機動戦士ガンダムForce   作:狼牙竜

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お待たせしました、勇者編はあと少しで完結となります!


暑くなってきましたが、熱中症に気を付けて日々を過ごしましょう。

感想、評価をいつでも待っています!


本日、オマケはお休みです


第10話 勇者編 大人の責務

「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

「そ、そんな……」

「や、やだ……な、なんで……」

 

魔物達と戦っていた仲間達が、吊るされる光輝を見て呆然としながら言葉をこぼす。雫や香織、鈴も驚きで立ち尽くす中、カトレアが冷ややかな態度を崩さずに話しかけた。

 

「どうやら、聞いてた通り精神面のレベルはイマイチのようだね。こういう時の対処法を知らないとは…」

 

そう言って、カトレアは未だにブルタールモドキに掴まれているメルドへ視線を向ける。

その視線の先の瀕死のメルドを見た瞬間、雫は理解した。

メルドは、光輝の気を逸らすために使われたのだと。

恩人が瀕死で捕まっていれば、光輝は必ず反応するだろう。それも、かなり冷静さを失って。

 

「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かしてこんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

「やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、さっきのあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう?あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で? どうだい?」

 

カトレアの言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は、臆すことなく再度疑問をぶつけた。

 

「……光輝はどうするつもり?」

「……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちらの言葉に耳を傾けないし、説得は無理だろう? 彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

「……それは、私達も一緒でしょう?」

「それがね…ある情報筋から、あんたらのことはよく聞いてるのさ。少なくとも勇者よりリーダーの素質がありそうなあんたがおとなしく従えば、他は勝手に動くリスクは少ないってね」

 

カトレアの言葉…『ある情報筋』という言葉に引っ掛かりを覚えた雫だが、話を続ける。

「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃない。アタシ達だって、子供に首輪を着けるような真似は好まないんだけどね」

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

 

雫とカトレアの会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。相手の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。

 

それはつまり、神の使徒としての身分を失うということだ。そうなった時、果たして教会は、帰還したとして役に立たなくなった自分達を保護してくるのか……そして、元の世界に帰ることは出来るのか……

 

 

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

誰もが言葉を発せない中、意外なことに恵里が震えながら必死に言葉を紡いだ。それに、クラスメイト達は驚いたように目を見開き、彼女をマジマジと注目する。

 

「恵里…だけど、ちょっと待ってくれ!光輝を助ける方法がまだわかんねえんだ!」

「ひっ!?」

「龍太郎、落ち着きなさい! 恵里、どうしてそう思うの?」

 

必死になる龍太郎の剣幕に怯えたように後退る恵里だったが、雫が龍太郎を諌めたことで何とか踏みとどまった。そして、深呼吸するとグッと手を握りしめて心の内を語る。

 

「わ、私は、ただ……誰にも死んで欲しくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……ごめんなさい…」

 

ポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ恵里。そんな彼女を見て他のメンバーが心を揺らす。すると、一人、恵里に賛同する者が現れた。

 

「俺も中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ?」

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろって? 俺達全員?」

「そうじゃねぇ! そうじゃねぇが!」

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。

 

しかし、それでも素直にそれを選べないのは光輝を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか? という罪悪感が原因だ。

そんなクラスメイト達に、絶妙なタイミングでカトレアから再度、提案が出る。

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。ただし、全員魔人族側についてもらうけど」

 

雫はその提案を聞いて内心舌打ちする。カトレアの狙いが読めたからだ。

光輝を殺すことが決定事項ならメルドを盾にした時点で殺せたはずなのに、あえて彼女はそうしなかった。

 

その理由は、まさにこの瞬間のためだ、おそらく、カトレアは前回の戦いを見て、光輝達が有用な人材であることを認めたのだろう。だが、『情報筋』からの話で光輝が従わないという確信があった。そのうえで、光輝以外の者を確実に魔人族側に引き込むため策を弄したのだ。

 

一つが、光輝を現時点では殺さないことで反感を買わないこと、二つ目が、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い詰めて選択肢を狭めること、そして三つ目が『それさえなければ』という思考になるように誘導し、ここぞという時にその問題点を取り除いてやることだ。

 

現に光輝を生かすといわれて、それなら生き残れるしと、魔人族側に寝返ることをよしとする雰囲気になり始めている。本当に、光輝が生かされるかについては何の保証もないのに。殺された後に後悔しても、もう魔人族側には逆らえないというのに。

 

 

カトレアとしても、ここで雫達を手に入れることは大きなメリットがあった。一つは、言うまでもなく、人間族側にもたらすであろう衝撃だ。なにせ人間族の希望たる『神の使徒』が、そのまま魔人族側につくのだ。その衝撃……いや、絶望は余りに深いだろう。これは、魔人族側にとって極めて大きなアドバンテージだ。

 

クラスメイト達が迷う中、突然響いた苦しそうな声に皆の視線が集まる。

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

「光輝!」

「光輝くん!」

「天之河!」

 

声の主は宙吊りにされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。

 

「……騙されてる……みんなを……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

息も絶え絶えに取引の危険性を訴え、そんな取引をするくらいなら自分を置いてイチかバチか死に物狂いで逃げろと主張する光輝に、クラスメイト達の心が再び揺れる。

 

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ? いい加減、現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ! 騎士達のことは……殺し合いなんだ! 仕方ないだろ! 一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

 

檜山の怒声が響く。この期に及んでまだ引こうとしない光輝に怒りを含んだ眼差しを向ける。檜山は、とにかく確実に生き残りたいのだ。最悪、ほかの全員が死んでも香織と自分だけは生き残りたかった。イチかバチかの逃走劇では、その可能性は低いのだ。

 

魔人族側についても、自分の有用性を示せば重用してもらえる可能性は十分にあるし、そうなれば意思を封じても香織を手に入れることだって出来るかもしれない。檜山としては、香織に自由意思がなくても一向に構わなかった。とにかく、香織を自分の所有物に出来れば満足なのだ。

 

 

 

 

檜山の考えにクラスメイト達の心が傾こうとする中、苦し気ながらも力強い声が部屋に響き渡る。

小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

 

光輝達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んでカトレアに組み付いたのは同時だった。

 

「カトレア……一緒に逝ってもらうぞ!」

「……それは……へぇ、自爆かい? お前ならばその道を選ぶと思ったよ」

「抜かせ!」

 

メルドを包む光。

一見『限界突破』のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。

 

その宝石は、『最後の忠誠』と呼ばれる自爆用の魔道具。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇魔法の中には、他人の記憶を読み取るものがあるので、騎士団長のような高い地位にあるものが前線に出る場合は強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

 

 

メルドの命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、カトレアは落ち着いたそぶりを崩さない

 

そして、メルドの持つ『最後の忠誠』が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

カトレアの声が響いた直後、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が急激にその輝きを失っていく。

 

 

よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドは必死にカトレアに組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

 

六足亀の魔物『アブソド』。

その固有魔法は『魔力貯蔵』。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。

 

メルドを包む輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。

最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。何だ? とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

 

そこには、自身の腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いていた。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

「……メルドさん!」

 

光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。その声に反応したメルドが、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

 

直後、砂塵の刃が引き抜かれ、メルドが膝をついて倒れる。

 

「…あんた、こんなところで命かけるなんてね。悪いが、これが戦いだ」

 

少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

 

咄嗟に、間に合わないと分かっていても、香織が遠隔で回復魔法をメルドにかける。僅かに出血量が減ったように見えるが、香織も戦闘で消費した魔力が回復していないので傷口が一向に塞がらない。

 

「うぅ、お願い! 治って!」

 

魔力が枯渇しかかっているために、倦怠感に襲われ膝を突きながらも、必死に回復魔法をかける香織。

 

「流石は、王国の騎士団長。こんなところで殺したくはなかったが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

カトレアが、赤く染まった刃を軽く振りながら光輝達を見つめる。

目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。カトレアの提案に乗らなければ、次は自分の番だと嫌でも理解させられる。

 

檜山が、代表して提案を呑もうとカトレアに声を発しかけた。が…

 

「……るな」

 

未だブルタールモドキに宙吊りにされながら力なく脱力する光輝が、小さな声で何かを呟く。満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じ、檜山は言葉を呑み込んだ。

 

「っ!こいつ、まだ…」

 

カトレアも光輝の呟きに気がついたようで、その異様な雰囲気を感じ取る。

光輝は、俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。

 

魔人族の女は、光輝の白銀色に変わった眼光を見て思わず息を呑んだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、ブルタールモドキに命令を下す。手加減すれば自分が危ないと悟ったからだ。

 

「アハトド! 殺れ!」

「ルゥオオオ!!」

 

馬頭改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、固有魔法『魔衝』を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押しつぶそうとした。

 

しかし、光輝から凄まじい光が溢れ出して天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ! という音を響かせて、握り潰してしまった。

 

「ルゥオオオ!!」

 

先程とは異なる絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、光輝は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

 

光輝はゆらりと体を揺らして聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光でカトレアを睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。

 

『限界突破』終の派生技能[+覇潰]。通常の限界突破が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、『覇潰』はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、限界突破から更に無理やり力を引きずり出すため、負担は大きい。

すでに二度限界突破を使った今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

 

だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままにカトレアに向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つという復讐の念だけだ。

 

カトレアが焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、アハトドがメイスを振るう。しかし、光輝はそんな魔物達には目もくれない。聖剣を振って蹴散らし、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、カトレアのもとへ踏み込んだ。

 

「お前ぇー! よくもメルドさんをぉー!!」

「チィ!」

 

振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。

カトレアは舌打ちしながら咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣は容易く砂塵の盾を切り裂き、その奥にいるカトレアを袈裟斬りにした。

 

盾を作りながら下がっていたのが幸いして、両断されることこそなかったが、カトレアの体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

 

背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちた魔人族の女の下へ、光輝が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというお約束な展開に、カトレアが諦観を漂わせた瞳で迫り来る光輝を見つめながら、皮肉気に口元を歪めた。

 

傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、光輝もそんな暇は与えないだろう。完全にチェックメイトだと、カトレアは激痛を堪えながら右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出した。

 

それを見た光輝が、まさかメルド同様自爆でもする気かと表情を険しくして、一気に踏み込んだ。相手だけが死ぬならともかく、その自爆が仲間をも巻き込むリスクがよぎると、止めの一撃を振りかぶった。

 

だが……

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル、ダンケ……」

 

愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らすカトレア。その中に写っていた肖像画に描かれていたのは、彼女と夫らしき青年。そして…小さな赤ん坊の姿だった。

それを視界に入れてしまった光輝は思わず聖剣を止めてしまう。攻撃が来ないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつくカトレア。

 

光輝の表情は愕然としており、その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、絶望とも軽蔑ともつかない眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい?相手が『人』だってことに」

「ッ!?」

 

光輝にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。

 

実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている『人』だとは思っていなかったのである。あるいは、無意識に目をそらしていたのか……

 

その認識が、カトレアの愛しそうな表情で家族の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ『人』であり誰かの『母親』だと気がついてしまった。自分のしようとしていることが『殺人』であると認識してしまったのだ。

 

「まさか、あたし達を『人』とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」

「お、俺は……」

「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の『狩り』なのだろ? 目の前に死に体の『一匹』がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 

 

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

光輝が、聖剣を下げてそんな事をいう。そんな光輝に、魔人族の女は心底軽蔑したような目を向けて、返事の代わりに大声で命令を下した。

 

「アハトド!剣士の女を狙え!全隊、攻撃せよ!」

 

衝撃から回復していたアハトドがカトレアの命令に従って、猛烈な勢いで雫に迫る。光輝達の中でカリスマという点では光輝に及ばないものの、冷静な状況判断力という点では最も優れており、情報通りある意味一番厄介な相手だと感じていたために、真っ先に狙わせたのだ。

 

他の魔物達も、一斉に雫以外のメンバーを襲い始めた。『彼』のことを考えて殺したくはなかったが、光輝の最後の攻撃は捕獲などを考えられないほどの脅威だった。

 

「な、どうして!」

「自覚のない坊ちゃんだ……私達は『戦争』をしてるんだよ! 未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!それに、アタシが何度話し合いと保護を持ち掛けても無視したのはそっちだ!!」

 

自分の提案を無視したカトレアに光輝が叫ぶが当の本人は取り合わない。

 

そしてカトレアの言葉に光輝が振り返ると、ちょうど雫が吹き飛ばされ地面に叩きつけられているところだった。アハトドは、唯でさえ強力な魔物達ですら及ばない一線を画した化け物だ。不意打ちを受けて負傷していたとは言え『限界突破』発動中の光輝が圧倒された相手なのである。パワーの及ばない雫が一人で対抗できるはずがなかった。

 

光輝はすぐに覇潰の力そのままに一瞬で雫とアハトドの間に入ると、寸でのところで魔衝波の一撃を受け止める。そして、お返しとばかりに聖剣を切り返し、腕を一本切り飛ばした。

 

しかし、そこが覇潰のタイムリミットだった。

そのまま懐に踏み込んだ瞬間、ガクンと膝から力が抜けそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 

そして最悪なことに、無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺したように一切動かないというものだった。

 

「こ、こんなときに!」

「光輝君!」

 

 

倒れた光輝を庇って、香織がアハトドの切り飛ばされた腕の傷口を狙ってGNソードを刺す。流石に傷口を抉られて平然としてはいられなかったようで、アハトドが絶叫を上げながら後退った。その間に香織は、光輝を掴んで仲間のもとへ放り投げる。

 

光輝が動けなくなり、仲間は魔物の群れに包囲されて防戦するので精一杯。ならば……自分がやるしかない!と、香織と雫はカトレアを睨む。

 

「……へぇ。あんた達は、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、二人の方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」

「……そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」

「私たちは負けられない…約束を果たすためなら、貴女を殺してでも!」

 

 

カトレアは、白鴉の固有魔法で復活したようでフラつく事もなく、しっかりと立ち上がり、雫達をそう評した。

 

雫は光輝の直情的で思い込みの激しい性格は知っていたはずなのに、過去の一軒があってからずっと避けていた。

そのため、自分達は人殺しをするのだと光輝に自覚させる事を今の今まで放置してきた事に責任を感じ歯噛みする。

 

雫とて、GBNなどでの戦いの経験はあれど人殺しの経験などないし、経験したいなどと思わない。

だが、この世界に来てからいつかこういう日が来ると覚悟はしていた。剣術を習う上で、人を傷つけることの『重さ』も叩き込まれている。

 

しかし、いざその時が来てみれば、覚悟など簡単に揺らぎ、自分の手を汚すかもしれない恐怖に恥も外聞もなくそのまま泣き出してしまいたくなった。

今はその手を取ってくれる少年はそばにいない。

それでも、雫は、唇の端を噛み切りながら歯を食いしばって、その恐怖を必死に押さえつけた。

 

そして、抜刀術でカトレアを斬ろうと構えを取った。が、その瞬間、背筋を悪寒が駆け抜け本能がけたたましく警鐘を鳴らす。咄嗟に、側宙しながらその場を飛び退くと、黒猫の触手がついさっきまで雫のいた場所を貫いていた。

 

「悪いがあんた達の強さは知ってる。アハトドと他の魔物を相手にしながらあたしが殺せるかい?」

「くっ」

 

カトレアはショーテルを抜いて迫り、香織がGNブレイドを2本抜いて応戦。雫は急激な加速と減速を繰り返しながら魔物の波状攻撃を凌ぎつつ、何とか、カトレアの懐に踏み込んで香織とともに攻撃しようとするが、突破できない魔物の壁にその表情は次第に絶望に染まっていく。

 

厄介なのは、アハトドが雫のスピードについて来ていることだ。その鈍重そうな巨体に反して、しっかり雫を眼で捉えており、一瞬で雫に並走して衝撃を伴った爆撃のような拳を振るってくるのである。

 

雫はスピード特化の剣士職であり、防御力は極めて低い。回避か受け流しが防御の基本なのだ。それ故に、広範井攻撃である魔衝波の余波だけでも少しずつダメージが蓄積していく。完全な回避も、受け流しも出来ないからだ。

 

そして、とうとう蓄積したダメージが、ほんの僅かに雫の動きを鈍らせた。それは、ギリギリの戦いにおいては致命の隙だ。

 

バギャァ!!

 

「あぐぅう!!」

 

咄嗟に剣と鞘を盾にしたが、アハトドの拳は雫の相棒を半ばから粉砕しそのまま雫の肩を捉えた。

地面に対して水平に吹き飛び体を強かに打ち付けて地を滑ったあと、力なく横たわる雫。右肩が大きく下がって腕がありえない角度で曲がっている。完全に粉砕されてしまったようだ。体自体にも衝撃が通ったようで、ゲホッゲホッと咳き込むたびに血を吐いている。

 

「雫ちゃん!」

 

香織が、焦燥を滲ませた声音で雫の名を呼ぶが、その隙を見逃すカトレアではない。

GNブレイドを両方ともへし折られ、香織はカトレアの蹴りとアハトドの攻撃で雫のそばまで転がる。

雫は折れた剣の柄を握りながらも、うずくまったまま動かない。

 

その時、香織の頭からは、仲間との陣形とか魔力が尽きかけているとか、そんな理屈の一切は綺麗さっぱり消え去っていた。あるのはただ『大切な親友を助けたい』という思いだけ。

 

香織は痛む体を引きずる。魔力がほとんど残っていないため、体がフラつき手の力も入らない。当然、無防備な香織を魔物達が見逃すはずもなく、情け容赦ない攻撃が殺到する。

 

だが、それらの攻撃は全て光り輝くシールドが受け止めた。しかも、無数のシールドがドームのように並べ立てられ香織と雫を守る。

 

「カオリン…シズシズ…」

 

それを成したのは龍太郎の肩を借りた鈴だ。青ざめた表情で右手を真っ直ぐ雫の方へと伸ばし、全てのシールドを香織と雫を守るために使う。その表情に淡い笑みが浮かんでいた。

 

鈴は内心悟っていたのだ。自分達はもう助からないと。ならば、大好きな友人達を最後の瞬間まで一緒にいさせるために自分の魔法を使おうと、そう思ったのだ。その分、他の仲間の防御が薄くなるわけだが……鈴は内心で「ごめんね」と謝り、それでも香織と雫のためにシールドを張り続けた。

 

 

(鈴は香織達のために命張ってんだ…だったら、鈴もほかの仲間も俺が守ってやる!)

 

「俺は流派東方不敗の武闘家見習いだ!ダチも好きな女も最後まで守ってやるよおおおおお!」

 

魔物たちの攻撃により大量に出血しながらも、龍太郎は吠える。

 

鈴のシールドにより守られた香織はうずくまる雫の体をそっと抱きしめ支える。

 

「か、香織……あなたは逃げて…。ここにいちゃダメよ」

 

「ううん。もう、打つ手がない。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

 

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

 

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

 

 

 

雫を支えながら眉を八の字にして微笑む香織は、痛みを和らげる魔法を使う。雫も、無事な左手で自分を支える香織の手を握り締めると困ったような微笑みを返した。

 

そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う香織と雫を見下ろし、「ルゥオオオ!!」と独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

 

今、まさに放たれようとしている死を目の前にして、雫の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。「ああ、これが走馬灯なのかな?」と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた雫だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

 

罪人のような扱いを受け、自分たちの前から消えた思い人。

地球での日々でお互いの親友の恋路を心配する中、雫は『彼』を想っていた。

だが、それもここで終わる。

 

結局、再会すらできないまま終わるのかと思うと雫の目から涙があふれていた。

 

再会したら、また名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を口にしようとする。

 

 

その瞬間だった。

 

タアァン!

 

乾いた音と共にアハトドの頭に穴が開き、血を吹いて沈んだ。

 

今の音の出所を、クラスメイトも魔物もカトレアも全員が注目する。

 

 

 

そこにいたのは、長い金髪の青年と日本人離れした色気のある美しさを持った青年。

その手にはこの世界で不釣り合いな武器…『アサルトライフル』が握られている。

 

 

「…遅くなってしまい、すまなかったな」

 

一人は、しばらく王都に戻っていた騎士『レイ・ザ・バレル』

そして…

 

 

「お前ら、待たせたな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとは先生に任せろ!!」

 

この世界で自分たちを助けてくれた頼れる大人、三木宗一だった。

 

 

「「ロックオン先生!」」

 

 

 

 




次回予告

その手に持つは、子供を守るための武器。
大人としての誇りを胸に、一人の先生が立ち上がる。

そして、決着の時が…

機動戦士ガンダムForce 
第11話 勇者編 人として、大人として

未来ある子供を…守り抜け、デュナメス!

SEED FREEDOMの設定を反映してもいいか?

  • 反映に賛成!
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