ぽちゃん、ぽちゃんと水面に何かが投げ込まれるような音がした。川底で転寝していた私は、ゆっくり水中を落ちてくる小石を見て、もうそんな時間だったっけとあくびをする。
「ふあーぁ……しょうがない、起きるか」
腹が満たされると眠くなるのは人間も妖怪も変わらないらしい。立ち上がろうと身じろぎすると、私の周囲から小魚たちが一斉に逃げて行った。
寝ている間の私の周囲は水の流れが緩やかなうえ、私の身体が隠れ家代わりになるとのことで、どうやら小魚たちに人気らしい。
残念ながら旅宿にとりは宿泊のみ、チェックアウトは10時までだ。延長は受けつけてないよーとリュックを逆さにしてまだ寝ぼけている小魚を強制退去させ、それから光学迷彩スーツのスイッチを入れた。
「さて……行くだけ行ってみるか」
能力を使って身体を浮かし、ゆっくり水面から顔を出す。すると、そわそわしてどこか落ち着かない様子の少年がこちらをじっと見つめていた。
「……もしかして、そこにいるん、ですか?」
正直、少しばかり驚いた。光学迷彩スーツは問題なく稼働しているから、少年が私に気づくのは難しいはずだ。水面のわずかな揺らぎや屈折を見つけなければ、こうして私が顔を出していることすらわからないはずなんだけどな。
流石に双眼鏡なんかで私を見つけただけはある。感心しながら私はゆっくり河岸に上がり、周囲を見回しながら少年の耳元に口を寄せた。
「昨日ぶりだね……バレちゃいないよな? 村の人間にも、家族にも」
「……」
「聞いてる?」
「だっ誰にも言ってませんっ」
少年はやけに緊張しているようである――いや主に私のせいなんだけどさ。殺されかけた相手がすぐそばに居て緊張しない訳がないのだ。
まあこれはこれで腹具合が良いから、慰めなんかしてやらないけど。やはり衣食住は健康で文化的な生活の最低ラインであることを実感しつつ、私はいまだに様子のおかしい少年の双眼鏡を持ち上げた。
少年からすれば、首からかけていた双眼鏡が急に浮いたように見えただろう。不思議そうな表情に、私はさらに気を良くした。
「え、あれ……?」
「双眼鏡は外してその辺に置いときな。山に文明の利器を持ち込むもんじゃないぜ」
言われるがまま、少年は川から少し離れた木の枝に双眼鏡をかけて戻ってきた。手ぶらになった少年の肩に手を置く。
「良し。ところで少年、相撲は得意かい?」
「す、相撲?」
「そうそう。水際での駆け引きが1番燃えるのさ」
言うが早いか私は少年の身体を持ち上げ、勢いよく川の中に引き摺り込んだ。どんどん遠ざかってゆく水面に、少年の息が散らばってゆく。
「がぼっ、ごぼぼっ……!?」
「おっと、気泡を用意してやるから待ってな」
リュックの中に含ませていた空気を、少年の頭にヘルメットのように被せてやる。簡易的な酸素ボンベだ。
少年はしばらくもがいていたが、息ができると分かった途端に目を輝かせ始めた。
「はーっ、はーっ……うわすげーっ……!」
「無駄に空気を使うんじゃないよ」
やれ魚が泳いでいるだの、ヤゴが目の前を通っただのと騒いでいる少年の口を手で塞ぎ、私は川底から水面を注意深く見上げた。
……うん。助けは来ないな。本当に1人で来たらしい。私はようやく光学迷彩スーツのスイッチを切った。
「……!」
「なあ、もう少し落ち着いたらどうだい。そんなに息が荒いと酸素が持たない」
少年の口から手を離すと、少年はぷはっと息を吐き、やや赤くなった顔でゆっくり辺りを見まわした。
「すげー……」
「だろう? 入水でもしない限り、人間には見られない景色だ」
「これはなんて魚?」
少年が指さしたのは、よく一緒に雑魚寝している小魚である。名前なんぞ知りもしないので、私は適当な言葉を並べた。
「岩陰が好きで苔ばっかり食ってる魚」
「そ、そうじゃなくて」
「それ以外に何があるのさ。だいたい鮎とか鯉なんざ人間の付けた名前だろう。私は人間じゃないから、これは『岩陰が好きで苔ばっかり食ってる魚』と呼ぶんだよ」
少年は分かったような分からないような表情で、目の前を彷徨いている小魚をつんつん突いた。小魚は慌てて岩陰に隠れた。
「常識に囚われるなってことさ。そろそろ上がるよ」
「えっ」
「そう残念な顔されてもね、もう空気のストックが無いのさ」
残念がる少年の首根っこを掴み、私たちは川から出た。もちろん水分は弾いてあるので、少年も私もすっかり乾いている。子猫のように宙ぶらりんだった少年を地面に下ろすと、ぽつりと感嘆が含まれた呟きが漏れた。
「すごかった……」
「だろう? もっと驚いてくれて良いんだよ」
「すげーっ!」
「素直か?」
俗に、子供の『供』は神に捧げる供物の意だとされているが……なんとなく、生け贄に子供が選ばれることが多い理由がわかった気がする。
例えばあの婆さんのように、世の中をすっかり訳知り顔で歩けるようになってしまうと、神仏妖怪としては
その点子供は良い。感情はすぐ発露するし、起伏は激しいし、影響されやすい。その上、内包するエネルギーが段違いと来た。これを逃す手はない――私は少年の頭に手を置いた。
「良い顔するじゃないか。あんたがその好奇心を忘れない限り、私はここであんたと遊んでやるよ」
全て理解したのかどうか、定かではないけれど……少年は笑顔を浮かべた。
エタってないよ。すごい遅れそうな時は活動報告に言い訳を書いておくから、万が一にも気になるなって時は見てね。
これから少年と遊ぶなかで、頑張って物語としての「お楽しみ」を盛り込んでいきたいんだけど、作者は別にえっちなのは書かないからね。苦手だし。
だからまあ、この小説はやっぱりスローライフものです。
ところで、この小説の年齢層ってどんなもんなの?
冒頭で仕事が嫌だ学校が嫌だみたいなこと書いてるから、若年層が読んでるのか不安なんだけど……。
というのも、「ヤゴ」って通じるのかどうか気になって。トンボの水棲幼虫なんだけど、読者が知ってる前提で書いてるからさ。
あ、知ってた?
じゃあアレは? 「流れに枕するわけだ。石で口をすすぐのも風流かな」。
これの元ネタもわかるの? 良かった。
こういう2次創作の面白さって割と「内輪ネタがどこまで通じるか」にもかかってるからさ。通じないネタばっか振ってもしょうがないじゃん?
ちょっとだけ参考にさせてくれると嬉しい。
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