デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 普段理想郷の方に投稿してますが、気分転換に。
 興味があればそちらもどうぞ。

 士道さんマジ菩薩メンタル。




琴里サプライズ

 

 そこは現実味のない場所だった。

 

 そこに美しさはあったとしても、神秘などは欠片もなかった。

 

 無機物のみを重ねた末に描ける美なるものが生命の煌めきを凌駕する―――そんな人類が科学の神秘の無謬たるを疑わなかった時代よりの空想の中身をそのまま現実に抜き出したかのような。

 

 空中戦艦。

 

 そう、空想科学―――SFと呼ばれる物語、そこに描かれる空飛ぶ舟の司令室なるものがこの場所には再現されていた。

 不必要なほど巨大なモニターがもはや壁そのものとして正面に様々な情報を映し出す、その下には規則的に六の制御装置〈コンソール〉が並び、薄茶の制服を纏った男女六人がそれらを操りモニターの情報に応じて状況を動かす。

 更にその後方、一段高くなった場所に、長髪の美青年を付き従え赤の司令服を肩に掛けた―――少女がその躯に比して大き過ぎる椅子に腰掛けていた。

 

「状況が落ち着いたみたいね」

 

「今回出現したのは〈ハーミット〉。まあいつも通りといえばいつも通りの結果です」

 

「そうね、〈ハーミット〉は滅多に積極的な攻勢行動を取らない以上、ASTとの戦闘もすぐに膠着に陥る。一方私たちの“初陣”にとっては―――これ以上を望むべくもない相手ということよ」

 

 場所、服、この場で最も権力を持つ人間であるとシンボリックに示されている少女の容姿はまだ十代の前半といったところで、両側面で括った髪型と口でころころと転がしている棒付き小球の飴玉のせいで更に幼く見えている。

 

「それで?我らが秘密兵器候補は、ちゃんとシェルターに捕捉してる?」

 

「いえ、それが……避難せずに外にいたのでこちらの判断で急ぎ回収しました」

 

「はぁ!?……まあナイス判断よ。無駄に死なせる危険を長引かせる意味も無いし」

 

 にも関わらず、余裕の溢れる振る舞いで部下と状況を品評しまた下の六人に対しても淀みなく纏め上げる様は違和感を感じさせず、感じさせないこと自体が違和感とも言えた。

 

「ですが、これは……?」

 

「なによ?あのバカが愉快にバカ騒ぎでも起こしてる?」

 

「事故、でしょうか……“彼”一人を回収した筈が、同時に何人か一緒にこちらに転送されてしまっています」

 

 そして、空中戦艦―――彼女らが観察している状況、地上の一万メートル上空で浮かぶ艦にそこの人間を一瞬で回収したのだという報告にもそれ自体に眉をひそめることもなく。

 

「一般人が紛れ込んだってこと?」

 

「それはいまいち判別が……“彼”と交わしている言葉の中に多少気になる発言も混ざっているので」

 

 一般人―――己らが特殊な立場であること、これまで述べたような非常識の数々を是として行動する者の対極という意味で、その報告に彼女は眉をひそめた。

 

 そう、彼女達は秘密結社〈ラタトスク〉。

 現実から乖離した非現実。

 思想としてその“一般”とあらゆる面において異端となる理念を掲げ、あえて正道を外れ行く者達。

 

「まあいいわ。私が直接迎えに行ってくる。神無月、状況は預けるわよ」

 

「お任せを、司令」

 

 この場においてその彼らを統べる赤服の少女、五河琴里。

 彼女は傍らの白服の美青年、神無月副司令に指揮を預けると、“彼”―――琴里の兄、士道を迎えに席を立った。

 

「第一声は何がいいかしらね―――」

 

 士道がいる筈の場所、遮蔽物が無ければ人間を一瞬で千里よりも遥かに跳躍させる転送装置のある部屋へ向かう、その道中で琴里は髪を二つに括る黒いリボンを強く意識する。

 

 自分はこれから、絵に描いたような善良な“一般”人である彼をこちら側に引き込む悪い妹になる、と。

 

 その為に五年もの間ずっと兄に見せなかった冷徹で計算高い自身の一面を露わにする。

 その為に兄の自分に持っている純真無垢なイメージを粉々に叩き壊さねばならないと。

 

 そう覚悟を決めた琴里は、―――――しかし、逆に兄が紛れもなく“ただの”一般人なのだと、このとき信じて疑う由もないのだった………。

 

 

 

 

 

 空間震。

 

 およそ30年ほど前より、人類を脅かすようになり始めた大災害。

 街も自然も平等に球状に“くり抜く”ように発生し、無に消し飛ばす悪夢のような現象。

 かつてユーラシアを襲い億の人々を殺傷し、その後も世界中で猛威を揮っている。

 

 その正体は“一般”には知られていないし言っても信じられないような話だが、原因はこの世界には存在しない異界の産物――――“精霊”によるものだった。

 

 少なくともこちら側から観測する術の無いこの世ならざる領域、隣界。

そこに存在する特殊災害指定生命体、通称“精霊”が空間を超越しこちらの世界に現れる際、発生した空間の歪みがエネルギーとなってこちらの世界に被害をもたらす、それが空間震の正体。

 更に精霊は超常のエネルギー、霊力によって“天使”という武装と“霊装”という鎧を纏うそれ単体で強力無比な怪物でもあった。

 現に今地上で暴れている少女の精霊〈ハーミット〉によって街は氷漬けになっており、このような被害も広義では空間震被害の一部とされている。

 

 当然30年もの間、人類もただ殺され壊されるを甘受していたわけではない。

 空間震の予兆を感知し住民を防災シェルターに避難させるシステム構築、そして魔術師(ウィザード)と呼ばれる人間の脳による制御によって様々な奇跡を起こす顕現装置(リアライザ)の開発。

 人類の意地を見せんと、逆に精霊を殺し滅ぼし討伐せんと、その為の軍隊を組織し反攻に出ている。

 

 だが、悲しいかな――――現状は、陸上自衛隊の対精霊部隊AST(Anti-Spirit Team)の魔術師(ウィザード)達の決死の攻撃が、ただ応戦しているだけの〈ハーミット〉に傷一つ負わせられていない光景が何よりも雄弁に示していた。

 

「それで、よ。よくよく考えればなに馬鹿正直に真正面からやり合ってるのよ。精霊が知性体であることは確認できているのだから、対話で懐柔することだって可能でしょうに」

 

 そう、精霊に対し、攻撃し、討滅するという“一般”のやり方を外れ、交渉の道を探す異端者達。

 

 それが、彼女達――――秘密結社〈ラタトスク〉。

 

 

――――と、このような話を急にふと気づいたら目の前の光景が無人の街並みから変にメカメカしい空間に変わっていて、そこに現れたなんか性格が自分の知っているのと違う妹に解説された五河士道。

 話の区切りで棒付き飴玉をしゃぶる妹をみて、あれってのど飴なのかしら、というのが感想だった。

 

………というのは冗談としても。

 

 

 

「そっか。なるほど。そういう設定か」

 

 

 

「…………………はぁ゛!!?」

 

 がりっ。

 

 というのも冗談、といっても後の祭りなのを士道は飴玉を噛み砕いた以上のなにか恐ろしげな効果音を発した妹の雰囲気に理解させられる。

 

「…………あなたの病気と一緒にしないでくれる?そっちのがお好みなら士道の部屋のクローゼットの奥、わざわざデパートまで行って買ってきた黒表紙のノートの中身を読み上げ――――――、」

 

「うわ、うわ、うわあああぁぁぁぁっっ!!??」

 

 新しい飴を取り出しながら暗い笑みを浮かべる琴里の話に、士道はやはり冗談ではすまなかったと慌てて制止した。

 後ろの気配の内なにやらわくわくし始めた一人が誰か正確に判別しながら。

 

――――お前のファンタジー系統とはジャンル違いなんだよ!だからここで掘り返さないで!

 

「わ、わかった!信じる!……それで、その話を俺に聴かせてどうしようっていうんだ?」

 

 先走った士道のその言葉を待ってました、と言わんばかりに琴里は口元を歪め、言った。

 

「ようこそ、〈ラタトスク〉へ。光栄に思いなさい、士道……あなたは選ばれた。精霊と対話【デート】して、懐柔し【デレさせ】なさい」

 

 

 

「なんだ、長々と口上を並べ、結果言いたいことはそれだけか。帰るぞ士道、無駄な時間だった」

 

「論外。夕弦も耶倶矢に同意見です。あらゆる意味で検討に値しません」

 

 

 

 返答は、士道のものではない。

 琴里が話のあいだ意図的に無視しようとしてきた、士道について来てしまった四人の少女、うち顔のそっくりな蜂蜜色の髪を編んだ二人が両側から士道の腕をそれぞれ抱え、代わりにとばかりに返した拒否だった。

 しかし、さすがに口を出されると無視してばかりもいられない。

 

「なによ、あなたたち。部外者が口出さないでくれる?」

 

 

 

「部外者だなんて。私たち、正真正銘だーりんの関係者ですー。そんなこと言われるとお義姉(ねえ)ちゃん悲しいですよぉ」

 

 

 

「うわ、美九……っ!?」

 

「おねえちゃん……っ!?それにだーりんって、本当にどういうことよ、士道!」

 

「お、おちつけ、琴里!」

 

 今度は、おっとりした顔立ちとふわふわした雰囲気の少女が、女なら誰もが羨むようなスタイルとすべすべな肌の感触を士道に後ろから示しながら、二重の意味で乗っかる。

 そして最後の一人、背の低い癖っ毛の少女もまた、胡乱な眼つきで琴里と視線を交わしながら、士道を庇うように前に出た。

 

 

 

「美九のおねーちゃん云々は、まあ、“あまり”関係ないけどさ。私からは一つ。

―――――あなた、本当に士道の妹?聞いてたのとだいぶかけ離れてるみたいだけど」

 

 

 

「どういう意味よ。あいにくどこをどうやっても私はそこの五河士道の妹、五河琴里よ」

 

「そういう意味よ。あいにくどこでもどうとでもしようがあるし。特に見た目や形に残ってる物の話ならなおさらね」

 

「おい、七罪……!」

 

「いいこいいこー。はーい、だーりんはこっちですぅ」

 

「美九も……っ」

 

「いいから。ね、士道を精霊の前に立たせるなんて話をされて、私たちが黙ってると思う?」

 

「想起。狂三の時のことを、もう忘れたわけではないでしょう?」

 

「……………」

 

 次から次へと思わぬ展開となる中でさらにもう一つ重要そうな名前が出たことで、琴里の困惑は最大に達した。

 口をついて、なんの思惑もないただ間抜けな問いがぽろりと出てしまう。

 

「あなたたちこそ、一体何者よ……?」

 

 答えて、曰く。

 

 

 

「「「「精霊だ(です)けど、それが何か?」」」」

 

 

 

「……………………………、は?」

 

 ぽかんと開いた琴里の口から、飴玉が床に落ちて転がった。

 

 

 





 特に琴里アンチな訳ではなく、きょうぞうさんがなんかやらかしたばっかりみたいで七罪さん達もピリピリしてるだけです。

 次回からは時間を遡って各ヒロイン、七罪からの攻略話。
時系列とか緻密な設定とかはそもそもコンセプトの時点でかなり無茶だから気にしちゃダメ。
 また展開上まだ十香とか折紙も出る予定は当分無いので先に陳謝。


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