年末に祖父が介護の末に遠くに旅立つといった出来事があり、執筆する時間も気力もない状態がしばらく続き、本作品を放置してしまいました。
一区切りついたのでまた再開していきたいと思います!
今年も本作をよろしくお願いします!!
「……魔人族」
誰かの発した呟きを肯定するように、女魔人族…カトレアはうっすらと冷たい笑みを浮かべながら、驚きに目を見開く光輝達を観察するように見返す。
瞳の色は髪と同じ燃えるような赤。服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものの上にえんじ色のマントのようなものを纏っている。
体にピッタリと吸い付くデザインなので彼女の見事なボディラインが丸わかりとなってしまい、どこか艶かしい雰囲気なのもあって、こんな状況に関わらず一部の男性陣は頬が赤く染まった。
パチパチと拍手をしていたカトレアはその中でも特に警戒心を強く感じた相手…香織と雫に感心の視線を向けると賞賛する。
「どうやらあんた達二人が油断ならないようだね。……でも、勇者は……あぁアンタかな?そこの派手でキラキラしてる鎧を着ているアンタ」
「派手って……そ、それより!なぜ魔人族がこんなところにいる!」
珍獣でも見るかのような視線に軽く頭に来た光輝が、その勢いで驚愕から立ち直りカトレアに目的を問いただした。
香織達へと感心の目を向けていたカトレアは、煩わしそうに光輝の質問を無視すると呆れの眼差しを向け頭を振った。
「なんとまぁ直情的な子供だねぇ。これが噂に聞く勇者様だって?本当に有用なのかねぇ。むしろ、害でしかないと思うんだけど……まぁ、あいつから聞いた通りだけど」
すると、カトレアは意外な言葉を放った。
「なあ、勇者サマ。良ければお仲間と一緒にあたしらの側に来ないかい?」
「な、なに?来ないかって……どう言う意味だ!」
カトレアの突然の言葉に困惑する光輝。
「はぁ?飲み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君をあたしら魔人族側に来ないかって勧誘してんの。と言っても、別に人間族と戦わせるってわけじゃないからこの場合は…保護って言ったほうがしっくりくるか。どうする?」
完全に予想外の言葉に光輝は理解するのにしばし時間を要し、やがて理解すると他のメンバーの視線を受けながら、呆けた表情をキッと引き締めてカトレアを睨みつけた。
「断る!人間族を、仲間達を、王国の人達をっ、裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな!やっぱり、お前達魔人族は聞いたた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、たった1人でやってくるなんて愚かだったな。多勢に無勢だ。投降しろ!」
光輝の威勢のいい啖呵が響く。
しかし、断固拒否の回答を叩きつけられたカトレアは僅かに目を細めて観察するような眼差しを向けただけで、特に気にした様子も見せない。
「もう一度言うが、お仲間含めて全員保護するって言ってるけど?それでも断るのかい?」
「答えは同じだ。何度言われても、みんなを裏切るつもりなんて一切ない!」
やはり、微塵の躊躇いもなく即答する光輝。
そして、そんな勧誘を受けること自体が不愉快だと言わんばかりに、聖剣に光を纏わせて交戦の意志を見せる。
そんな光輝の行動に雫と重吾は内心で舌打ちする。
二人は場合によってはしっかり話を聞いてカトレアと交渉するべきと考えていた。何せ王国や教会は本当の意味で信用がおけず、自分らを戦争のための兵士として利用しようとしているのは前々から気付いていたからである。
それでも雫達が王国に従っていたのはハジメの捜索という香織個人の目的だけでなく、他の後ろ盾が得られなかったからというのもあった。
しかし、それを伝える前に光輝が勝手に一人で話を終わらせてしまったので周囲を警戒する他なかった。
そもそもだ。魔法に優れた魔人族とはいえ、こんな場所にたった1人で来るわけがない。単独でこの階層の魔物を無傷で殲滅し、あまつさえ痕跡すらしっかり消すなどできるわけがない。そんなことができるなら、とっくの昔に人間族は魔人族に蹂躙されていたはずだろう。
そして、光輝が断った時点で『革新者』を発動していた香織は一つ最悪の事実に気づいてしまった。それは、
(まずい…無数の魔物の気配が…それに、囲まれてる!)
魔物単体ならギリギリなんとかなっただろう。
だが、これまでよりも圧倒的な『格上』の気配に囲まれているという状況。
それが意味することは、自分達は既に圧倒的不利な状況に追い込まれていると言うことだ。
そんな危機感はすぐに正しいと証明される。
「……そう。なら、あんたに用はない。言っておくけど、あんた達の保護は絶対ってわけじゃないよ。あくまで“可能であれば”だ。戦力と状況によっては排除もやむなしと考えてる。殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ、餌の時間だよ!」
カトレアが三つの名を呼ぶのと同時に、バリンッ!と言う破砕音と共に、雫の気合いの声と重吾の苦悶の声、香織の叫びが聞こえたのは同時だった。
「シィッ!!」
「ぐぁっ!?」
「ハアアッ!」
雫は虚空に剣を振り抜いて迎撃するも、重吾は迎撃敵わず吹っ飛ばされる。が、香織はGNソードで『何か』を切り裂くとGNシールドを投擲して重吾を守る。
突如、自分達の左右の空間が揺らいだかと思えば、“縮地”もかくやという速度で何かが接近して後衛組に襲いかかってきたのだ。
初めから、最大限の警戒網を敷いていた3人だけがその奇襲に反応したのだ。ただし、迎撃できたのは雫と香織だけ。
重吾は身体強化と金剛を重ねがけした要塞の如き防御を以ってしても、防御を突破されてしまい深々と両腕を斬られ、血飛沫を撒き散らしながら後方にいたもの達にぶつかり、かろうじて地面への激突を避けれたと言う有様だ。香織のシールドが飛んでこなければ追撃によって腕を失っていた可能性も否定できない。
ガラスが割れるような破砕音は、鈴が本能的な危機感に従って咄嗟に展開した障壁が砕け散った音だ。
後方に障壁を展開したおかげで後衛組が襲われることはなかったものの、それでも小柄な体躯が仇になったのか障壁破砕の衝撃をもろに浴びて後方へ吹き飛ばされた。
2人に迎撃された揺めき以外の二つが、間髪を入れず追撃にかかる。手傷を負わされた重吾や鈴は勿論のこと、突然の襲撃に反応しきれていない後衛組には、なす術がない。
仲間の命が散る。そう思われた、次の瞬間。
「酔舞・再現江湖!デッドリーウェエエエエエイブ!!」
龍太郎が迫ってくる『何か』に蹴りを放ち、相手の動きが止まる。
「爆発!!」
その言葉が引き金となり、鈴たちの前で爆発が起きた。
「香織!奴らを見えるように!」
「う、うん!護光で満たせ!———“回天”“周天”“天絶”!」
香織が無詠唱かと思うほどの詠唱省略で三つの光属性魔法を発動した。
彼女が得意とする回復魔法で重吾の傷を尋常じゃない速度で癒していく。次いで、少しでも気を逸らせばすぐに見失いそうな姿なきゆらめく敵に、重吾に降り注いでいたのと同じ白菫の光を纏わり付かせる。すると、その光はふわりと広がり、空間に光の輪郭を出現させた。
香織が使ったのは光属性中級回復魔法“周天”。回復量は他の魔法と比べてると小さいが一定時間ごとに自動で回復させる魔法であり、発動中は対象に魔力光がまとわりつくと言う特徴がある。
香織はその特性を利用し、敵に対して回復量を最小限にした上で不可視の敵をマーキングしたのだ。
白菫の光により現れた姿は、ライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と鷲の翼を背中らから生やす奇怪な魔物だ。命名するならキメラだろう。おそらく、迷彩の固有魔法を持っているのだろう。確かに厄介であるが、行動中は空間が揺らめいてしまうと言う欠点は不幸中の幸いだった。
なにせ、クラスメイトの中でトップクラスの防御力を持つ重吾の防御を一撃で破ったのだから。今までの階層の魔物とは強さが隔絶しており、明らかにこの九十階層で遭遇していい魔物じゃない。
「「「グルァアアアアッッ」」」
纏わりつく光など知ったことかと雄叫びを上げながら追撃をしようとしたキメラ達は、姿が見えるようになったことで迎撃可能となった光輝達とぶつかり合う。
だが………
「っ!?二人とも避けてっ!!」
「「ルゥガァァアアア!!」」
危険を察知したのか、恵利の警告の悲鳴と魔物の方向が重なる。
どこに潜んでいたと言うのか、光輝達が攻撃を直撃しようとしたタイミングに合わせて、さらなる二つの影が光輝達へと襲いかかったのだ。
「っ!?」
「なんだっ」
突然の事態に光輝と龍太郎の背筋を悪寒が襲う。
急迫した二体の影は、手に持った金属製のメイスを凄まじい勢いで振り抜く。
光輝は剣の遠心力を利用して身を捻って躱し、龍太郎が『気』を纏った左腕を振り上げてメイスを弾きどうにか直撃は免れる。しかし、光輝はバランスを崩し地面を転がり、龍太郎は二撃目の拳撃で吹き飛ばされた。
二人を襲ったのは、上層で見たブルタールに近い魔物。しかし、その魔物の体型はブルタールとは違い、極限まで鍛えて引き絞ったかのように筋肉質だった。
「なんだ、こいつら!?」
「一体、どこから湧いてきやがったっ」
これまでの戦いで見たことが無い強力な魔物の出現に焦りが隠せない光輝と龍太郎。しかし体制を整える前に二人の間に何かが吹き飛んできた。
「ぐぁっ!?」
苦悶の声を上げて吹き飛んできたのは、カトレアを倒すべく気配を消していた遠藤だった。
「遠藤!?」
「ぐっ、気をつけろ、みんな!見えてるやつだけじゃない!そこかしこにいるぞ!」
遠藤は警告の声を上げる。
しかし、カトレアは既に遠藤の力を既に把握済みだった。一気に距離を詰めようとしたところで、横合いから凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされたのだ。
その時に彼ははっきりと見たのだ。
自分を吹き飛ばした相手が光輝達を吹き飛ばしたのと同じブルタールもどきであることを。しかも、そのブルタールもどきの傍にはキメラがいて、ブルタールもどきがキメラに触れれば再び姿を消したのだ。
つまり、敵はキメラの隠形能力を使い、そこかしこに潜んでいると言うことだ。それも、九十階層の魔物を全滅できるほどの魔物達が。
「残念だったね…すでに気配遮断に長けた暗殺者がいるって情報は入ってるのさ!」
続いて現れたのは、六本の足を生やした亀のような魔物。
亀の魔物はクラスメイト達が他の魔物に放ってきた魔法を吸収していく。
「まずい!みんな、距離をとって!」
その能力の意味を直感的に理解した香織は、全員に叫ぶ。
次の瞬間、多足亀が口をガパッと大きく開いたかと思えば、口の奥に赤い輝きが生まれる。
「ま、まずいっ!」
「にゃめんな!守護の光は重なりて、意思ある限り蘇る———“天絶”!」
鈴が声を上げて障壁を展開させる。
二十枚の光の障壁が重なるように出現し、光の障壁は全て斜め四十五度に設置されている。
障壁が展開されると同時に砲撃が放たれ、数枚の障壁を粉砕しながら上方へと逸らされていく。
それでも、継続して放たれる砲撃の威力は凄まじく、次々と光の障壁は砕かれていく。
鈴は光の障壁を次々と新しく展開し、長く耐えることで砲撃の破壊速度と拮抗させて辛うじて晒し続けることに成功した。
だが、逸らされた砲撃は迷宮の天井に直撃して、周囲を粉砕しながら鉱物を雨の如く撒き散らした。
「なんなんだよ、この魔物は!」
「くそ、とにかくやるぞ!」
ここでようやく混乱から回復した者達が完全な戦闘態勢を整えた。
「セアアアア!!」
香織によるGNソードの斬撃と雫による刃の風魔法が魔物たちのアキレス腱などを切り裂き、一時的に行動を鈍らせる。
「今よ!」
雫の叫びに態勢を整えたクラスメイト達が攻撃を仕掛けようとするが…
「クエエエエエエエエ!!」
突然、部屋全体にそんな叫びが響いたかと思うと、香織の眼前でブルタールもどきが赤黒い光に包まれて、瞬く間に斬られたはずのアキレス腱を含むすべての怪我が再生したのだ。
雫は癒されるブルタールもどきに注視しながら、叫び声の方へとチラリと視線を向ける。
すると、呑気に高みの見物と洒落込んでいたカトレアの肩に、いつの間にか白い鴉がいたのだ。その白鴉がブルタールもどきに向けられている。
「っ、攻撃や防御だけじゃなく、回復役までいるっていうの!?」
ただでさえ頑丈な敵も多いだけでなく、与えた傷を即座に癒やされてしまった。
魔物でありながら一種のパーティーとして完成していると言う悪夢のような事態に、雫が思わず叫ぶのも無理はなかった。
周囲を見ても同じような光景が広がっており、苦労して与えた傷が無駄に終わっていた。
「悪いが…子供の遊びと同レベルとは思わないことだね!」
直後、カトレアの言葉に合わせて完全回復した魔物達が雫達へと再び襲いかかった。
(このままじゃジリ貧ね…なら、この現状をどうにかして地上に伝えないと)
そう考えた雫は仲間の一人…ビルドデスティニーきっての諜報の達人であるメンバーに声をかけた。
「遠藤君!この現状をメルドさん達に伝えて!!」
次回予告
暗い迷宮で精神を削られ続ける勇者一行。
一方、仲間の窮地を救うべく動いた遠藤にも危機が迫る。
消えていく命の炎と、あがき続けた遠藤。
そんな中、救いの手が伸びる!
次回、機動戦士ガンダムForce
第8話 勇者編 帰ってきた男
大切な人たちのために…狙い撃て、デュナメス!
オマケ 『剛腕』のカイル
「そういえばハジメさん。ミュウちゃんの保護といえば…カイルさんはいなかったですね」
ホルアドに向かう途中の朝。
みんなで朝食のオムライス(優花仕込みのウィステリアの味)を食べている中、ふとシアが思い出したように言う。
「そうなんだよね…同じ海人族だからいたら任せられる人だったんだけど…」
最初にフューレンに来た時、一緒に仕事をした冒険者のカイル。
あの時は最後まで彼の戦う姿を見ることはなかった。
「………ねえ南雲っち。そのカイルってもしかして…あの『剛腕のカイル』じゃない?」
そんな会話の中、奈々が口をはさむ。
「いや二つ名は知らないけど…え?カイルさんって有名なの?」
そのハジメの言葉に、彼より先に冒険者登録していた大翔達がまくしたてた。
「カイルさんはなあ!冒険者の中でも異端児扱いされてる最強クラスの冒険者って有名なんだよ!」
「話によるとステータスのうち筋力関係の数値だけ1000オーバーは確実って聞いたことある…」
「なんでも昔、魔法すら弾く危険なクマみてえな魔物を素手で殴り殺したって話だぜ…そんな逸話のせいで、『剛腕』なんて二つ名がついたとか」
男子達の語り口にハジメは心底思った。
(う………嘘くせぇ)
港町エリセンに向かうための大砂漠。
その中で一人の冒険者がミミズのような形の巨大な魔物…サンドワームと激闘を繰り広げており…
「デヤアアアアァァァァ!!」
降り抜かれた鉄拳がサンドワームの脳を破壊し、沈む。
気が付くと冒険者の周りには10体ほどのサンドワームの『撲殺死体』が転がっていた。
「さて…待ってろよ、レミア」
サンドワームから魔石を引っこ抜いた冒険者…カイルは歩き出すのだった。
SEED FREEDOMの設定を反映してもいいか?
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反映に賛成!
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無しでいい