人類再構成プロジェクト
低年化、凶悪化する犯罪。相次ぐ内戦。テロ。それにともない、不安な未来に子どもを残せないとする世界的な少子化。各国首脳は幾年にも渡り討議し、国境を越えたあるプロジェクトにたどり着いた。
1世紀前の出来事である。
「ハルー!行くわよ!遅れるから早くしなさい!」
下から母親の呼ぶ声がする。俺はそれを無視して作業を進めた。
「…やっと終わった…」
俺はそれをポケットにねじこんで、呼び声が叫びになる前に車で待つ母親のもとへ向かった。
中学を卒業した最初の日曜、その日はやって来た。
人類再構成プロジェクト
15才から30才までの3年に一度の4月、それからは5年に一度、人はみな【人類再構成システム(HRS)】をされなければいけない。そこに行き、備え付けられた装置をくぐる。ただそれだけだ。ただそれだけの事で、自分の過去の一部を書き換えられ、未来を決められてしまう。
笑える。
文字通り「敷かれたレール」を歩いていくんだ。
右の脇の下にある小さな異物に触れながら、空をみあげた。
生まれた瞬間に、埋め込まれる個人識別チップ。例外なく埋め込まれるこのチップを、あの空を飛び交う無数の鳥のようなものが、24時間監視している。チップを持たない人を発見すると、数分以内に警備ロボットに連行される。過失ならばチップを埋め込まれるだけ。ただし故意に外したものならば、再度埋め込まれるだけでなく、その場で直ちに【HRS】に全てを書き換えられる。生き地獄として。恐ろしいのは、本人だけではなく、血縁関係のある人間全てに実行されることだ。
このプロジェクトによって、それまで何世紀と続けてきた「争い」がなくなった。犯罪がなくなった。人が誰かを憎む事自体なくなったのだ。故にこれを拒むもの、異論を唱えるもの、全てを人類に対する反逆者とみなす。
小学校に上がる前は親から。それからは学校で週に一度は「生き地獄」の映像をみせながら教えこまれたことだ。だから仕方ない事だとあきらめている。自分だけならまだしも、身内までが…と思うと…。
俺の過去を振り返ってみる。
小学校くらいからしかない思い出だけど、それなりに楽しかった。野球クラブに入り、しんどかったけど頑張ってレギュラーにもなれた。仲間も出来た。親友と呼べる友達もいる。そして…
「着いたよ。降りて」
とうとう来てしまった。長蛇の列ができている。
「じゃあこの辺りで待ってるからね。終わったら電話して」
そう言うと母親はどこかに車を走らせて行った。あらゆる混乱を避けるために、付き添いは許されないのだ。今から厳重な監視下のもとにおかれる。
俺は自分の地域のブロックの最後尾に並ぶため歩きだした。
「ハル!」
呼ばれて振り向く。振り向く前に誰かは分かっていた。自然と笑顔になる。
「お前も今きたのか?」
「送ってくれるはずのお父さんが仕事いっちゃったんだよ!ねぇ、信じられる!?娘の大事なイベントの日わすれるなんて!!イベント…?ちょっとちがうか」
屈託のない笑い顔。俺の大好きな、とても大好きなアキ。親同士も知り合いで、小さい時からいつも一緒に遊んでいた。野球クラブもアキが「頑張って!」と言ってくれるだけで頑張れた。本人だけは知らないが、周りの皆、俺がアキの事を好きなのを知っている。好き好きオーラが出ているらしい(笑)。
「…アキ」
「なに?ハル。顔怖いよ?やっぱ【HRS】怖い?怖いよね…。自分の過去かえられちゃうとか…。いらない人間の記憶きれいさっぱり消されちゃうとか…。いやだよね…。誰が決めるかわからないけど、あたしが今まで出会った人達はあたしだけの宝物なのに…!」
そうなのだ。今の自分、これからの自分に不必要な人間の記憶がなくなる…。これが俺は1番怖い。もし、もし仮にも俺にとってアキが必要ないって判断されたら、俺からアキの記憶全てがなくなる?考えられない。こんな強い気持ちがどこかに行ってしまうと考えただけで、狂いそうになる。
だから俺は手紙を書いた。
俺とゆう人間の全て。
どれだけアキを大切に想っているか。
飾らない言葉で精一杯書いた。
監視の人間に隠れて、そっとポケットから出した手紙をアキに握らせる。
「アキ。今まですげー楽しかったよな。俺もアキと同じ考えなんだ。今の俺がいるのも、今まで俺の意志で出会って、付き合ってた人達がいるから。だから、誰のことも忘れたくない。…アキ。アキに大事なお願いがあるんだ。この手紙を持ってて欲しい。それで【HRS】が終わった俺に渡して欲しい。俺が純粋に俺でいられた最後の手紙なんだ。これはアキにしか頼めない。お願いします」
アキは、俺の目をじっと見ていた。
「わかったよ。ハル。この手紙は必ずあなたに渡す。でもハル…、もしハルがあたしの事わすれちゃってたらどうするの…?」
「絶対ないっ!俺がお前を忘れるなんてこと、あるわけがないっ!」
「わかった!わかったよ…。安心してハル。この手紙は間違いなくあたしの事大好きな、あたしの大好きなハルに渡すから…」
「…知ってたの…?」
「あたしのこと、どれだけ鈍感だと思ってたの(笑)。長い付き合いだもん、ハルの気持ちぐらいとっくに知ってたよ。それより鈍感なのはハルのほうじゃん」
ふたりで笑った。泣きながら笑い続けた。
そして俺の順番がやって来る。
「じゃあアキ。行ってくる。それで…」
「これからもよろしくっ!」
俺は【HRS】へと歩いて行った…。
ハルが手紙を受け取ることはない……。
人類再構成プロジェクトが発足してから何世紀か過ぎた頃、ひとつの重大なバグが発生する。
ある大事な責を担った人間全てに、その重大なバグがおこってしまった。
「あるものに対する認識」である。
そのトップである人物は、ある日面白そうなオモチャを見つけた。赤いボタンがついてある。
争いも、憎しみもなくなった世界には最も不必要なもののスイッチであった。
核の発射スイッチがおされた。
とても穏やかな4月の出来事。
~おわり~
初めての投稿です。お目汚し失礼しました。