機動戦士ガンダムForce   作:狼牙竜

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お待たせいたしました!
勇者編の続きとなります!

最近は春が近づいたのか、花粉症の影響が少しずつ出てきました…

感想、評価をいつでもお待ちしています!


第8話 勇者編 帰ってきた男

 

 

魔人族のカトレアが引き連れた魔物達と激闘を続けていた光輝達。

しかし、その中にいたはずの『暗殺者』遠藤康介の姿はなかった。

 

薬や戦闘用アイテムの補充、援軍の要請も兼ねて彼一人が70層と30層をつなぐ転移の魔法陣へと走っていったからである。

 

「だいぶ厳しいみたいだね。どうする?今なら未だ考えてもいいけど?」

 

光輝達を、腕を組んで余裕の態度で見物していたカトレアが再び勧誘の言葉を光輝達にかけた。

もっとも、光輝が出す答えなど初対面である彼女ですら分かっている。そして、その予想は実に正しかった。

 

「ふざけるな!俺達は脅しには屈しない!俺達はお前のような卑劣な奴らに負けはしない!それを証明してやる!行くぞ…『限界突破』!」

 

カトレアの言葉に怒りの表情を浮かべた光輝は、再びメイスを振り下ろしてきたブルタール擬きの一撃を聖剣で弾き返すと、一瞬の隙をついて自身の切り札である『限界突破』を使用した。

 

現状、光輝と奈落でヒュドラを食らったハジメの二人のみが保有する技能『限界突破』。

一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能であり、常人を超えたスペックの者たちが発動させる。

ただし、文字通り肉体や魔力の限界を突破しているので、長時間の使用はもちろん常時使用もできない。

さらに使用したあとは、使用時間に比例して体の倦怠感などの症状が出て弱体化してしまい、本来の力の半分程度しか発揮できなくなる。なので、光輝やハジメはこれまで一度たりとも乱用したことがない文字通りの『奥の手』でもあった。

 

しかし光輝は魔物の強力さと回復が可能という事実を鑑みて、このままいたずらに時間をかけてしまえばどんどん仲間の士気が下がり押し切られると判断。

短期決戦に持ち込むべく『限界突破』を使用して一気に回復役の白鴉とカトレアを倒そうと考えた。

 

『限界突破』の影響で光輝の体を純白の光が包み込む。同時に、メイスの一撃を弾かれたブルタールが光輝の変化など知ったことではないと再び襲いかかった。

 

「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り裂け『光刃』!」

 

光輝は、ブルタールにより振るわれたメイスを屈んで躱すと、聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り上げた。

 

『限界突破』により引き上げられたステータスと、技能による攻撃力向上の相乗効果もあってか、まるでバターを切り取るように苦戦していたブルタールの胴体を斜めに両断。踏み込んだ足をそのままに、一気に加速すると猛然とカトレアのもとへ突進した。

 

光輝とカトレアを隔てるものは何もない。いくら魔人族が魔法に優れた種族といえど、勇者としてのスペックを持つ光輝と白刃戦で戦えるとは誰も思っていなかった。

 

 

その瞬間…

 

 

 

 

 

ガキイイィィン!!

 

「なっ!?」

 

 

カトレアがいつの間にか抜いていた、大きく湾曲した刃の大きな剣…ショーテルを使い光輝の斬撃を受け流す。

 

 

 

さらに間髪おかず、空間の揺らめきが五つ。咆哮を上げながら光輝に襲いかかった。

四方を囲むように同時攻撃を仕掛けてきたキメラに、光輝は思わず驚愕の声を上げ眼を大きく見開いた。

 

咄嗟に、急ブレーキをかけつつ正面からの一撃を右手の装甲で受け止めつつ右から襲い来るキメラにぶつけるように受け流す。。そして、自身が身にまとった(アーティファクト)の性能を信じて、歯を食いしばりながら背後からの攻撃を胴体部分で受けて耐え凌ぐ。

 

が、左から迫っていたキメラの爪に肩口を抉られ、その衝撃に吹き飛ばされているところへ包囲の外にいた最後の一体が飛びかかり両足の爪を光輝の肩に食い込ませて押し倒した。

 

「ぐぅう!!」

 

食いしばる歯の隙間から苦悶の声を漏らしながら、止めとばかりに首筋へ牙を突き立てようとするキメラの顎門を聖剣の鞘で辛うじて防ぐ。両肩に食い込む爪から与えられる痛みが集中力を奪っていき、限界突破中であるにもかかわらず上手く力を乗せられず、徐々に押されていく。

 

「光の恩寵よ、癒しと刃をここに『焦天』!『光刃』! 」

 

光輝のピンチを見た香織が、すかさず、光系の回復魔法を行使した。一人用の中級回復魔法『焦天』だ。先ほど使った回復魔法『回天』より高い効果を発揮する。しかし、光輝の両肩にはキメラの爪が食い込んでおり、このままでは癒すことができない。

 

なので、香織は咄嗟にGNブレイドと『光刃』を発動させて光の刃を生成したビームサーベルもどきをキメラ達に投げつけ、ダメージを与えたことで光輝から遠ざける。

 

両肩から爪が抜けたことにより、『焦天』が効果を十全に発揮して瞬時に光輝の傷を癒していった。

 

光輝は先ほどの戦いで落としていた聖剣を構え直すと、治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。

 

「くらえ、『天翔剣四翼』!」

 

振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が揺らめく空間四つに飛翔する。狙われたキメラ達は、『限界突破』により強化された光輝の十八番に危機感を抱いたのか、咄嗟にその場を飛び退いて回避しようとした。

だが、そこで逃がすほど香織は甘くない

 

「捕らえよ『縛印』!」

 

香織のほとんど無詠唱と言っていい程の短い詠唱により、光系中級捕縛魔法〝縛印〟が発動。

回避しようとしたキメラ達の足元から光の鎖が無数に飛び出し、首、足、胴体に絡みついた。キメラの力なら引きちぎることも難しくはないが、一瞬、動きを止められることは避けられない。

 

結果、四体のキメラは光輝の直撃を受けて血飛沫を撒き散らしながら絶命した。

 

光輝はカトレアに向き直ると聖剣を突きつけながら睨みつける。

 

「残念だったな。お前の切り札は俺達には通用しなかった。もう、お前を守るものは何もないぞ!」

 

 

 

「………さて、どうかね」

 

笑みが消えていたカトレアの雰囲気に光輝が怪訝そうな顔をすると、後ろで何かを貫くような嫌な音が聞こえた。

 

思わず振り返った光輝の目に映ったのは、さっきまでいなかったはずの五体のブルタールモドキとキメラ、そして背中から触手を生やした体長六十センチ程の黒猫が一斉に仲間に襲いかかり、遠藤がいた永山パーティーの一人、野村健太郎が黒猫の触手に脇腹を貫かれている光景だった。

 

野村が苦悶の声を上げながら崩れ落ちたことに茫然としている吉野に、やはり同じパーティーの辻綾子が叱咤の声を張り上げながら、直ぐさま治癒魔法を発動した。

 

「なっ、まだ隠れていたのか!」

 

「キメラの固有魔法『迷彩』は、触れているものにも効果を発揮する。初見の敵と戦うならあらゆる可能性を考慮して戦えと学ばなかったのかい?ほら、追加いくよ」

「ッ!?」

 

いきなり現れた大量の魔物に、劣勢を強いられる仲間。それを見て、光輝が急いで引き返そうとするも、四つ目狼と黒猫が十頭ずつ光輝目掛けて殺到する。

 

「くっ、ぉおお!」

 

黒猫の触手が途轍もない速度で伸長し、四方八方から光輝を襲った。

光輝は聖剣を風車のように回転させ襲い来る触手の尽くを切り裂き、接近してきた黒猫の一体目掛けて横薙ぎの一撃を放った。

しかし、その確信はあっさり覆される。何と、黒猫が空中を足場に宙返りし、光輝の一撃を避けたのだ。そして、その体格に似合わない鋭い爪で光輝の首を狙った一撃を放った。

 

辛うじてギリギリで回避した光輝だったが、体勢が崩れたため背後からのブルタールによる強襲に対応できず、鎧の防御力と限界突破の影響で深手は負わなかったものの、勢いよく吹き飛ばされてしまった。

 

それに合わせて、明らかに逸脱した強さを持つ魔物達が追い詰めるように光輝達を包囲していく。全員必死に応戦しているが、一体ですら厄介な敵だというのに、それが一気に増えた上、連携までとってくる。しかも、一撃で絶命させなければ、即座に白鴉が回復させてしまう。

香織と、同じく治癒師の天職をもつ辻綾子が二人がかりで味方を治癒し続けているからこそ何とか致命的な戦線の崩壊は避けられているが、状況を打開する決定打を打つことができない。

 

必死に応戦しながらも、次第に、クラスメイト達の表情に絶望の影がちらつき始めた。そして、その感情は、カトレアの参戦により更に大きくなる。

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主 宿るは暗闇見通し射抜く呪い   もたらすは永久不変の闇牢獄 恐怖も絶望も悲嘆もなく」

 

聞こえてくるのは、間違いなく上級魔法の詠唱。

それを聞いて反応したのは、先ほど腹を触手で貫かれた野村健太郎。

天職が土術師の彼はどんな魔法が来るのかいち早く気づいていた。

 

 

 

 

 

「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」

 

「その眼を以て己が敵の全てを閉じる 残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ!『落牢』!」

 

その詠唱が完了した直後、カトレアの掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて光輝達の方へ飛来した。速度は決して早くはない。今の光輝達の中に回避できないものなどいない。

しかし、健太郎の咄嗟の叫びで鈴はすぐさま危険性を察知し、最強の防御魔法を発動させた。

「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず!『聖絶』!」

 

 

輝く障壁がドーム状となって光輝達全員を包み込んだが、『聖絶』に敵味方の選別機能などないので、障壁の中には多くの魔物も取り込んでしまっている。

『聖絶』は強力な魔法なだけあって消費魔力が大きい。なので、普段ならこんな無意味な使い方はしない。しかし、野村の叫びが放たれた魔法の危険性をこれでもかと伝えていたので、強力なバリア系の防御魔法として、咄嗟にこの魔法を選んだのだ。

 

直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。灰色の球体は、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかける。鈴は、突破させてなるものかと必死に障壁を維持し続けた。

と、カトレアから命令でも受けたのか、魔物が一斉に鈴を狙い始めたのだ。

 

「鈴!」

「谷口を守れ!」

「耐えろ鈴!ここを耐えりゃなんとかなる!」

 

恵里が鈴の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタールモドキを妨害し、迫る敵に対して龍太郎が傷だらけになりながらも身を挺して魔物の軍勢から鈴を守り続ける野村の呼びかけに応えて鈴の傍に駆けつけようとする。

 

が、結界の維持で動けない鈴に、隙間を縫うようにして黒猫が一気に接近した。野村が、咄嗟に地面から石の槍を発動させて串刺しにしようとするが、黒猫は空中で跳躍すると、身をひねりながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。

 

「鈴ぅ!」

「あぐぅ!?」

 

龍太郎が鈴の名を呼んで警告するが、時すでに遅し。触手は鈴の腹と太もも、右腕を貫通した。更に捉えたまま横薙ぎに振るって鈴の小柄な体を猛烈な勢いで投げ捨てた。

 

鈴は血飛沫を撒き散らしながら、背中から地面に叩きつけられて息を詰まらせる。そして、呼吸を取り戻すと同時に激痛に耐え兼ねて悲鳴を上げた。

 

「あぁああああ!!」

 

「鈴ちゃん!」

「鈴!」

 

その苦悶の声を聞いて香織と恵里が、思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。直ぐさま香織が回復魔法を行使しようと精神を集中するが、それより鈴の施した光り輝く結界が消滅する方が早かった。

 

「全員、あの球から離れろぉ!」

 

野村が焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、鈴の鉄壁を誇った『聖絶』と今の今まで拮抗していた魔法だ。今更、その警告は遅すぎた。

 

結界が消滅し、勢いよく飛び込んできた灰色の渦巻く球体は、そのまま地面に着弾すると音もなく破裂し猛烈な勢いで灰色の煙を周囲に撒き散らした。

 

傍には、倒れて痛みにもがく鈴と駆けつけようとしていた斎藤と近藤、それに野村。灰色の煙は、一瞬で彼等を包み込む。魔物の影はない。着弾と同時に、一斉に距離をとったからだ。

 

灰色の煙はなおも広がり、光輝達をも包み込もうとする。

 

 

「させっかよぉ!!」

 

龍太郎が右手を黄金に輝かせ、シャイニングフィンガーを発動させて全力で煙を消し飛ばしにかかる。

だが、煙が晴れたその先には……

 

「そんな、鈴!」

「野村くん!」

「斎藤! 近藤!」

 

完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤と近藤、下半身を石化された鈴、その鈴に覆いかぶさった状態で左半身を石化された野村の姿があった。

 

斎藤と近藤は突然のことで何が起きたのか理解できず固まっており、鈴は下半身を石化された事で更なる激痛に襲われたようで苦悶の表情を浮かべたまま意識を失っている。

 

一方、鈴を庇いながらも一番被害が軽微だった野村だが、やはり激痛に襲われているらしく食いしばった歯の奥から痛みに耐えるうめき声が漏れていた。野村の被害が軽かったのは、彼が『土術師』の天職持ちだからだ。土属性に天賦の才を持っており、当然、土系魔法に対する高い耐性も持っている。

 

カトレアが発動した魔法を瞬時に看破したのも、あの魔法が土系統の魔法で野村も勉強していたからだ。

土系の上級攻撃魔法『落牢』。石化する灰色の煙を撒き散らす厄介な魔法だ。ほんの僅かでも触れれば、そこから徐々に侵食され完全に石化してしまう魔法で、対処法としては、バリア系の結界で術の効果が終わるまで耐えるか、煙を強力な魔法で吹き飛ばすしかない。しかも、バリア系は上級レベルでなければ結界そのものが石化されてしまう上、煙も上級レベルの威力がなければ吹き飛ばすことが出来ないという強力なものだ。

 

 

「これは…まずいわね」

(遠藤君…無事でいてね)

 

 

戦闘が不利な方向に傾く中、雫は沿道の無事を祈るのだった…

 

――――――――――

 

 

90層から全力で上層まで駆け抜けていく遠藤。

 

 

彼は30層との転移陣がある70層まで走り、自身の持つ隠形の力で魔物達に一切気づかれることなく目的地までたどり着くことに成功していた。

 

 

「メルド団長!俺です!」

 

「うおっ!? 何だ!? 敵襲かっ!?」

 

 

遠藤が声を張り上げた瞬間、メルド団長が驚きながら剣を抜いて飛び退り、周囲を見渡した。他の騎士達も団長につられて戦闘態勢に入っている。

 

 

 

「だから俺ですって!そういうのもういいですから!」

 

「……って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした?」

 

 

 

メルド達は相手が遠藤だとわかると肩の力を抜いた。

しかし、当初の予定とは異なり遠藤が一人であること、何より遠藤が満身創痍といってもいいくらいボロボロであることから、何かがあったと察して険しい表情になった。

 

 

 

遠藤は改めて自覚した影の薄さに地味に傷つきながら、そんな場合ではないと思い直し、事の次第を早口で語り始めた。

 

 

 

最初は訝しげな表情をしていたメルド達だったが、遠藤の話が進むにつれて表情が険しさを増していく。そして、仲間を置いて伝令とはいえ離れざるを得なかったことで涙をこぼす遠藤の頭を乱暴に撫で回した。

 

 

 

「浩介。お前は、お前にしか出来ないことをやり遂げたんだ。他の誰が、そんな短時間で一度も戦わずに二十層も走破できる? お前はよく伝えてくれた」

 

「団長……俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るっていってたけど……奴らの強さは半端じゃない。天之河が切り札(限界突破)使っても勝てるかわからないから…。魔物だってあれで全部かはわからないし……だから、先に地上に戻って、このことを伝えて下さい」

 

 

 

涙をぬぐう遠藤は決然とした表情でメルドに告げた。

 

 

 

メルド団長は、悔しそうに唇を噛むと、自分のもつ最高級の回復薬全てを、それの入った道具袋ごと遠藤に手渡した。他の団員達もメルドと同じく、悔しそうに表情を歪めて自らの道具袋を遠藤に託した。

 

 

 

「すまないな、浩介。一緒に、助けに行きたいのは山々だが……私達じゃあ、足でまといにしかならない……」

 

「あ、いや、気にしないで下さいよ。薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かる可能性は跳ね上がります」

 

 

 

そう言って、薬の類が入った道具袋を振りながら苦笑いする遠藤だったが、メルド団長の表情は、むしろ険しさを増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

 

「えっ? いきなり何を……」

 

「……何があっても、〝光輝〟だけは連れ帰ってくれ」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

メルド団長の言葉に、遠藤が一瞬でその意味を察する。

 

 

 

「浩介。今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…光輝(勇者)を失った人間族に未来はない。もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい……だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団長として言わねばならない。万一の時は、〝光輝〟を生かしてくれ」

 

「……」

 

 

 

ようやく、メルド団長の意図を察した遠藤が唖然とした表情をする。それは、より重要な何かを生かすための犠牲の発想、上に立つ者がやらなければならない〝選択〟だ。遠藤にできる考え方ではなかった。

だが、それを遠藤はどうしてものめない。

 

 

「……俺達は、天之河のおまけですか?南雲の時みたいに天之河を助けるためなら切り捨てろというんですか……俺に、また友達を諦めろって言うんですか!?」

 

 

 

「断じて違う。私とて、全員に生き残って欲しいと思っているのは本当だ。いや、こんな言葉に力はないな……すでに前科がある私が言っても、何の説得力もあるまい」

 

「……」

 

 

 

遠藤は、メルド団長の言葉に心の奥でたまっていた気持ちがあふれた。この世界に来て右も左もわからない頃から常に傍らにいて、ずっと共に戦ってきたのだ。特に、前線に出ている生徒達からすればメルドは兄貴的な存在で、ハジメが奈落に消えた後は捜索を提案してくれていたり、この世界の者では誰よりも信頼している人物だった。だからこそ、遠藤は王国の真意に気づいて黒い気持ちが口から出てしまった。

 

 

 

が、その瞬間……

 

 

 

「浩介ッ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 

メルド団長が、突然、浩介を弾き飛ばすとギャリィイイ!! という金属同士が擦れ合うような音を響かせて、円を描くようにその手に持つ剣を振るった。そして、そのままくるりと一回転すると遠心力をたっぷりのせた見事な回し蹴りを揺らめく空間に放った。

 

 

 

鈍い音を響かせて、揺らめく空間は後方へと吹き飛ばされる。そして、五メートルほど先で地面に無数の爪痕が刻み込まれた。爪を立てて減速したのだろう。

 

 

 

それを見て、遠藤は顔を青ざめさせて呟く。

 

 

 

「そ、そんな。どうしてここに……」

 

 

 

その言葉がまるで合図となったかのように、ぞろぞろと遠藤達を追い詰めた魔物達が現れた。遠藤は、予想外に早く追いつかれたことに動揺して尻餅を付いたままだ。ここまで完璧に気配や臭い、魔力残滓などの痕跡を消しながら移動してきた。魔人族の女が光輝達と戦っている以上、一直線に駆け抜けた遠藤にこんなに早く追いつくはずがなかったのだ。

 

 

 

(まさか…天之河達がもう負けたのか!?)

 

 

「……逃げるなら転移陣のあるこの部屋まで来るかと思ったんだけど……様子から見て、どこかに隠れたようだね」

「貴様は…カトレア!」

 

 

 

髪を苛立たしげにかきあげながら現れたカトレアに、メルド団長達が臨戦態勢になる。彼女の言葉からすると、どうやら光輝達は撤退したらしく、一直線に転移陣の部屋までやって来たらしい。

 

 

 

「おや、戦場で会って以来だね団長さん…悪いが、アタシはお前らに捕まって兵器にされてる可哀想な子供を保護しなきゃならんのさ」

 

 

カトレアが指を鳴らすと、一斉に魔物が襲いかかった。

 

「円陣を組め! 転移陣を死守する! 浩介ッ !いつまで無様を晒している気だ! さっさと立ち上がって……逃げろ! 地上へ!」

 

「えっ!?」

 

 

すぐさま迅速な陣組みと連携で襲い来る魔物の攻撃を凌ぐメルド団長達。事前に遠藤から魔物の話を聞いていた事から、自分達では攻撃力不足だと割り切り、徹底的に防御と受け流しを行っている。

 

 

 

遠藤はメルド団長の「地上へ逃げろ」という言葉に思わず疑問の声を上げた。

 

 

「ボサっとするな! 魔人族のことを地上に伝えろ!こいつらが万が一にでも迷宮の外に出れば被害は甚大になる!」

 

「で、でも、団長達は……」

 

「我らは……ここを死地とする! 浩介! 向こうで転移陣を壊せ! なるべく時間は稼いでやる!」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

メルド団長の考えは明確だ。地上へ逃げるにしても、誰かが僅かでも時間を稼がねば直ぐに魔物達も転移してしまうだろう。そうなれば、追っ手を撒く方法がなくなってしまい、追いつかれて殺される可能性が高い。

 

 

 

なので、一人を逃がして、残り全員で時間稼ぎをするのがベストなのだ。時間を稼げれば、対となる三十層の転移陣を一部破壊することで、完全に追っ手を撒ける。転移陣は直接地面に掘り込んであるタイプなので、魔法で簡単に修復できる。逃げ切って、地上の駐屯部隊に事の顛末を伝えた後、再び、光輝達が使えるように修復すればいい。

 

 

 

そして、その逃げる一人に選ばれたのが遠藤なのだ。遠藤は、先程、光輝以外の自分達を切り捨てるような発言をしたメルド団長が、今度は、自分達を犠牲にして遠藤一人を逃がそうとしていることに戸惑い、それ故に行動を起こせずにいた。

 

 

 

そんな遠藤にメルド団長の心根と願いが、雄叫びとなって届けられる。

 

 

 

「無力ですまない!助けてやれなくてすまない!戦いに巻き込んですまない!浩介!不甲斐ない私だが最後の願いだ!聞いてくれ!」

 

 

 

戸惑う遠藤に、兄貴のように慕った男から最後の願いが届く。

 

 

 

「生きろぉ!」

 

 

 

その言葉に、遠藤は理解する。メルド団長が、本当は遠藤達の誰にも死んで欲しくないと思っていることを。誰かを犠牲にして誰かを生かすなら、自分達が犠牲となり、光輝に限らず生徒達全員を生かしたいと思っていたことを。自分に告げた〝選択〟が、どれだけ苦渋に満ちたものだったかを。

 

 

 

遠藤は、グッと唇を噛むと全力で踵を返し転移陣へと向かった。ここで、メルド団長の思いと覚悟に応えられなければ男ではないと思ったからだ。

 

 

 

「させないよ!」

 

カトレアの攻撃が騎士達の魔法によって逸れ、遠藤は転移陣の中に消える。

 

 

「ハッ、私達の勝ちだ! ハイリヒ王国の騎士を舐めるな!」

 

 

 

メルド団長が不敵な笑みを浮かべながら、そう叫ぶと同時に遠藤が転移陣を起動し終え、その姿を消した。カトレアは、メルド団長の言葉を無視して魔物を突っ込ませる。魔物は直接魔力を操れるので、面倒な起動詠唱をすることもなく転移陣を起動出来、それ故、今なら、まだ間に合うと考えたからだ。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

「舐めるなと言っている!」

 

 

 

メルド団長達が光輝達にはない巧みな技と連携、そして経験からくる動きで魔物達を妨害する。多勢に無勢でありながら、その防御能力と粘り強さは賞賛に値するものだった。

 

 

 

もっとも、メルド団長達がいくら死力を尽くしたところで相対する魔物の数と強さは異常。猛攻の中でキメラの一体が防衛線を突破し転移陣に到達する。

 

 

 

キメラが消えるのと、魔法陣が輝きを失うのは同時だった。

 

 

 

「くっ、一体、送られてしまったか……浩介……死ぬなよ」

 

 

 

メルド団長の呟きは魔物の咆哮にかき消された。

 

 

 

「フッ、ここを死地と定めたのなら最後まで暴れるだけだ。お前達、ハイリヒ王国騎士団の意地を見せてやれ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

メルド団長の号令に、部下の騎士達が威勢のいい雄叫びを以て応える。その雄叫びに込められた気迫は、一瞬とはいえ、周囲の魔物達を怯ませる程のものだった。

 

 

 

……その十分後、転移陣のある七十層の部屋に再び静寂が戻った。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「うわぁあああー!!」

 

 

 

 そんな悲鳴とも雄叫びとも付かない叫び声を上げながら、三十層の転移陣から飛び出した遠藤は、直ぐさまナイフを振りかぶり、眼下の魔法陣の破壊を試みた。

 

 

 

「な、何だ!? ってお前! 何をする気だ!」

 

「やめろ!」

 

「取り押さえろ!」

 

 

 

転移陣から現れた黒装束の少年が、いきなり雄叫びを上げながらナイフで魔法陣を傷付け始めたことに、一瞬、呆然とするも、周囲の騎士団の正装をした者達が怒号を上げながら遠藤に飛びかかりその破壊活動を妨害する。

 

 

 

彼等は、メルド団長の部下で三十層側の転移陣を保護する役目をおった者達だ。一撃で魔法陣を破壊できなかった遠藤が、二撃、三撃と加えあと一歩で陣の一部を破壊できるというところで、辛くも魔法陣破壊を阻止する事ができた。

 

 

 

「は、放せ!早く、壊さないと!奴等が来るんだ!」

 

「なっ、君は勇者一行の!? なぜ、君が……」

 

 

 

狂乱とも言える行為を行った人物が、よく見知った勇者の仲間の一人とわかると、驚愕の声を漏らしながら思わず手を緩める団員達。その隙に、再度ナイフを振りかぶって魔法陣の一部を破壊しようと遠藤だったが、一歩、遅かった。

 

 

 

魔法陣が再び輝き起動する。そして、次の瞬間には、遠藤達に揺らめく空間が襲いかかった。

 

 

 

「くそっ!」

 

「何がっ!ぐぅあああ!!」

 

 

 

遠藤は咄嗟にその場を飛び退り辛くもキメラの一撃を回避するが、事態が飲み込めない団員の一人は回避などできるはずもなく無防備なままキメラの爪の一撃を受け、鎧ごとその胴体を深々と切り裂かれ事切れてしまった。

 

 

 

いきなり絶命した同僚に、動揺をあらわにする団員達。そんな彼等に、遠藤は必死さと焦燥の滲む声音で叫んだ。

 

 

 

「敵だ!揺らぐ空間に気をつけろ!魔法陣を破壊しないと、どんどん出てくるぞ!」

 

 

 

その絶叫とも言うべき遠藤の声に、団員達がハッと我を取り戻す。が、その時には更に一人が切り裂かれながら吹き飛ばされた。三十層の転移陣の警備をしている団員は全部で七名。既に二人も殺られてしまった。

 

 

 

遠藤はその事実に歯噛みしながら、天井に駆け上がりながら頭上から魔法陣の破壊を狙う。しかし、それに気がついたキメラが跳躍して迎撃しようとした。

 

 

 

しかし遠藤とキメラの戦いはレベルの低い団員達には認識すら難しく、対応できないままどんどんと負傷していく。

 

 

それでも全く無駄だったわけではなく、キメラが若干バランスを崩したため、遠藤は危ういところで攻撃を躱すことが出来た。完全に回避は出来なくて肩と脇腹を抉られたが、交差するように蛇尾を切り裂いて地面に落下する。

 

 

 

キメラが、翼をはためかせてバランスを取り戻し少し離れた地面に着地するのと、遠藤が肩から地面に叩きつけられつつも直ぐに起き上がり、先に傷つけた転移陣に向かってナイフを振りかぶるのは同時だった。

 

 

 

キメラが、着地と同時に反転し、再び遠藤を殺そうと駆け出すが、その時には既に、遠藤のナイフが魔法陣に突き刺さり、パァン! そんな澄んだ音が響き渡る。それは、魔法陣が破壊された証拠だ。魔法陣の転移の際に使われた魔力残滓が霧散したのだ。

 

 

 

「これでっ…っ……がぁ、あぁあああああ!!!」

 

 

 

転移陣の破壊に成功し、一瞬だが気が緩む遠藤だったが、次の瞬間には右腕にキメラの牙が喰い込み、その激痛に絶叫を上げた。強靭な顎が、そのまま遠藤の右腕を噛みちぎろうとする。

 

 

 

それを、駆けつけた騎士達が突進力をそのままに渾身の一撃を打ち込むことで阻止する。横腹を、何らかの強化を掛けられた短槍で貫かれ思わず顎の力が緩むキメラ。その瞬間に、遠藤は右腕を引き抜き、左の袖に隠してあった予備のナイフを滑るように取り出して、キメラの眼を切り裂いた。

 

 

 

暴れるキメラが、止めを刺そうと接近した騎士達を更に二人切り裂き絶命させる。遠藤は、手持ちのナイフを投げつけるが、キメラは眼を切り裂かれながらも野生の勘で回避した。

 

 

 

だがその直後、いきなり騎士の一人が悲鳴を上げる。思わず、そちらに顔を向けると、先程地面に叩き落とされた騎士の首に蛇が噛み付いている光景が目に入った。騎士は、噛み口の皮膚を紫に変色させると苦しそうに身悶え、瞬く間に絶命した。

 

 

 

「そんな…うああああ!」

 

 

 

それを見て、最後の騎士が、蛇を殺そうと駆け出すが、それは致命的なミスだ。キメラは、自分に背を向けた敵に気がついたようで直ぐさま襲いかかった。遠藤は、満身創痍になりながら、それでも最後の力を振り絞って、今まさに騎士に襲いかかろうとしているキメラの首目掛けて必殺の一撃を放つ。

 

 

 

「死ねぇええええ!!」

 

 

 

仲間と引き離されたこと、メルド団長達を置き去りさせられたこと、知り合いの団員達を殺されたこと、その他に様々な怨嗟を込めた雄叫びと共に放たれた致命の一撃だったが………

 

その刃が届く前にキメラのタックルが遠藤を叩き、遠藤の体が宙を舞う。

 

 

「う…届か…ねえ…」

 

倒れる遠藤の視線の先には、飛び出していった最後の騎士の姿が映っている。彼はうつ伏せに倒れており、キメラの持つ蛇の毒によって変色したまま死んでいた。

 

遠藤の奮闘もむなしく、三十層の警備をしていた騎士達は彼の前で全滅してしまった。

 

 

 

 

 

「もう…無理なのかよ…」

 

疲労と激痛で倒れた体が動かせず、遠藤は迫ってくるキメラを前に抵抗すらできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしろ遠藤!!大会にも出られねえままこの世界で死んでいいのか!?」

 

突然聞こえた声に、遠藤だけでなくキメラも反応。

 

次の瞬間、タァン!という乾いた音が響くとキメラの脳天に穴が開き、独立して動いていた蛇の部分も同じ音が鳴ると頭がはじけ飛んだ。

 

 

 

「今の武器………その声…」

 

倒れていた遠藤に駆け寄ったのは、二人の影。

この世界に似つかわしくない『アサルトライフル』を持った二人のことを遠藤はよく知っていた。

 

 

 

「待たせたな、遠藤」

「遅くなって悪かったな。だが、詳しく事情を聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイさん…ロックオン先生!!!」

 

 

勇者達と離れていた三木宗一とレイ・ザ・バレル。

 

二人がついに帰還した!!




次回予告
敗北という暗雲が立ち込め、勇者パーティーが目を逸らしてきた闇が迫りくる。

崩壊が近づく中、光輝はカトレアと決戦に持ち込もうとするが…


次回、機動戦士ガンダムForce
第9話 勇者編 剣、折れるとき

友の未来のために…戦え、フリーダム!


オマケ 補給パーツ


「なあ南雲。俺ふと気になったんだけどよ…モビルスーツとかの補給パーツってお前どうやって調達してるんだ?」

MSデッキで機体のメンテナンスを終えた敦とハジメだが、唐突に敦が質問してくる。

「どうしたの急に?」
「いや、俺もバイクのメンテとか趣味だからわかるんだけどよ…異世界にモビルスーツ用の工業部品とか普通無いから気になってよ…」

そう。ファンタジー全開なトータスにはモビルスーツの補給パーツなど存在しない。

にもかかわらず、ハジメは必要な部品を常にミネルバの倉庫から持ってくるのだ。



「これね………全部僕が一個一個作ってるんだよ」

「………は?」



「新しい機体とかゲットしたら、その都度構成されてるパーツを調べては頭で記憶して、集めた鉱石とかを錬成して組成を組み替えて金属とかに練り直すんだ。そのうえでパーツを加工して保管してるんだよ…」


さらっと語るハジメだが、それを聞いた敦は絶句する。

「錬成の訓練にもなるし、複製錬成と自動錬成覚えてるから、一度覚えてしまえば自動で予備パーツ作れるんだけどね……うちみたいにパーツ規格違う機体しかないとそれぞれ覚えなきゃいけないし…」


「そ、そうか………あ、あとは俺がやっとくからお前は風呂でも入って来いよ!」

「うん…ありがと」


眠そうにしているハジメを見送り、敦はハジメの負担を抑えようと掃除までいつもより少し丁寧に行うのだった…


SEED FREEDOMの設定を反映してもいいか?

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  • 無しでいい
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