デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 妹に拉致される、4年前の話。

 七罪攻略のテーマは、”純粋にデートしてデレさせる”。

 ミステリもバトルも、狙撃も無しで。




七罪エンカウンター

 

 あちらから来る人、こちらから来る人。

 何人かで楽しくおしゃべりする人たち、背広を来て喫茶店のテラスで端末を操作する人たち。

 紙袋をいくつも抱えた女、映画のチケットを大事そうに握りしめた子供、振り回されてちょっと疲れ顔の男。

 

 休日の総合アミューズメント施設〈天宮クインテット〉は無軌道乱雑な人の流れで埋め尽くされ、秋の肌寒い空気を寄せ付けないえも言えぬ熱気に包まれていた。

 かつてこの国の旧首都が空間震の被害を受け――――かねてよりの首都圏分立構想により開発の進んだ都市の一つである天宮市。

 その街が誇る国内最大規模の総合施設は今日も今日とて休日の予定の人気の的であった。

 

 その光景に、少年は唇を歪める。

 

 僅か一年前に天宮市南甲町で発生した大火災。

 度々見舞われる、比較的この地域では発生頻度の高いらしい空間震。

 そもそもが、かつて空間震により壊滅した土地を整地の手間が省けたと言わんばかりに再開発したのがこの天宮市。

 

 それが、いささか繁栄を“謳歌しすぎて”いるのではないだろうか。

 

 もちろん悪いことではない、だが平和という甘美な毒は人の知性にまわり働きを麻痺させる。

 一体この人の群れの何人が、何度も災害に見舞われながらこの活気にあふれた街の光景に違和感を抱いていることだろう。

 空間震の復興部隊は、塵も残さず消滅した摩天楼すらも一夜にして元通りにする。

 

――――なんだそれは?

 

 ビルを建てるには数年、街そのものならそれこそ何十年という月日が掛かるものだろう。

 なのに直すのならば一晩で済むとは。

 仮に人類の英知がそこまで進歩したというなら、本当はこの発展すらも虚飾の産物なのではないか?

 

―――本当は、一晩で街を新しく造る……好きな場所に軍事基地を建てることも。

―――逆に、空間震などなくとも、最悪空間震のせいにして、街を一瞬で消滅させることも権力者の思うがままになっているのではないだろうか。

 

 だというのに、自らの立ち位置も把握せずに平穏という名の享楽にふける、そんな人の愚鈍な性、それが。

 

「ああ、だからこそ愛おしい……っ」

 

 少年――――五河士道は抱きしめるように両手を胸に持っていき、噛みしめるように呟いた。

 

 

 

 士道の少し前を歩いていた女性が、少し速足になった後すぐ先の角を曲がっていった。

 

 

 

…………まあ、なんだ。ちょうどそういうお年頃な士道くん12歳なわけで。

 

 別に本気で陰謀論だの社会の裏領域だのを危惧したとかではない。

 こういうのは、なにか壮大っぽいことを考えるという行為そのものが楽しかったり、そんな自分であることに悦に浸ってるだけの話である。

 それを生涯やり続けられるのが哲学者という人種(※偏見)なのだろうが、それには士道の感性は真っ当過ぎたし、その方向性もありがちな〈破滅の〉とか〈漆黒の〉とかに向かずに人類愛に行きついてしまったあたりに彼の善性が見てとれただろう。

 

 

 まあ、そんなお人よしの彼だから。

 きっと目の前でふと起こった出来事に駆け寄ったのも、おかしいことではなかったのだ。

 

 

 士道と同年代だろうか。

 こんな人ごみの中できょろきょろと周りを見渡しながら歩く女の子に、視線が吸い寄せられた。

 といっても別に変な意味ではない。

 単純に、あんな歩き方をしていれば誰かとぶつかるかも、という心配からだ。

 伸ばしたぼさぼさの髪で表情が隠れていたり、どこかおどおどした雰囲気もそれに拍車をかけていた。

 

 そして案の定―――――。

 

「きゃっ!?」

 

「あ!?………チッ」

 

 視界の外から歩いてきた長身な青年とぶつかり、体重差で跳ね飛ばされてしまった。

 どちらかと言えば悪かったのは少女の方とはいえ、舌打ちひとつして去っていったのはいかがなものだろうと考えつつも、士道は女の子の方へ駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

 

 尻もちをついた女の子を、助け起こそうと、手を伸ばす――――、

 

 

「―――っ」

 

 

「……え?」

 

 差しのべられた手に、信じられないものを見たかのように目を見開いていた少女と、視線が交錯する。

 伸びきって手入れもしていない髪の下には、何かに疲れたような不健康な表情がそこにあり。

 

 

 どこか見覚えのあるそれに、『過去』が―――――、

 

 

 その、ぼやけかけた意識を、触れた少女の手のぬくもりが呼び戻した。

 そして、少女の変化にも気付く。

 

「~~~~!?」

 

「お、おい、本当に大丈夫かっ!?どこか痛むのか?」

 

 握った手を支えに置き上がろうとする気配もなく、ただ目を見開いて混乱している少女。

 ただ泣きそうに見える、となんとなく感じた印象がどこか幼い妹を思い起こさせた。

 

「打ったとか、怪我したのか?立て――――ない、か」

 

「…………」

 

 ぴく、ぴく、と気遣う度に微かに反応するが、言葉が返る気配もない。

 そんな光景は少し目立っていて、人ごみの中注目を集めていた。

 

「あー、とりあえず移動しようか」

 

「あ………」

 

「ほら」

 

 そのままだと通行の迷惑とも考えたので、士道は一度手を離して後ろを向く。

 少女の口から名残惜しそうな声が漏れたのに気付いたのかどうなのか、そのまましゃがんで後ろに手を拡げた。

 

「……、?」

 

「ほら、おぶされ。……嫌だったら、まあ頑張って立ってもらうしかないけど」

 

「………!!」

 

 そんな士道の背中に、おずおずとした様子で、ゆっくりと体重が掛けられていった。

 

 

 

 

 

「…………なんのつもりよ」

 

 施設の中の、休憩スペースのベンチまで運んでいって座らせ、傍の自販機で買ってあげたジュース一杯を飲み干したあたりでようやく落ち着いた気配を見せた少女の、第一声がそれだった。

 

「なんのつもり、って?」

 

「だ、だからなに企んでるのかって訊いてるのよ。私に甘い言葉かけて、静かなところに連れ込んで、えっと、えっと、……………飲ませて!」

 

「なんか変な意味になってないかそれ……?」

 

 少女はなかなか猜疑心のお強い性格だったらしい。

 ぽりぽりとなんとなく頬を掻いた士道は、威嚇する小動物のようなオーラの少女になんだかなー、と思いつつ返した。

 

「いや、単にでかい兄ちゃんにぶつかって跳ね飛ばされてたから、怪我でもしてたら心配だな、ってくらい?」

 

「それは、私が吹けば飛ぶようなちんちくりんだって言いたいの!?ええそうよ、辛い事実をなかなかはっきり言ってくれるじゃない」

 

「え、言ってない」

 

「言ってるようなもーのーでーすー!!」

 

「うわっ!」

 

 がばっ、と隣に座っていた士道の視界に急にどアップになる少女。

 どうやら低い身長へのコンプレックスも――――というより全体的にネガティブな性格だったようで、そのまま暴走してボルテージを上げていく。

 

「ええいいわよ、どうせ私はちんちくりんよ。認めるわよ。でもだから私知ってるんだからね。“きれいなお姉さんならともかく”、こんなちんちくりんの根暗のガキをちやほやしてくれる男なんていないんだから!さあ、何を企んでるの、言いなさい!」

 

「うーん……」

 

 むしろなんかちっちゃい感じだったので半分妹の世話を焼くノリもあった、とか言ったらたぶん怒るだろうなぁ、というのは流石に士道も理解していた。

 なので、最初の理由を仕方なく語る。

 

 

 

「なんか雰囲気が泣きそうに見えて、ほっとけなかったから、かな」

 

 

 

「な……によ、それ……!」

 

 その瞬間少女が急に顔を伏せ、絞るように声も小さくなった。

 

(怒らせたかな……)

 

 こちらもこちらでくさいというかうさんくさいというか、そういうセリフなので“仕方なく”だったのだが。

 泣きそう、というのが合ってたら合ってたで見透かしたみたいだし、外れていたら大間抜けの馬鹿丸出しだ。

 

「その、ごめ――――、」

 

「――――信じない」

 

 謝ったほうがいいかな、と思ったが、口に出した途中で鋭く遮られた。

 

 

「裏があるんでしょ?……ある、って、言いなさいよ………っ」

 

 

「…………っ」

 

 その頑なな態度に、士道は己の勘違いを悟る。

 猜疑心とか、ネガティブとか、そんなんじゃない。

 

 目の前のこの少女はただ、善意が怖いのだ。

 善意(そんなもの)、期待すれば裏切られるだけだから。

 

 彼女は何を経験してきたというのだろう。

 何に、裏切られたというのか。

 

(どうしよう……)

 

 士道がそれを理解したのは直感か、――――“経験”か。

 いずれにしても、一瞬この少女にこれ以上返す言葉を見失ってしまった。

 自分がたとえどれほど善意(よかれと思って)を語っても、それが相手にとっての悪意(おそろしいもの)になりかねないのだから。

 

 けれど。

 

 

 

――――俺はこの子を、見捨てたくない。

 

 

 

 決心もまた、心の内から強くわき上がっていた。

 

 出会って一日も経っていない、行きずりの相手と言えばそれまでだ。

 だが、人の優しい気持ちとか暖かい気持ちとか、そういうものの全てを信じられない生き方なんて悲しいではないか。

 救うなんて口が裂けても言えないけれど、その為にできる限りのことはしてあげたい。

 

 そう思ったら、一つの方法が頭に浮かんだ。

 

(ただのおせっかいに裏なんてあった訳がない。だったら今から作る)

 

 材料はもちろん、とびっきりの善意。

 

「なあ」

 

「な、なによ………?」

 

「お前さえよかったら、これから俺と一緒に遊ばないか?電器屋に用事があって出てきたけど、そのあと一人でずっとぶらぶらするのもなんだかな、って思ってたんだ」

 

 さあ、裏を読め。

 

「……。それって、ナンパ?デートの誘いってこと?」

 

「そうだ。俺は士道、五河士道だ。俺とデートしてくれ!」

 

 

「………」

 

 

―――――かかった。

 

 

 少し考え込んだ少女。

 今士道が明かしたナンパという“裏”、さらにその裏を読み取ろうとしているのだろう。

 だが、そこにあるものすらも善意だ。

 

 もう疑う気も起きないくらい、善意の善意の善意漬けにしてやる………っ!

 

 不敵に唇を歪めた士道をどう見たのか、彼女の答えは――――。

 

 

「…………七罪(なつみ)、よ」

 

「ああ。よろしく、七罪」

 

 名乗りを返し、それをもって代えた承諾であった。

 

 

 

「さあ、俺たちのデートを、始めよう――――――――」

 

 

 

 





 原作時系列ほどまだコミュ障こじらせてはいないから、ほんのちょっと期待して素の自分で人前に出てみるも、いざ本当に人に優しくされると大混乱。

 うわあ面倒くせ(ry


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