あと今回もあとで推敲すると思います。これはいわゆるβ版ってやつだね、しらんけど
山に入ると、いつもとは違う雰囲気を感じた。
なんつーか、静かだ。でも落ち着いてるってわけじゃない。どこか不安で不穏な雰囲気が漂っている。
見たことのない山の表情に思わず唾を飲み込みながら、おれは斜面を駆け上った。河原へと出るルートはその先の道が急で、しかも途中で崖にぶち当たる。だから今回は少し遠回りして、山の裏手から神社へと出るルートを選んだ。こっちなら道が険しくない。
首にかけた双眼鏡が揺れないよう手でつかみながら、頭の中は期待でいっぱいだった。つまらない、何もない村だと思ってたけど──こんな近くに、こんな特大の謎があったなんて! はやる気持ちを抑えきれず、なんだか無性に叫びたい気持ちになる。叫ばないけど。
無我夢中で走って、山頂近くまで来てようやくおれは息を整えた。気配がバレると、姿を見せてくれないかもしれない。足音を立てないよう気を付けて、姿勢を低くして山頂に出る。すぐ横には神社に続く道、目の前には小さな湖があった。
そして──そこに、
(み、水色の人影!!)
相手に聞こえてしまうんじゃないかってくらい、心臓がバクバク鳴ってる。草陰から双眼鏡を構え、湖の水面に浮かぶその姿にピントを合わせた。
(……やっぱ、絶対動物じゃない。水色の服の……女の人だ。髪の毛も水色)
双眼鏡越しでも、髪型と輪郭の柔らかさからその人影が女性のものであると判断がつく。だからってわけじゃないけど、おれはその顔を見てみたくなった。
(誰もいない山の湖に浮いてる女の人がヤバいってことくらい、おれだってわかる。わかるけど)
だって、気になるじゃないか。もしあれが人間じゃなかったら、その顔はのっぺらぼうか、はたまた一つ目なのか。もしかしたら、あるいは──そんな好奇心に負けて、おれはじっと動かず魅入られたように双眼鏡をのぞき込んでいた。
人影はしばらく湖面をゆらゆら漂っていた。けれど、太陽が木々の上からあたりを照らすようになったころ、突然思い出したかのように体を起こした。
水面で。
まるでそこが布団の上であるかのように、上半身だけを起こして、それから大きく伸びをした。
「えっ」
思わず漏れたつぶやきは風に乗って、人影がこちらを振り向く。そして、その深い水色の瞳と目が合った。
「──あ」
たぶん、もう忘れられないんだろうなと思う。それくらい綺麗で、完成された風景画のような容姿。
美しく、色鮮やかで、
そして、その川は──美しい表情を歪め、ありありと不機嫌さを滲ませていた。
おれは構えていた双眼鏡を下ろした。もうその必要はなくなったから。
頭上から、ぽたぽたと言葉が降ってくる。
「あんた、何しに来たの」
その声は
「お、おれ……気になって」
「好奇心は猫をも殺す、だろ? 人間のことわざだ」
その女の人は、おれの頭に手を置いた。冷たい手だった。
「今、上尸も中尸も居所が最悪でね。悪いけど、あんたはここで終わり」
「お、終わりって」
「そういえば、人間は食べたことなかったな」
何もないはずなのに、女の人の手からどんどん水が滴ってくる。それは頬を伝い、首筋を濡らし、背筋にじっとり張り付いた。
「や、ご、ごめんなさい! もう絶対来ません! 誰にも言いません!」
「もう少し幼きゃ見逃しても良かったんだが、あんたは十分物事を考えられる年だ。親に『山に入るな』とは言われなかったのか?」
おれは母さんの顔を思い出した。
──山には行っちゃだめよ。
「あ……」
「言われたんだろ。あんたは約束より好奇心を優先する質なんだ」
何も言い返せなかった。女の人の手が、ゆっくりとおれの首元までさがる。吸い付くような嫌な感触と、熱が奪われていくような悪寒。どうなるのか想像もしたくなくて、おれはぎゅっと目をつぶり、心の中で母さんに謝った。
目尻から、熱が一滴抜けていった。
「……あ? あれ? なんだこれ。腹が……」
「……?」
「え、もしかしてこの体って多々良小傘システムなの? これから腹が減ったら人を驚かせなきゃいけないわけ?」
……なんだか様子がおかしい。涙目をうっすら開けてみると、女の人が先ほどよりも困ったような表情を浮かべている。
「マジか……人と関わるの確定ってこと? んー、うーん、しゃあない」
女の人はおれの首から手を放し、腰を抜かして座り込むおれに目を合わせた。
「なあ、やっぱり私はあんたを活かすことにしたよ」
「生かすって、殺さないってこと?」
「はは、そうそう。ただしあんたが私のことを誰かに喋ったら、その時はあんたの家族も──」
「わ、わかりました。絶対言わないです!」
食い気味に叫ぶと、女の人はちょっと驚いたように目を瞠って、それから小さく笑った。
「ま、忘れないでくれたらいいさ。あーあ、私も大人げない真似しちまったもんだ……」
なにか小さく呟いて、それから女の人は踵を返す。なんとなく、この時を逃したらもう二度と聞けない気がして、おれはその背中に大声で問うた。
「あ、あの!」
「なに?」
「また来てもいいですか……?」
「あんた、もしかして全然懲りてないね?」
呆れたようなため息。いたって普通の、人によってはけなされたと感じるような仕草。それなのに……下がった眉尻、じとっとした半目の奥のきれいな瞳、震えて言葉を紡ぐ唇から目が離せない。
……?
(テキストから顔を離して読んでみる)
……?
(テキストに顔を近づけて読んでみる)
なんだこの怪文書!?
作者は少年をいじめるのが趣味ではないのに……。でもこんなバイオレンス吊り橋効果でひっかかる少年も少年だよな。意気揚々と吊り橋ダッシュしたのは自分だろ。
にとりちゃん(偽)視点は次に書くかも。いちおう書かなかった場合のためにメモっとくと、空腹が度を越えると人間性が損なわれていく感じです。