劇場版きたあああ
え、七罪ちゃんだよね?我らが七罪ちゃんがスクリーンだよね!?
………………飛ばして折紙とか新精霊だったら泣く。いや、折紙さん大好きだけれども。
…………でも映画の尺じゃ七罪編のシナリオって使いづらいだろうし……。
……。
あと、感想板で皆が統合後八舞が士道とのキスで二人に戻れた理屈を色々考えてくれてるみたい。
二人の士道への愛が、とか士道の必死の願いが奇跡を呼んだ的な素敵なものから、
士道「リバースカードオープン!融合解除!」みたいなネタまで。
理由づけはせっかくなので皆さんのご想像にお任せするということにします。
美九の家のシャワーをまた借りた。
女の子の家でそれはどうしても意識してしまうというかなんだかいけない気分になるのだが、真夏の朝からずっと抱き合ってて汗だくとかそれ以前に昨日の晩それどころじゃなかったが風呂入ってないとかで、汗臭いまま女の子の前に居続けるアホにはもっとなれなかった。
耶倶矢や夕弦も同様だし、泣き過ぎて真っ赤に腫れた目元をふやかす意味なんかでも、苦笑しながらゆっくり入ってくることを勧めた美九の気遣いに甘えている。
二人もまた別の、流石は美九邸というかな大浴場の方で体を洗い流している筈で。
当然だが一緒に入ったりしているわけではない。
「士道………その……いっしょに、入る?」
「決心。恥ずかしいですが夕弦達は、士道の背中を流す覚悟は……………完了済み、です」
「え、ええええええええええ遠慮シマス………」
こんなやりとりが実際にあったかどうかは定かではないが、一緒に入ったりはしていない。
まあそれはさておきとしても、しおりんモードならともかく男のシャワーシーンを描写しても仕方ないので、さっぱりして上がった後やはり用意されている男物のTシャツやズボン、あと下着を着て終えた辺りから、今回の話を始める。
いつも通りなら美九と七罪と士道の三人が大体溜まっている美九の部屋、それこそ普通の家のリビングと寝室を併せて繋げたくらいの広さの部屋の、ソファーのところに行くと、案の定二人が出迎えてくれた。
特に美九がぱんぱんとそこを叩いて自分の隣が空いているのをアピールするので大人しく従うと、少し顔を近づけた後美九は気分良さそうに身悶える。
「んー、やっぱりいいものですー、だーりんから、私と同じシャンプーの匂いがします………っ」
「んなっ!?み、美九?」
「…………ねえ、ちょっと変態っぽいわよ、美九」
「失敬なー。淑女の嗜みって聞きましたー」
「どこ情報よ………」
機嫌のいい美九に対して、七罪はつまらなさそうに突っ込む。
美九は気分を害した様子もなく、むしろによによと笑いながら今度は七罪に絡んでいった。
「そんな風に言ってー。羨ましいんですか、悔しいんですかぁ?」
「べ、別にどうともないわよ!大体どうせ夕弦達も同じ匂いさせて風呂上がってくるでしょうが!」
「そしたら七罪さんだけ仲間はずれですねー。いいんですよぉ?今からでもうちの風呂使っても」
「………、ぐ………っ!」
「こ、こら美九、あんまり七罪をからかうなって」
言い負かされて詰まる七罪。
士道の知る限りでは基本美九の方が口は回るので、二人が言いあいになるとよく見る光景ではあったが、話題が少し士道にとっても恥ずかしいので止めに入る。
美九はあっさりとそれに従った。
「てへ。ごめんなさいだーりん。人を変態さん呼ばわりするのでついー」
「謝る相手違うだろ………」
「……いいわよ。風呂も遠慮するわ。今から“私一人”入ってもテンポ悪いし」
ちょうどその七罪の発言と重なるように、廊下からどたどたと騒がしい気配が近づいてくる。
勢いよくドアを開けたのは、美九の用意した涼しげな部屋着を着た耶倶矢と夕弦。
「ふっはっは!我、清冽なる禊によってこの身の汚れを一掃せり!」
「翻訳。お風呂上がりましたー、と夕弦は副音声を耶倶矢に被せます」
手を繋いで元気に部屋に入ってくる二人。
濡れて解いた髪のセットもそこそこに出てきましたという風情の、明るく仲のいい様子の二人を見て士道は無性に嬉しくなった。
「おなか空いてますよねー?七罪さんと私でサンドイッチ作ってますので、つまみながら話しましょー?」
「おお!我の飢えと渇きがいまかいまかと供物を待ち侘びておるわ!」
「感心。二人の料理ですか。味が楽しみです」
「私は美九を手伝っただけだけどね。遠慮しないでさっさと食べちゃって」
「ありがとうな二人とも、じゃあいただきますっと…………………うん、うまいよ!」
「……よかった」
「えへへー」
テーブルの上に大皿と各自の飲み物を置いて、ソファーと椅子で五人で囲んだ。
それぞれ舌鼓を打ちつつも、しばらく経って七罪が徐に本題を切り出す。
「みんな、いったん整理しなきゃいけないことがたくさんあるわ」
その言葉に、士道、いやその場の全員が真剣な面持ちで七罪の方を向いた。
だが、中でも、士道は最も重いモノを抱え、彼女を見据える。
「…………それは、隠し事はもう無しってことでいいんだな?」
確認をする。
確認しなければならない――――七罪、美九、夕弦そして耶倶矢。
彼女達の正体である、精霊とはなんなのか。
その超常が如何なる意味を持つのか、士道の傍にあって見て見ぬ振りはできないのだと、解ったから。
結果的に夕弦と耶倶矢が今生きていてくれることは嬉しい、だが。
閉ざされる意識の中、暗い空へと消えていく夕弦と耶倶矢――――――あの時の、悲しみと焦りと、何も出来ない自分への無力感。
突然目の前で大事なものが消えていく、あんな思いを、二度としたくはない。
その為に何も知らない自分でいることを辞め、少年は世界を知ることを選ぶ。
そんな感情の籠った士道の視線を受け止め、七罪は語った。
精霊。特殊災害指定生命体。隣界。矛たる天使と盾たる霊装。空間震の元凶。人間の魔術師【ウィザード】達の組んだ、精霊討滅部隊。そう、つまり――――――、
「人類の、敵。それが、あなたの目の前にいる化け物(わたし)達の正体よ」
「―――――」
ある程度は、覚悟していたとはいえ。
それでもその告白に、一瞬息を呑んだ士道を、責められはしないだろう。
幼少時より空間震の脅威を、その犠牲者の数や冗談抜きで滅びた国の資料を、教育という形で知らされてきた士道だからこそ、その災厄を起こすのが七罪達精霊であり、それ故発見次第軍によって殲滅作戦が行われると聞かされた衝撃はかなりのものだった。
だが、同時に納得もする。
それこそ文字通りの“厄ネタ”故に、あそこまで下手な隠し事をしていたのも無理もない、と。
その納得故にどこか士道は静かで――――――、
「まあ、士道に能力の大部分を剥奪され(うばわれ)てるんだけどね」
「はぁっ!?」
追加の爆弾に止めを刺された。
「待て待て待て、俺がそんなことしたのか?本当に?」
「…………」
覚えのない窃盗(?)に慌てる士道だが、そこで七罪以外の面々も口を出してきた。
というか、何故か七罪が黙り込んでもじもじしている。
心なしか顔が赤い。
「従縛。現状夕弦達はただの人間と変わらない程度のスペックしか発揮することができません」
「……ま、だからチカラがスッカスカで、真なる八舞に戻りたくても戻れない状態だからもう夕弦と争う意味も消えたってことだから、結果的に士道には返し切れない恩ができちゃってるんだけどねー」
「そ、そうなのか………?でもいつ、そんなことした覚え、っていうか出来るのか……?」
「えー、でもだーりんしたじゃないですかー………………………キスを」
「え?」
「だから、しましたよー、ちゅー」
楽しそうに士道向けて投げキッスのポーズを取る美九。
さすが元アイドル、決まっていた。
ではなく。
七罪を見る。
美九を見る。
七罪の唇に視線が行く。
もの凄い勢いで七罪が顔を逸らした。
「………もしかして、夕弦達も?」
「暴走。耶倶矢が寝ている士道の唇にそれはもうねっちゃねっちゃと熱いベーゼを」
「ちょっ!適当言うなし!やったのは夕弦でしょうが!はあはあ言ってまるで年下の男の子を捕食するみたいに危ないオーラ出しながら!」
「心外。いくら照れ隠しの嘘とはいえ限度があります。人聞きの悪い言い方をしないで下さい」
「あー………えっと、はい」
士道は色々と大体理解した。
そういうことにしておいた。
キスすると精霊の能力を封印する、それが事実だとして。
少なくとも七罪と美九に関しては覚えがあった。
“それ”をした後、今考えてみれば精霊の能力であるところの霊装が剥がれて脱がしてしまった記憶も。
「それにー、奪い取った七罪さんの天使(へんしんのうりょく)、使いましたよねぇ“士織さん”?」
「………え?あれ、もしかして」
「はいー。だーりんの願いによって召喚というか、心の中に願いを思い描いてなんか振っちゃった感じというかー」
「うそ、だろ…………!?」
「士織?」
「反応。士織とは一体」
「今は置いといてくださいできれば永久に」
「まあ、大体そんな感じとして!」
復帰した七罪が仕切りなおしとばかりに、一拍間を置いて、緩みかけた話を真剣なそれに戻す。
「霊力をほとんど失くして、今は隣界との行き来も出来ないから空間震も起こせない。でもね、私が士道に霊力を奪われる前、起こった空間震で誰かを死なせてない保証は無いし、少なくとも街は破壊した」
「…………」
「夕弦と耶倶矢も周りを派手に巻き添えにする能力で暴れてたようだし、少なくとも怪我人の百や二百は軽いでしょ。美九が“やらかした”のは、言わずもがなね」
名を上げられる皆も七罪に反論せず、じっと士道を見つめた。
何かを訴えるように。
「そして、士道もそんな精霊の力を吸収した上、その一部を使えるときた。…………直近になにか問題が見えてる訳じゃないけど、どんなヤバいことが起こるか判ったものじゃないと思わない?
…………ねえ、それでも、士道は――――――、」
「――――――一緒に、いさせてくれないか?」
七罪の問いかけが終わるか終わらないかの内に、士道はその願いを口に出していた。
「話がなんか思ってたより大きすぎて、正直実感も湧かない。でも、お前らとこうやって過ごしてる時間は幸せだし、大事だってこと。それだけは分かってる。ヤバいことがあるかも知れないなら、なおさらその時に一緒にいられないのは御免だ」
だから――――――。
七罪を。美九を。夕弦を。耶倶矢を。
一人一人の目を順番に見返してから、士道は頭を下げた。
「迷惑をかけるかもしれない…………っていうか能力を奪っちまってるんだから、もう十分迷惑は掛けているのかもしれない。でも、これからも、一緒にいて欲しい。頼む!」
士道は、挫折を知った。
夕弦と耶倶矢のどちらかを、死なせるところだった。
助かったのは唯の結果論で、あと一つなにかを間違えていたら、きっとそうなっていただろう。
そして、知ることを欲した真実は、ただの少年が抱えるにはあまりに規模が大きく、重く。
それでも、士道はそれを抱えることを選ぶ。
懐に抱くもの、思えば始まりは七罪との何気ない出逢いだったけれど、いつの間にか四倍にも膨れ上がって。
全部が全部、どうしようもないくらい大切な宝物だから、放してなどやるものかという感情は制御できない、するつもりもない。
何一つ失いたくない――――結局掲げるのは理想論。
現実の前には破れるものかもしれない、でもそれを捨てれば自分が自分ですらなくなるから。
だから、綺麗なだけの善性に傷をつけてでも、現実(それ)に立ち向かう覚悟を、決めた。
そして、彼女達は士道を肯定する。
意識の溝やすれ違いを全て取り払い、本当の意味で士道を肯定する。
「…………まったく、それは私達からお願いすることだっていうのに、士道はほんと士道なんだから」
「だーりん、もちろんずっとずっと、いつまでもいっしょですー!」
「フッ、盟約による宿縁は永劫の時も断ち切れぬ鋼ぞ!…………うん、ずっと一緒だから」
「同上。耶倶矢と夕弦は一心同体です。耶倶矢と士道が繋がっている以上、夕弦もまた士道と繋がっているのです」
「お前ら………っ!ありがとう、これからもよろしくな!!」
そして少年は、傷のない善性を捨てる。
精霊は人間社会にとっての害悪だとする見方は、決して間違いではない。
例えば精霊被害によって家族を失った人間がいたとして、もちろん慰めようとするし「だから?」と切り捨てなど絶対にしない。
だが士道は、きっと、最後の最後には精霊―――否、絆を育んだ彼女達を選ぶ。
その味方として、彼女達の側に立つ。
士道の決めた本当の覚悟とは、きっとそういうものなのだろう―――――。
ってことで、アニメ二期終わっちゃったけど、これからも本作をよろしく!
…………………琴里は、って?えっと、うーん………。