不確かなもの   作:シャナたん

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第1章 境界線上
第1話


この世界はイカれている。

その事に気がつくのに、大して時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

毎日、毎日、街の喧騒は繰り返される。

同じ日が訪れる事などあり得るはずもないというのに、法則(ルール)で定められたかのように人々はごった返している。

 

ある者は仕事で街を歩き。

ある者は学校からの帰宅路として。

ある者は特に理由もなくアテもなく、ふらふらと彷徨っている。

そんな光景がいついかなる日でも、途切れる事はなく紡がれていく。

 

檻蔵十爾(おりくらじゅうじ)も例に漏れず、その無数の中の1人だった。

手荷物も持たず、誰かと一緒に歩くわけでもなく、徘徊するように街中で歩み続ける。そんなありふれた有様は、人混みの中で目立つ訳でもない。有名人でもなんでもない彼は、周囲から特段意識を向けられる存在ではなかった。

 

 

 

「…………」

 

 

十爾としても、何か目的意識を持ってこの場にいる訳ではない。

ただ、歩きたくなっただけだ。

道すがら、気まぐれに飲み物か何かを買おうとしたが、財布の中を覗けば缶ジュース一本すら買えないほどに困窮している状態。そういえば今月の小遣いは使い切ってたな、と今更になって他人事のように思い出した。

内心で小さく毒づくが、家に帰ろうとは思わなかった。

 

目的も目標もなく、どこかの店に立ち寄ることもなく、ただ雑踏の中をつき進む。

十爾は以前から時たま、こんな風にただ歩くことがあった。人混みが好きな訳でもないのに、何故かこうして人の多い場所に出たくなる瞬間がある。

()()()()()()()()人の習性というのは変わらないらしい、と十爾はなんとも言えない気持ちになった。

 

檻蔵十爾はこの世界の人間であって、そうではない。

檻蔵十爾は、転生者である。

 

 

 

 

 

 

十爾は輪廻転生などというものを、全く信じてはいなかった。そもそも死後の世界そのものにすら懐疑的でもある。

人に限らず、生物は死ねば死ぬだけ。行き着く先などありはしない。何かの教えに準じるものではなく、ごく自然と十爾はそう考えていた。

 

そう考えていた、のだが……。

 

 

『貴様の死は本来の運命から外れたものである』

「あ?」

 

 

十爾は突然、そんなことを告げられた。

前兆というものは存在しなかった。告げているのが誰なのかも判然としない。

ここはどこだ。

さっきまで自分は何をしていた?

いやそもそも、死?運命?何の話だ。

感情豊かとはとても言えない十爾だが、流石にこの状況には色濃い困惑を隠せずにいた。

 

 

『檻蔵十爾よ。汝は死したのである。現世では何の変哲もない交通事故の被害者として、処理が済まされている。──もう一度言おう、汝は死したのだ』

 

 

十爾の心境などお構いなしに、謎の声は語らいを続けていた。それは互いの意思疎通を要しない、ただの通達事項のようでもあった。

一方的にとんでもない事を巻くし立てられた十爾。いきなり自分が死んでいるのを告げられるなど、尋常の事態ではない。

だがしかし、不思議とこの言葉が嘘とは思えなかった。何の根拠もないが、この『声』には妙な説得力の強さを感じる。

 

本題とやや逸れた事を、十爾は問うた。

 

 

「あんたは何モンだよ。神か何かか?」

『肯定しよう。私はこの宇宙を創りたもうた創造神である』

「創造神ね……普段なら笑う気にもなれねえけど、何故か本当の事だと理解できるな」

『神威そのものである私と謁見しているのである。汝は卑小な身であれど、本能で存在としての格を感じているのであろう』

 

 

創造神は律儀に返答はしてくれているが、どこか機械的だった。神なんてものに、人心というものを求める方が筋違いなのかもしれないが。

 

 

『話を戻そうか。先程告げたように、既に汝の身は滅びている。生命は死せば無に帰し、そしてその不可逆を覆すことは許されない』

「死んだ、ね」

 

 

死。生命としての終着点。

ヒトである以上は誰もが一度は恐れ、そして受け入れなければ一つのゴール。

十爾はまだ若く、老衰などとは程遠い。本来ならばこういった形での死は、容易には受け入れられないのが一般的だろう。老い先短い老人とは違い、十爾には多くの可能性が残されていた。数多くの未来を掴み取る選択肢があったのだ。その全てが、一瞬で閉ざされてしまった。

普通に考えれば、易々と飲み込めはしない。

しかし。

 

 

「そうか……。死んだのか、俺」

 

 

十爾の心は、酷く穏やかだった。

死亡した事そのものには流石に驚きがあったが、その先がない。そこから続く感情の起伏がない。現実逃避をするでもなく、深い悲しみに襲われる事もなく。

何故だろうか。自問をしても、ハッキリとした答えはないでない。

死を望んでいたわけでは断じてない、のは間違いないが。

 

 

(人生ってもんに大して未練がないだけの話……なのかもな。我ながら、薄情なことだ)

 

 

客観的に見て、恐らく自分の人生はロクでもないのだろうな、という自覚が十爾にはある。『普通』というレールからは凡そかけ離れた人生を送ってきたからだ。

だからこそ、さして生に執着がないのだろう。

辛いことばかりだと悲劇の主人公ぶる気はないが、十爾にとって自分の命とは、しがみつくようなものでもなかったのだ。

 

つまんねえ奴だな、俺は。

十爾は内心でそう自嘲しながら、次の話へと意識を移した。

 

こんなトンデモ存在が実在していたという事は、今まで信じていなかった死後の世界とやらも在ると見ていいのかもしれない。

地獄行きになるほど悪い事はしてないはずだから、天国行きになりたいものだ。せめて死後くらいは、真っ当な世界で暮らしたいものだが──

 

 

『汝には、別の世界にて転生してもらう』

 

 

思考を遮る、帳のような声が響く。

創造神が示したのは、転生という道だった。

 

 

「ああ、輪廻転生ってやつか。何の生物に生まれ変わるのかね……。つか、別世界ってなんだ」

 

 

十爾は驚くでもなくそう返した。創造神の言う転生というものを、()()()しているが故に。

人としての記憶や姿形を失い、魂だけが別の生物として生まれ変わる生命の輪廻。自分にこれから行われるのは、そういうものだと十爾は解釈していた。

 

そしてそれは、致命的なまでにズレた認識であった。

 

 

『汝の間違いを訂正しよう。汝は記憶と姿を引き継いだまま、別世界にて転生するのである』

「あ?なんだよそりゃ」

 

 

十爾の眉が訝しげに吊り上がる。

一度死んだ人間が、死した時の状態を引き継いで生まれ変わるなど、聞いたことがない。胡散臭いテレビの番組やスピリチュアルな書籍には前世の記憶が云々と主張する者もいるが、十爾は彼らをただの客寄せ目的の法螺吹きか、根っからの頭のおかしい奴だと疑っていなかった。故にこそ、飲み込めない。

 

それに改めて、別世界とはどういうことなのだろうか。どうやら地球の生物として生き返る訳ではないらしい、という事くらいしか十爾には予測ができない。

 

 

『汝が死したのは、汝本来の運命にはない物が原因である。神というものは私1人ではない。複数の神核を持ちし存在が役割を分担し、宇宙の運用へと当たっているのである』

「へぇ」

『その中の一柱、地球の管理を行いし存在が管理を誤った。地球の歴史へ大きな傷跡を残すような大惨事へと発展する事態は収められたが──汝という、1人の運命が尽きてしまったのである』

「話のスケールが壮大すぎてよくわかんねぇな」

 

 

十爾は興味もなさそうにポリポリと後頭部を掻いた。

神がどうだの地球の管理がどうだの、言葉の意味自体は理解できてもピンとこなさ過ぎる。人間と神では視点が余りにも違う。

とはいえ、その地球を管理する神とやらのせいで自分が死んだのは把握できた。

今更生に縋る気もない十爾だが、自分の見知らぬ所で、会ったこともない存在がうっかり自分を死なせたというのは、苛つきが募る。

だからこそ、詫びとしての転生なのだろうが。

 

不満気な気配を隠そうともせず、疑問に思っていることを十爾は尋ねた。

 

 

「別に元の世界で生き返らせてくれりゃいんじゃないのか。俺は既に死んだことになってるみたいだが、神ならそのくらいどうにかできるだろ」

『可能か不可能かと問われれば、可能である。しかし、宇宙という容れ物そのものを巻き戻すとなると、幾神かの同意を得る必要がある』

「それで?」

『神というのは凡そ怠惰である。同意を得る得ない以前に、そもそも話をする卓上にすら訪れまい。関心があるのは自分の役割だけであり、他柱の事情など気にもかけぬであろう』

 

 

つまるところ、面倒くさい。

創造神のその言い分には、流石の十爾といえど押し黙らざるを得なかった。主に、理由が情けなさ過ぎるという意味で。

自分達の住む世界が、こんな適当な連中に運営されていると知るとゾッとしなかった。

 

──俺以外にも神に殺された奴とかいるんじゃないだろうな……。

 

今回の件で死んだのは十爾だけのようだが、この調子ならば前例があってもおかしくない。

そう思ったが、曲がりなりにも神相手にミスを指摘し藪蛇をつつきたくはない。内心で留めておくことに決める。

 

 

「で、代替案として元いた場所とは違う世界に転生……って事か」

『是である。其の世界は私が一人で営みをしている以上、何者の裁可も不要であるが故に。──もう一つ、此度の事象は神の失態によって起こったもの。行き着く先で不理解と力不足による死を防ぐ為にも、転生と同時に汝には力を授けよう』

 

 

転生先の世界がどんなものかは不明だが、常識や文化からして全く違うという事もあり得る。貰えるものがあるのなら貰っておくのが合理的だと、十爾は判断した。

 

 

「二度目の生、ね」

『不満だというのであれば、転生を取りやめてもよいが。無論その時は、汝の自意識はここで消え去る』

「いや……折角だし、状況に流されてみることにするわ。別にやりたいことなんぞないがな」

 

 

特段、元の世界に帰る気も起きない。

現代に生きる人らしく、それなりの人間関係は築いていたが、それもわざわざ死んでまで振り返る程に大切なものではなかった。

夢や目標があった訳でもない。

生か死か。この分岐路に立って、生を選んだのもただの気まぐれに過ぎなかった。

こんな辺鄙な事件に遭遇したのであれば、この選択がどんな結末をもたらすのか、好奇心程度に知りたくなったのだ。

 

 

『委細承知した。ではこれより、転生を行う。儚き哀れな魂に、どうか輝きあれ──』

 

 

創造神のその言葉を最後に、十爾の意識はどこかへと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

檻蔵十爾、十四歳。

中学3年生。

今日からめでたく新学期を迎えるその瞬間こそが、()()の檻蔵十爾としての覚醒だった。

 

朝7時。通学のため起床しなければならないそのタイミングで、檻蔵十爾は全てを思い出したのだ。というよりは、創造神によって最初からそう仕組まれていたというべきか。

自分の前世の人生。

創造神と名乗る者との邂逅。

そして、自分が転生者であることを全て認識する。

それは同時に、この世界で積み重ねられた『檻蔵十爾』としての記憶との融合であった。

 

見慣れているベッドの上で事態を把握した十爾は、重いため息をついたのだった。

 

 

「赤ん坊からの転生だと思ってたんだがな。説明不足じゃねえか?」

 

 

とはいえ、立派な一人間としての人格が確立した状態のまま、幼年期・少年期を過ごすのは何かと苦痛が伴うのは想像に難くない。

創造神なりのサービスのつもりなのかもしれないと考えると、十爾はそれ以上愚痴を零す気もなくなっていった。

 

体感時間としては転生からこの瞬間までにラグは生じていないものの、それでも十爾は冬眠から目覚めたような気分でゆっくりと体を伸ばす。

 

 

(檻蔵十爾……ご丁寧に名前まで同じか。この世界における今までの『俺』は……まあ、檻蔵十爾そのものって感じだな)

 

 

環境そのものは前世と随分違うものの、記憶の中の十爾の行動一つ一つが、今の自分の感性とも一致する。

ここから転生が始まったというよりも、前世や転生に関する知識だけをこの瞬間に思い出すように設計された、という表現の方が正しいのだろう、と十爾は結論付けた。

 

特に人格に異常なども感じない。性格そのものがすげ変えられたのではなく、別段覚えていなくても生活には支障のない事実を思い出しだけの事なので当然といえば当然だ。

ただその上で一つ、十爾には疑問があった。

 

「……前の世界と大差なくねぇか?」

 

 

何を隠そう、この世界。

十爾が今まで暮らしていた場所(ちきゅう)と、何も違いを感じなかったのである。

 

 

 

 

 

 

「行ってきまーす………」

 

十爾は覇気のない声音で出立の言葉を母へと投げかけた。父は十爾が家を出る時間には既にいない。檻蔵家では見慣れた当たり前の風景である。

こんな言葉を発したのはいつぶりだろうか。というか、発した事などあっただろうか。前世の記憶が混在しているが故に、何の変哲もないルーティーンワークでさえも多少の感慨を覚えてしまう。

そんな事が頭をよぎりもしたが、体は自然と学校への通学路を歩んでいた。初見なようで初見ではないこの街並みで、今更十爾が迷うはずもなかった。

 

十爾が前世の記憶を思い出したところで、世界が何か変わる訳でもない。学校はあるし、親も仕事と家事に精を出している。

色々と調べたいこともあるが、気づけばいつものように母親の作った朝食を取り、家族3人でちょっとした朝の会話を繰り広げて、自分自身は見飽きた学生服へと着替えを終えていた。

 

驚きは大してなくとも、生じたのは異常事態には他ならないというのに、律儀にも十爾の足は学校へと向いているのである。

根っこの部分にこそ違いは無くとも、この世界の檻蔵十爾は、随分と平々凡々な人生を歩んでいたことの証左でもあった。

 

纏まり切らぬ思考を繰り返す最中、十爾は唐突に足を止める。

 

 

「いや、やっぱり今日はサボるか。折角の新天地だしな。街中探索をするのも悪かねぇ」

 

 

もちろん、生まれ育った町のことなど十爾はとうに把握している。

とはいえ、これは気分の問題だった。

既に知っているのは承知の上で、それでも街を見てみたくなった。新たな発見や出会いを求めはしないが、それ故にか強く心を引っ張られる。

既知である事の再確認。至極無駄な作業だが、元より十爾という人間は規則人間でも優等生でもない。学校の無断欠席だって一度や二度ではないし、その選択をすることに躊躇いはなかった。

 

十爾は思い立つがままに踵を返し、学校とは真反対の街中へと足を繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

御崎市。

檻蔵十爾が十四年もの間、世話になった街である。

発展具合はそこそこで、都会とも田舎とも言い切れない。日本中を見渡せばどこにでもある、極々平凡な街だった。

 

そんな平凡な街にはもちろん、平凡なものしか存在しない。

立ち並ぶ店は普通。

街並みの整備具合も普通。

出歩く人々もこれまた普通。

時間が時間なので学生服の十爾は多少目立つものの、それすらもありふれた日常の一片に過ぎなかった。

 

当然、十爾の中の記憶と相違などあろうはずもない。実際に自分で見て、肌で感じ、こうして記憶があるのだから当たり前だ。

それでも、十爾は妙な高揚感を隠せずにいた。

前世の知識からしても目を引く何かがある訳ではなかったが、まるで遠足中の小学生のようにハシャギたい気持ちがある。

 

 

(つっても、学生だから経済力はたかが知れてる。どっかで買い食いでもしてみるか……)

 

 

そう断じつつ、さあどこへ寄ろうかと十爾は脳内で選び始めている。或いは、この世界の十爾でも知らない隠れた名店を探しに歩き回るのも悪くないかもしれない──

 

スケールの小さい愉しみを画策し、十爾は街中を歩く。

 

街中を、歩き───

 

 

「……………?」

 

 

何か、違和感があった。具体的な根拠があった訳ではない。直感にも似た、ただの精神の揺らぎでしかない。気のせいだと断じても、或いはおかしくなかったのかもしれない。

それでも十爾はその違和感を拭えずにいる。

反射的に十爾は足を止めた。具体的な次善の行動すらも浮かんではいなかったが、とにかく何かを警戒する素振りをやめられなかったのだ。

 

すると。

 

 

「なんだ、こりゃあ……」

 

 

幸か不幸か、十爾の勘は的中していた。しかし、ある程度の心構えができていたはずの十爾は、呆然と声を上げることしか叶わない。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

まるで、燃え盛る火炎の向こう側が歪むように。大気が、建物が、地面がグニャリと歪む。空気は不自然な朱色が差し、禍々しくも輝く。

十爾にはそうとしか表現できない何かが、この場で起こっているのだけは間違いなかった。

 

 

「…………………」

 

 

これは一体何だ。

前世と今世の記憶、両方を漁ってみても、この現象に説明は付けられない気がした。

それでも、景色の変化だけなのであれば、何か十爾の知らない希少な自然現象によってこう見えるだけなのだと、無理矢理納得することもできたかもしれない。或いは、考えたくはないが、十爾の色覚的な認識力に突如障害が発生したというだけの線もある。

 

だがそうした欺瞞じみた屁理屈では、看過できない異常事態が他にもあった。

 

 

(周りの人間が……()()()()()()())

 

 

本来であれば十爾と同じように慌てふためくはずの周りの人間は、皆例外なく停止していた。

時間の流れと空間の流れから完全に拒絶されたかのように、声を上げることも動くこともなく、初めから生きていなかったのかと疑ってしまうまでに微動だにせず。

それまで直進していたはずの人間も、友人との会話を楽しんでいたはずの人間も、1人だけではなく、何人も何人も──

 

 

(クソが、どうなってやがる)

 

 

ここの状況にはただならぬ不穏さと異物感を感じ、このままでは不味いという得体のしれない不安だけが募る一方で、方策は浮かんでこない。

動くのが正しいのか、動かないのが正しいのか、情報が少なすぎるあまり判断のしようがないのだ。

 

このままでは何もわからない。自分が今、危機にされているのか否かも。

情報を得るためには行動するしかない。周囲に注意を払いつつも、足を踏み出そうとした十爾だが───

 

全てが静止したはずの中で、明確に変化が訪れた。

しかしそれは、十爾にとって幸運とは言えない変化である。

十爾の遥か後方で、破壊音と思わしき轟音が唸った。

 

 

「………!?」

 

 

一も二もなく、十爾は音のした方へと振り向く。

そして警戒を高めながらも、十爾は少しずつ距離を詰めていった。引き返すべきかとも思いはしたが、『アレ』は見過ごせない何かである、という警鐘も同時に鳴っていた。それに、不穏ではあるが現在唯一の情報源なのは間違いない。

雑多な人混みを突き進めばやがて、徐々にだが全貌が見えてくる。

 

 

「は」

 

 

人混みも掃け、内部がハッキリと見える段階まで来た頃合い。

それを目にした瞬間、十爾の脳は一瞬、フリーズせざるを得なかった。

 

破壊。

人間。

血痕。

捲れたコンクリート。

傷。

違和感。

グチャグチャになった人間らしき、肉塊────

 

 

非日常すぎる光景が広がっている。

そして既に挙げた何よりもあり得ない、特大の違和感。

絶対に人間とは断じれない何かが、その空間には居座っている。

フィクションの中でしか見たことのない、余りにも現実味に欠けたフォルムに色合い。モンスターという雑で陳腐な表現が的確すぎるそれが。生物として不自然ですらあるその異物だけが、死んだ世界の中で光彩を放ち、唯一の生物として蠢いていた。

 

 

「んぁあ???」

 

 

気配を感じ取ったのか、それが偶然だったのかは分からない。

ただ、その怪物が十爾の方向へと振り向く。

反射的に体を強張らせる十爾を、怪物は感情の読めぬ瞳で───

それでいて、確かに十爾へと意識を向けていたのだった。

 

檻蔵十爾は今になって実感した。

この世界は、自分の知る場所ではないのだと。




余りにも設定に対する理解がガバい気がする今日この頃
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