えたくもない。
「まったく、階級はおもちゃじゃないんだぞ」
「仕方ないわ、トゥルーデ。私たちは私たちでやればいいのよ。誰が相手だろうと変わらないわ」
「まぁ……それもそうだな」
それぞれ、飲み物で喉を潤す。
「時にバルクホルン。ルー大尉とあれから何かあったか?」
「ん? ああ――」
坂本に言われてバルクホルンの頭に過ったのは、ここ数日周りをちょこちょこ現れるちびっ子の姿。
――――バルクホルン大尉、さすが早起きだな。一緒に体操なんてどう?
たまたま部屋の前でばったり出会ったり。
(いや、ほぼ毎日か……?)
――――大尉、少し道案内を頼みたい。この部品の予備パーツはどこにある?
ハンガーでストライカーのチェックをしている時だったり。
(そういえば私がハンガーに行く時はたいてい居るな)
――――大尉は小さい少女が好きだと姉様から聞いたのだが、本当か? 既に501の年少ウィッチは既にお手付きだとか…………。本当にそうならカールスラント軍人として由々しき事態だ。もちろん、あたし個人は大尉が本当に少女趣味だとしても問題はないぞ? その程度で幻滅なんてしないし。どちらかと言えばその方が都合がいい。でもあたし以外に手を出すなら許せないなぁ……。ともかくその辺をはっきりさせたいと思う。少し見ただけだが、大尉はミヤフジ軍曹によく目を付けているな?
あらぬ疑いをかけられたり。
(あの時は妙なまでに追及してきたな……マルセイユが他に何を吹き込んだか考えるだけで頭が痛い)
「――軽く話をするくらいはしている」
思い出すだけでバルクホルンはげっそりした表情を浮かべた。
「そうか。彼女、お前に憧れているなんて言っていたからな」
「ふふっ、トゥルーデは本国の雑誌だと大人気だものね」
「その言い方、まるで私がここだと不人気みたいじゃないか」
「い~え? 別に、そうは言ってないわよ。ふふっ」
「ならどうして笑っているんだミーナ!」
「なんでもないわ~」
「くっ…………。ああ、そういえばミーナ。今日の哨戒任務の報告書は読んだか?」
数々の曲者と舌戦を交わして来たミーナの表情はなかなか崩せない。形勢不利を悟ったバルクホルンは話題を変えた。
「ああ、トゥルーデと宮藤さんの哨戒任務にルー大尉が参加したっていう。どうしたの急に」
「その時に、少しばかり大尉のストライカーについて話を聞いたんだ」
「ほんと? でも、大尉のストライカーは記録上Bf109F-4/tropのはずよ?」
「それが厳密には違うらしい」
「違うだと?」
坂本の言葉にバルクホルンは頷いた。
「彼女が言うには――ガンバレル、と」
バルクホルンはその日のことを語る。
「宮藤、準備はいいか?」
「はい! 大丈夫です」
哨戒任務のため、ハンガーに集まっていたバルクホルンと宮藤。すでにストライカーを装着し、発進準備に入っていた。
「改めて言うまでもないが訓練通りだ。エンジン始動から離陸まで発進装置とシステムが補助をしてくれる。お前は魔法力を維持して前に飛ばすことだけを意識しろ」
「はい!」
「よし――」
「ねぇ大尉。あたしもその
2人を呼び止めたのはル=クルーゼ。
彼女はストライカーの点検をしていたそのまま、ストライカーに足を滑らせた。
魔導エンジンがうなりを上げてエーテルの翼を形成する。
「ルー大尉、今日は待機のはず」
「そうだけど、だからって寝てるわけにもいかないからな。アフリカじゃよくあることだよ」
「大尉、ここはブリタニアだ」
「わかってるさ。でも回る場所がわからないんだから、誰かに教えて貰わなきゃ」
「……わからない? ミーナから地図を貰ってないのか?」
「ああ、ちょっと手違いがあったんじゃないのかな。でも理由はそれだけじゃないぞ」
「他に何があるんだ?」
「バルクホルン大尉と飛びたい。それじゃダメかい?」
「……大尉、あなたもカールスラント軍人ならそのような曖昧な理由で飛ぶのはだな」
特別な理由があるのかと思えば、そんなことか。
バルクホルンは説教モードに入ろうとするが、それを宮藤が止める。
「いいじゃないですかバルクホルンさん。せっかく一緒に飛びたいって言ってくれてるんですから」
空を飛びたい。でも戦争はしたくない。けどみんなを守りたい。
そう豪語する宮藤にとって、誰かと飛びたいという意思は任務に勝っていた。もっとも、軍属の常識やネウロイとの戦争をどこか楽観視しているところもあるが。
「しかし、軍人は規律を守らなければ……それに申請をせずストライカーを使えば始末書だ」
「ああ、そのことなら安心して欲しいな。すでに申請済みだとも」
受理されているかは知らないが。
「ですって! これでもダメなんですか?」
今にも詰め寄らんとする宮藤の勢い。それに手続きを経ているなら何も言えない。バルクホルンは両手をあげた。
「宮藤……わかった、わかった。私の負けだ。大尉、ないと思うが遅れるなよ」
「もちろん足手まといになんてならないさ。あたしは
言って、彼女は宮藤へ視線を送るが、宮藤はその視線に気づくことはなかった。
「クルーゼさん、よろしくお願いします!」
それどころか笑顔で返してくる始末。
「こっちこそ、よろしくな」
こ、こいつ……!
なんて内心荒らぶりながらも、彼女は表面を冷静に努めた。
「…………発進!」
バルクホルンの合図。
ストライカーが轟音を奏で、ウィッチたちは空に上がった。
「さて、主な哨戒ルートはグリッド0、1、4、7だな。ここに来るネウロイの大半はガリアから501基地、あるいはロンドンを目指す奴が大半だからドーバー海峡の守備が主になる。外洋に関してはワイト島の部隊が警戒するからそこはまた別だ」
「基地の周りを半円状に回るわけかな」
「そういうことになる。高度は3000mから5000mだ」
ドーバー海峡上空を3つの影が飛ぶ。いつもは2機のロッテを組むが、この日は3機での出撃のため昔ながらのケッテ編隊を組んでいた。
天気は晴だが雲量は目算で4ほど。
というより、快晴の日の方がイギリスでは少ない。晴れてもすぐ曇りだすのだ。
そういう意味ではいつも通りだろう。
「そういえば最近は哨戒任務が多いですよね」
湿った海の風に当たりながらふと、宮藤がつぶやいた。
「ああ。昔は週1回の偵察だったんだが、最近はネウロイの動きが活発でな。観測班の探知を潜り抜ける奴もいるということで頻度が上がっているんだ」
「リーネちゃんが倒したすごい速いネウロイ*1も確かそうだったんですよね?」
「そうだ。最近のネウロイはこれまでのモノとは違う、何か人類の戦術を学んでいるような節があるからな」
「ネウロイはこっちでも厄介になってるわけか。大人しくしていて欲しいもんだよ」
「まったくだ。これ以上巣が増えればガリアの奪還どころではなくなってしまう……」
「…………」
考え込む様子のバルクホルンをノアは後ろからじっと見つめていた。
「そういえばクルーゼさん、その手のストライカーみたいな物って何なんですか?」
それから少し経って、宮藤はルーに声をかけていた。
「それはわたしも気になっていた。両手を塞ぐ意味はなんだ?」
バルクホルンも質問に追従する。思考の波からは帰ってきたようだ。
「ああ。これがあたしのストライカーであり武器さ」
「ストライカーで武器……?」
宮藤の視線の先、ちびっ子ウィッチは両手をオレンジ色の細長い筒で覆っていた。何か動く様子は見られない。
「名前は
「え、手と足両方それってことですか?」
「そう。でもじゃじゃ馬だから使うのは慣れが必要さ」
「手に、ストライカー……」
じゃじゃ馬とかそういうことではない。
旧型の背負い式ならともかく、よもや手にストライカーをつけるなんて宮藤は父からも聞いたことがなかった。
当たり前である。
「いやまて。手にストライカーをつけてどうなるっていうんだ? 自由に武装を使える
ここでまともなバルクホルンの指摘。
「あたしだって武器は使うよ、今はメンテ中なだけで。それと利点はまた別にあるんだよ。有線式で遠隔操作できるというところさ」
「ゆーせんしき……ってどういうことですか?」
宮藤は聞きなれない単語を訊ねる。
「簡単に言えば糸でストライカーとあたしを繋いでいるから、離れていても武器になるってこと」
「離れていても……それってすごくないですか!?」
何かよくわからないがすごいとはわかった宮藤。
「ふふん、だろう? しかもこれはバーニアにもなってね。4機合わせての加速は最速と噂のイエーガー中尉と競えるレベルと思うな」
「そんなに! シャーリーさんとレースするところ見てみたいなぁ……」
「宮藤、お前は本当にのんきな奴だな……。しかし遠隔といってもどうする気だ? まさか手が飛ぶわけでもないだろう」
一方のバルクホルンは現実的な問題を口にする。
しかし、非現実はここにあった。
「そのまさかさ」
「何……?」
ルーは両手を前に突き出す。
すると次の瞬間、ガンバレルごと腕が射出されたではないか。
バーニアにエーテルの火が灯り、そのままガンバレルは周囲を回るように飛ぶ。
見ればガンバレルの後部からは糸が伸び、ルーの腕と繋がっていた。
「なんだこれは……」
「わ、飛びましたよ!?」
対照的な反応を示す2人を横目に、ルーは話を続けた。
「そしてこいつはカメラを搭載していてね。簡易的な偵察機になるんだ」
ルーが雲の向こうへガンバレルを放てば、2つの翼はウィッチと遜色ない速度で空を泳いでいく。
「すっごい……どこまで伸ばせるんですか?」
「500mは確実であとは魔法力次第だよ。それに、こいつの威力はミヤフジも知ってるだろう?」
「あっ、もしかしてリーネちゃんが言ってた浮いてるストライカーって……」
「そう、コレのことだよ」
「わぁ! あんなことができるなんてすごいです!」
中型ネウロイの一部でも吹き飛ばせる威力を思い浮かべて、宮藤は興奮気味に言った。
「だろう? あたしは何でもできるからな」
ルーが胸を張ると、頭頂部でも猛禽類特有の鋭い耳がパタパタと動く。
「なるほど、疑似的な編隊機動が1人で出来るということか。それは確かにすごいことだ」
「大尉にまでいわれると流石に嬉しいな」
ふさふさの長い尻尾が左右に揺れ動く。
それはそれとして。
「だがルー大尉、こんなもの本国はいつ作ったんだ? 私は耳にしたことがないぞ」
ノイエ・カールスラントの技術部は新型ストライカーの開発を行っており、バルクホルンはそれらの飛行テストをすることが多い。そのバルクホルンでもこのようなストライカーは見たことがなかった。
その答えは。
「本国じゃなくて、現場で考えられた試作品止まりだよ。カールスラントのBf109をベースに扶桑の零戦ユニットやらをごちゃまぜにして作ったのさ。それがあたしの固有魔法と相性良かったから使ってるってわけ」
「ごちゃまぜっ……いやしかし、誰が作ったんだ?」
「さぁ、知らないな。頭のネジが外れた奴だよ、こんなモノを作るのは」
現場でストライカーのチューンを行うことは多い。しかし足で履くストライカーを手にくっつけようと考える者は、本当に常識や倫理を投げ捨てた人間しかいないだろう。
「それにこいつは負担が多くて、飛びながら飛ばさなきゃならない。本格運用できるのはあたしかミーナ中佐くらいだろうけどね」
「そうか……」
その言葉を残念に思えばいいのかよく思えばいいのか、バルクホルンは判断できなかった。
「でもクルーゼさん、ひどいことを言う割にはストライカーを邪険に扱ってませんよね?」
普段の様子からは想像できないくらい、このタイミングの宮藤は核心を突いた。
「もちろん。こいつはゲテモノ機材だが、
ルーも肯定を返す。
「魂?」
ひどく抽象的な言葉に小首を傾ける宮藤。
「ああ、ここに来る前は中隊を率いていてね。こいつが壊れた時、仲間たちのパーツを使ってニコイチで直して来たんだ。魔導エンジンはプレア、主翼はラッセ、魔導ポンプはケイ、エーテルリアクターはウィン、外装はミゲル……だからこいつには皆の魂が宿っている。あたしはまだみんなと戦っているんだ。わかるだろ?」
しりませんよ。
宮藤はそう言いかけた。
この長台詞を聞いた瞬間、宮藤は何かヤバイ人に声をかけた気分になったからだ。
「そうだったんですね。その、他の方たちは別のところにいるんですか? あっ、もしかしたらどこかでピアノとか――――」
「死んだよ。みんな死んだ」
無常。
人の良さから話を続けようとした宮藤だったが、藪蛇を突っついてしまったらしい。
独り言は続く。
「だからネウロイは1匹残らず殲滅しなければならない。でなければみんなが安心して眠れないんだよ……ミヤフジ、これは戦争だ。どちらかが滅びるまで終わらない」
目は仮面で隠れている。しかし、宮藤は獲物を狩る鷹の姿をそこに見た。
それでも、宮藤は己の姿勢を変えない。
この人には事情があるんだろう。でも、それはそれ、これはこれ、と。
「でも……でも、そんなの疲れるだけですよ。私は戦争が嫌いです。みんなが仲良く暮らせればそれでいいじゃないですか」
宮藤のそのセリフを聞いた途端、魔女は態度を変えた。
明確な敵意をもって宮藤の方を向いたのだ。
「……何? ミヤフジ、今お前は
「……冒瀆? ちょっと待ってください、どうしてそうなるんですか」
話が飛躍しすぎている。どうしてストライカーの説明から名誉なんて単語が飛び出してくるのだろうか。会話がかみ合っていないと宮藤は感じた。
恐らく最初の段階で話をうまく流せればよかったのだろう。けれど、宮藤は頑固者で経験も少ない。だから真正面からぶつかってしまったのだ。
メンヘラは構ってくれる相手へ噛みつきに行く。
「ルー大尉、そこまでにしておけ。宮藤はここ1、2か月で軍人になったひよっこだ」
さらにメンヘラが口を開こうとした時、バルクホルンが2人の間に入ってきた。
「…………ああ、悪いね宮藤。熱くなってしまったよ」
それを見て、さすがに頭が冷えたらしい魔女っ子は穏やかな雰囲気に戻る。
さっきのヤバイ人間は幻覚だったのだろうか?
「い、いえ。それよりこのストライカーを操れるクルーゼさんの固有魔法ってなんですか?」
仕切り直そうと、宮藤は話題を最初の話に戻す。
「ああ、魔法。魔法は有線操作。あたしの体と繋がってるものは自在に動かせるんだよ」
ルーの方も快く返事をした。さっきの会話を気にしていない、あるいは人が変わったように。
「なるほどぉ……あれ? でもクルーゼさん、そもそもどうして腕が飛び出たんですか?」
一応それらしい回答にこの異常な状況を納得しかけたが、最初の興奮が冷めたおかげで宮藤は根本的な疑問を口にした。
飛ぶというより、なぜ分離するのか。人間の腕は普通なら離れて動き回るように出来ていないのは常識だ。
ストライカーと繋がった足は異次元に収納されるが、だからといって足はひとりでに飛び出ない。
「さて。どうしてだと思う?」
ルーは試すような視線で宮藤を見た。
「どうしてと言われても……私は知りませんよ」
「ふふ、乙女には秘密があるんだよ」
「秘密って、何ですかそれぇ」
やっぱり話が通じないのかもしれない。宮藤は思った。
しかし。
「そんなに知りたければ後でバルクホルン大尉に聞いてみるといい。なぁ、大尉? 思いついたって顔してるぞ」
「えっ」
「……っ」
ストライカーの射出によって欠損したかのような腕を振った時。バルクホルンの目が泳いだのをルーは見逃していなかった。
実際、バルクホルンは思い当たる節がある。身内のために一時期そういうモノを調べたからだ。
それは。
(義肢っ……! 肉体が飛ばないのなら、肉体以外なら飛ぶということか。しかし開発者も大尉も何を考えてるんだ。そんなことをしてまで戦いたいっていうのか? そんな小さな体で)
そこまで考えたバルクホルンは先ほどの言葉を思い出した。
(まて、足も飛ぶのか? 足まで義足だと? そんなの、まるで……)
――――姉さん
(ッ! あり得ない、あの子はもう……もう……それに大尉はマルセイユの妹だ。あの子じゃない……)
人の地雷はどこにでもある。過去のトラウマが今に牙をむいていた。
きりり、と胃が痛む。
視界がぼやける。
呼吸が荒くなっていく。
――――裏切者
(違う、ちがう。ちがうんだ……わたしは、わたしはずっと……)
幻が見える。赤い紅い小さな子供が。
「バルクホルンさん? どうしたんですか?」
ストライカーにうまく魔法力が注げない。集中力が落ちたからだ。エーテルと魔法力のバランスが崩れれば、ストライカーは一気に墜落する。
(あっ、おちる……)
ふっ、と浮遊感を感じた時にはもう遅かった。
バルクホルンは姿勢を崩し、海の底へ真っ逆さま。
――――おいで
水の底から手招きしている影。
このままあの腕に抱かれたら。
(わたしはもう……)
「バルクホルンさん!」
しかし、その途中で彼女の体を受け止めるウィッチがいた。
「宮……藤……」
「しっかりしてください、バルクホルンさん! この前の傷がまだ痛むんですか? 待ってください、今治療しますから!」
前触れなく落ちたからだろう、必死の形相で声をかけるウィッチを見て、バルクホルンは。
(そうだ……今のあたしには、みんなが、宮藤がいる……)
――――なんであいつの妹だけ生きてるんだ?
(ち、がう……いくらアイツでも、そんなことを思いたくない!)
腹の底に浮かんだ、わずかに黒い感情。
バルクホルンはかぶりをふってそれを押し込む。
宮藤の胸に頭を預けた。
治癒魔法が心を癒してくれる。黒いものを消し去ってくれる。
呼吸が楽になる。
体の芯からポカポカするかのように暖かい。
「バルクホルンさん、大丈夫ですか? 聞こえますか?」
宮藤の声を聴いて、今度こそバルクホルンは意識をはっきりさせた。
「あ、ああ。大丈夫だ……ありがとう宮藤」
「いえ……ほんとに大丈夫ですか?」
「はは、心配するな。私はゲルトルート・バルクホルンだぞ、何も問題ない。少し魔導エンジンが拗ねただけさ」
「あ、そうですか。私、今すっごい心配して損した気分です」
「すまないな」
「……冗談ですよ! 何もないならそれが1番ですから」
「ありがとう。もう1人で飛べる」
バルクホルンは宮藤の腕から離れた。
「なんだよ、通じ合ってるってか? 気に入らないな……」
そんな2人の光景を見たメンヘラは爪を噛み。
その後は何事もなく3人は哨戒を終えた。
「つまり、ルー大尉のストライカーはストライカー単体で飛び、なおかつネウロイを撃破する武器を内蔵していると」
バルクホルンの話を坂本がまとめた。
「それで、その操作のために手、おそらく足も義肢になっている。どうりでお風呂に入らず部屋のシャワーを使うわけだわ」
「私たちはともかく、宮藤やリネットには刺激的だろうな。気を使っているんだろう」
「じゃあ、今度私たちでお風呂に連れて行ってしまいましょうか」
いたずらを思いついた子供のようにミーナは微笑んだ。
「……それも1つの手か」
「ええ、仲良くなっておけば上の情報を漏らしてくれるかもしれないもの」
「その顔、後輩たちに見せるなよ」
「わかってるわ。そういう風に
「どうだか……」
「それと、おそらく私に近い空間把握能力を持っているわよ、彼女」
「そうだとしたら?」
「なおのこと
笑顔を崩さないミーナ。
経験則からそれはたいてい攻撃的なものであると知っている坂本は、苦笑を浮かべるしかなかった。
会話がひと段落し、ミーナはバルクホルンが俯いたままだということに気がついた。
顔を覗いてみれば。
「トゥルーデ……? 顔色が悪いわよ」
「ああ……大丈夫だ」
「バルクホルン、まさかお前は」
「いや、あいつはマルセイユの妹だ……大丈夫、私は大丈夫だ」
「トゥルーデ……話してくれて嬉しいわ。けど、あなたは自分自身のことも大切にするのよ」
見抜かれている、と感じた。
「わかってるさミーナ」
それでも大丈夫なのだとバルクホルンは自分に言い聞かせた。
(そうだ、大丈夫だ。大丈夫でなければいけない)
「バルクホルン、お前はもう休め。召集の件は私とミーナで対応しておく」
「ああ……すまないな、いつも2人に任せてしまって」
ミーナはバルクホルンの声音が震えていることに気が付いた。
まるで当時の、幽鬼のような雰囲気になってしまっている。
――はやく寝かせないとまずいわね。
「大丈夫よ、トゥルーデ。あなたがここにいてくれるから、私と美緒は本部で
「ああ……
そして司令室から個室へ戻る途中、バルクホルンは小さな影を見つけた。
「今日……いっしょに寝てくれないか」
■ ■ ■
いやー、よかった。
あの反応を見るに、姉さんはあたしを覚えていたらしい。
それも
メンタル雑魚な姉さんのことだ。今頃ぐらぐらしてるに違いない。
しかも姉さんはロリコンだと調べがついてる。
この深夜、姉さんの寝室に入ってゆーわくしてやればイチコロだよ。
あたしの魅力にメロメロだ。
そして行き着くとこまで行ってやる。
ふはは! 勝ったな!
◇ ◇ ◇
同時刻、ロンドンから3000km離れた砂漠、トブルク。
そこに第31統合戦闘飛行隊『アフリカ』の天幕はある。
さらに中央のひと際大きな天幕。
モンマントルカフェがごとき豪奢な室内に、3つの人影が動いていた。
ひとつ、カウンターの向こうでグラスを磨くアフリカ系のウィッチ。
ひとつ、鼻歌を口ずさむウィッチ。
ひとつ、水煙草を嗜む美女――この天幕の主であるマルセイユだ。
「ふん、ふん……」
「上機嫌だな、ライーサ」
「最近、ケイも真美も頑張ってくれているので」
扶桑からやってきたウィッチの加東圭子と稲垣真美。前者はマルセイユの策略で書類仕事に忙殺され、後者は扶桑のウィッチらしく訓練に精をだしていた。
「ふん、白々しいことを。フラ……ノアの奴がいなくなったからだろう?」
「…………否定はしません」
「ほう? お前がこの天幕に来た時点で語るに落ちてるんだがな」
「…………」
挑発的な視線を受けても無表情を貫こうとするライーサだが。
「まあいい。マティルダ、私はもう寝る。あとは頼むぞ」
「わかった」
「あ……」
マルセイユが席を立つのを見て、声がもれた。
「おや、何かあるのか?」
ライーサはへたれじゃない。なのでこのネグリジェ1枚という誘ってるとしか思えない上官に物申すことができる。
「今日は……お隣に……」
「ふ、本当に愛い奴だよお前は。おいで、ライーサ」
「……はい」
笑みを深めた上官はライーサを胸に抱いた。
「さて、今頃あのシスコン隊長はどんな顔をしているかなぁ」
「他の女の事」
「ヤキモチか? 安心しろ、今はライーサだけだ」
「あっ……」
世界で規律という言葉が1番遠いアフリカの大地。
夜はまだ永い。
■ ■ ■
部屋をノックして。
「大尉、今日はあたしと寝て――――」
扉を開いた。
夢と希望ががそこにある……。
はずだった。
「は?」
は?
思わず声が出た。
これは、なんだ?
あたしは幻覚を見せられているのか?
だめだ、この現実は受け入れられない……何がどうして。
「???????????」
???????????????????????
まるで意味がわからんぞ。
あたしと姉さんが幸せなキスをして終了の流れだったろうが!
なのに。
どうして。
なんで、姉さんのおっぱいに抱き着いてるんだよ。
ミヤフジィ!
なんで天丼してるんだろうねこのオリ主。脳が震えてそう。
なおネトラレは趣味じゃない
やったぜフラン!(アフリカ式)
失われた物
それはおっぱい星人に揉まれる見慣れた巨乳
閉ざされた未来
認められない今
伴わない感覚の中、迫る現実は心を狩り立て、体をも突き動かす
次回「(メンヘラと)いっしょだよ」
その身に憎しみを流し込め、メンヘラ!
オリ主は
-
大勝利してもいい
-
敗北者
-
反省すべき
-
もっとヘラれ