現代河童の休暇んばー   作:鼠日十二

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短いし説明回


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「ほら、掴まりな」

 

 落ち葉、岩肌、へばりつくように生えた苔によって彩られた山の斜面は、恐ろしいほど滑りやすい。少年の履き潰された運動靴には荷が重いだろう――と手を差し出したのだが。

 

「大丈夫、1人で行ける」

 

 少年は息を切らしながらも、私の手を取らなかった。小さな背がほんのちょっとずつ、斜面を登って行く。私は目的を見失った手を顎に当て、思案するポーズをとった。

 

「ふむ」

 

 怖がっているのか、あるいは頼るのが嫌なのか。私って中身はともかく見た目は幻想少女のそれだから、恥ずかしさもあるのかも。「男の子」という生き物は、なかなかどうして繊細らしい……自分にも子供時代があったことを棚に上げながら、そう思った。

 

「ま、あいつが瑞々しい感性を持ち続けてくれりゃ、私としても言うことはないけどね」

 

 人間の感性はすぐに枯れてしまう。新しいものに触れなくなった人間の思考はすぐに止まって、泥濘のような安寧に浸って動けなくなる。

 

 新しく何かを始める気力も努力も無く、ソシャゲのログインだけして小さなタスクを熟した気になり、動画サイトを開いては休日を潰す……そんな人間は一定数いる。

 

 それを一概に良い悪いと言い立てるつもりはないが、少年にはそうあってほしくない。いつまでも新鮮な感性を持ち続けてほしい。私の生き餌、私だけの素晴らしき思考エネルギーの源泉――。

 

 枯らしてなるものか。

 

 それを枯らさない為ならば、私は鬼にも神にもなろう。甘言にて寄り添い、苦言にて導こう。

 

「少年!」

 

 数メートル先の斜面から、少年がこちらを振り向いた。

 

 私は体力だとか筋肉だとかには無縁の存在なので、長靴の裏に水のスパイクを生やせばそれで事足りる。さっさと少年を追い抜くと、彼は実に不思議そうな顔をした。美味。

 

「ほらほら、急がないと日が暮れちまうぜ」

 

 

 私たちは山頂を目指していた。少年の双眼鏡はもちろん防水なんかじゃないから、そもそも川遊びには向かない。山頂だったら(私はあんまり行きたくないけど)神社もあるし、双眼鏡だって置いておける。気づいたら流されてた、なんて心配は少ない。

 

 若菜のときと同じように船を作って遡上しても良かったのだが。

 

『流れに逆らって登るわけだからね、時間かかるよ』

『歩いた方が早い?』

『体力は使うけど、多分ね』

『じゃあそうする』

 

 私としても無駄に妖力を使いたくはないから、少年の提案は渡りに船といった所だ。いや船には乗らないんだけど。

 

 というわけで、これも少年たっての要望で最短ルートを選んだのだ。無論道は険しいばかりだが、なんだかんだで少年は頑張っている。

 

「そういやさ」

「?」

「あんた、双眼鏡で私を見つけたって言ってたね。なんで山なんか見てたの?」

「それは……はぁ、はぁ。やることが無かっただけ」

 

 やる事がなくて山を見るのは老人か狂人だと思うのだけど。

 

「ちげー……ます、よ」

「無理に敬語使わなくて良いっての」

 

 少年は立ち止まって息を整え、本当に暇だったんだ、と呟いた。

 

「別に遊ぼうと思えば遊べるけどさ。おれたち以外に村に子供いないし、友達は山の向こうに住んでるから会いに行くのも大変なんだ」

「田舎っぽい話だねえ」

「田舎だよ。弱っちい田舎なんだ」

 

 少年は胸元で揺れる双眼鏡に目を下ろした。

 

「お父さんが言ってたんだけどさ、この村って子供が少ないし目立つもの無いしで、おれらが大人になる頃には無くなってるかもしれないんだって」

「限界集落も良いとこじゃないか」

「あ、それもお父さん言ってた。だからさ、あのホテル、すげー大事なんだ。ここには田んぼと山しかないからさ」

 

 田んぼと山、か。ああ、そういえば。

 

 昭和に始まった減反政策――つまり田んぼの面積を減らす政策――から向こう、農家は稲作から畑作への転換を余儀なくされてきた。

 

 そしてノウハウ不足や土壌の質の問題で稲作を続けざるを得なかった農家は、収入を減らすこととなる。この時代において「田んぼしかない」のは、大きなディスアドバンテージなんじゃないだろうか。

 

「畑作がしにくいのは地質の問題かな?」

「はっ……はぁっ、何が?」

「いーや、何でもないよ。それより少し休んだらどうだい」

 

 私は斜面の上から少年を見下ろす。ひいひいふうふうと吐く息は荒く、額には汗が浮かんでいた。夏もそろそろ本番に近づき、気温は上昇の一途を辿っている。

 

「よう少年、そろそろ休憩にしたって良いんだよ」

「ま、まだいける……」

「意地張んないの。熱中症になりでもしたら面倒なのは私なんだぜ」

 

 最近、リュックサックは水をストックするのに使えることに気がついた。川から離れる時はこの中に水を溜めておいて、いざという時に切り崩して使うのだ。

 

 私は手のひらに水をたっぷり含ませて少年の側に寄り、汗ばんだ首筋をそっと撫でてやった。せめて身体くらいは冷やしてやろうと思ったのだ。いつか若菜にも似たようなことをやった覚えがある――が、反応は期待していたものと全く違った。

 

「――!?」

 

 少年は顔を赤らめ青ざめ、鯉のように口をはくはくさせ、それからふらっと倒れた。

 

「……えっ?」

 

 あっ。そういやこの仕草、少年を殺そうとした時と同じじゃん。想起させちまった……。

 

 

 




初めにお礼を。アンケートありがとうございます。
読者層はてっきり高〜大学生あたりだと睨んでいたのですが、思ったより年上の方が多くて驚いてます。稚拙でも読んでくれるもんだなあ。

そんなわけで、作中の時代には既に生まれている読者の方もいることに戦々恐々としております。こんな田舎ねえよって言われたらうるせえよ黙れよ田舎なんかねえよと言うしかないんですけど。

次ですが、ソシャゲのログインだけして満足するタイプの人間は正しく僕のことを指しているので、別に読者様方のことを言っているわけではありません。悪しからず。僕の遅筆はこの辺に原因があって、気づいたら腕の血管とか見て時間が飛んでたりするんですよね。脳死と思考停止が終わらないんだワ


次回なんも考えてないです。
対戦よろしくお願いします。そろそろ妹ちゃんも出します。

あとこれマジで悩んでるんですが、少年の名前全然思いつきません。


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