作者がある意味書くのが一番苦手なジャンルは日常系ラブコメです。
…………何の二次に手を出してると思いやがってるのですか、というツッコミがどっかから聴こえてきた
五河士道にとって色々なものが変わった人生最大の夏休みが終わり、新学期が始まった。
一月半ぶりに顔を合わせるクラスメイト達の顔がなんだか変わっているように思えて、刮目して見るべきなのか単に記憶が薄れているのかよく分からない違和感に包まれる。
大体が四六時中親や親戚とばかり長い時間を過ごしたからか、少なくとも友達への話しかけ方は忘れているようでどこかぎこちないが、夏休み中の思い出話などし始めればすぐに盛り上がる、そんな単純ながらも微笑ましい恒例の光景が士道のクラスでも展開されていた。
そんな中で士道はやけに「雰囲気変わった?」と話をふられる率が高かった。
先生にまで言われたのだから相当なものらしいが、自分ではよく分からない。
確かに夏休み中は色々なことがあったが、その後の話し合いの結論としては「今まで通り楽しく過ごそう、今後は夕弦と耶倶矢も入れて」である。
例によって普通に広い美九の家備え付けのプールで七罪達と遊んだり、ちょっかいをかけてくる耶倶矢や夕弦をやり過ごしながら美九と机を向かい合わせて一緒に夏休みの宿題をやっていたりと、特別なことを始めたという訳でもなかった。
実は日焼けした、とか痩せたか太ったかだったというオチじゃないかと思いながら、始業式と諸連絡だけの新学期一日目を終え、カラオケ行こうぜ、と面子を収集しているクラスの集団からさりげなく外れて、いつも通り美九の家の方向に足が伸びた。
「歓迎。ようこそいらっしゃいました、ご主人様」
「ククク。よく来たの、ご主人様よ」
「………………美九の差し金か?」
美九の家の玄関をくぐると出迎えてきた双子姉妹の謎対応に、士道はすぐに犯人を特定した。
七罪も悪戯してくることはあるが、彼女は基本的に人を使った手は取らず自分でやってくるから、という消去法だが。
「沈静。これには事情があるのですご主人様」
「そう、深淵よりもなお暗きまでに根を張る宿因が存在するのだご主人様」
「その事情とやらが如何ほどの深い根を張ろうが、物事の全体の形容など言の葉一つで事足りることが殆どなのだよ。前置きは会話の節拍を図るのに無為とは言わないが、場合による、という箴言を送らせていただきたい
―――――――つーかその胡乱な語尾はなんだ二人とも」
「正装。この服を纏うものに宿すべき魂なのだそうですご主人様」
「ていうか私達にこんな風に言われて、そのリアクションどうよご主人様。そこは喜ぶとか労うとか可愛がってあげるとかって選択肢じゃないのご主人様」
「あいにくメイドさんに傅かれた憶えは経験的な意味でも心当たり的な意味でも無いから、状況のシュールさがまず先にくるんだが。
…………まあ、その。格好自体は可愛いと思うぞ。似合ってるから、正直あとは普通にしてくれればそれで……」
察している人も多いとは思うが、夕弦と耶倶矢はただ今フリルのひらひらしたエプロンドレス、通称メイド服を着用している。
どちらかというとコスプレ向きのデコレーションが施された、スカート丈の短めなそれは間違いなく美九の趣味だが、二人の彫りの深い顔つきやふわふわくるくるとした長い髪に存外似合っていて割と士道の好みにどストライクな感じの可愛さだった。
「達成。やりました、耶倶矢の欲望の勝利です。垂れ流した甲斐がありましたね耶倶矢」
「ちょ……っ、ち、ちが、夕弦にしてあげないのってことで、別に私は……!」
「把握。夕弦を言い訳に要求を過激化させる企みなのですね。分かっていますよ、順番は先に耶倶矢に譲ってあげますから」
「……………え、待って」
「選択。というわけでご主人様、可愛いメイドさんにおしおきする(ただし耶倶矢に)か、ごほうびあげる(もちろん耶倶矢に)か、お好みのシチュエーションをどうぞ」
「ぼく選択肢の具体的な中身はきかないよ。だってかぐやがまっかだもの」
「~~~~~ッッ!!?」
「嘆息。一体何を想像したんでしょうね、むっつりの耶倶矢は」
小刻みに震えながら士道をまっすぐ見られなくなって視線があちこちに行く耶倶矢と、元凶なのに割と理不尽な夕弦。
ところでこの二人、服装と言動は大いに暇を持て余した精霊の遊びは入っているものの、別に理由がないでもない、わけでもなくはなかった。
夕弦と耶倶矢の二人、精霊としての力をほとんど失って隣界に帰れなくなって寝床がない。
七罪は割となんとかしてしまうのだが、異能としては直接的な能力な二人は衣食住様々な意味で手詰まりになるところだった。
美九の家に居候として置いてもらうのでなければ。
美九としても、家が広すぎて一人で住むのはなんだか色々とアレではあったし、屋敷の手入れを殆ど業者任せなのもいい加減どうなのということだったので、住み込みのお手伝いと考えればと耶倶矢ともども夕弦を変わらず家に住ませることを自ら勧めた。
そして、ノリノリで美九は晴れて誘宵邸のメイドさんとなった八舞姉妹の制服()を用意して、ついでに変なことを二人に吹き込んだのだろう。
で、いつまでも入口で駄弁ってもしょうがないので、ダイニングに移動する三人。
美九も始業式の日だろうが、まだ帰ってきてないらしく、夕弦が紅茶を振る舞うのを楽しみながら二人と暫し歓談することにしていた。
温まった陶器のカップに注がれた琥珀色の液体は、その香りで士道の鼻を心地よく擽ってくれる。
「粗茶。どうぞ士道」
「ありがとう………しかし、スペック色々高いよな夕弦、それに耶倶矢も。このお茶にしたってそうだけど、覚え始めてそんなに経ってないのに、立派にもうメイドの仕事出来てるって美九に聞いたぞ」
「ふふん、この程度、夕弦と我の手を煩わせるには足りんわ!」
「光栄。士道に教えてもらった成果もあります。―――しかし問題が一つ」
「なんだ?俺に手伝えることがあればやるけど」
「「 暇 」」
「……………あー」
本当に暇を持て余した精霊の遊びだった。
「士道も美九も今日から学校でしょー。夕弦とどっちが沢山掃除できるかって勝負してたんだけど、それどころか昼食の準備も終わっちゃってもう」
「本当にスペック高いなこのメイドさん達………」
リアルにテーマパークが作れるレベルの慰謝料を取れるだけ取って、金の使い途に困った美九が思いつきでポンと買ったこの広い屋敷を二人で掃除。
掃除機と軽い拭き掃除だけでも普通何時間掛かるか分からないものだが、別にそれ自体大して鼻にかけるでもなく椅子に座った士道に絡んでくる。
「というわけでご主人様、かーまーえー」
「因縁。ほらほらご主人様、かーまーえーよー」
「うわ、ちょっと二人とも、そこ触っちゃ擽ったいって!」
「あららー。明日からだーりんがこの家に来れるのはもっと遅い時間になっちゃいますのに、二人ともこの調子で大丈夫ですかねー」
「あ、お帰り美九」
そんな中、玄関扉に備えられた鈴の音が鳴ったかと思えば、話し声を聞きつけてすぐに美九が入ってきた。
美九も士道と同じ半そでの制服姿で、襟元のリボンを軽く緩めつつ隣に鞄を置いて座る。
「それでどうでしたかだーりん、二人のご主人様になった気分はー?」
「やっぱりお前の仕業………ていうか雇い主の美九が“ご主人様”なのが筋じゃないのか」
「それじゃ面白くな、もとい家主の立場を笠に来てそんな呼ばせ方するかもなんて私をどんな風に見てるんですかだーりんひどいですーえーん」
「俺に対してさせてるんだから一緒だろうがそれ以前に前半言いかけてたの聴こえてたぞおい」
「でも夕弦さんも耶倶矢さんも結構ノリノリでしたよぉ?」
「達成。おかげでご主人様に可愛いとも似合っているとも言ってもらいました」
「我ら八舞の勝利よ。いえーいっ」
ぱん、と士道の頭上で二人がハイタッチ。
「勝利、って………何と戦ってるんだ二人とも」
いけない、今日は何か三人でボケ倒す作戦なのか、とツッコミ疲れた喉を紅茶で潤す。
なんだか無性に癒やしが欲しい。
具体的には能力で自在に生やせるケモミミとシッポを七罪に色々リクエストして、その状態で抱きしめて撫でくりまわしたい。
そんな不埒な願望が士道の中でむくむくと芽生えていたが、幸か不幸か七罪はこの場にはいなかった。
「そういえば美九よ、初めに言っていた言は真実か?」
「はじめ、ですかぁ?えっとー」
「懸念。ご主人様がこの家に来られる時間が今日よりも更に遅くなるという話です」
「…………あー。今日は授業無かったしなあ」
「残念ですけど、学生さんですのでー」
「む………」
「落胆。しょんぼりです」
寂しそうに落ち込む二人に、くすぐったくもあり申し訳ない気持ちにもなる士道。
それを苦笑しながら見ていた美九は、一つの提案をした。
「そうですねー、じゃあ…………天央祭って、興味ありますー?」
…………ちなみに、ご主人様呼びは飽きたらあっさりと止めてくれた。
「で、速攻はぐれるとか………」
天央祭。
早い話が文化祭なのだが、地域一帯の高校十校合同で行われイベントホールも三日間貸し切られるという、謎の規模の大きさを誇る天宮市の名物行事であった。
美九が今年から通い、士道も通う予定の来禅高校も参加しているため、美九の誘いに乗ってその辺りを覗きに来た士道、七罪、八舞姉妹。
だが、とにかく人が多い。
十の学校の生徒、関係者、父兄、OBOG。
地元民に、観光客も来る。
各学校はともかくとしても、メイン会場となる天宮スクエアが人混みで溢れ返るのも当然であった。
まだまだ暑い夏の残り香に再び火をつけるような、その群衆の熱気に、逆に八舞姉妹がはしゃぎ出した。
この日の為に平日の昼間大人しく美九の家にお留守番していた鬱憤―――時折七罪が様子を見に行っていたようだし、それはそれで楽しそうにも見えたが―――を晴らすかのごとく、周り全てを押し退けてでも遊び尽くそうとばかりにテンション高くイベントや出店に士道と七罪を振り回してくる。
お互い頑張って付いていっていたのだが、生憎力を奪われた状態でも精霊の身体能力は人間の士道より高い。
同じ精霊の七罪はというと、人ごみでは単純に体の小ささとそれ故の体重の軽さで不利となる。
また単純にバイタリティーから考えても、一瞬の隙にバラバラになってしまうのは、寧ろ当然の結果だった。
「どうしたもんかな………」
といっても、探して合流する一択だが。
気合いを入れ直して、人ごみの中を掻き分けるように歩きだす、
その、腰辺りにぶつかって弾き飛ばされる感触。
「ごめんなさい!だいじょう、ぶ………です、か」
「……………士道?」
人の流れの中で、伸ばした手が差し出されたのは、地面に尻もちをついた七罪。
まるで過去に戻ったかのような、懐かしさをふと覚える状況に、お互いぽかんとしていた顔が暖かく綻ぶ。
「立てるか、七罪?」
「立てない、おんぶ。………って言いたいけど、さすがに迷惑ね。手は貸してくれる?」
「当然。ほら」
置き上がるのに七罪の小さな手を引っ張ると、立ち上がった七罪はその握った手を腕に抱え込んでくすりと笑った。
「ねえ士道。――――――よかったらこれから私と、デートしてくれない?」
「耶倶矢達が見つかるまでで良かったら、な」
「耶倶矢達に、の間違いじゃなくて?」
「おいおい」
「ふん、だ。散々やってくれちゃって、今度はこっちから引っ張り回してやるわよ」
「………はは。そうだな」
通じ合った、二人の世界。
周りにちらちらと視線を送られるが、認識していながらも気にならない、そんな不思議な気持ちに包まれる。
手を繋ぎ、腕を絡め、初めてのデートから確かに紡いできた絆は強く深く。
はぐれてしまった耶倶矢や夕弦は心配だけれど、今だけは―――――二人きりがいいと、なんとなく思った。
みんなと過ごす時間は掛け替えのない、素晴らしい幸せだ。
でも、たまにはこういうのもいいと思う。
だって――――。
「さあ―――――――俺達のデートを、始めよう」
だって、今日はお祭りなんだから。
狂三、四糸乃、折紙、十香ファンには悪いけど暫くアニメ一期出られなかった組でいちゃいちゃ続けるよ!
登場が遅い分原作で描写がまだいまいち少ないから思う存分二次で発散しよう!ってのと、あと時系列的にそろそろ士道さんの厨房黒歴史が量産できるのもここまでなので折角だからげふんげふん。
まあ実は暴走気味で安定しない作者の文章で良ければ暖かくお付き合いいただけると幸いです。